きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

R/G・B 第2章 Case:A 二人の死を乗り越えて

2023-05-30 23:59:36 | 小説
【作者注:第1章 第1分岐点において、選択肢「A:自分を責めて殉死しようと思い詰める」を選んだ場合の第2章になります。】
§二人の死を乗り越えて§
 シオンに次いでイワンをも失い、グレンはもう立ち直れなかった。故郷を失い、両親を失い、それでもグレンが今まで生きて来れたのは、盟友である二人の支えがあってこそだった。味方の命を救いながら、敵の命を奪い続ける自己矛盾に悩むグレンを励ましてくれたイワンも、謎の病に身を蝕まれつつも、グレンの『ゾンネ万能薬』の研究に協力し、いつかきっと救ってくれると信じてくれていたシオンももう居ない。グレンはこの先自分は何を支えに生きて行けば良いのかわからなかった。イワンの残した「自分に与えられた役割を果たせ。どんな時も誇りだけは手離すな。」という言葉が呪縛となってグレンを苦しめた。
 何とかイワンとの約束を果たすべく、ミーブ隊の隊士たちを戦線離脱させるまでは張り詰めていた緊張の糸がふっと緩むと、グレンは脱力し、猛烈な無力感に責め苛まれたのだった。
(これまでのように自分を偽りながらこの先一人で生きて行くことなどもう俺には無理だ。俺の大切な人は皆俺だけを残して先に逝ってしまう。結局俺には誰も救えなかった。これ以上冷徹な仮面を被り、非情の戦士を演じ続けて行くことなど出来はしない。)
「シオン、イワン、許してくれ…俺は…。」
グレンは絞り出すようにそう呟きながら涙を流し、自らの無力を恥じた。

 愛剣ツヴァイハンダーを抜いて、自らの頸に押し当て、肩に頬を寄せて刃を挟み込むようにして、
(このまま剣を引きさえすれば…)
そう思った時、何処からかオリベが現れて、抗う間もなくツヴァイハンダーを奪われ、遠くの床に向かって投げ捨てられた。
「おやめなさい。あなたが殉死することをイワンは望まないでしょう。それはあなた自身が一番よくご存知ではないですか。」
感情を抑え、静かにグレンを諫めるオリベの言葉で、はっと我に返ったグレンの脳裏にイワンの面影が浮かんだ。
「来るべき時が来たら、オレはオレの役割を果たすから、お前はお前なりの役割を果たせ。お前の生き方を決めるのはお前であってお前ではない。お前の物語の主人公はお前だ。天から求められるそれぞれの役割を肩代わりしてやることは、他の誰にも出来はせん。いつか進むべき道が示される時が来るから、その時になれば自然と答えは出るだろう。」
それはいつかイワンから言われた言葉だった。
(俺の…役割…。)
グレンは一晩中考え続けた。イワンの遺志を継ぐために、自分はどうしたら良いのかを。

 悶々として眠れぬグレンの脳内に、昨夜オリベが皆に向かって呼びかけた時の光景が再生されていた。
「諸君、イワン総隊長は私たちのためにその尊い命を捧げて下さったのです。イワン総隊長のご遺志を無駄にせぬため、私たちは何としても生き抜かねばなりません。一方で、イワン総隊長はまた、常々私たちに『誇りを持て』と仰っていました。ならば、私たちはこのまま逃げて終わる訳にはいかない。西国では敗れても、まだ東部では激戦が続いています。そして、志を同じくする北部の友軍は北の大地を目指し、そこに私たちの新しい共和国を作ろうとしています。私たちも彼らと合流して再び軍を整え、敵を迎え撃つべきです。共に北の大地を目指しましょう。」

 生き延びて罪を償うために薬師となって人々に尽くす、イワンの示したそんな未来を実現するとしたら、その場所は北の大地の新しい共和国かもしれない。戦況は依然として厳しく、そう易々と実現できる夢ではないだろうが、疲弊した兵達の胸に希望の灯を点すためには、明るい未来という具体的な目標が必要だ。もしも今のこの困難な状況を打破することができるなら、その夢に一歩近づくことが出来るだろう。
グレンはそう考えて、オリベの提案に賛同することを決めたのである。
「行こう、北の大地へ。そしてそこで敵を返り討ちにして、我らの新しい共和国を作るんだ。」

ルート2A:「自分を責めて殉死しようと思い詰める」 
§二人の死を乗り越えて§【分岐ルート】終了

【第2分岐点】
グレン・オリベと旧帝国魔導軍は北の大地を目指し、その地で反帝国魔導軍との最終決戦を迎えますが、グレンは最終決戦に臨むことになるでしょうか。
F 最終決戦以前に追手・刺客に襲われる。(第3章 Case:Fへ進む)
G 最終決戦以前に投降する。(第3章 Case:Gへ進む)
H 最終決戦の戦場とは別の場所へ逃れる。(第3章 Case:Hへ進む)
I 最終決戦に臨む。(第3章 Case:Iへ進む)
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