ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

ナノテク癌治療:治験No2

2012-04-29 | 報道/ニュース

ナノテク癌治療:治験2

ナノテクノロジーを応用した抗がん剤の治験の経過について以前に報告した(4/7参照)。Genprex社が開発するOncoprexと呼ばれるナノ腫瘍抑制剤のフェイズI治験が行われて、その安全性が証明されたと医学専門誌に報告されている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25038.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T5n2tPUn7Ac.google

Oncoprexは、TUSC2と呼ばれる腫瘍抑制剤を加えた分子性ナノ粒子である。TUSC2は、癌細胞に付着し死滅させる作用があるという。31人の末期肺癌患者に6倍もの量のOncoprexを投与した結果、その安全性が証明された。2倍程度の量のOncoprexを投与された33人の患者のうち3人について、腫瘍の増殖が阻止された。このことによって、人体においても静脈注射により腫瘍抑制剤を患部で送り届け得る事が初めて証明できたことになる。

本年中にフェイズIIの治験が実施される予定であるという。


紙幣偽造防止にナノテクノロジーが

2012-04-24 | 報道/ニュース

サウジアラビアの研究グループは、「紙幣用高性能強誘電性フラッシュメモリ」という論文を発表した。紙幣の偽造防止にはいろいろな試みがなされているが、なかなかうまくいかない。最近、REIDを紙幣識別に用いることが試みられているが、これも未だ成功していない。REID(radio frequency identification)とは、電波による個体識別法で、紙幣の中にID情報を埋め込んでおき、これを電波で検出する方法である。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=24982.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T5YMd14flXI.google

新しく提案されたのは、強誘電体(1/30参照)をフラッシュメモリとして用いる手法である。フラッシュメモリとは、電圧を除去しても消えない不揮発性メモリーのことである。強誘電体に電圧を加えると、比較的大きい電荷が蓄積され保存される。電荷が蓄積されているかいないかがメモリとして利用される(12/22参照)。

紙幣にフラッシュメモリを埋め込むには、まず高分子PDMSを付着させる。この高分子は、紙幣表面の凹凸を取り除き、またフラッシュメモリデバイスと紙幣との間の接着を良くする。フラッシュメモリデバイスとしては、50-150nmの厚さの強誘電性高分子P(VDF-TrFE)が用いられている。このようにして、読み出し書き込みが比較的容易で、かつ安定なメモリが得られるという。

この研究によって、強誘電性フラッシュメモリを紙幣の偽造防止に利用出来る見通しがついたという。しかしながら実現のためには、どれほど折曲げに耐え得るかやメモリデバイスの保護膜に何を用いるかなどまだまだ研究課題が残されているようである。この手法はまたセンサーやディスプレーなどに使用可能であるという。


ナノ粒子で飲料中の放射性物質が除去出来るかも

2012-04-23 | 報道/ニュース

アメリカの化学会講演会で、オクラホマ大学のAllen Apbllett博士が、放射性物質や重金属で汚染した各種飲料から汚染物を取り除く技術を開発したと報告した。この技術は、飲料の製造過程でも導入出来、また家庭内で使用することも可能であるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24746.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T3PDuDJTsrA.google

Nanowerkニュースでは詳細が不明であるが、何種類かの金属酸化物ナノ粒子がその表面に汚染物を吸着するようである。ナノ粒子を入れた医薬品用カプセルを飲料中に入れると、汚染物がカプセル中に取り込まれる。プルトニウム、ウラン、ストロンチウム、鉛、カドミウム、ヒ素、などを取り除くことが出来るという。実験結果によると、カプセルを飲料から取り出した後、飲料中に汚染物が検出出来なかったとのことである。セシウムが取り除き得るかどうか記述されていなかったが、やや悲観的である。

この技術の商品化が進められているようである。当初は、カルシウム健康食品から微量の鉛、ストロンチウム、カドミウムを取り除くのに用いられようとしている。我が国へのこのような技術の導入が検討されるべきではなかろうか(11/4参照)。


プリンテッドエレクトロニクスに新展開:紙より薄いTVの出現が

2012-04-22 | 報道/ニュース

プラスチックスやペーパー上に機能を持ったインクを吹き付けて電子機器、有機太陽光発電パネルや有機LED(OLED)を作成する技術がプリンテッドエレクトロニクスと呼ばれている(2/23参照)。その製品の性能は半導体エレクトロニクス製品より劣るが、広い面積を取りやすいこと、薄くて柔軟なこと、製造が簡単なこと、価格が安いことなどの理由でその利用が広がっている。

