きつねの戯言

銀狐です。不定期で趣味の小説・楽描きイラストなど描いています。日常垢「次郎丸かなみの有味湿潤な日常生活」ではエッセイも。

Killer Queen 1-2

2014-01-13 17:58:30 | 日記

 1 序

 今は昔の物語。その国は一人の女王によって治められていた。
女王の名前は綺羅(キラ)。透き通るように白い肌に燃えるような紅(あか)と深い紫のオッドアイを持つ魔女である。
魔導の力がその国を支えるエネルギーを産み国は栄えていたが一般の国民はそのエネルギー源の正体を知らされていなかった。
その真実を知るのは厳重な管理の下で魔導研究に従事する者に限られ、それ以外には女王の側近や政府高官でさえごく一部にしか知らされていなかった。

 建国の立役者となった勇者であり現在は国軍の将軍でもある綺羅の夫君ヘルト=ハイラントは彼女と苦楽を共にし二人三脚で乱世を戦い抜いてきた同志・盟友であった。
 綺羅とヘルトの間には一卵性双生児の紅蓮(グレン)と紫紺(シコン)、そして卵違いの二卵性の末弟雷電(ライデン)の三つ子の男児が生まれた。
母の右眼と同じ紅い瞳を持つ紅蓮と左眼と同じ紫色の瞳を持つ紫紺は顔立ちも母の綺羅とよく似ており、雷電だけが父のヘルトに似ていて見事な金髪と碧い瞳を持っていた。
 しかし息子たちが5歳になった時突然故あって綺羅とヘルトは離婚し紅蓮と紫紺の双生児はヘルトに連れられて王宮を去り、綺羅の下には雷電だけが残された。


2 出会いと別れ

 かつてこの世界にはさまざまな種族が混在していた。
人間や魔女だけではなく妖精と人間の間に生まれた半妖のエルフ族、巨木のような背高族、小さくて太っちょのドゥワーフ族、狼や兎に似た獣人、その他種々雑多な種族が入り乱れ群雄割拠の混沌とした乱世だった。
 そんな世界に人間の中から一人の勇者が現れた。その若者の名はヘルト=ハイラント。見事な金髪と透き通るような碧い瞳の美しいその青年は己の腕と愛剣一本だけを頼りに、体格や体力に優れ妖術などの特殊能力を持つ他の種族に対して果敢に立ち向かっていた。
 長い金髪を風になびかせて身軽に戦場を駆け抜ける彼はいつしか『美しき雷(いかずち)』と呼ばれるようになっていた。

 ある日敵を深追いするうち友軍と逸(はぐ)れて深い森の中一人きりで一夜を過ごすことになったヘルトが焚火の前で朝を待っていると背後から冷ややかな女の声が呼び掛けて来た。
「…そなたが人間(ひと)の頭(かしら)、『美しき雷』か…。」
「誰だっ!?」
声のする方向に向き直り剣を抜いて構えるヘルトの前に闇の中から黒いローブを着た一人の魔女が姿を現した。
目深に被ったフードの下から燃えるような紅色と深くて暗い紫色のオッドアイが刺すような力強い視線で見つめている。
「剣を下ろすがよい。妾(わらわ)はそなたの敵ではない。
そなた、一つ妾と取引をせぬか?さすれば何なりとそなたの望みを叶えよう。
そなたは何を望む?もしもそなたが望むのであればそなたを人間の王とすることも妾にとっては何の雑作もない至って容易(たやす)きこと…。」
「俺は王になんてならなくてもいい。俺はただ人間が皆安心して暮らせる国を作りたいだけだ!」
ヘルトは剣を構えたまま魔女を睨みつけて言った。
「…それならそれで妾は一向に構わぬ。
…不老不死だなどとうそぶくエルフや図体ばかり高くてでくの坊の背高族、馬鹿力だけのドゥワーフ、所詮は畜生に過ぎぬ獣人ども…どいつもこいつも取るに足らぬつまらぬ者たちばかり。妾がそなたたち人間の側に就けばあんな奴らは最早敵ではない。」
真っ直ぐにヘルトを見つめるその魔女の視線は心の奥底まで全て見透かされてしまいそうなほど力強かった。
ヘルトはその魔女の言葉にも視線にも一片も邪(よこしま)な気配を感じなかったので剣を下ろすことにした。

 「…そう言えば最近魔女界を追われた異端者の魔女が居るという噂を聞いたことがある。
実の母を殺した咎で本来なら死罪となるところを何故か永久追放になった若い魔女が居てその瞳は罪の色の紅と罰の色の紫をしていると。
見ればお前の瞳の色はその紅と紫。異端者の魔女とはお前のことなのだな。…そのお前が何故人間の俺と取引を?」
「『雷』よ。…妾の名前は綺羅。何の因果か身に余る強大過ぎる魔力を持って生まれた妾は呪われし忌むべき存在。
いつか妾を追放した憎き同胞(はらから)に報復したいと思うていた。
人間の身でありながらそなたはあまりにも美しくそして強い。妾はそなたが大変気に入った。そなたならきっと妾の望みを叶えてくれよう。
妾は人間にはなれぬが魔女界にも戻れぬ。だがそなたとならきっと共に戦える。だから妾もそなたの望みを叶えてやろうと思うたまでのこと。
妾はこれより人間に与(くみ)しそなたと共に戦って人間の国を作ろう。」
「綺羅…と言ったか。俺の名はヘルト。ヘルト=ハイラント。
良いだろう。お前が嘘を吐いていないことはお前の眼を見ればわかる。
約束しよう。今からお前は俺の相棒だ。」
こうして二人の間に契約がなされた。

 その後勇者ヘルト=ハイラントと魔女・綺羅は乱世を共に戦い抜き、ほどなく他の種族を駆逐して人間の国が作られた。
最初は綺羅を怪しみ訝(いぶか)しんだ友軍の戦士たちも共に戦ううちにいつしか彼女を認め勇者ヘルトと同列に扱うようになったという。
建国に際しヘルトは自らを王に推す者たちに対して言った。
「他の種族が最も恐れているのは実は俺たちではなく寧ろ『魔女』の力だ。俺たちだけではとてもこんなに早く建国の夢は叶わなかった。
この国が再び侵攻されることのないように他の種族に畏れられている魔女・綺羅を女王にしよう。」
そしてヘルトは跪き綺羅の手を取って求婚した。
「俺の妻になってくれ。綺羅。俺が一生お前を支える。」
「そなたがそれを望むのなら。」
そして綺羅は女王にヘルトは国軍を束ねる将軍となった。二人が結婚するとすぐに綺羅は懐妊した。

 もう随分昔から魔女界には男の魔導士は一人も存在しない。魔女が子を望めば人間の女に化けて男と交わり、生まれた子が女ならその子と共に、男ならその子を殺して、夫を残して去り魔女界へ戻るという。
しかし綺羅は一卵性双生児と卵違いの二卵性の末弟の三つ子の男児を一人として殺すことはなかった。
 紅い瞳と紫の瞳の双生児は綺羅に、碧い瞳の末弟はヘルトに似ていたが、三人とも極めて兄弟仲は良く、5歳までは共に育った。
とある事情で綺羅とヘルトが離婚するその時までは。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1月12日(日)のつぶやき | トップ | Killer Queen 3-4 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事