ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

体温で携帯電話やiPadの充電を

2012-02-29 | 報道/ニュース

以前に説明したが(1/12,12/2参照)、熱電効果によって熱を電気に変えることが出来る。この現象はゼーベック効果と呼ばれるが、少し詳しく説明しよう。下図に示すように、材料Aの両端に材料Bとの接点を作り、両接点に温度差を与えると電圧が発生する。この現象は、古くから知られている。両端で電子が獲得するエネルギーが異なるため、電圧が発生する。高いゼーベック効果を示す材料は重金属や特殊な化合物半導体に限定され、高価で毒性の高いものが多い。また、効率を高めるためには電気伝導度が高く熱伝導度が低いことが要求されるが、金属ではおおむね両者が比例しこの条件を満たさない。
                                    
以前に、半導体ナノワイヤーの熱伝導度が低く、ゼーベック効果による発電に適していることを述べた。またカーボンナノチューブとシリコンが比較的高いゼーベック効果を示すことを説明した。

アメリカのウエークフォーレスト大学の研究グループは、多重壁カーボンナノチューブ(10/31参照)と高分子の薄い層を何枚も重ね織物状にしたものがゼーベック効果を持つことを明らかにした。彼らは、これをPower Feltとよんでいる。軽くて柔軟であるから、ポータブルなエレクトロニクスに重宝であると予想している。
http://www.forbes.com/sites/jenniferhicks/2012/02/27/new-fabric-generates-electricity-via-your-body-heat/

効率は良くないが価格が安いため、無駄に放出される熱エネルギーを利用する補助電源としてのいろいろな使用法が考えられる。例えば懐中電灯や携帯電話を包んで発生する熱を電気に変えることも出来る。携帯電話を包むのには1ドルもかからないという。また車の座席の外張、高温ガスが通るパイプの熱絶縁、屋根の下の内張などが考えられる。さらに傷口の近くに貼り付けて発熱状態を監視することも可能であるという。Power Feltを取り込んだジャケットも計画されている。体温と外気との温度差で発電しようとするものである。


微弱な音をキャッチする量子マイクロホン

2012-02-28 | 報道/ニュース

トランジスタは通常半導体の中で実に多数の電子を動かして信号を制御する。先日(2/22参照、トレインとあるのはドレインの誤りである)1原子トランジスタについて述べた。ここでは、原子中の電子の状態をゲートで変化させることによって、ソースとドレインとの間の電気抵抗が変化する。

以前から1電子トランジスタが提案されていて、すでにいくつかの試作品がある。ゲートは絶縁体の薄板を挟んだ2枚の電極である。量子力学ではトンネル効果と呼ばれる現象がある。走査型トンネル顕微鏡(9/14,17参照)はその現象の応用である。トンネル効果によって電子は絶縁体薄板を突き抜けることが出来る。この場合、1個の電子が突き抜けると電位が変化してそれ以上電子が突き抜けないようにしておく。この電位変化をソースとドレインが検知出来るのが1電子トランジスタである。

スウェーデンの研究グループは、このゲートをピエゾエレクトリック効果(12/7,8)によって制御し、固体の表面を走る微細な振動を検出することに成功した。高い周波数の音に対する感度は、他に類を見ないという。量子マイクロホンとでも呼ばれるこの現象は、量子コンピューターでエレクトロニクスと音あるいは原子の振動波を結びつける回路要素として注目されている。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24405.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29


グラフェン関連特許数も急上昇

2012-02-27 | 報道/ニュース

2月中に入手したグラフェンに関する新しいニュースは十数件を数えるが、特許数も近年著しく増加しつつある。イギリスUK-IP officeの調査*による年度別のグラフェン関連特許数を下図左に示す。グラフェンの最初の論文が発表されたのは2004年である。その前後は製造法関連の特許が多い。その後研究成果に基づく特許が増えているが、これまでの市場を打ち壊すようなグラフェン応用新技術に関する特許も現れている。その例はマイクロ波加熱、フラッシュメモリ、ファイバー強化プラスチックス、アナログ-ディジタル変換である。