太陽光発電パネルやOLEDには、有機半導体のpn接合の両端に電極を接着する必要がある(10/2,3参照)。電極には、通常金属やITOと呼ばれる酸化インジウム・錫が用いられる。後者は透明電極として広く用いられている。これら導体の中では、電子は自由に動けるが電子を導体の外へ取り出すにはエネルギーを要する。このエネルギーは仕事関数と呼ばれている。金属の中で仕事関数が小さいのは、ナトリウムなど反応性の強いものばかりで、仕事関数が小さく半導体中に電子を注入し易い電極が求められていた。

ジョージア工科大学の研究グループは、仕事関数が大きい金属や電気伝導性高分子を10nmの厚さの特定の有機物でコートすることによって、仕事関数が小さくなることを見つけた。金属に負の電界が加わると、コートした有機物内の電子が押し出されて表面から飛び出しやすくなるようだ。
http://www.sciencedaily.com/releases/2012/04/120419143123.htm

この発見によってプリンテッドエレクトロニクス製品の生産過程が非常に簡単化されるという。ジョージア工科大学では、プラスチックスだけで太陽光発電パネルの製作に成功している。TVなど新製品が出現する可能性があるかもしれない。


開発途上国とナノテクノロジー

2012-04-20 | 報道/ニュース

オランダ政府が支援するNANO-DEVというプロジェクトがある。このプロジェクトを遂行するのはオランダ、インド、ケニアの大学などであるが、最近出版したレポートに、ナノテクノロジーの発展が開発途上国にどのような影響を与えるかを分析している。ナノテクノロジーは開発途上国に対してポジティブな影響とネガティブな影響を与える可能性があるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24818.php

ポジティブな面は、これまで経済成長の恩恵を受けていなかった国々が、ナノテクノロジーが開発する新技術によって経済成長の恩恵を受けやすくなることである。たとえば、水の浄化(12/5,1/17,4/9参照)、エネルギー貯蔵(11/25参照)、太陽光発電(`1/20参照)、持ち運び可能な診断装置(2/3参照)は、開発途上国の人々の生活環境や健康状態を改善するであろう。一方、ナノ粒子は健康上のリスクを与える恐れがある(1/27,2/26,3/16参照)。また、ナノテクノロジーの投資そのものが危険性を伴うこともあり得る。

開発途上国のなかでも、インド、エジプト、ブラジル、南アフリカなどは、すでにナノテクノロジーへの投資が始まっており、政府も力を入れている。一方で、他国で開発されたナノテクノロジーの恩恵を受けるだけという国々も多い。

プロジェクトは、開発途上国にナノテクノロジーの恩恵を受けさせるために、次の4重点項目を挙げている。技術革新カルチャー、技術伝達、知識の伝達、危険管理。

なお、開発途上国のナノテクノロジーの現状については、ICPC NanoNetから毎年詳細なレポートが出版されている。


ナノテクノロジーでエネルギーの有効利用を:冷却系熱エネルギーの回収

2012-04-19 | 報道/ニュース

発電所、車、その他種々の工場で冷却系ホットパイプの中を流れている熱い空気や水が持つ熱エネルギーは無駄に放出される。アメリカで作り出されるエネルギーの58%が熱エネルギーになってしまうという。このエネルギーの10%でも回収できれば、経済的にも環境的にもその効果が大きい。

2種類の金属、またはp型とn型の半導体の両端を結び、二つの接点に温度差を与えると電圧が発生することを説明した。この現象はゼーベック効果または熱電効果(11/12,2/29参照)と呼ばれる。半導体や金属のナノワイヤーはナノ粒子の集まりで、粒子間に熱が伝わりにくい。このため熱伝導度が低く、両接点間の温度差を保つことが出来、高いエネルギー変換効率を得ることが出来る。

これまで説明したのは、カーボンナノチューブを用いた比較的小電力用の熱電効果素子であった。アメリカPurdue大学の研究グループは、ガラスファイバーを半導体ナノ結晶でコートする手法を開発した。彼らは、300ナノメーター厚のp型およびn型PbTeナノ結晶でコートした直径約10マイクロメーターのガラスファイバーを用いて、熱電特性を測定した。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24930.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T44nxJYHA6U.google

実験によって得られた熱エネルギーから電気エネルギーへの変換効率が比較的高く、熱エネルギー回収の見通しが得られたという。使用する半導体が少量であることも利点である。また、ガラスファイバーは柔軟であるため、熱エネルギー回収装置の組み立てが容易である。PbTeは毒性が強いのが欠点で、毒性のない材料を探索中であるという。


