ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

スイッチもナノスケールに

2011-12-26 | 日記

ナノスケールの部品を集めて集積回路を作り上げようとするナノエレクトロニクス(8/18,10/24参照)では、トランジスタ、メモリ、キャパシター、導線など種々の部品が必要である。スイッチもその例外ではない。研究者たちはどのようにすれば性能のよいスイッチがつくれるか模索中である。

アメリカのピッツバーグ大学の研究者たちは、面白いスイッチを見つけ出した。この研究には、中国の研究者たちが理論の面で協力している。このスイッチは、3個のスカンジナビウム原子と1個の窒素原子からなる分子が中にはいった60個の炭素原子からなるフラーレン(9/8参照)を用いる。この分子は平面状に配置するが、フラーレンに電子を注入すると分子が回転する。この回転によってフラーレンの電気伝導度が変化する。これをスイッチとして用いることが出来る。

もっと小さいスイッチも開発されている。ドイツのミュンヘン工科大学の研究者たちは、テトラフェニルポルフィリンと呼ばれる分子を銀板上に乗せたものをスイッチとして用いた。この分子の中央に空間があってその中に1個の水素原子を取り込むことが出来る。トンネル顕微鏡の針の先から電子を注入するとこの水素が位置を変える。これをスイッチとして利用出来そうであるという。

イギリスのサウザンプトン大学と日本の物質材料研究機構の研究者は、ナノスケールのスイッチを開発中であるというが、その動作原理は明確にされていない。

先週のテレビ番組で田原総一郎氏(8/8参照)が今回の原発事故を契機に、技術に立脚した現代文明を見直すべきだと述べた。しかしながら、私は今回の原発事故特に放射性物質のばらまきは、’技術’を無視した東京電力と日本政府ならびに関与した科学者・技術者の責任であると思う。津波が発生する可能性がある地域で非常電源が地下に設置されているという非常識が原因である(8/14-19参照)。人類がこれまでのような高度な生活様式を保つことが出来なくなるかもしれないが、この地球上に多数の人間が生存し続けるためには、エネルギー源の確保とエネルギーの有効利用に果たす科学技術の役割は甚大であろう。


ブラックシリコン:太陽光発電の効率を上げるために

2011-12-25 | 日記

太陽光発電に関して様々なニュースが飛び込んでくる。

アメリカのNatCore Technology社が、国立再生エネルギー研究所(NREL)の持つ特許を使ってブラックシリコン太陽光発電パネル(10/2,26参照)の開発ならびに製品化を進めることになった。ブラックシリコンは1980年ころから開発されているが、シリコンの反射係数を小さくし、出来るだけ多くの太陽光エネルギーを吸収させようとするものである。これまで開発されていたフラッグシリコンは、シリコンの表面に垂直に1ミクロン(1000ナノメーター)程度のシリコンの針を密にはやしたものである。この方法では、エネルギー吸収効率が必ずしも良くない。NRELが新しく開発した手法は、シリコンの表面にナノサイズの凹凸をつけたものである。反射係数が減少する理由は、孔の中で反射された光が再び吸収されるためである。この方法では、光が垂直に入射した場合だけではなく、斜めに入射した場合も反射係数が小さい。したがって1日中光エネルギーを有効に利用出来る。

NRELの開発した方法は、パネル表面を1000℃以上に加熱する必要がある。NatCore社は、液相堆積法と呼ばれる手法を採用する。これは、パネル表面にシリコンの液体を付着させることによって表面の凹凸をつけるもので、より低い温度で達成出来る。効率が2倍になると出力当りのコストが半分になるが、今後は効率と生産コストの競争となろう。

アメリカには2010年までに2500メガワットの太陽光発電パネルが設置されているが、2015年にはその1万倍になると予想されている。


バイオ・医療関係ナノテクノロジーが急成長か

2011-12-24 | 日記

最近になって、Cientifica Ltd、RNCOS, Lux Research などのコンサルタント会社からナノテクノロジー市場に関するレポートが出版されている。いずれも高価で購入出来ないが、色々なニュースからその中身を垣間見ることが出来る。

