ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

光を出す繊維

2012-01-31 | 報道/ニュース

LED(10/3,4参照)とは電圧を加えることによって発光する半導体で、その高効率と高耐久性のため、既存の光源と置き変わりつつある。有機半導体(10/8参照)を用いたLEDはOLEDと呼ばれるが、薄くかつフレキシブルで、ディスプレイなどに活用されている。液晶に比べてコントラストが強く消費電力も少ない。Holst Centre社やimecなど積極的に開発を進めている会社もある。

アイオワ州立大学の研究グループは、光を放出する1マイクロメーターより細い有機ファイバーを作成することに成功した。この程度の細さのものが作成できたことによって、繊維の中に織り込むことが可能である。フレキシブルな光センサーやディスプレイを作成することが可能になると期待されている。自分が着ている袖の一部がiPADになるということになるかもしれない。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=24096.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TyNVFB_NCMY.google

このようなサイズの小さいLEDはナノテクノロジーではいろいろな用途がありそうだ。ラボオンチップ(lab-on-a-tip)と呼ばれるバイオデバイスがある。数ミリ程度の大きさのチップ上で微量の血液など液体の特性を種々の観点から調べる。液体が通るチャネルは通常リソグラフィ(10/24,11/3参照)によって作成する。種々の性質を同時に測定するため集積回路を組むことも出来る。有機発光ファイバーはラボオンチップに光源が必要な場合、最も適した光源であろう。


コンピュータメモリーデバイスに新材料

2012-01-30 | 報道/ニュース

現在用いられているコンピューターなどのメモリデバイスには3種類ある。磁気メモリー(1/14参照)は、強磁性材料に磁場を加えて情報を記憶させる。半導体メモリ(12/22参照)は、CMOSなどのようにトランジスタを組み合わせてメモリに使用するもので、電界を加えることによって作動する。電界で磁気メモリーを動作させるスピントロニックス(1/22参照)やナノサイズメモリーへの挑戦についても説明した。

このほかに、光メモリーがある。CDはその一例であるが、これは高分子材料にアルミニウム薄膜を乗せたものである。焦点を絞ったレーザー光を照射して孔を開け、それによる反射係数の変化を読み取る。最近、DNAを利用した光メモリーの試みが着手されている。台湾とドイツの研究グループは、サケのDNAの上に銀のナノ粒子を乗せたものを2枚の電極ではさんだものが、メモリーデバイスとして使えることを見つけた。光を照射すると銀ナノ粒子が集合する。これによって電極の間に電流が流れやすくなり、光が当たった部分の読み取りが可能となる。この手法は、光メモリーだけではなく銀ナノ粒子を規則的に並べることにも使えそうで、プラズモニックス(11/18参照)への応用も可能であるいう。

最近、理化学研究所の研究グループは、メモリーに使用出来そうな全く新しい材料を見つけだした。以前から強誘電性材料というものはよく知られていた。材料には誘電性がある。すなわち、電界を加えると電子が陽極の方に引き寄せられる。これを分極という。強誘電性材料では、強磁性材料と同じように分極が次々と隣の分子に作用して、材料全体が分極する。電界を除去しても分極がそのまま保たれるものもある。新しく見つけられたのは、強磁性と強誘電性を併せ持つ材料である。この材料は、強磁性を持つマンガンを含む化合物で、その結晶構造がマンガンを立方体の中心付近に位置するものである。マンガンが正確に中心ではなく、中心から少しずれたところに位置するため、電界を加えることによってマンガンの位置が中心からずれた位置をいったり来たりする。これによって、強誘電性と強磁性が同時に発生し、電界を除去しても分極は維持される。

