きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

Killer Queen 3-4

2014-01-13 20:47:44 | 日記

 3 魔導研究所

 ヘルトと綺羅の離婚から15年の歳月が流れた。
二人の間に生まれた双生児、外ハネの銀髪に燃えるような紅い瞳の紅蓮(ぐれん)と緩やかに波打つ漆黒の髪に深い紫色の瞳の紫紺(しこん)は美しい青年に成長し共に魔導研究所の研究員になろうとしていた。
 幼い頃父に連れられて王宮を出た後二人は父の故郷の村で暮らしていた。
限りある魔導エネルギーの量では国全体の需要の全てを十分には賄いきれず、辺境の田舎では都と違い魔導エネルギーの恩恵は殆ど受けられずに昔ながらの自給自足生活を送らざるを得なかった。
華やかで豊かな都に憧れて若者は村を捨て残された年寄は自身の貧しい日々の暮らしに精一杯で親に捨てられた幼な子を気遣う余裕などなかったし、こんな暮らしを強いられているのもヘルトが邪な魔女の手練手管にまんまとひっかった所為だとして女王に反感を持つ者も居て当然ながら魔女の息子たちである双生児を見る目は冷たかった。
 将軍職を辞した父ヘルトは子供に対しては無関心でろくに世話らしいこともしないで、当初はたまに帰って来て食べ物や生活費を置いていくこともあったが次第に殆ど家には寄り付かなくなり終には二度と帰ることはなかった。
 正反対の性格でありながらこの世の誰よりも互いを理解し深くて強い絆で結ばれた双生児は、村に居たたまれず逃げ出した後は慰め合い励まし合い支え合って、時には法に触れることや人の道に外れることをしつつもあちこちの町や村を転々としながら生き別れの三つ子の弟雷電の居る都を目指し、体内に流れる魔女の血に曳かれたのか志したのが魔導研究所だったのである。
「…いいのかよ?紫紺。魔導研究所に足を踏み入れたらもう二度と抜けられないらしいぜ?」
紅蓮が紫紺を振り返って真顔で訊ねた。紫紺は幽かな笑みを浮かべて答えた。
「良いも悪いも…紅蓮。僕たちには元々魔女の血が流れているんだよ?この世界中で他のどこに僕たちの居場所があるって言うの?」
「…だな。」
紅蓮もふっと笑って言った。
 人間が科学技術によって女王の持つ強大な魔力を模した魔導の力がこの国を支えるエネルギーを生み出す。その研究を行っているのが魔導研究所だった。
国家存亡にかかわる重大な機密であるだけにその研究に携わる者は全て厳しい管理下に置かれ、例え職を離れても生涯ずっと監視され続けるのだった。