カーボンナノチューブスポンジ:水中の油を除去出来る

2012-04-18 | 報道/ニュース

カーボンナノチューブにはいろいろな利用法があって、有望なナノ材料であることは何回か説明したとおりである(2/6,4/4,13参照)。カーボンナノチューブ単体、カーボンナノチューブファイバー、カーボンナノチューブの森などが研究の対象になっていた。

アメリカテキサス州のライス大学を中心とする研究グループ(そのうちの一人は信州大学に関係している)は、カーボンナノチューブを3次元的に組み立てることに成功した。まずその興味ある性質をビデオ(http://youtu.be/OCKyMn-2edo)で見ていただこう。まず若い学生が出てきてカーボンナノチューブスポンジを手に持って押しつぶす。力を緩めるとすぐ元に戻ることがわかる。その次に油を吸収するとの説明をするが、後の詳しい説明の方が面白い。次に教授が現れるが、あまり重要なことは言わない。次に再び若い学生が出てきて、このスポンジが疎水性(12/17参照)であることを説明する。水が大嫌いで、ピンセットでちょっと動かすと反発する。持ち上げても水はついて来ない。その次に、このスポンジが強磁性(1/14参照)であることを説明する。磁石で動かすことが出来る。また水中の油を回収した後スポンジを磁石で引き上げることが出来る。次に水中に油を入れる。スポンジに油が吸収されることがわかる。油を絞り出すことも出来るが、火をつけると燃える。燃やした後もスポンジは全く痛まない。再び使用することが可能である。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24911.php

このグループがこのような3次元構造を作り出すのに成功した秘けつは、多重壁カーボンナノチューブにボロン原子を結合させたことにある。ボロン原子はカーボンナノチューブのほぼ中央に結合する。ボロン原子が結合するとカーボンナノチューブが中央で折れる。折れたカーボンナノチューブが他のカーボンナノチューブとボロンを通して共有結合(9/8参照、きわめて強い結合)を作る。このようなカーボンナノチューブを集めると隙間の多い3次元構造ができあがる。隙間があるため、いろいろな物質を吸収出来るが、カーボンナノチューブの疎水性のため水を吸収しない。

カーボンナノチューブスポンジは、高電気伝導性、熱安定性、多孔性、軽量などおもしろい性質を持っている。水中の油成分の除去だけではなく、フィルター、電池の電気容量の増加などもっといろいろな応用が考えられている。


ナノテクノロジーの経済効果の評価:環境関連ナノテクノロジーの現状

2012-04-17 | 報道/ニュース

先月末アメリカ政府機関の主催で、ナノテクノロジーの経済効果の評価に関するシンポジウムがワシントンDCで行われたようである。その動機は、アメリカだけでも年間約30億ドルもの経費が研究・開発に投入されているが、それが本当に将来の経済発展ならびに雇用増進につながるかどうかを適切に評価する方法を検討しようというものである。材料科学やナノテクノロジーの分野では、基礎研究で見つけられたブレークスルーが経済発展につながる場合が多い。特に先進国にとって切実な課題であろう。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24752.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T3PFWZGPUEI.google

会議に使われた資料の中から、いくつかの情報を紹介しておこう。まず各国がナノテクノロジーに投じている大体の予算額は、アメリカ21億ドル、フランス6.5億ドル、ドイツ5億ドル、イギリス3億ドル、ロシア9億ドル、日本6億ドルとなっている。ただし日本についてはナノテクノロジー予算が明確に区別されてなく、他の予算が混じっている。

この会議の中で、アリゾナ州立大学のShapira教授が環境問題に関するナノテクノロジーの貢献について現状分析を行なった。彼はナノ材料のライフサイクルを重視するべきであると強調している。すなわち、ナノテク製品の製作から使用、廃棄に至るまでに要するエネルギーを考慮すべきであるという主張である。その上で、エネルギーや水の浄化も含めて環境関連のナノテクノロジー製品が増加し続けるであろうと述べている。

期待される製品として、有機太陽光発電パネル(10/9参照)、ピエゾ効果(12/7,8参照)を用いて体の動きで発電出来る発電器、エネルギー貯蔵装置(11/25参照)ならびに燃料電池(10/16,17参照)、耐熱ナノ材料、排気ガス浄化用触媒(10/12参照)、水の浄化装置(4/9参照)などを挙げている。市場規模や雇用数についての評価も示されている。たとえば、2020年の有機太陽光発電パネルの市場規模は約5億ドル、ナノテクノロジー関連雇用は600万人とある。