*http://www.ipo.gov.uk/informatic-graphene.pdf

         



グラフェン関連特許出願機関のトップ20を上図右に示す。韓国のサムスンが群を抜いている。日本では、帝人、富士通、キャノンが入っている。欧米ではベンチャー企業が多いようだ(9/14参照)。

フラッシュメモリーとは電源を切ってもデータが消えないメモリーである。カリフォルニア州立大学の研究グループが開発したもので、グラフェンを酸化アルミニウムと酸化シリコンの間にはさみ、その両端に電圧を加える。電荷が蓄積された状態で負の電圧を徐々に低くすると電流が流れて電荷を失う。電荷を蓄積するためには、正の電圧を加えて徐々に電圧を下げる。この現象は、グラフェンが極めて薄いこととその特異な電子構造を応用したものである。アナログ・ディジタル変換器はグラフェントランジスタを用いたものと思われるが詳細は明らかでない。ドイツで開発されたものである。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=22630.php

参考までに、これまでのグラフェンに関する記事を記述した月日を下に示しておく。

                               


日本の大企業もナノテクノロジーを

2012-02-26 | 報道/ニュース

今日は日本初のニュースをいくつか紹介しよう。

読売新聞や海外のナノテクニュースなどが、大林組が2050年までに宇宙エレベーターを作成するというニュースを報じている。10年ほど前にアメリカ宇宙航空局(NASA)の研究者が、鉄の100倍も強靭な(9/8参照)カーボンナノチューブを用いると宇宙エレベーターが可能になるかもしれないという趣旨のレポートを発表している。大林組の計画の概念図を下に示す。

日立化成は大量のカーボンナノチューブを作成する新しい手法を開発したと報じている。従来の製法に比べて高品質で1mmに近いものが多量に得られるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24374.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T0bvMbTsSik.google

コニカミノルタは高精度のインクジェットヘッドを開発したと発表した。非常に少量のインクを放出出来るもので、ディスプレイなどに利用出来るという。シリコン集積回路の上に付加したMEMS(12/8参照)を用いたとあるが詳細は明らかでない。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24272.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzsM32bnUU8.google

New Balance Japan社は、帝人グループの帝人ファイバーが開発した強靭なポリエステルナノファイバーを用いて、ランニング用靴下を発売している。この繊維は太さ700ナノメートルで、髪の毛の太さの7500分の1である。表面にナノサイズの突起があって滑りにくくしている。帝人独特の紡績法が用いられ、ナノファイバーの特徴が生かされているという。

あまり良くないニュースもある。イギリスのThomson Reuter社系列のEvidence社が調査した主要国の物理学関連論文の被引用インパクト因子を下に示す。この結果は、以前に述べた被引用度数(10/29,12/30参照)とほぼ類似である。最近中国の研究費総額がどんなん伸びているが、日本の研究費総額はアメリカに次いで2位であるという。日本人の能力が劣っているとは思えない。研究費の配分方式に問題があるのだろうか(8/21,22,24,25参照)。

                


血流中を外部から駆動して動かせる医療デバイス

2012-02-24 | 報道/ニュース

これまで体内にインプラントされた医療デバイスを駆動することがあまり容易ではなかった。電池をインプラントするのにはかなり無理がある。外部から送り込んだ電波は、筋肉や脂肪に吸収されてデバイスに到達し難いと考えられていた。

スタンフォード大学の研究チームは、1ギガヘルツ近辺の電磁波が比較的筋肉や脂肪を通過し易い事を見つけた。この周波数の電磁波に必要なアンテナの大きさはほぼ2mm角で、血流中を通過出来る大きさである。このようなアンテナを備えたデバイスを用いて、ドラッグデリバリー(9/27,28参照)、血栓の破壊などが可能になるかもしれない。
http://engineering.stanford.edu/news/implantable-wirelessly-powered-self-propelled-medical-device