RNCOSはバイオ・医療関係が急成長であると報じている。2013年にはその市場規模が75億ドルになると言われている。ナノテク全体で2015年に1兆ドルになると言われている(9/6,21参照)。バイオ・医療関係は安全性など問題が多いが急成長が期待されるとのことである。

バイオ・医療関係に対する我が国の対応が少し気にかかる。まず関連会社は世界中に350社ほどあるのに日本には1社しかない。日本に存在する会社は、大学発のベンチャー企業nanoCarrierである。新しく開発されたメッセンジャーRNAを破壊するsiRNAを患部にデリバーする技術(9/28,10/30参照)を開発している。

もう一つ気になることがある。最近経済協力開発機構(OECD)がナノ粒子の人類に対する影響査定に関する各国の活動状況の調査を行っている。オーストリア、フィンランド、ドイツ、韓国、ポーランド、イギリス、アメリカ、EUの報告があるが日本のは提出されていない。経済産業省にはナノテクノロジー・材料という部門があるが、厚生労働省にはナノテクノロジーを扱うグループが存在しないようだ。

ナノテクノロジーには、研究段階にある問題も多いが、製品化の段階にきているものも多くある。製品化には公私の投資が必要であろう。各国とも開発研究や製品化への支援・投資の予算額を増加しているように見受けられる。最近、三井ベンチャーがアメリカのGMZ Energy社に1400万ドルの投資を行っていると報じられている。日本では製品化に力が入っていないのだろうか(8/28-9/2参照)。


光ダイオード:光コンピューターへ

2011-12-23 | 日記

コンピューターの基本的パーツは、情報を処理するプロセッサとメモリである。量子コンピューター(10/13参照)の最も理想的な姿は、進行速度が速い光信号を処理し記憶させることであろう。

下図は現在使われているコンピューターのプロセッサの原理を示したもので、二進法すなわち0または1で送られてくる信号を加える場合とそのいずれかを通過させる場合を示したものである。二つのトランジスタ(10/10参照)を巧みに組み合わせてその目的を果たしている。この図からプロセッサにはトランジスタが必要なことは明らかであろう。トランジスタの基本となるのはpn接合(10/2,3参照)である。pn接合はダイオード(整流器)である。すなわち電流を一方向へは流すが逆方向には流さない。

アメリカのパーデゥー大学の研究者たちは、下図に示すような光ダイオードを作成した。これは電気光学変調現象を用いる。ポートIから順方向(forward)に光が入射した場合、電気光学変調現象によって特定の波長Aの光がシリコンのリング1に移る。光がシリコンのリング2を通過するときには、光の強度が弱くなっているためリングへ移る波長BはAよりも少し短い。さらに波長Bを中心とする光がポートIIに移る。つぎにポートIIから逆方向に同じ強さの光を入れたとしよう。波長A,B付近の光がポート1に移るが、この場合は光の強度が弱くなっている。したがってシリコンのリング1へはさらに短波長Cの光が移る。このように、特定の波長の光に対して整流効果を得ることが出来る。この装置にレーザーの光を導くのに光ファイバーとフォートニック結晶の導波管(12/20参照)が用いられている。

                         



光コンピューターが動き始めるのはまだまだ先のことであろう。しかし、研究者たちのこのような努力の積み重ねがいずれ実を結ぶであろう。


ナノメモリ

2011-12-22 | 日記

ナノメモリ

次世代コンピュータは量子コンピューターであろうということはすでに述べた(10/13,11/3参照)。そのメモリについても色々な提案が出されている。

まず、現在使われている記憶素子CMOS(相補型金属酸化物半導体)の説明をしておこう。図のように二つの金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET,10/10参照、ここではその動作原理はあまり重要ではない)を直列に連結する。この二つのトランジスタは、一方(この場合は上)をp型(10/2,3参照)とし、他方をn型とする。ゲート電圧V1を加えると、上のトランジスタに電流が流れ、出力電圧V0がVDDと等しくなる。ゲート電圧を0にすると、下のトランジスタに電流が流れ出力電圧は0となる。このようにして、オン・オフの記憶が可能となる