ちなみに、愛知県は、ナノテクノロジなど先端技術の工場を県内に建設する企業に最大100億円を融資すると、本日の朝日新聞が報じていた。


ナノ粒子プラズモンに関する二つの話題:赤外光の完全吸収とヤモリの足

2012-01-28 | 報道/ニュース

金属や半導体の最も外側の電子が集団的にその位置をずらすと、残った正電荷に引き戻される。これによって発生する振動をプラズマ振動というが、プラズマ振動は金属や半導体の中を移動するのでプラズモンと呼ばれている(11/17,12/21,1/23参照)。ナノ粒子では、粒子が小さいためプラズマ振動の際電子が粒子の外へはみ出す。そのため振動数が粒子の形や大きさによって異なる。振動数を可視光や赤外線の振動数(波長/光速)と同程度にすることが出来、いろいろな新しい展開が注目されている。

スペインとイギリスの研究者たちは、一層のグラフェンナノディスク(1/18参照)を周期的に並べたものが赤外線を完全に吸収し、赤外線のもつエネルギーをプラズマ振動のエネルギーに変換してしまうことを明らかにした。今のところコンピューターシミュレーションの段階であるが、最近のコンピュータの性能が高くシミュレーションの精度も高い。グラフェンナノディスクに赤外線領域のプラズマ振動を誘起するためには、電荷を与えるかまたは不純物を添加する必要がある。また、電荷の大きさによってプラズマ振動の振動数、したがって吸収される赤外線の波長が異なるという。これまで赤外線領域の検出器やセンサーの感度があまり大きくなかったので、実現すればその貢献度は高いだろう。また、プラズマ振動エネルギーを電気エネルギーに変換する道が開ければ、太陽光発電効率を上昇させるのに貢献するであろう。
http://physicsworld.com/cws/article/news/48464

もうひとつの話題もコンピュータシミュレーションである。プラズマ振動の際電子が粒子の外へはみ出すので、粒子が他の物質と接触しているとその物質に負の電荷を与え、互いに引っ張り合うはずである。ヤモリの足のように天井にくっつくことも可能になるだろう。イギリスの研究グループは、金ナノ粒子を薄膜の表面に並べたものを想定し、これを他の絶縁体の上に乗せて、これにプラズマ振動と共鳴する波長の赤外線を照射し、薄膜と絶縁体との間に働く力を計算した。その結果、薄膜の重力に打ち勝つ引力が生じることが明らかになった。この結果をどのように実用化されるかは今後の問題であるが、このようにいろいろな新しい可能性が開けてくることは大変興味深い。
http://physicsworld.com/cws/article/news/48394


ナノ材料の危険性について再検討するよう勧告

2012-01-27 | 報道/ニュース

アメリカ科学アカデミーは、ナノ粒子の危険性について検討するよう勧告したとニューヨークタイムス紙が報じている。勧告*は150頁に渡るが、危険性に対する理解が十分でなく、さらなる研究が必要であると指摘している。*http://www.nap.edu/openbook.php?record_id=13347&page=3

2009年のナノテクノロジー市場は22億ドルで、今後ますます増大する可能性がある(12/24参照)。炭素、銀、亜鉛、アルミニウムなどのナノ粒子が、製造過程や、また廃棄された後環境に放出される可能性がある。これを人々が吸い込んだり、食べたりまた皮膚から取り込んでしまう可能性がある。

次の4項目について調査・研究を進めるよう勧告されている。1)ナノ材料の放出源、2)危険性の高いプロセスの把握、3)ナノ材料の与える影響について細胞レベルから生態系レベルまでの理解、4)危害を受けないで基礎ならびに開発研究を推進する方策。科学アカデミーの見解は、「ナノテクノロジーの開発は推進すべきであるが、その発達過程で公害を起こさないよう十分な注意を払うべきである」 のようだ。

アメリカには、ナノテクノロジー関連会社が1172社あるのに対し、日本には62社しかない。しかしながら、高度成長期に重金属などによる公害をひき起こしたことを考えると、日本政府も早めに手を打つ必要があるのかもしれない。