ナノ粒子で効率的な水冷却を:日本の原子炉の二次冷却は海水であるが

2012-04-16 | 報道/ニュース

アメリカでは、原子力発電所や火力発電所の二次冷却水に全国真水消費量の3%の真水を使用しているそうだ。しかも冷却効果を上げるため、その1/5を水蒸気にして放出しているという。

アルゴン国立研究所などの共同研究グループは、ナノテクノロジーを用いて水冷却材の効率改良を模索している。その計画によると、水中にコア・シェル構造(4/12参照)のナノ粒子を分散させる。シェルには高融点の金属を、コアには低融点の材料を用いる。コア材料の溶融を利用して熱冷却効果を高めようとしている。この冷却系統も一次冷却系統と同様に閉じた系にし、外部に冷却材が漏えいしないよう予定されている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24899.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T4jZ4YCUBwE.google

この計画は、冷却材に対する新しいアイディアとして興味深い。アメリカの電力会社も関与していて、経済性も含めて見通しがたてば全国的に広げ、水資源の節減に貢献しようとしている様である。

日本は地震・津波が発生する国であるのにかかわらず、原子力発電所は二次冷却を海水に依存している。このことが昨年の原子力発電所事故を引き起こしたともいえる。それにしても、テレビなどでジャーナリストや識者の発言を聞いていると、福島原子力発電所事故の教訓が良く浸透しているように思えない。教訓の第一は「原子力発電所に関しては地震震度や津波の高さを想定するべきでない」であろう。「日本海側で起こり得る津波の高さを評価する必要がある」という識者もいる。教訓の第二は「原子炉事故は起こり得る。しかし放射性物質の撒き散らしは極力防止すべきである」であろう。「原子炉事故が起こりうる。したがって放射線被害に対する補償方法を決めておく必要がある」というジャーナリストや政治家もいる。補償方法を決める前にするべきことがあるだろうと言いたい。大飯原子力発電所はこれらの教訓に対して満足な対策がとられているとは言い難いようだ(3/12,4/2参照)。その対策の詳細も報道されていない。


ナノ粒子を組み立てて:メモリスターやセンサーを

2012-04-14 | 報道/ニュース

アメリカのノースウェスタン大学の研究グループが開発したオン・ワイヤー・リソグラフィ(on-wire lithography,OWL)と呼ばれる手法を用いると、ナノワイヤーを一直線上に5から数百ナノメーターのギャップを開けて並べることが出来る。このギャップを別のナノ粒子で連結すると、いろいろな新しい応用が可能となる。

抵抗、キャパシタ、インダクタアに次ぐ第4の回路素子と呼ばれているメモリスターとは、一方向に電流を流すとオンとなり、逆方向に電流を流すとオフとなる回路素子である。ナノサイズメモリーなどの興味からこれまでいくつかの研究がなされていたが、いずれも酸化物など無機材料を用いるものしか開発されてなかった。メモリスターを構成出来るたんぱく質などの生体物質に興味が持たれていた。

シンガポールの研究グループは、OWLで作成した金ナノワイヤーの12nmのギャップを、鉄を含むferittinと呼ばれるたんぱく質を含む分子で結合し、メモリスタートして機能することを見つけた。この研究結果は、生体物質がメモリスタートして利用出来ることを明らかにしただけではなく、生体物質中の記憶の機構について手がかりを与えるものと期待されている。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=22762.php

ノースウェスタン大学と韓国の共同研究グループは、OWLで作成した金ナノワイヤーの10nmより狭いギャップを、下図のように多くのカーボンナノチューブで接続することに成功した。ギャップの大きさが生体分子の大きさと同程度であるので、バイオセンサーとしての期待も大きい。

                            
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=24836.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T35QWiDgXw4.google


カーボンナノチューブの不思議:電流を流すと遠いところが熱くなる

2012-04-13 | 報道/ニュース

金属や半導体ワイヤーに電流を流すと熱くなる。これは、電界で加速された金属中の電子が、そのエネルギーを金属中の原子に与え、原子を振動させるからである。

最近になって、カーボンナノチューブ(2/6,4/4参照)が普通の金属や半導体と少し異なった振る舞いすることが明らかになっていた。まず、普通の金属よりはるかに多くの電流が流れる。しかもあまり温度が上がらない。むしろカーボンナノチューブを支持している基盤の温度が上昇する。温度上昇なしで多量の電流が流れることは、素子をつなぐワイヤーとしては好都合である。しかしながら、このような不思議な現象が起こる理由や条件を明らかにすることが望まれていた。