                           

韓国の研究グループが開発したメモリは、ナノワイヤートランジスタの原理を応用したものである。ナノワイヤートランジスタとは、ナノワイヤーの周りに絶縁体を通してゲート電極を付着する。たとえばn型半導体の場合、ゲート電極に電圧を加えて電子を絶縁体に取り込むと、ナノワイヤー中にほとんど電流が流れなくなる。このように、ゲート電圧によってナノワイヤーの抵抗を制御出来、トランジスタの働きを可能にする。

韓国の研究グループが開発したメモリでは、シリコンの平板上に垂直にシリコンナノワイヤーを成長させる。そのまわりに絶縁体を、さらにその上にゲート電極を付着させる。ゲート電圧を加えてシリコンナノワイヤーの抵抗変化させることによって、出力電圧を変化させることは出来る。

このようなメモリが実用化され現在のコンピュータに使われるようになるだけで、新しい研究を領域が開けるかもしれない。


細胞の中が見える内視鏡

2011-12-21 | 日記

細胞膜を破壊することなく細胞内部を観察する内視鏡の作成が、ナノワイヤーやナノチューブを用いて試作されている。最近、アメリカの国立バークレイ研究所の研究者たちは、尖らせた光ファイバーに酸化チタンのナノワイヤーを接続し、優れた性能を持つ内視鏡を作成した。細胞の中で発生した光が、光ファイバーから酸化チタンを通って伝搬される*。この光を観測することによって、細胞の中の生理現象を観察しようというものである。ここでは、酸化チタンのナノワイヤーが光の波の導波管の役目を果たしている。
*http://www.nanowerk.com/news/newsid=23805.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

昨日フォートニック結晶が導波管として使えることを述べた。酸化チタンなどの半導体や金属のナノワイヤーも導波管として使えることを述べておこう。半導体に光が入射すると電子と正孔(9/27参照)が生じる。電子と正孔とが結合すると両者とも消滅するが、電子と正孔とがクーロン力で結びついたものはエネルギーを持っていて、励起子と呼ばれる。励起子の持つエネルギーがナノワイヤーの中を伝搬する。また、金属のナノワイヤーでは、光によって発生したプラズマ振動(プラズモン,11/17,18参照)のエネルギーが伝搬する。

これまで、細胞の観察には光学顕微鏡が使われて来た。しかしながら、光学顕微鏡では光の波長(400-600ナノメーター)より小さいものを観測することは出来ない。電子顕微鏡はさらに小さいもの観測出来るが、観測に使われる電子が照射されると細胞が変化してしまう。細胞内の生理現象の観察にはナノテクノロジーの助けが必要である。

この内視鏡を注入しても細胞が死なないことや外から注入した光が十分収束していることなどが確認されている。細胞の中の特定の場所から発せられる光が観測出来るようになるであろう。今後の発展が期待される。


ナノテク・センサー

2011-12-20 | 日記

これまでセンサーについて何回か述べていたが(9/17,10/31,11/14,18,12/19参照)、あまり具体的な記述ではなかった。数多くのセンサーが開発されて製品化されているので、ひとつひとつ詳しく述べることは出来ない。最近のNanowerkのニュースの中からいくつか拾ってみよう。

肺癌の早期発見 肺癌の病巣から特殊なミクロRNAが血液中に放出される。これまでは、触媒を使ってミクロRNAを反応させて検出していた。アメリカのミズーリ州の研究者たちは、ナノポーラス材料(12/5参照)を使ってミクロRNAを検出するのに成功した。ナノポーラス材料とは、ナノサイズの孔(ナノポァー)を含む材料である。トキシンアルファヘモリシンのナノポァーに特殊なたんぱく質を付着し、ミクロRNAと反応することによって生じる電気伝導度の変化を測定するものである。従来の手法に比べて感度がよく、癌の早期発見に貢献出来るものと期待されている。