昨日の続きで、癌に関してのこれまでの記事をまとめておこう。


生物医学と炭素:研究室から市場へ

2012-01-26 | 報道/ニュース

イギリスのMAST Carbon社が、EUが資金援助しているProNanoプロジェクトと協力して、新しい’biomedical carbons’を市場に送り出そうとしている。MAST Carbon社は、カーボンに関係したR&Dのコンサルティング会社で、多くのノウハウ持ちながら、これまであまり生産活動には携わってこなかった。今回ビジネスコンサルタント会社の協力も得て、差し当たっては傷の治療と血液フィルター用カーボンナノチューブの商品化を目指すという。

これまでカーボンナノチューブの医療への応用については何回か触れて来た。MAST Carbon社が目指しているのは、カーボンナノチューブをフィルターとして用いるものである。カーボンナノチューブを束ねる方法は前世紀末から開発されている。このような束を一定の間隔で配置することも可能で、これらが種々の目的のフィルター用薄膜として用いられている。傷の治療にカーボンナノチューブをどのように利用するのか不明であるが、おそらくフィルターとして用いるのであろう。

このほか、すでに断片的に説明して来たように、カーボンナノチューブは生体用センサーやドラッグデリバリーなど治療にも用いられている。これらについてはいずれまとめて説明しよう。

カーボン以外にも、種々のナノ粒子の医療への応用が進められている。Global Information社によると、ナノ医学はすでに市場として確立していて、2011年には730億ドル、2016年には1300億ドルの市場に成長するという。その範囲は、心臓血管、消炎、抗感染、中央神経系、抗癌に及んでいる。


量子ドットも有望だ:ディスプレイとLED

2012-01-25 | 報道/ニュース

QD Vision社が2011年の北アメリカSEMI(semiconductor equipment and materials industry)賞を受賞したと報じられている。QD Vision社は、ナノテクノロジーを用いて光源やディスプレイを開発して来た会社で、今回の受賞は、量子ドット技術の商品化に向けての功績が認められたものである。同社の製品リストには量子光源とディスプレイとが挙げられている。さらに今後の計画として量子ドットLED(QD-LED)も記載されている。

量子ドットとはナノサイズの半導体粒子である(9/27,28参照)。その特徴は、サイズが小さいほど禁止帯の幅が大きくなることである。したがって、禁止帯の幅より大きいエネルギーを与える波長の光で電子正孔対を作り出すと、それより長い種々の波長の光を放出する。携帯電話やテレビのディスプレイに使用可能で、同社の宣伝によると、高効率(10/6参照)、安価、高安定度、色彩良好で、かつどのような形にも成形可能であるという。将来は量子ドットディスプレイが液晶に変わるものと強気である。

量子光源では、量子ドットに電子正孔対を作り出すのにエレクトロルミネセンスを用いる。エレクトロルミネセンスとは、半導体のpn接合(10/2,3参照)の両端に順方向に電圧を加え、電子と正孔を結合させて発光させる。この発光源に有機半導体(10/8参照)を用いることも可能で、したがって薄膜の発光源を作り出すことも出来る。エレクトロルミネセンスと量子ドットを組み合わせるとQD-LEDになる。広い平板型の光源など特殊な形の光源にはQD-LEDが有望であろう。

量子ドットは医療診断にも用いることが可能であるとされている(10/30参照)。癌細胞などに発光性分子を付着させることなどが行われているが、量子ドットの方が安定な発光が得られると考えられる。最近オランダとシンガポールの研究グループは量子ドットを水溶性にすることが出来るコーティング方法を開発した。このコーティング材料には他の分子を付着させることも可能で、種々の応用が開けるものと期待されている。


DNA分子モーターの運動のプログラム化に成功

2012-01-24 | 報道/ニュース

本日の朝日新聞にも掲載されていたが、いくつかのナノテクノロジー関連ニュースにも京都大学とオックスフォード大学との共同研究成果が、下図とともに報じられていた。この図は想像図であるが、この図のDNA分子モーター’DNA motor’を、プログラムの通り(L,L)、(L,R)、(R,L)、(R,R)のいずれかの位置へ高い確率で到達させるのに成功したとのことである。

                                  