韓国の研究グループは、磁石で動かすことができるマイクロロボットを試作している。血流中で前後に動かすことができるが、血栓を破壊できるほど強く動かすこともできるという。
http://www.sciencedaily.com/releases/2011/12/111216112859.htm

ハーバード医科大学の研究グループは、DNA折り紙(10/28参照)に種々の抗がん剤を付着させたナノロボット(ナノボットともいう)を提案している。このロボットは外部から駆動は出来ないが、DNAは癌細胞表面の抗原を検知し、そこに留まって抗がん剤を放出するという。
http://www.nature.com/news/dna-robot-could-kill-cancer-cells-1.10047?WT.ec_id=NEWS-20120221

いずれもさらなる発展が期待される。


ペーパーエレクトロニクス:2022年には17億ドル市場規模へ

2012-02-23 | 報道/ニュース

IDTechEx社の分析によると、2012年のペーパーエレクトロニクス(紙の上のプリンテッドエレクトロニクス)の市場規模は3000万ドル程度であるが、2022年には17億ドル程度に膨張するであろうという。

ペーパーエレクトロニクスとは、紙に微細粒子を付着させ、エレクトロニクス機能を持たせるものである。その歴史は古く、当初はマイクロメートルサイズの粒子が用いられていた。最近、ナノ粒子の特徴が生かされたものが現われている(11/23,12/10参照)。ペーパーエレクトロニクスには、Tigerprint社, Nano ePrint社, Novalia社など、ギフトカードなどに装飾を付けるのに用いられるのもあるが、紙自体にエレクトロニクス機能を持たせるものが多く作られている。

太陽光発電もその一つで、酸化亜鉛ナノワイヤーと酸化チタンナノ粒子を集光材料でコートしたものなどが作られている。現在のところ発電効率が低いが広い面積が容易に得られるため、手軽な電源として利用出来よう。紙の上に唾、咳、尿を付着させ、その結果を携帯電話で病院へアップロードするだけで診断結果が得られるという試みもある。

4月にベルリンでプリンテッドエレクトロニクスに関する国際会議が開かれる(http://www.gii.co.jp/conference/ixc223816-2012/)。各社の技術者などがそれぞれの会社の製品を中心とした講演を行う。日本からもパナソニック、ソニー、コニカの技術者が講演を行う。ナノテクノロジー関係では、透明電極やディスプレイ(1/25参照)も注目されている。


世界最小のトランジスタ

2012-02-22 | 報道/ニュース

南ダコタ州立大学などの研究グループの成果は、今朝の朝日新聞にも小さな記事が掲載されていたが、ニューヨークタイムスなどアメリカの新聞には「単原子トランジスタ」などの表題で大々的に報道されている。トランジスタのサイズが2年間で半分になるというムアの法則(8/18参照)があるが、この法則が破られるかもしれないという表題の記事にもなっている。

トランジスタ(10/10参照)は、ベース、ゲート、トレインという三つの電極があって、ベースとゲートとの間に信号を加えることによって、ベースとトレインとの間の抵抗を変化させる。現在用いられている半導体トランジスタでは、半導体の中での電子の流れを制御して目的を達している。新しいトランジスタは、シリコン結晶表面上の1個の燐原子に電子を加えたりする取り去ったりすることによってその目的を達する様、巧妙な工夫を加えたものである。

現在インテルが作成するコンピュータ用チップは、約30億個の大きさ32ナノメートルのトランジスタで構成されている。燐原子の大きさは0.1ナノメートルであるから、この方式が現在のコンピュータに適用出来ると、その性能が格段に進歩するであろう。量子コンピューター(10/13参照)は、原子の電子状態を記憶に使うことになるから、この研究は量子コンピューターへの新しい道を開くかもしれない。