高電気伝導度でたわみやすい膜 アメリカ・韓国の合同チームは、ポリウレタン薄板の上に、多重壁カーボンナノチューブの森(12/14)を付着させ、高電気伝導度でたわみやすい膜を作成することに成功した。圧力センサーに利用出来るよう。またロボットの皮膚にも使えるものと期待されている。

フォートニック結晶を用いて光の検出効率を上げる フォートニック結晶(11/18,19参照)とはナノ粒子を周期的に並べた人工的な結晶である。1次元、2次元、3次元の物が作られている(図参照)。たとえば1次元のフォートニック結晶(最も左)の場合、平板間の距離とほぼ等しい波長の光は平板と垂直に進むことが出来ない。したがって、この波長の光を平板と平行な方向に導くことが出来る(導波管)。フォートニック結晶の製法に色々な新しい試みがなされている。分子センサー、ガスセンサーへの応用が期待されている。



赤外線センサー:急速な市場の拡大

2011-12-18 | 日記

蒸気エンジンの記事を書こうかと思ったが、不明な点があるのでNature Physicsに論文が発表されるのを待つことにした。赤外線センサーの市場の拡大が期待されるというニュースが目についた。これまでセンサーについては断片的に述べて来た(10/31,11/14,18参照)。

WinterGreen Research社の調査によると、赤外線センサーの市場は2011年の5億ドルから、2018年には50億ドルへの拡大が期待されるという。2018年の4分の3は軍事利用で残りの大部分は炭酸ガス検出だという。今後、医療関係、環境対策、生産過程のモニタリングでの活用が期待されている。

ナノ粒子がセンサーとして威力を発揮出来る理由は、粒子が小さいことである。粒子に他の分子が付着したり、赤外線の照射を受けるとき、その物理的性質の変化が大きく、検出が容易である。フォートニック結晶を使うことによってその感度をさらに上昇することが出来る。すでに多くの製品が開発されている。今後、具体的な例を逐次述べていこう。


ナノテクノロジーは洗濯の必要をなくすかもしれない

2011-12-17 | 日記

先日来「世界一小さい蒸気エンジン」を紹介しようとしていたが、今日もフランス系雑誌社フォーブスの表記標題のニュース記事を紹介しよう*。
*http://www.forbes.com/sites/alexknapp/2011/12/15/nanotechnology-may-lead-to-the-end-of-laundry/  ビデオも付いている

その前に、表面に水がくっつきやすい(親水性)材料と水がくっつきにくい(疎水性)材料の違いを説明しておく必要がある。この違いは図1に示す接触角の違いによる。接触角がゼロであると、水(青色)が材料(平板)の表面上にぴったりくっついていて、この場合は親水性が強い。接触角が180度であると材料の上に水が球状にのっかっている。もっとも疎水性が強い場合であるが、自然界には観測された例がない。材料の表面にワックスを塗ると接触角が大きく疎水性が強くなる。

ハスの葉の表面には図2に示すようなナノサイズの突起がありさらにワックスが付着している。したがって疎水性が強くしかも凹凸のためゴミが表面に強く付着しない。したがってゴミが水に流されやすく、表面がいつも綺麗に保たれている。ハスの葉の表面は自浄作用をもっている。このような’Lotus 効果’は1973年ころから知られていたが、ナノテクノロジーの進歩によって、自浄作用をもつ繊維やコーティング材料が開発され始めた。

                   

さて、フォーブスの記事に戻ろう。スイスのSchoeller textile社はNanosphere technologyを開発している。ナノサイズのプラスチックス球を繊維上に付着させ自浄性を持たせている。料理人用のシャツやエプロンを販売しているようだ。

中国の研究者たちは、木綿を酸化チタンナノ粒子でコートすると可視光や紫外線の照射によって清浄化されると報告している。これは酸化チタンの光触媒作用(10/18参照)による。日本でもよく知られているように、Ross Nanotechnology社はNeverWetと呼ばれる布等をコート出来る疎水性の強いコーティング材を売り出している。