この図の基盤となっているのはDNA折り紙(10/28参照)である。この上を動くDNA分子モーターは7、8年前から知られていた。基盤の上にDNAの一部(1本鎖)が垂直に立っていて、これがモーターが進むレールを形成する。モーターは加水分解と隣のDNAの一部との結合を繰り返して進んでいく。移動する分子と静止している分子との種類を選ぶことによって、左へ進むか右へ進むかのプログラムを設定することが出来る。

この研究成果は、自動的に働くナノデバイスの作成に成功したと言えるだけではなく、このようなデバイスを用いてナノ粒子をデザインした通りに規則正しく整列させることも可能であるという。新しい一歩が開けたものと期待出来る。


スーパーレンズへの道が開かれたか

2012-01-23 | 報道/ニュース

通常用いられているレンズは、光を屈折させて集光する。この手法では、光の波長より小さい物体は観測出来ない。しかしながら、ナノ粒子の助けを借りて、ナノメートルサイズの物体でも観測出来るスーパーレンズが模索されている。

光が材料に入射すると必ず反射される。この場合は、反射係数が正であるが、反射係数が負である材料は、波長より小さいサイズまで光を収束することが証明されている。反射係数が負である材料はこの世の中には存在しない。しかしながら、人工的に作り出すとは可能である。つまりスーパーレンズを作り出し得る可能性がある。

金属材料の表面に特定の波長の光が入射すると、共鳴を起こしてプラズマ振動を誘起する(11/17,12/21参照)。つまりプラズモンを発生するが、この場合は反射係数が負になることが明らかにされている。光は電磁波であるから、電波と磁波が共に伝播している。プラズマ振動を発生すると、電波の反射係数は負になるが、磁波の反射係数は負にならない。スーパーレンズを実現するには、両方の反射係数が負にならなければならない。

ミシガン工科大学の研究者たちは、ナノサイズの金属薄膜の近くに特殊な構造を配置することによって、金属薄膜に発生したプラズモンが強い磁場を誘起し、実質的に磁波の反射係数も負に出来ることを明らかにした。プラズモンを発生する光の波長は、ナノ粒子のサイズや形によって変化することをすでに説明した。このことを利用して、可視光のかなり広い波長範囲にわたって両方の反射係数を負に出来る人工材料を見つけだした*。
*http://www.sciencedaily.com/releases/2012/01/120109102916.htm

この人工材料の製作費も比較的安い。スーパーレンズだけではなく、リソグラフィ(10/24,11/3)にも利用出来るものと期待される。


スピントロニックスとナノテクノロジー

2012-01-22 | 報道/ニュース

現存のハードディスクには磁気メモリーが用いられている(1/14参照)。ここでは、強磁性材料に磁界を加え、そのスピンの向きを揃えることによって情報を記憶させる。磁界を加えるのに、小さな電磁石に電流を流し磁界を発生させている。そのため比較的大きい電力を消費する。

電気信号によって、スピンの向きを変えることができれば、操作も簡便で消費する電力も小さい。このような目的で発達したのはスピントロニックス(spintronics)である。spin electronicsの略で、1980年ごろから注目されている。必ずしもナノテクノロジーを必要とする領域ではないが、最近、日本(三重大学、東北大学)の研究者たちの成果などにより、ナノサイズの薄膜を用いることによってスピンの向きを電界で制御出来ることが明らかになってきた。金属強磁性体では、電界の影響を受けるのは表面数層に限られるため、ナノサイズ薄膜を用いることが必要である。これまでの研究では、電界によるスピンの向きの制御は低い温度でのみ可能であった。

Nature Materialsのニュースが、アメリカと日本(大阪大学等)の研究者たちが、常温で電界によってスピンの向きを制限することに成功した、と報じている。これらの研究は、磁気メモリーの高エネルギー効率スイッチ法の開発に貢献するもので、電界で制御出来る磁気メモリーデバイスへの第一歩を踏み出したものとして高く評価されている。ちなみに、アメリカ、日本の研究者たちは、それぞれ強磁性材料CoFeB、FeCoを用いている。


