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のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

初体験 16

2009-06-05 | 小説 忍路(おしょろ)
ようやく落ち着いた機内の座席で、私の心は愚かしい自分の姿を何度も思い返して恥じ入るばかりだった。  客室乗務員の笑みを含んだ視線に出会うと、そんな私の内面を見られているようで、私はいつまでも下ばかりを見つめていた。  そんな私に対して、窮屈な機内で誰もが皆寡黙に座っているのは、ありがたいことだった。  私の心も機内の特殊な雰囲気の中で、に少しずつ癒されていった。    こうして初体験の飛行 . . . 本文を読む
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初体験 15

2009-06-04 | 小説 忍路(おしょろ)
  係官がうんざりした顔で荷物を引き渡してくれる間際にも、私は伊藤整の詩集について話し続けていた。たわいない事柄を口走りながら、自分が余計なことを喋っていることに気付いた。しかしそう気付きながら、私は自分の中からつき上がって来る衝動をどうすることも出来ないのだった。  ナップザックを受け取るとき、私は手に持っていたスケッチブックを机の上に置いていた。するとそれを見た係官は、すかさず私のスケッチブ . . . 本文を読む
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初体験 14

2009-06-03 | 小説 忍路(おしょろ)
 すっかり余裕を失った私は、改札に立っている係官を見つけると、まるで仇に出会ったかのように口から先に飛び出した。  必要以上に私がやってきた理由を身振りとともに伝えると、係官は荷物を置いている場所に私を連れて行った。見慣れた私のナップザックがいくつかの荷物とともに台の上に並べられていた。  私と同じような者が何人もいるなどと考える余裕もなく、私はわけもなく愛おしいもののようにそのナップザックを指 . . . 本文を読む
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初体験 13

2009-06-02 | 小説 忍路(おしょろ)
 私はうろたえて小走りに改札に向った。自分の愚かさと、時間がないという焦りの他は何も見えなかった。  通路を中程まで行くと、手に持っていた筈の搭乗券がない!!    えぇっ!!どうしてぇ??  私はなすすべを失った。まるで自分の尻尾を追いかける猫のように、その場に立ち尽くしてあらゆるポケットの中をまさぐった。そしてくるくるあたりを見回すのだった。どこに落としたのか、確かに数分前にこの手に握って . . . 本文を読む
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初体験 12

2009-06-01 | 小説 忍路(おしょろ)
  「はァ?」係員は耳慣れないことを聞いたような顔をして、カウンター内を窮屈そうに通って私の方にやってきた。  私はすがる思いで事の一部始終をその係員に話し、荷物の受け取り場所を重ねて尋ねた。  「ああ、あそこ検査だけですから、すぐに取りに行ってください。まだそこにあるはずですわ。」係員は少し驚いた顔をし、気の毒そうな声で答えた。  「ええっ!!そうですか。」私は大声を上げた。その声は心の中の声だ . . . 本文を読む
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初体験 11

2009-05-31 | 小説 忍路(おしょろ)
やがて搭乗開始のアナウンスが流れ、772便に搭乗する人々がゲートの前に列を作り始めた。その行列を見て私の煮え切らない心が一気に危機感に染まったのである。  これはおかしい!!荷物のことだった。直感的にそう思った。  列をつくっている人々の誰もが皆荷物を携えているのだ。どこかに荷物を受け取るところがある!!そうでなければ彼らがそれを持っているはずはないのである。  もはや見栄も何も言っていられな . . . 本文を読む
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初体験 10

2009-05-30 | 小説 忍路(おしょろ)
25番ゲートは一番奥まったところで、改札を通って随分時間を要したように思えた。自分の肩に力が入っているのを意識しながら、カウンターで搭乗手続きを済ませた。それは今までの苦労を考えればあまりにも簡素であっけないもので、私はチィケットの代わりに渡された搭乗券を拍子抜けしたように受け取った。  私は搭乗開始までの間、ベンチに腰を下ろして待つことに決めたが、次第に浮き立ってくる気持ちを抑えるように手 . . . 本文を読む
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初体験 9

2009-05-29 | 小説 忍路(おしょろ)
 浮かんでくる思いを様々に詮索しながら長い25番ゲートへの通路を歩いた。すると前から、紺色の制服を着た女性が片手に書類を抱えて初々しさを漂わせながら闊歩してやってきた。私達は自然にすれ違ったのだが、そのとき彼女は私を見て奇妙な顔をしたのだ。私は怪訝に思った。  彼女は何か滑稽なものでも見るような眼差しで私を見、その視線が一瞬私の下半身に向けられたように思えた。誘われるように私は自分の下半身に目 . . . 本文を読む
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初体験 8

2009-05-28 | 小説 忍路(おしょろ)
「改札は一つだった。コンベアーも一つだった。しかし中に入るとゲートはたくさんあって、しかもそれぞれが遠く離れている。こんな状態でどうして荷物が各ゲートに届けられるのだろう。  しかも荷物を渡すとき、これが私の荷物であり、この私が25番ゲートに向う乗客だというような確認は一切なかった。そもそもこの私が誰であるかさえわかっていないはずではないか。  するとどうして私の荷物が25番ゲートに届くのだろう . . . 本文を読む
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初体験 7

2009-05-27 | 小説 忍路(おしょろ)
そのとき私の胸には、どうだ、俺は悪い人間ではないだろうという驕慢な昂ぶりがやってきていた。そしてそれを誇示するためにわざと体を大きく開き、左右にねじってブレザーの背中の間にまで係官の手を誘い込んだ。  チェックが済むと。私は25番ゲートを探した。そしてそのゲートの表示はすぐに目の中に飛び込んできた。私はようやく確信と安心を得て、うまくやれたという思いを乗せて闊歩してゲートに向うのだった。私は . . . 本文を読む
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