こころのたね

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『塩の街』

2010-05-28 21:44:55 | 

有川浩さんの『塩の街』という本のお話をしたいと思います

自衛隊三部作の“陸”にもあたる、有川浩さんの原点になる作品。
第10回電撃小説大賞受賞作を大幅改稿、デビュー作に番外編短編四篇を加えた大ボリュームの一冊です。



もくじ

《塩の街》
Scene-1 街中に立ち並び風化していく塩の柱は、もはやなんの変哲もないただの景色だ。
Scene-2 それでやり直させてやるって言ったんじゃねえのかよ。
Scene-3 この世に生きる喜び そして悲しみのことを
インターミッション -開幕-
Scene-4 その機会に無心でいられる時期はもう過ぎた。
Scene-5 変わらない明日が来るなんて、もう世界は約束してくれないのを知っていたのに。
Scene-6 君たちの恋は君たちを救う。

《塩の街、その後》
塩の街 -debriefing- 旅のはじまり
塩の街 -briefing- 世界が変わる前と後
塩の街 -debriefing- 浅き夢みし
塩の街 -debriefing- 旅の終わり



あらすじ

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。
人間が突然に塩のかたまりへと変わる、異常事態。
その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。
真奈は女子高生、秋庭は自衛隊の戦闘機乗り。
正常に回っている世界だったら、接点のなかった二人。
静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。
それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた…。

ある日そんな二人の元に訪れた、秋庭の友人の入江。
入江は秋庭に、協力して塩害を止めようと持ちかける。

どちらが先に塩害になるのかと恐れ、好きな女が塩になるのをみたくないという一心で、
「真奈がいるこの世界を、いつ来なくなるかもしれない明日を守りたい」と、
危険な任務についた秋庭。
世界がこんなことにならなかったら秋庭に出会えなかった、
秋庭に会うためのこの世界なら、どんなひどい世界でも許容してみせる、
「秋庭さんが行っちゃうんなら、そんな明日なんか要らない!」と、ひきとめる真奈。

しかし秋庭は、真奈を置いて任務に向かう。
真奈もまた、命の危険がある状況の中、秋庭の帰りを信じて待ち続ける。
二人の恋の結末は、世界の運命は・・・。



                                   

原因が分からず、健康な人たちが塩になってしまう・・・。
想像しただけで恐ろしいし、悲しいですよね
塩害のくだりは、読んでいて気分が沈みました


塩害と共に物語の大きな柱となるのが、真奈と秋庭の関係性。
やっぱり私は真奈のほうに感情移入をしてしまって、
「秋庭さんのわからずや!!」なんて思いながらヤキモキしてしまったり(笑)
思わず泣いてしまう場面もありました
でも秋庭には秋庭の思いがあって・・・。
自分だけの問題ではなく、相手が居ることですから・・・本当に、ままならないものですね


明日がどうなるかわからないほど異常な社会の中で、失われていく秩序や理性。
そんな中でも、人と人の結びつきがあり、誰かを大切に思いやることもできる。
自分以上に大切に思える相手が居た真奈と秋庭は、幸せだと思います


ちなみに私は、『旅の終わり』のお話がいちばん好き
自分のことのように不安を覚え、腹を立てたぶん、
自分のことのように嬉しくて、幸せで、満たされました

                                   



心に残ったところ

何とかなるのかどうかは分からない。
けれど、少なくとも自分が手を伸ばす自由はある。
手は動くのだ、自分が動かそうとさえ思えば。
たとえ、それが届かなくても。
――恋は恋だ。



自分が先か真奈が先か。たった二人のコミュニティでその恐ろしい命題。
欠けたら痛い一部だと自覚しながら、想像するだに気が重いその痛みを憂いながら、
それでも自分が先になるわけにはいかないと思っていた。
自分の庇護がなければあっという間に世界の中に沈んでしまう、あの小さなものを守らなくてはと――
そうして今、自分が逆に庇護されていたことを知る。



真奈の頬を涙が滑り落ちた。
ここへ来てから泣いてばかりだ、恋はもっと幸せで甘いと思っていた。
こんなに苦しくてままならないなんて。そのうえ――
秋庭自身が一番ままならない。



本当に、何て勝手な、男というのは、何て自分勝手な生き物なんだろう。
ずるくても汚くても、相手さえ無事ならそれでいい。
そんなことを思っているのが自分だけだとでも思っているのか。
それでも許してしまうのが悔しい。
好きだからなんてそんな言葉ひとつでごまかされてしまう自分が悔しい。



「君は重い荷物になるべきだ。
 置いていける、他人に預けていけるなんて思わせちゃいけない。
 残して死ねないと重圧を与えてなくちゃね」
秋庭にとって自分にそれだけの意味があるのかどうか、真奈には分からなかった。
けれど、敢えて重い荷物になることで秋庭が死ねないと思ってくれるなら――重くてもいい。
秋庭が生きて戻ってくるなら、重たい荷物である自分に、秋庭の負担にしかなれないと思っていた自分に、初めて感謝しよう。
そして秋庭が戻ってきたら、軽くなるためにまたあがこう。



「秋庭が作戦を成功させるとしてもね、彼は世界なんかを救ったんじゃない。
 君が先に死ぬのを見たくないってだけの、利己的な自分の感情を救ったんだ。
 そして、その感情の先に繋がってる君を救う。秋庭に無事でいてほしいと願う君をね。
 僕らが救われるのは、そのついでさ。
 君たちの恋は君たちを救う。」



世界なんかどうなってもいい。
あの人が無事だったらそれで――ほかには何も要らない。欲しくない。だからどうか。
あの人をください。あたしにとってすべての意味を持っているあの人を。