ナノテクノロジーは肺癌にも

2012-01-20 | 報道/ニュース

アメリカテキサス州のMetodist病院の研究者たちは、ポーラスシリコン(10/6参照)薄板と金ナノ粒子の組み合わせが、光熱療法による肺癌治療に有効であることを見つけだした。シリコンも金も共に人体に対して無害で、治験でよい成果が得られれば、外科手術にとって代わるのではないかと期待されている。

癌の光熱療法(11/13参照)では、癌腫瘍に金属ナノ粒子を吸着させて後レーザー光を照射し加熱し癌細胞を殺してしまう。これまで、金のナノ粒子が試みられて来たが、なかなか十分な加熱効果が得られていない。今回発表された新しい方法では、ポーラスシリコン薄板の孔の中に金ナノ粒子をつめたものを用いる。これによって加熱効果を高めることが出来るという。シリコン薄板は、その形によって癌腫瘍に付着しやすいことも明らかにされている。ポリアミンを用いてさらに付着しやすくすることも試みられている。ポリシリコン薄板の大きさは約1000ナノメートル程度で、典型的な腫瘍の十分の1である。

ポーラスシリコンと金ナノ粒子の組み合わせが高い加熱効果をもたらす理由は明らかではないという。おそらく、シリコンの存在によって、レーザー光によって刺激された金ナノ粒子中の金原子の振動が外部に散逸することなく、より有効に腫瘍に伝わるのであろう。

癌の診断にMRIが用いられることはすでに述べたが(9/18,1/7参照)、もう一つの有力な手段はエックス線コンピュータートモグラフィ(CT)である。この手法は人体によるエックス線の吸収を測定するものである。原子番号の大きい原子ほどエックス線の吸収係数が大きい。そのため、原子番号の大きい原子を含む造影剤を用いる。最近、ビスマスのナノ粒子が良好な結果を与えると報告されている。


ナノテクノロジー市場

2012-01-19 | 報道/ニュース

ResearchMoz社がレポート「ナノテクノロジー世界市場:応用、市場、会社」を発表した。4000ドルと高価なので、中身は読めないが目次だけでも興味深い。

必要とされる材料には次の項目がある。
酸化アルミニウム(11/26,1/16)、酸化アンチモン錫、酸化ビスマス、カーボンナノチューブ(9/8,10/1,12,21,23,31,11/1)、酸化セリウム、酸化コバルト、酸化銅、フラーレン(9/8,14)、グラフェン(9/8,11/23,25,26)、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化マンガン、ナノクレイ、ナノファイバー(10/4,26,11/16)、酸化ニッケル、量子ドット(9/27,28)、酸化シリコン、酸化チタン(10/18,12/17,21,1/17)、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム

ナノテクノロジー市場には次の項目が挙がっている。
航空機(9/13,11/15,27,1/16)、自動車(9/13,11/15,26,27,1/16)、コーティング(10/11,1/10)、クリーニングおよび衛生、化粧品、複合材料(11/15,1/16)、建築および外壁塗装、エレクトロニクス、光エレクトロニクス、データメモリ(12/22,1/14)、エネルギー(9/22,10/2,16,17)、環境(10/1,11/15,12/16)、水清浄化(9/18,1/17)、医療ならびにバイオ(9/27,28,12/2)、軍事および防衛、包装(11/24,12/10,1/10)、織物

会社名が列挙されているのは次の各項目である。
カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化金属粉末、ナノ複合材料、ナノコーティング、ナノクレイ、ナノファイバー、ナノ銀、量子ドット

これまでに説明したことがあるものについては日付を記入しておいたので、どのようなものか推測出来るであろう。ナノテクノロジーは現在でも数10億ドルの産業で、今後数年間成長し続けるであろうという。