このようなコーティング材料がどこまで進歩するか楽しみである。ただし酸化チタンは毒性があるかも知れないので注意する必要がある。

このほか建築物のコーティングに使われるコーティング材も多く開発されている。窓に使用出来る透明で自浄作用のあるコーティング材料の開発も進んでいるようだ。


ナノテクノロジーに関する科学技術政策:ついでに原子力も

2011-12-16 | 日記

アメリカにはナショナルナノテクノロジーイニシアティブ(NNI,9/2,10/22参照) という省庁を貫いた組織がナノテクノロジーに関する予算配分などを取り仕切っている。大統領直属の科学技術諮問委員会(PCAST8/20,9/2参照)が昨年3月にNNIに勧告を行った。この勧告に対するNNIのメンバーへのヒアリングが最近行われた。その様子はビデオで、また議事録で読み取れる*。
*http://www.tvworldwide.com/events/pcast/111102/)
http://www.whitehouse.gov/administration/eop/ostp/pcast/meetings/past

PCASTの勧告の主なものは、(1)過去10年間140億ドルの投資にかかわらず製品化されたものが少なすぎる、(2)環境、健康、安全に重点を置くべきである、などである。NNIの各省庁代表する担当者がヒアリングを受けている。官民の連携を緊密にすることや技術トランスファー(11/14参照)の効率を上げることなどが議論されている。技術トランスファーは最近しばしば話題に上る言葉で、基礎研究で開発された技術が生産活動に関与する企業等に伝達されること意味する。

いずれにしても、科学技術政策がオープンに議論されることは非常に好ましい。残念ながら日本にはPCASTもNNIも実質的には存在しない(8/19,20参照)。

原子力に話を移そう。鳩山氏はイギリスの科学誌Natureに投稿し、福島原子力発電所の窮状を述べ、原子力発電所を国営化するであると主張した。しかしながら、現状のまま国営化しても改善されるとは思われない。経済産業省が原子力発電所を支配し続けると思われるからだ。

Natureには、鳩山氏の投稿に対して「分岐点」という論説を掲げている**。それには、日本政府は科学者の意見を聴くべきであるという。科学者は、バイアスのないまた政治とは無関係な立場から、何が明らかになっていて何が明らかでないかを明確に説明し、危険を回避する方法を明示するであろうという。過去においても日本では、水俣病、血液製剤、BSEなどの問題をあいまいな科学的情報に基づいて処理し、その責任を官僚や政治家に押しつけたという。福島原子力発電所でも、東電や経済産業省が問題を処理し、彼らと無関係の科学者の意見が事故対策に反映されていないと述べている。
**http://www.nature.com/nature/journal/v480/n7377/full/480291a.html?WT.ec_id=NATURE-20111215

Natureのこの論説にも納得し難い。福島原子力発電所の事故処理には原子力安全委員長が関与していたはずである。またその他の過去の事件にも、関与していた科学者・技術者がいるはずだ。どうも日本では科学者・技術者が官僚に逆らえないような構造になっているのだろうか。ひょっとしたら日本での研究費配分方式(8/21,22参照)がその原因かもしれない。


ナノセルロース:バイオプラスチックスなど環境にやさしい材料へ

2011-12-15 | 日記

セルロースとはグルコースが直鎖状に連結した天然高分子である。植物の細胞膜などから採取することが出来、原料は豊富である。張力に対して強いことが特徴で、また化学反応によって種々の物質に変換出来る。さらに生物的に分解することも可能である。このような特性を生かしてナノセルロースを含む種々の複合材料が作られようとしている。これらの材料は、鉄と同様の強さを持つ絶縁体で、しかもナノサイズの孔を持つ多孔性材料で、広い応用が期待されている。原料が植物であるから、リサイクルも可能で環状にやさしい材料といえる。またナノセルロースを混入することにより、赤外から紫外までの光を反射する材料が製作出来るという。

種々の複合材料を合成するもととなるナノセルロース、ナノファイバーまたはナノ結晶、を製品化しようとする試みがなされていた。最近カナダのベンチャー企業CelluForce社は、世界で初めてナノ結晶セルロース(NCC)の生産プラントの操業を開始すると発表した*。生産プラントの立ち上げには、3600万ドルの投資が必要であったといい、カナダ政府ならびにこのプラントが存在するケベック州政府の援助も受けている。