現在のところ、このトランジスタはきわめて低い温度でしか動作しない。しかしながら、この研究がきっかけとなって”単原子トランジスタ”の研究が進展するであろう。


太陽光発電の効率は:最新の情報

2012-02-21 | 報道/ニュース

ナノテクノロジーを用いて太陽光発電効率を高めようとする試みが数多い。量子ドットの場合は、フォートンのエネルギーが禁止帯幅の2倍以上の時、2個以上の電子・正孔が生じる確率が高い(10/6参照)。Kanekaは、アモルファスシリコンとナノ結晶層を用いて12.3%の効率が得られたと報じている。

オーストラリアの研究グループは、シリコン太陽光パネルに金や銀のナノ粒子を付加することによってプラズモン(11/17,12/21,1/23参照)が誘起され、シリコンにより多くの光を吸収させることを明らかにした。これによって、エネルギー変換効率を23%増加させることが出来るという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24284.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzxlttEGcx4.google

アメリカのスタンフォード大学の研究グループは、シリコンナノシェルが光を効率よく吸収することを見つけた。ナノシェルとはナノサイズの球殻すなわち中空の球である。彼らは約50ナノメートルの大きさのシリコンナノシェルを一層石英基盤上に付着させることに成功した。その層が異常に効率よく光を吸収することを見つけた。この現象を説明するのに、彼らはwhispering galleryという考えを用いている。回廊などで小声で囁いてもその声が反射して音がこもってしまう現象をいう。共鳴現象によって球殻に吸収された光は何回も反射を繰り返し、球殻の中に長くとどまるようだ。効率よく集めた光を発電に利用する方法は今後の問題だ。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24202.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzHbeltrhGs.google


太陽光発電の効率は:最新の情報

2012-02-20 | ナノテク 科学技術

太陽光発電の研究は大変盛んでいろいろなニュースが飛び交っている。まず最近発表された各国連合チームの発電効率測定結果の論文から、シリコンと有機半導体の結果を下に示す。モジュールと記したものがすでに発電パネルとして使われているものである。このほか化合半導体では30%近い効率が得られているものもあるが、価格の点で実用には向かないだろう。

M A Green, Prog Photovolt Res Appl  20 (2012) 12

シリコン結晶の場合、理論的に得られる効率の最大値は34%である。残りの66%は、禁止帯の幅より小さいエネルギーをもつフォートン(11/18,19参照)がシリコンに吸収されないことおよび禁止帯の幅より大きいエネルギーをもつフォートンが一対の電子・正孔しか作れなくフォートンと禁止帯の幅のエネルギー差が無駄になってしまうことによる。薄膜で結晶と比べて効率が低いのは電子の動きが悪いからである。

有機半導体薄膜で得られた値は、いくつかの種類の有機半導体を積み重ねたタンデム型での結果である。モジュールとしては今のところ余り高い値が得られていないが、その特徴は柔軟性に富んでいることである。

量子ドットの場合は、フォートンのエネルギーが禁止帯幅の2倍以上の時、2個以上の電子・正孔が生じる確率が高い。Kanekaは、アモルファスシリコンとナノ結晶層を用いて12.3%の効率が得られたと報じている。

これまでの太陽こに関する記事を下に示す。

<colgroup><col width="142" /> <col width="156" /> <col width="205" /> </colgroup>
太陽光発電 酸化チタン 10/25/11,
シリコン、ナノワイヤー 10/25/11,
シリコン上限 9/22/11,10/26/11
有機半導体 10/9/11、
化合物半導体 10/26/11,
原理 HP2.1E1
効率 10/26/11,1/4/12,

自然界を模倣するナノテクノロジー

2012-02-18 | 報道/ニュース

14日付のフランストリビューン(英文版)に掲載された表記の記事を紹介しよう。その記事によると、蝶々の羽についている鱗片と呼ばれる粉をモデルにすると感度の良い赤外線検出器が開発出来そうであるという。

