今月25日、甲府地方裁判所は、昨年7月に認知症を患っていた88歳の妻の同意を得て、心中しようとして、妻を死亡させた93歳の男性に有罪判決を下した。懲役2年6月、執行猶予3年である。昨年11月22日には東京の江東区の都営アパートで81歳の男性と71歳の女性の兄妹の遺体が発見され、翌23日には埼玉県深谷市を流れる利根川に軽自動車が落ちて、74歳の夫と81歳の妻が亡くなり、運転していた47歳の三女が救助された。介護に疲れ、経済的な余裕もない生活苦で三女が無理心中を図った。同じ月の30日には東京の中野区でも88歳の母親と55歳の息子の遺体が見つかっている。日本は世界でも稀に見る長寿国となったが、その長寿国の実態はあまり褒められたものではない。昨年の世界各国の「幸福度」ランキングでは日本は46位で、先進国では最下位となっている。世界第3位の経済大国でありながら。内閣府の『平成27年版高齢社会白書』によると、2014年の65 歳以上の高齢者人口は過去最高の3,300万人となっている。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は26.0%となった。2060年には高齢化率は 39.9%に達し、2.5人に1人が65歳以上となり、 75 歳以上人口が総人口の26.9%となり4人に1人が75歳以上となる。65歳以上の高齢者のいる世帯は増え続けていて、同白書では2013年の世帯数は 2,242 万世帯で全世帯の44.7%を占めるに至っている。親と未婚の子のみの世帯、夫婦のみの世帯、単独世帯は増加傾向にあり、2013年では、夫婦のみの世帯が一番多く約3割を占めており、単独世帯とあわせると半数を超えている。2011年に内閣府が実施した60歳以上を対象とした調査では、家計にゆとりがない、家計が苦しいとした人が3割になっている。おそらくこの比率は現在はさらに増えているだろう。65歳以上人口に占める65歳以上の生活保護受給者の割合は2.76%であり、全人口に占める生活保護受給者の割合1.67%より高くなっており、この傾向はこの10年で年々強まっている。白書は世帯主が65歳以上の世帯の平均貯蓄額が2,377万円で、全世帯平均1,739万円の約 1.4 倍となっていることを挙げて、いかにも高齢者の世帯の経済問題はないかのように書かれている。これは単に高齢者世帯に経済的な格差が拡大していることを意味しているだけで、そのために高齢者をめぐる悲惨な出来事が後を絶たないのだ。明治学院大学の社会学の河合克義教授によれば、高齢者世帯の貧困を加速させたのは2000年に導入された介護保険制度だと言う。教授によれば、介護保険制度を利用している65歳以上の高齢者は1割半程度でしかなく、「残り8割以上の中に貧困と孤立問題に苦しむ人たちが数多く含まれている」のだと言う。そして、貧困と孤立に苦しむ高齢者にとっては介護保険ではなく、福祉サービスこそが必要であるにもかかわらず、社会保険制度ばかりが肥大化し、福祉が削られている、と言われる。75年にもわたって米国ハーバード大学卒業生の卒業後の調査をして来たハーバード大学のジョージ・ヴァイヨンGeorge Vaillant博士は、幸福には二つの柱があり、一つは愛Loveであり、もう一つはその愛をなくさないように対処する方法を見つけることだとされる。貧困の高齢者世帯、独居あるいは夫婦だけの高齢者世帯にはその「愛」は望めそうにはない。幸福度ランキンが46位であることは高齢者だけでなく、日本人の多くが「愛」を失っていると言うことでもあるのだろう。
庭で咲いて来た雪割草