NCCは、航空機、自動車、食品産業への応用が期待されるが、これらについては認可が下りるのに時間がかかりそうだ。差しあたって、ペイント、繊維、バイオプラスチックスに利用されるであろうという。
*http://www.nanowerk.com/news/newsid=23729.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TugFcDojVso.google


3次元エレクトロニクスとナノテクノロジー

2011-12-14 | 日記

ナノテクノロジーの大きな目標の一つは、ナノサイズのエレクトロニクス素子を集めて集積回路(コンピューターチップ)を作ることにある(ボトムアップ方式、8/18参照)。現在コンピュータチップの生成に使われているトップダウン方式が限界に近づきつつあるが、ボトムアップ方式が機能し始めるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

当面を切り抜けるいくつかの方法が試みられている。IBMは3次元エレクトロニクスを打ち上げている(http://www.smartertechnology.com/c/a/Optimized-Systems/IBM-and-3M-Herald-New-Era-of-3D-Electronics/)。これは、現在用いられているコンピュータチップを重ね合わせてその占有する場所を小さくしようとするものである。

3次元エレクトロニクスの問題の一つは、チップ間の接続方法である。有望視されているのは、TSV(through-silicon via)と呼ばれる方法である。viaは貫通孔を意味し、TSVとは基盤のシリコンに孔を開け導体を通して接続しようとするものである。導体にはこれまで銅線が多く使われて来たが、最近スウェーデンの研究者たちは、貫通孔の中にカーボンナノチューブの森(10/25参照)を成長させ他のシリコンチップと接続することに成功した*。カーボンナノチューブで接続すると、電気伝導度が高いこと、発生する熱量が少ないこと、柔軟性に富むこと、熱膨張が少ないことなど多くの利点がある。

ニューヨークタイムスの記事(12/5付)によると、インテル(INTEL)も独自の方法で3次元エレクトロニクスを開発している。詳細はよく分からないが、シリコンの基盤の上に多数のカーボンナノチューブトランジスタ(10/31参照)を垂直に立てたものもののようである。この計画にはカリフォルニア大学のグループが協力している。このほか、酸化チタンやガリウムヒ素をシリコンに置き換えようとする試みもある。いずれにしても、現在のシリコン平面型コンピューターチップを用いる限り、コンピューターの計算スピードの上昇を試みると、コンピューターが大型になり多大の電力を消費し熱を発生する。2019年までに計算速度を1000倍にしようとする計画もある中で、3次元エレクトロニクスの益々の進歩が期待出来る。
*http://www.nanowerk.com/news/newsid=23716.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29


ナノテクノロジーと分子生物学:食品衛生にも

2011-12-12 | 日記

Nanowerkに分子生物学(ミクロ生物学)とナノテクノロジーとの関連を記述した明快な解説が載っていたので紹介しておこう*。まず興味があるのは下図である。この図を見ると、生物の世界はナノの世界であることが明白であろう。

                                 
                            

細菌もナノモーター(9/17,10/11,11/8参照)を持つナノマシンであるという。また細菌がその成長の元となる菌糸を形成する過程は自己アセンブリであるという。また、ウィルスはウイルス核酸とそれを取り巻くカプシドと呼ばれるたんぱく質の殻とからなる。ウィルスが細胞の外にあるときはカプシドがウィルス核酸を保護しているが、細胞内に入るとカプシドが崩壊し核酸が増殖を始める。この現象はセンサーで分子を識別した後自己アセンブリが起こっていると解釈出来る。そのほかにも自然界で起こっているナノテクノロジーの例をいくつか挙げたことがある(10/5,11,12/11参照)。

ナノテクノロジーの課題の一つはナノサイズの有機および無機物質を作り出したり改造したりすることであるが、遺伝子変換などはすでにこのようなことを実行しているもので、ナノテクノロジーと呼んでもよかろう。このように、ナノテクノロジーは分子生物学と深い関係を持っている。