離れた物体が発する赤外線あるいは熱線を測定し、その物体の0.1℃程度の温度差を識別するのは容易でない。赤外線を吸収することによる電気抵抗などの変化を測定すれば可能ではあるが、膨大な装置を必要とする。アメリカのGEの研究グループは蝶々の羽の鱗片が赤外線検出器の役割を果たすことを明らかにした。

鱗片はフォートニック構造(11/18,12/11参照)をもっている。このフォートニック構造は高分子で作られているが、模式的には側面のない空の本箱のようなもので、縦長の平板から垂直にナノサイズの平板状の突起が出ている。突起の間隔が光の波長と同程度であるので、回折現象によって特定の波長の光を反射する。鱗片が赤外線を吸収して温度が上昇すると、高分子が膨張して反射される光の波長が変化する。反射光を測定することによって、赤外線の強さを決め得る。鱗片にカーボンナノチューブを付加することによって、赤外線の吸収係数が増加し、高い測定感度が得られることが明らかになった。

GEの研究グループは、このようなナノサイズのフォートニック構造を人工的に作り出そうと努力している。それが達成されると熱センサーを備えた高度な半導体チップが作成出来ると期待が膨らんでいる。

人類は、自然界の営みを十分理解してない。ナノテクノロジーの魅力の一つは、自然界の営みの中でのナノ粒子やナノ構造の働き(11/5参照)を理解し、これを技術として再現することであろう。


ナノテクノロジーでエキゾチックな材料を

2012-02-17 | 報道/ニュース

ナノテクノロジーは今までにない新しい材料を作り出している。カーボンナノチューブ強化プラスチックス(CNRP,9/23参照)はその典型的な例である。

オランダの研究グループは、磁性を持たない(金やシリコンのように磁石に反応しない)材料に、磁性を持たせる手法を開発した。彼らは、金の薄膜を、磁性を持つ(1/14参照)コバルトイオンと磁性を持たない亜鉛イオンを加えた有機単分子層でコートした。コバルトと亜鉛の量を変えることによってこの薄膜の磁気的性質を変えることが出来る。また有機分子の存在はコバルトや亜鉛イオンを分散させるのに役立つ。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24276.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzsN4YoSXQM.google

オランダの研究グループが見つけ出した手法は半導体にも適用出来るよう。このような材料では、磁界を加えることによって電気抵抗が変化したり、また電流を流すことによって磁気的性質が変化する。スピントロニックス(1/22参照)への応用が期待出来る。また、メモリとしての応用も期待されている。

スペインの研究グループは、熱膨張がきわめて小さい材料を開発した。種々のケイ酸塩ナノ粒子の集まりで、0℃から150℃の間での膨張は1万分の1以下である。450℃以下で優れた機械的、電気的性質を示すという。彼らはすでに4個のパテントを所有し、東京で開かれているナノテク2012(2/7参照)で、これらパテントに興味を示す会社を探しているという。リソグラフィや天体望遠鏡への応用などが期待出来る。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24292.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.Tzxno5BwTAI.google


ナノテクノロジーは人間の寿命を延ばすことが出来るだろうか

2012-02-16 | 報道/ニュース

14日付のイギリス紙ガーディアンに載っていた表記の記事を紹介しておこう。これは2人の医者を含む5人の大学教授と科学・大学担当大臣の公開パネルディスカッションの記事である。

パネルの主題は、人間の寿命が延びるかどうかと長い間健康な生活が送れるかどうか である。パネルのムードは楽観的な雰囲気で、「ナノテクノロジーは医学がどのようなものであるかという認識を変えるであろう」、や「我々のバスルーム(トイレと洗面所を含む)が検査室に変わるであろう」というような言葉も飛びだした様である。医者たちは、現在が黄金時代で、新しいナノテクノロジーを治療に役立てるようにする責任を持っていると認識している様である。

