河北新報
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◎土木会社が10億円提供/基準額超で用地買収
<鹿島からの依頼>
「このままでは浪江・小高原発ができない。カネに糸目を付けず、反対派の土地を買収してくれないか」
中部地方の土木会社の元幹部は、旧知の大手ゼネコン鹿島の役員と仙台市内で会い、そんな依頼を受けた。東北電力が新潟県巻町(現・新潟市)に建設を目指した巻原発計画が住民投票の結果、頓挫しつつあった1995~96年のことだ。東北電浪江・小高原発(計画中止)も、反対派地権者の抵抗で用地取得は難航を極めていた。
「こちらは東北電力の方」。鹿島の役員は同席していた男性を紹介したが、男性は自分からは名刺を出すことも、名乗ることもなかった。
土木会社の元幹部は「やましくて名乗ることができなかったのだろう。電力が自ら地権者と約束した買収基準額を超える不当な買収をするよう、鹿島を通じて頼んだわけだから」と振り返る。
土木会社は同原発の主要工事の受注を確実にしていた鹿島からの下請け受注を期待し、土地買収の裏工作資金として約10億円を用意した。
資金は、地元で反対派の切り崩しを担う福島県浪江町の不動産会社に渡り、土木会社の現地担当者も加わって買収工作が始まった。
<5億の損かぶる>
最重点は、地元で反対運動を長く指揮していた男性(故人)の所有地。「トップが落ちれば、ほかの地権者も次々に土地を手放すだろう」(不動産会社関係者)と見込んでいたからだ。
不動産会社は、この反対運動指導者の男性が97年2月に亡くなるまでに、同町棚塩の山林などを1億円近くで買い取る約束を取り付けた。不動産会社の関係者によると、男性の土地は、東北電が国土利用計画法に基づいて地権者代表と合意した買収基準価格では、約4000万円相当だった。
土地登記などによると、山林などの所有権は男性の死後に相続した家族から不動産会社に移り、すぐに須賀川市の女性に転売。東北電は98年5月、この女性から土地を購入した形になっている。
土木会社の元幹部は「反対派から買い上げた土地は最終的に、うちの社の関係者の個人名義にして、東北電に基準額で売った。10億円で土地を買って、東北電に5億円で売った格好。5億円の損をかぶって、東北電の手が汚れないように、土地取引の体裁を整えた」と明かす。
<東北電力は否定>
反対運動指導者が買収に応じたことで、ほかの反対派地権者も相次いで土地を売った。全国の反原発運動の中でも、固い結束で知られた地元農家による「原発から土地を守る運動」は、巨額の土建マネーの流入で事実上崩壊し、東北電は福島第1原発事故前までに、計画地の98%を取得した。
関係者によると、土木会社の現地担当者は、東北電の建設準備責任者と頻繁に会い、土地買収の経過などを詳細に報告していたという。
東北電は河北新報社の取材に「土地は全て買収基準額に基づき取得した。鹿島や他の会社に用地の取りまとめを依頼した事実はない」(広報・地域交流部)と話している。
東北電浪江・小高原発の用地取得をめぐり、中部地方の土木会社が約10億円の裏工作資金を提供していたことが、関係者への取材で明らかになった。1968年の計画発表から四半世紀の間、反対派地権者の運動で膠着(こうちゃく)状態が続いた用地買収は巨額の土建マネーの流入で一転、水面下で大きく前進していた。原発立地の障害だった反対運動の切り崩しで、原動力になった巨大利権の痕跡をたどる。
(原子力問題取材班)
【浪江・小高原発計画の経過】
1967年5月 浪江町議会が誘致決議
68年1月 東北電力が建設計画を公表
73年2月 東北電が現地に準備事務所設置
10月 旧小高町議会が誘致決議
95年2月 東北電と地権者代表が買収基準価格で合意
98年2月 東北電が地権者の90%強と売買契約完了
2011年3月 東日本大震災、福島第1原発事故発生
12月 南相馬市、浪江町の両議会が誘致撤回決議
13年3月 東北電が建設計画断念を発表
[浪江・小高原発計画] 東北電力が1968年に出力82万5000キロワットの沸騰水型軽水炉1基の建設計画を発表。70年から用地買収を本格化させた。計画地は福島県浪江町と南相馬市小高区の計約150ヘクタール。計画地のほとんどを占める浪江町棚塩地区の地権者は結束して土地の「不売運動」や反原発活動家を交えた「一坪運動」を展開し、用地買収に抵抗した。計画地は福島第1原発事故により全域が警戒区域になった。東北電は原発事故を受け、13年3月に建設計画を断念した。
2014年01月03日金曜日
