きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

R/G・B 序章 大メイガス帝国とミカド皇帝

2023-05-30 23:57:24 | 小説

【チュートリアル:この物語は第1~第4の各章の最後に現れる分岐点において読者の選んだ選択肢によって次章以降の展開が変化するマルチエンディング方式を試行するものです。分岐点における選択肢に続く[Case:□]の案内に従って、タイトルに[Case:□]と示された次章を読み進めてください。】

§ 大メイガス帝国とミカド皇帝 §

 世界最大の大陸・エウロペ大陸の西海に浮かぶ、大陸と比べれば遥かに小さいが、島というには余りに大きい大(グレート)メイガス島及びその北に近接する北(ノルド)メイガス島には、ユマ族という単一民族のみが住んでいた。大陸に住む種々の獣人族とは一線を画した誇り高きユマ族は、その二島以外には世界の何処にも存在せず、他民族からの干渉を受けることなく発展した孤高の民族であり、その二島からなる大メイガス帝国は、古(いにしえ)より脈々と続く、魔術師皇帝ミカドの一族により統治されていた。大メイガス島西部に位置する古都・サイトには皇帝の宮城(きゅうじょう)があり、魔術師たちの都として栄えていた。栄華を極める魔術師たち、所謂『師族』は、『魔術師に非んずばユマ族に非ず』とでも言わんばかりに、当時はまだ未開の地に等しい東部や北部出身の非術師たちを奴隷や家畜同然に扱い、その中でも戦闘能力に優れた者は闘技場で競わせて娯楽の対象としたり、或いは私設の兵力として、時には表立った公の戦闘を行わせ、時には闇の暗殺者に仕立てることで、自らの手を汚すことなく勢力争いを繰り広げて来た。結果的に派閥争いに勝ち残った少数の有力な師族以外は淘汰されて行くこととなり、表面上は争いのない平和な世界が訪れた。


 時は流れ、皇帝テオ・ミカドⅠ世の御世に、突如として異変が起こった。地中深くで流動する、この世界の全ての命と魂の源たる生命エネルギーの大河『リビド』が、大メイガス島東部にて、恰も湧泉の如く表出したのである。『リビド』から得られるエネルギーの研究が進められ、魔導の力を利用した疑似魔法や、魔導の力を凝縮した魔導石、及びそれを装備した魔導武器が開発されると、非術師でも魔術師に匹敵する力を持つことが出来るようになった。彼らは自らを『魔導士』と称し、その数が増えると、師族に対抗して『士族』を名乗るようになった。そして台頭してきた士族の若き指導者こそ、後に総統に就任することになる、偉大なる魔導士・エドであった。エドは東部の都市・トートを中心に士族の都を作り上げた。


 元来非術師出身であった士族の台頭により、大メイガス帝国内における勢力図は根本的に塗り替えられることとなり、師族によって奴隷同然に虐げられて来た非術師の地位は向上し、魔導士ではない一般の非術師も安全で平穏な生活を保障され、師族の私設兵も奴隷ではなく傭兵として対等な雇用契約関係を築くに至ったが、師族の中には、内心では未だそれを受け入れられない者も多く、水面下では非術師に対する尊厳の侵害行為も少なからず発生しており、そんな闇の部分を巧みに隠蔽することで何とか存続していた。


 テオ・ミカドⅠ世が逝去した後、その嫡男の皇太子がテオ・ミカドⅡ世として即位したが、生来病弱であった皇帝に対し、士族の長・エドは

「皇帝陛下のご安泰こそが、この大メイガス帝国の安寧に繋がるのでございます。政(まつりごと)は私共臣下に全てお任せになり、陛下はお心安らかに、御身のご養生に専念なさいますように。」

と進言し、エドは自ら総統に就任してトートに総統府を置き、事実上の統治者となった。テオ・ミカドⅡ世は当初こそ「エドは帝国一の忠臣」と評していたものの、後になって「うまくエドの口車に乗せられて騙された」と後悔したが、「士族が疑似魔法を手にしたといえども、いざという時の召喚術さえあれば師族が圧倒的に優位だろう」とたかをくくり、長期に亘り自ら戦場に立つことのなかった師族は、巨大な最新型の魔導兵器を開発して飛ぶ鳥を落とす勢いの士族に対して対等以上の戦いが出来る自信もなく、象徴としてしか存在意義のなくなった皇帝と共に沈黙を貫くより他になかった。


 更に時は流れ、先帝の崩御に伴い、テオ・ミカドⅠ世の孫に当たるテオ・ミカドⅢ世が弱冠十五歳の若さで皇帝に即位したが、生来病弱であった先帝テオ・ミカドⅡ世は、エド総統の甘言に謀られた後悔の念から自らの寿命を縮め、物心ついた頃から皇太子として父である先帝の摂政を努めて来た新帝は、先帝の無念の思いを刷り込まれて成長したためか、エド総統や士族たちに対しては潜在的な懐疑心や反感を持っていた。若き新帝即位の儀式及び祝賀の宴には、様々な種族の獣人たちによる群雄割拠の大陸列国からも来賓が多数列席したが、その中でも大陸諸国の中では西海岸に面し、最も大メイガス島の対岸に近い隣国に当たる二国からの来賓が新帝に特別の謁見を願い出た。愛らしい小動物のような見た目とは裏腹に強かで狡猾な獣人ラビ族の国・カニン公国の第三王女カトゥンティールと、見た目通り猛々しい猛獣の如く剛毅な獣人レオ族の国・リオン王国の第二王子スィンバーは、慇懃に皇帝に挨拶し、それぞれの国の名産品として純白の柔らかな毛織物や最上級の干し肉等の貢物を献上し、気を良くした皇帝に言葉巧みに取り入って二国との同盟の話を持ち掛けたのだった。


 先帝の時代は病弱なテオ・ミカドⅡ世を警護の名の下に士族が常に監視し、皇帝は事実上実権を剝奪されたも同然で、牙を抜かれた獣のような状態に陥っていた。殆ど自らが戦場に立つことのなかった師族に取って代わり、科学技術の粋を集めた魔導兵器や疑似魔法の力で、非術師であった者たちが魔導士となり、魔術師を超えたことに対して内心不満を持つ師族は多かったが、保身のためそれを表立って口にすることは出来なかった。そんな師族の不満に目を付けた大陸の獣人たちはあからさまに魔術師を褒め称え、

「魔導士などと名乗っても、所詮は似非魔術師。魔導の力がなければ非術師に過ぎぬ魔導士たちにいつまでも好きにさせておいてはいけません。かつてのように皇帝陛下と魔術師が直接統治する世の中に戻すべきです。」

と師族たちに吹き込み、皇帝を唆し、

「これより密かに力を蓄えて、今までの魔導士中心の世界の転覆を謀り、再び皇帝陛下の手に帝国統治の実権を取り戻しましょう。そのためになら、我等同盟国連合は、皇帝陛下や師族に対する協力を惜しみません。」

と焚き付けた。彼らは魔導士からなる帝国魔導軍を打ち破り、帝国を再び皇帝の支配下に置くことが出来れば、若き皇帝を傀儡化して、同盟国である彼らの意のままに魔導の力を手に入れられると踏んでいた。そのために帝政復古という餌をちらつかせて皇帝・師族及び同盟国連合軍vs士族・帝国魔導軍で戦わせ、最終的には大メイガス帝国の全てを彼ら同盟国連合の獣人たちの手中に収める腹づもりだった。

 第1章に続く


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