グラフェンにまた新しい性質が:ナノウイグルとナノディスク

2012-01-18 | 報道/ニュース

グラフェン(9/8,11参照)については、すでに何回も紹介して来た。グラフェンは炭素原子が平面状に結合したもので、禁止帯の幅が0の半導体(10/10参照)である。禁止帯の幅が0であるから、価電子帯の電子は熱エネルギーをもらって伝導帯に移ることが出来る。したがって、金属と同様に振る舞う。ところが、グラフェンをリボン状にするとその切り方によって金属になったり半導体になったりすることを説明した。

アメリカのレンセラー工科大学の研究者たちは、グラフェンナノリボンに丸みを帯びさせると(ナノウイグルと呼ばれている)電気的性質が著しく変化することを示した。さらに、理論的な研究が進められ、ナノウイグルの構造によって、禁止帯の幅が大きく変化することや磁気的性質が変化することも示されている。グラフェンのエレクトロニクスへの応用に、新しいツールが加わったといえよう。

ライス大学は、フラーレン(9/8参照)が初めて見つけられた場所で、今や世界的なナノテクノロジーの研究拠点となっている。最近、この大学の研究者はグラフェン量子ドットがおもしろい性質を持つことを発見した。この研究には、インド、中国、日本(信州大学)の研究者も協力している。量子ドットとはナノサイズの大きさの金属や半導体で、通常3次元的な構造をもっている。グラフェン量子ドットはナノサイズの面積を持つ単一原子層の炭素分子で、いわばナノディスクである。その作成法によって、青、緑、黄色など異なった色の蛍光を発することが明らかになった。きわめて安定な蛍光体であるという。他の分子などに付着させることも可能で、それらの行方を追跡するのに役立つであろう。医療関係の応用(10/30参照)が期待されている。


ナノテクノロジーによる水の純粋化

2012-01-17 | 報道/ニュース

汚染水を殺菌かつ浄化して飲料可能な水を作成することは、開発途上国にとって極めて重要な問題である。この問題については、すでに少し触れたこともある(10/1,12/5参照)。

アメリカのPuralytics社の水純化装置Solarbag-3は、アメリカの環境保護庁(EPA)が課す基準をクリアしたと発表した。太陽光で駆動する装置で、電源も化学薬品も不要で、持ち運び可能であるという。緊急時や開発途上国で重宝されると期待が大きい。99.9999%の細菌、99.99%のウィルス、99.9%の原生動物を除去出来るという。また、殺虫剤、石油、重金属、種々の薬剤も取り除くことが出来る。

Puralytics社がどのような方法を用いているか明らかではないが、光触媒を用いた水の浄化法を説明しておこう。すでに述べたように(10/18参照)、酸化チタンなどの半導体に光を照射して電子と正孔を作ると、その表面に付着した水分子(H2O)はHとOHに分解する。いずれも反応性が強くラジカルと言われている。この反応性を用いて水を浄化する。酸化チタンのナノ粒子を用いることによって、表面積を大きくし反応性を高めることが出来る。(この反応は、水素燃料を得るには効率が不足するが、水の浄化には有効である。)

アメリカの研究者は、分子サイズのナノブラシを開発したと発表している。ブラシのナノサイズの毛はクラゲの足のようなもので、これにコーティングを施すことによって、細菌を死滅させたりまた汚染物を分解することが出来るという。たとえば、銀ナノ粒子は細菌を死滅させ、また白金ナノ粒子は4塩化炭素などを分解する。企業の協力も得て新製品の開発が進められている様である。


貝殻の様に硬いコーティング

2012-01-16 | 報道/ニュース

ナノテクノロジーに関するニュースにはいろいろな種類のものがある。ずっと将来を見据えると、一昨日述べたスーパーコンピューターよりはるかに高性能のコンピュータ、身体中を動き回り病気を発見し治癒するナノロボット(11/7参照)、宇宙ステーションへのエレベータ(10/30参照)などがあろう。基礎研究の中には、これらを達成するのに役に立つ新たな知見や、これらの部品となり得ると思われるものも多い。一方では、すでに商品化されているナノテクノロジー製品(9/21,10/11参照)も数多い。コーティングもその一例であるが、さらに新しい基礎・開発研究が、その性能を高め、また応用範囲を広げようとしている。