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◎土木会社が10億円提供/基準額超で用地買収
<鹿島からの依頼>
「このままでは浪江・小高原発ができない。カネに糸目を付けず、反対派の土地を買収してくれないか」
中部地方の土木会社の元幹部は、旧知の大手ゼネコン鹿島の役員と仙台市内で会い、そんな依頼を受けた。東北電力が新潟県巻町(現・新潟市)に建設を目指した巻原発計画が住民投票の結果、頓挫しつつあった1995~96年のことだ。東北電浪江・小高原発(計画中止)も、反対派地権者の抵抗で用地取得は難航を極めていた。
「こちらは東北電力の方」。鹿島の役員は同席していた男性を紹介したが、男性は自分からは名刺を出すことも、名乗ることもなかった。
土木会社の元幹部は「やましくて名乗ることができなかったのだろう。電力が自ら地権者と約束した買収基準額を超える不当な買収をするよう、鹿島を通じて頼んだわけだから」と振り返る。
土木会社は同原発の主要工事の受注を確実にしていた鹿島からの下請け受注を期待し、土地買収の裏工作資金として約10億円を用意した。
資金は、地元で反対派の切り崩しを担う福島県浪江町の不動産会社に渡り、土木会社の現地担当者も加わって買収工作が始まった。
<5億の損かぶる>
最重点は、地元で反対運動を長く指揮していた男性(故人)の所有地。「トップが落ちれば、ほかの地権者も次々に土地を手放すだろう」(不動産会社関係者)と見込んでいたからだ。
不動産会社は、この反対運動指導者の男性が97年2月に亡くなるまでに、同町棚塩の山林などを1億円近くで買い取る約束を取り付けた。不動産会社の関係者によると、男性の土地は、東北電が国土利用計画法に基づいて地権者代表と合意した買収基準価格では、約4000万円相当だった。
土地登記などによると、山林などの所有権は男性の死後に相続した家族から不動産会社に移り、すぐに須賀川市の女性に転売。東北電は98年5月、この女性から土地を購入した形になっている。
土木会社の元幹部は「反対派から買い上げた土地は最終的に、うちの社の関係者の個人名義にして、東北電に基準額で売った。10億円で土地を買って、東北電に5億円で売った格好。5億円の損をかぶって、東北電の手が汚れないように、土地取引の体裁を整えた」と明かす。
<東北電力は否定>
反対運動指導者が買収に応じたことで、ほかの反対派地権者も相次いで土地を売った。全国の反原発運動の中でも、固い結束で知られた地元農家による「原発から土地を守る運動」は、巨額の土建マネーの流入で事実上崩壊し、東北電は福島第1原発事故前までに、計画地の98%を取得した。
関係者によると、土木会社の現地担当者は、東北電の建設準備責任者と頻繁に会い、土地買収の経過などを詳細に報告していたという。
東北電は河北新報社の取材に「土地は全て買収基準額に基づき取得した。鹿島や他の会社に用地の取りまとめを依頼した事実はない」(広報・地域交流部)と話している。
東北電浪江・小高原発の用地取得をめぐり、中部地方の土木会社が約10億円の裏工作資金を提供していたことが、関係者への取材で明らかになった。1968年の計画発表から四半世紀の間、反対派地権者の運動で膠着(こうちゃく)状態が続いた用地買収は巨額の土建マネーの流入で一転、水面下で大きく前進していた。原発立地の障害だった反対運動の切り崩しで、原動力になった巨大利権の痕跡をたどる。
(原子力問題取材班)
【浪江・小高原発計画の経過】
1967年5月 浪江町議会が誘致決議
68年1月 東北電力が建設計画を公表
73年2月 東北電が現地に準備事務所設置
10月 旧小高町議会が誘致決議
95年2月 東北電と地権者代表が買収基準価格で合意
98年2月 東北電が地権者の90%強と売買契約完了
2011年3月 東日本大震災、福島第1原発事故発生
12月 南相馬市、浪江町の両議会が誘致撤回決議
13年3月 東北電が建設計画断念を発表
[浪江・小高原発計画] 東北電力が1968年に出力82万5000キロワットの沸騰水型軽水炉1基の建設計画を発表。70年から用地買収を本格化させた。計画地は福島県浪江町と南相馬市小高区の計約150ヘクタール。計画地のほとんどを占める浪江町棚塩地区の地権者は結束して土地の「不売運動」や反原発活動家を交えた「一坪運動」を展開し、用地買収に抵抗した。計画地は福島第1原発事故により全域が警戒区域になった。東北電は原発事故を受け、13年3月に建設計画を断念した。
2014年01月03日金曜日