医者の一人は面白いことを述べている。1個の細胞をロンドン市の大きさだとするとナノ粒子は1台の車の大きさである。ナノテクノロジーはこのような車を操作したりまた全く新しい型の車を造ることが出来る。ゴミがたまりっぱなしの市(細胞)にはごみ収集車(ナノ粒子)を注入出来る。ナノテクノロジーは全く革命的なテクノロジーで、科学者や医者は分子を操作出来、それによって細胞の挙動を変えることが出来る。細胞の挙動を変えると、それによって毛髪や皮膚やあるいは脳も変えることが出来る。これは良い結果を与えるかもしれないがまた悪い結果をもたらす可能性もある。ナノテクノロジーは革命的であると同時に恐ろしいものがかもしれないともいう。

ナノテクノロジーの安全性が確立するまで医療への利用を避けるべきであるという声が聴衆からあったようだ。しかしながら、パネラーたちの意見は、おおむね、「安全性が確立したところから臨床に移す、そうしないと機会を失う」ということであったようだ。他のナノテクノロジー製品と異なって、医薬品や医療器具は長期にわたる臨床試験を受ける必要があることは言うまでもない。

パネラーの一人である大臣は、「ナノテクノロジーは初期の研究段階を終えて応用の段階に入りつつある。したがって円滑に商品化に到達出来る方策を模索している」と述べたという。ナノ材料を取り扱うためには、施設や装置に多額の費用を要することが、パネラーの一人から指摘されている。

パネラーの一致した意見は、「種々の困難があっても期待される成果が大きい。チャレンジに値する。」であったようだ。

癌に関する記事は1/7,2/3参照。それ以外の医療関係記事については下表参照
              


ナノフォートニックスのマーケットは2016年には100億ドル市場規模へ

2012-02-15 | 報道/ニュース

BBC Research社の調査によると、ナノフォートニックス市場は2011年には25億ドルであるが、2016年には100億ドルになるだろうという。

ナノフォートニックス(11/18,19参照)とは、ナノ粒子を用いて光を制御する技術である。ナノフォートニックスを種々の素子と組み合わせることによってその性能を高めたり、また光の制御を可能にする。EUのナノテクノロジーに関するロードマップでも、ナノフォートニックスの重要性が強調されている。

市場規模のうち大部分、約90%を占めるのがナノフォートニックスLEDである。LED素子とナノフォートニックスを組み合わせディスプレイ(1/25参照)などの性能を上げようとするもので、2016年までにはさらなる市場規模の拡大が予想されている。それに続くものは、近接場光学と呼ばれる光を合成させたりする技術で、2011年の市場規模では約2%である。そのほか今後の進展が期待される応用は、2016年に予想される市場規模の大きい順に、センサー、メモリ、太陽光発電、光増幅器、フィルターなどである。


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2012-02-14 | 報道/ニュース

マイクロ・ナノロケット:胃の中の探索も

液体の中を自由に動けるナノロボット(11/7参照)の動力源を目指して、種々のナノモーター(9/17参照)の開発が試みられている。一方で、噴射型マイクロ・ナノロケットにも強い関心が集まっている。

最近、カリフォルニア州立大学の研究グループは、酸性溶液中で動くことが出来るマイクロロケットを作り出した。ドラッグデリバリーや半導体産業で役に立つと期待されている。彼らが試作したロケットの構造はきわめて簡単で、直径1マイクロメートル(1000ナノメートル)、長さがその10倍のポリアニリンの円筒中に亜鉛を詰め込んだものである。亜鉛が酸性溶液中の水素イオンと反応して、水素分子を作り出す。生じた水素ガスを後方に放出させ、推進力とする。このロケットが毎秒ロケット長の100倍もの速さで動くという。亜鉛の層に強磁性体を加え、方向制御も試みられている。胃の中でのトラックデリバリーに使えるかも知れない。

http://www.sciencedaily.com/releases/2012/02/120208132601.htm

これまでもマイクロロケットに対するいくつかの試みがある。過酸化水素は白金などの触媒の作用で、水と酸素に分解する。噴出される酸素ガスで推進されるロケットなども試作されている。