この解説では、さらに食糧、医療(9/27,28,11/13,12/2参照)、水(9/8,10/1,4参照)に関するミクロ生物学へのナノテクノロジーの寄与が述べられている。食糧に関しては、食糧中のごく微量の病原体を検出出来ることが特徴である。たとえば、アメリカのPurdue大学の研究者たちは、蛍光を発するナノ粒子が病原体に付着するとその色を変えることを利用しようとしている。この方法を用いると微量の病原体を即座に検出出来るという。

*http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=23695.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29


フォートニックインク

2011-12-11 | 日記

昨日に続いてフォートニックインクについて述べよう(http://opalux.com/wp-content/uploads/2011/09/Info-Dis-Magazine-June-2011.pdf参照)。フォートニックインクとは、インク状の高分子を媒介としたナノ粒子よりなるフォートニック結晶と考えてよい。

フォートニック結晶が色づいて見えるのは波の回折現象による。下図に示すように、波が結晶に入ると結晶面で反射される。結晶面で反射される波1と次の結晶面で反射される波2の進行距離の差が波の波長と等しいとしよう。反射波はお互いに強め合う。このような波長の波は反射され、結晶の中を透過出来ない。通常存在する結晶、たとえばダイヤモンドの結晶では、原子間の距離(したがって結晶面間の距離)はエックス線の波長領域にある。エックス線を使って結晶構造が解析出来る。フォートニック結晶では、ナノ粒子間の距離が光の波長領域になるよう調整してある。
                        

電圧を加えることによってフォートニックインクの色を変えるには、フォートニックインクを電気伝導性の基盤の上に塗布し、電解液を挟んで電圧を加える。図のようにインクを構成する高分子が伸びたり縮んだりすることによって反射される光の色すなわちインクの色が変化する。圧力、熱、化学物質による色の変化も同じような機構による。Opalux社は、フォートニックインク開発の第一人者であること誇っているが、応用開発に向けて協力相手を求めているようだ。                

顔料などが色づいているのは、一部の波長の光を吸収するからである。フォートニックインクが発する色は、回折現象に起因するもので、フォートニック結晶の構造に依存する色である。自然界にも蝶の羽などフォートニックカラーに起因するようなものが認められている。フォートニックカラーをもっと積極的に利用しようという試みもある。現在ディスプレイに用いられているのは液晶やLEDであるが、フォートニックカラーをディスプレイに用いるという考えもある(http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=22290.php)。


プリンテッドエレクトロニクスにもナノテクノロジーが

2011-12-10 | 日記

基盤の上にプリントすることによって電子デバイスを作成する手法をフリンテッドエトロニクスという。アメリカのコンサルティング会社IdTechExは2011年のプリンテッドエレクトロニクスを発表した。

その一つ、最優秀開発製品賞を受賞したのは、Vortech社の盗難防止包装(11/23参照)である。この手法はSirenと呼ばれ、展示台に施したナノプリントにより展示品が持ち去られるとアラームを鳴らすなど種々の応用が考えられている。2012年には市場に出回ると予想されている。

最優秀材料開発賞にはOpaluxのフォートニック結晶材料が選ばれている。フォートニック結晶(11/18,19参照)とはナノ粒子を結晶状に配置したものである。受賞の対象となった材料は、圧力、熱、化学物質を加えることによって色が変わる。この会社はフォートニックインクも製作している。フォートニックインクを基盤に貼付すると電圧を加えることによって特定の波長の光を反射する。加える電圧が1ボルト程度であることから、特殊なディスプレイなどに利用出来そうである。

開発研究賞はスティーブンス工科大学とアメリカ陸軍の研究所ARDECが受賞した。受賞の対象となったのは、酸化グラフェンの蒸発とインクジェットとを共用し、スーパーキャパシター(11/26参照)などグラフェンを用いた種々のデバイスの製作を容易にした点である。酸化グラフェンを還元してグラフェンに変換することが可能であるという。

フォートニッククリスタルの機能については後に説明する。