 4 魔女の愛し子

 「お召しにより参上仕りました。女王陛下。」
女王の前に跪いて俯くと柔らかな細い絹糸のように真っ直ぐな金色の髪がさらさらと流れる。
「おお、雷電。妾(わらわ)の愛し子よ。ここにはそなたと妾の二人だけ。堅苦しい挨拶など要らぬ。いつものように妾を母と呼ぶがいい。そして顔を上げてそなたの美しい碧い瞳を母に良く見せておくれ。」
綺羅は雷電に歩み寄ると身を屈めて手を差し伸べ雷電の頬に触れた。
「母上…。」
綺羅を見つめる雷電のその瞳は澄み切った海に映る雲一つない青空のように一点の曇りもない美しい碧色をしてきらきらと輝いていた。
「美し過ぎる妾の愛し子。そなたの美しさの前では如何なる宝玉も輝きを失いどんな花も萎(しお)れて枯れ果てよう。
そなたは母の全て。母の宝。母の生命(いのち)。母にはもうそなたしか頼れる者は居らぬ。
雷電、そなたはどれほどこの母を愛してくれているのか。その証として生命を賭けて母を守ってくれるのか。」
綺羅はじっと雷電を見つめて甘ったるい声で言った。その紅色と紫色の瞳から注がれる視線は猫が足音も立てずにそっとすり寄って来るように無防備な雷電の瞳に忍び込んで来て、それに捕らえられるとまるで心を丸裸にされて底の底まで見透かされた上目隠しと猿轡をつけられてがんじがらめに縛りあげられねっとりと絡みつくようなざらついた舌先で首筋を舐められるようなぞっとするほど艶めかしいものであったが、生まれてからずっと母のこんな視線に曝され続けて来た雷電にとってはいつも通りの母でしかなく何の違和感もなかった。
しかしそれは傍目から見れば血を分けた実の息子に向けられたものとはとても思えず、明らかに異様で吐き気を催すほど不快で不気味なものだった。
雷電が口を開こうとするより前に綺羅はすぐ言葉を続けた。
「いや、そなたの答えを聞くまでもない。そなたが母の生命なら母はそなたの生命。そなたは愛する母のためならその生命さえ惜しむはずはあるまい。そなたは今まで一度たりとも母に逆らうことはおろか迷うことも躊躇(ためら)うこともなかった。そなたにとって母の言葉は絶対。そうであろう?雷電。」
綺羅は冷たい指で雷電の頬を撫でた。雷電は人形のように微動だにせずじっと為されるがままに任せていた。
「最近魔導の力による支配に異議を唱え始めた反逆者どもが増えて来たと聞く。その者たちに援助をしている不届き者が陰で妾の生命を狙っているという噂もある。
どうやらその不届き者の中心人物の一人が聖教会の大司教らしい。
雷電。…いつものように母への愛の証を示してくれるであろうな?」
綺羅の言葉は有無を言わせぬ力強さで雷電に迫った。
「承知しました。母上。」
「それでこそ妾の愛し子。では行くがよい。そなたには期待している。決して母を失望させることなど有り得ぬとな。」
立ち上がって深々と一礼すると雷電は静かに部屋を出て行き、綺羅は黒い笑みを浮かべて雷電の背中を見送った。
(…それでよい。それでよいのだ。雷電。そなたは妾の意のままに動く傀儡(くぐつ)。美しいだけの空虚な人形。人形には心など要らぬ。そなたはこれからもずっと心など持たなくてよい。妾の邪魔をする障害物を排除する便利な道具。妾なしでは存在できぬ儚いそなたに役割を与えたのだ。末永く妾に尽くし続けよ。雷電…。)

 深夜大司教は何かしら不吉なものを感じて目覚めた。
「誰だっ!?そこに居るのは…。」
いつの間にか寝室の窓が少し開けられ隙間から吹き込む夜風に揺れるカーテンの陰に何者かが潜んでいる気配がする。
カーテンが風に大きく煽られた一瞬にそこから飛び出して来た黒づくめの装束。月光に照らされて帽子の下から少しだけ覗いている金色の髪が揺れて輝く。
あっという間に大司教の背後から首に腕を回し左手で枕を掴んで大司教の胸に当て右手に握った銃を押し当てた。
「…魔女の息子(いぬ)か…。」
大司教は絞り出すように呟いた。
「噂は聞いている。魔女は刺客を差し向けて目障りな者を次々と闇に葬らせていると。まさか我が子の手を汚させるとはさすがは罪深き冷徹なる親殺しの魔女。
…しかしその姿はほんに若き日の父君、勇者ヘルト=ハイラントに生き写しよの。その金色の髪も碧い瞳も。
雷電は眉根を寄せて暗く哀しい色を帯びた碧い瞳を隠すように長い睫毛を伏せて引き金を引いた。焼け焦げた枕から弾け飛ぶように水鳥の羽毛が寝室内に舞い散りゆっくりと前のめりに倒れた大司教の胸の下から流れ出した血がゆっくりとシーツを赤く染めて行く。
雷電がポケットから『何か』を取り出してまだ幽かに息のある大司教の背中に押し当てると雷電の掌の中にすっぽりと収まるほどの小さな『何か』は青白い光を放ち大司教の体が次第に透けていってその小さな『何か』の中に吸い込まれて消えた。
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