ナノテクノロジーは原子力発電にも/アメリカでは新型原子炉の開発も

2012-02-13 | 報道/ニュース

Industrial Nanotechnology社は、省エネルギー関連ナノテクノロジー分野で業績を伸ばしている会社であるが、アメリカ国内の原子炉発電所との契約を成立させたと発表した。その内容は材料のコーティングである。コーティングによって原子力発電所内の材料の熱絶縁性や対腐食性を増大することが出来るという。また廃炉の際必要となる放射線防御用鉛のコーティング材料も開発しているという。同社は、すでに石炭、石油、風力、太陽光発電の分野においても業績を上げているが、原子力発電所を建設しようとしている開発途上国や廃炉を計画している国々に対して、さらに販路を開発しようとしている。

ナノテクノロジーと関係がないが、原子炉に関するニュースに触れておこう。アメリカ物理学会のニュース紙は、設計段階である二つの新しい型の原子炉について報じている。第一はNewScale Power社が設計している小型モジュール原子炉(SMR)である。原子力発電所の製作費が年々増大するため、今世紀後半に向かって小型原子炉の需要が高まると予想されている。同社は、2007年に設立され、すでに小型原子炉用R&Dデータを蓄積し、2020年にはSMRを完成するという。この原子炉は、現在も用いられている軽水炉型であるが、格納容器が水中に設置され、水の循環する必要がなくそのまま冷却される。また、モジュール式で発電電力を増大する必要があるときには、簡単に個数を増やすことが出来るという。すでに安全性に関しては、アメリカ原子力委員会(NRC)の承認を受けている。福島事故後の新型原子炉として、原子力分野におけるアメリカのリーダーシップの回復に貢献出来ると期待されている。
http://www.sciencedaily.com/releases/2011/12/111213190154.htm#.Tuq1Z9GM8L8.google

もう一つは、TeeraPower社のTWR(9/16,11/22参照)である。これは、現存の原子炉と高速増殖炉とを組み合わせたようなものある。こちらはまだ安全性についてNRCの承認を受けていない。NRCには、TWRを理解出来る専門家が不足しているともいう。

我が国の原子力エネルギー政策が気にかかる。現状では、福島原子力発電所の教訓が全く生かされていない。今回の事故で非常用発電機ならびにポンプが水没しなければ、放射性物質をまき散らすことなく冷温停止状態になったはずである。このことを考慮すると、再開可能な原子炉は、非常用発電機ならびにポンプが、津波が到達しない高さたとえば海抜20メートル以上のものに限られる。しかしながら、原子力安全保安院の安全対策は、既存の総ての原子炉が再開可能な様設定されている。非常用発電機が水没しても電源車が用意してあるから大丈夫だという(8/15,17,9/26,10/20参照)。IAEAの審査を受けた大飯原子炉もその例に漏れない。IAEAは決して運転を認可したのではない(2/1参照)。最近東京地方に地震が起こる確率が高いと報じられているが、これは、その他の地方には地震が起こる可能性がないというものではない。

もんじゅ計画も問題だ(8/15,16,9/16,1/22参照)。今回の事故を教訓にすると、もんじゅすなわちナトリウム冷却型高速増殖炉は地震国日本に建設するべきものではない。高速増殖炉は、核燃料サイクルすなわちウラン燃料の有効利用に必要であるが、ナトリウム冷却型には限らない。TWRもその一つと言える。もんじゅのストレステストに9億円もの予算が計上されているというが無駄である。地震国日本の原子炉研究者は、既存の原子炉の安全性とともに、人類の将来のため、地震国にふさわしい高速増殖炉の開発にスタートすべきである。またスタート出来るよう国が援助する必要がある。