スイスのチューリヒ工科大学の研究者たちは、貝殻の構造を真似て新しい複合材料(12/15参照)の製法を開発した。一般に、複合材料は、プラスチックス、セラミックス、金属など性質の異なる材料を組み合わせた強く軽くかつ柔軟な材料など、特殊な性質をもった材料を作り出すのにしばしば用いられている。優れた性質を持つ複合材料作り出すには、素材を規則的に配列することが要求されるが、現在まであまり良い方法が見つかっていなかった。

これまで製品化されていた複合材料は、繊維を組み合わせて得たもので、繊維と繊維との間の結合力が十分強くない。これに対して、貝殻では、炭酸カルシウムの薄板が密にしかも一方向だけではなく3次元的に積み重ねられている。スイスの研究者たちは、アルミナ(酸化アルミニウム)などの硬い材料の薄板の表面に強磁性ナノ粒子(1/14参照)を付着させ、磁界を加えつつ薄板を積み重ね、3次元的な配列を構成することに成功した。彼らはすでに企業と協力して製品化を目指している。航空機や自動車さらには風車の羽などに利用出来るという。


12個の原子よりなる小さい磁気メモリデバイス

2012-01-14 | 報道/ニュース

12日付のNew York Times誌は、上記のような表題で、学術誌Scienceに最近発表されたIBM研究所の研究者たちの成果を報じていた。

記事の内容を説明する前に、磁気メモリについて少し説明しておこう。電子はスピンを持っている(9/25参照)。通常一つの電子軌道をスピンの向きが逆の2個の電子が占有する。このような場合、偶数個の電子をもつ原子は、磁界を加えても何ら反応しない。奇数個の電子をもつ原子では、磁界を加えるとスピンが向きを変えようとする。このような性質は、常磁性と呼ばれている。

鉄は強磁性と呼ばれる性質を示す。鉄の原子番号は26であるが、1個の電子しか占有してない電子軌道がいくつかある。したがって、磁界を加えるとスピンが磁界方向に向こうとする。しかも、一つの電子のスピンが磁界方向に向くと、隣りの原子もそれに同調する。したがって、よく知られているように鉄は磁界に強く反応する。このような性質を強磁性という。

強磁性を示す材料は磁気メモリ材料として有用で、現在ハードディスクなどに利用されている。しかしながら、現在もっとも進化した磁気メモリー材料でも、0または1の信号を記憶するのに、約100万個の原子を必要とする。IBMの研究者たちは、これを一挙に12個の原子に縮小したことになる。

新しいメモリデバイスは、窒化銅の平板の上に鉄原子を1列に並べたものである。走査型トンネル顕微鏡(8/26,9/17,10/11参照)は、表面上の個々の原子を識別出来るだけではなく、原子を持ち上げて特定の位置に移動することも出来る。したがって、このようなデバイスを作成することは不可能ではない。さて、このようにして並べた鉄は反強磁性を示す。すなわち、一つの原子の電子スピンが磁界の方向を向くと、隣の原子の電子スピンが逆方向を向く。したがって、磁界を加えると12個の原子のうち、6個の電子スピンは磁界の方向に、他の6個は逆方向に向く。たとえば、1番左の原子の電子スピンが磁界の方向を向いている状態を0、逆方向を向いている状態を1として、メモリに使用出来る。いずれの状態にあるかは、走査型トンネル顕微鏡の針を例えば左端の原子のすぐ上に位置すると識別出来、また電流を流すことによって2状態間の遷移を起こすことが出来るという。

この実験は極低温で行われたが、150個の原子を用いると常温で動作する同様のメモリデバイスを作成出来るという。

現在のスーパーコンピューターをしのぐコンピューター(10/13,11/3,12/23参照)の達成に向けて、新しいナノ材料、ナノ反強磁性材料が仲間入りしたことは大きな意義を持つかもしれない。