アメリカのメアリーランド大学の研究グループは、温度上昇を観察出来る電子顕微鏡を用いて、この現象を詳細に調べた。その結果、カーボンナノチューブに電流を流しはじめると基盤の温度が上昇し始めることが明らかになった。この様子は、電子レンジで食品を温めるのと似ている。電子レンジでは、電磁波が放出されそれが食品に吸収される。食品中の電子が動き出し、そのエネルギーが原子振動のエネルギーに変換される。電磁波を放出する部分の温度が上昇せず食品が加熱される。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24854.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

この実験でカーボンナノチューブはほとんど加熱されないことが明らかになった。カーボンナノチューブに電流を流すと周辺に電磁波を放出するものと考えられているが、その機構はまだ解明されていない。


ナノ粒子のコア・シェル構造:赤色の光を紫に

2012-04-12 | 報道/ニュース

コア・シェル構造とは、粒子A(コア)の周りを粒子B(シェル)が取り囲んでいる構造をいう。ナノ粒子のコア・シェル構造にはいろいろな使い道がある。ドラッグデリバリー(4/10参照)の際、標的に付着するたんぱく質でコートするのもその一例である。また、メディカルイメージングには量子ドットが用いられるが(9/28参照)、酸化などを防ぐためにコートする必要がある。バイオセンサー(3/14参照)や触媒(10/12参照)にもコア・シェル構造を用いたものが多くある。

蛍光灯ランプは、気体を放電することによって発する光を蛍光体に当て、蛍光体から発する光を照明に利用している。この際、蛍光体から発せられる光の波長は、蛍光体を受ける光の波長より長い。それは、蛍光体に与えた光エネルギーの一部が熱エネルギーになって失われるからである。蛍光体が受けた光より短い波長の光を放出する現象をアップコンバージョンと呼ぶ。放出される光のエネルギーを高く出来る理由は、光のエネルギー(光子,11/18,19参照)を吸って到達した中間状態から再び光のエネルギーを吸ってさらに高い状態へ励起されるからである。

アップコンバージョンが観測される蛍光体は、不純物にEr, Tm, Hoなど、あまり聞き慣れない原子を含むものに限られていた。その理由は、これらの不純物以外の原子では、光のエネルギーを2回吸って励起されても、そのエネルギーが有効に光エネルギーとして放出されないからである。シンガポール、中国などの国際研究グループは、コア・シェル構造を用いてこの問題を解決した。すなわち、コアに光エネルギーを吸収する蛍光体ナノ粒子を、シェルに光を放出する蛍光体ナノ粒子を用い、コアからシェルへエネルギーが有効に伝わるよう工夫した。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24877.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T4Yyi3Sc2Mc.google

アップコンバージョンは、固体レーザー、光メモリー、太陽光発電、メディカルイメージングなど用途が多い。この研究がブレークスルーとなり、入射する光および放出される光の波長の選択範囲が広くなった。その意義は大きい。


日本関連ナノテクノロジーニュース

2012-04-11 | 報道/ニュース

毎日飛び込んでくるナノテクノロジーニュースの中から、まとめやすいものを選んで紹介しているうちに、日本関連ニュースがいくつか貯まってしまった。まとめて紹介しておこう。

会社関係では、アメリカの旭硝子、AGC America社が、200万ドルをRolith社に投資したと報じられている。旭硝子はガラスのコーティングに優れた技術を持っているが(10/3参照)、Rolith社の持つナノコーティング(1/10参照)技術の導入を目指しているようだ。

フォートニックチップ(4/3参照)について説明した直後に、nature誌のニュースに東京大学の研究グループがシリコンとIII-V半導体との間に良好な接触を得たと報じられていた。

物質・材料研究機構の研究グループは、高温超伝導体のナノワイヤーの作成に成功したと報じられている。超伝導体とは、低温で電気抵抗が0になる導体である。金属超伝導体は古くから知られていたが、1980年代にある種のセラミックスがより高温で超伝導を示すことが明らかにされた。このような物質が高温超伝導体と呼ばれているが、非常にもろくナノワイヤーを作成することが困難だった。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24835.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T35PwaKDUMI.google

産業技術総合研究所の研究グループは、2017年頃までに開発が予定されている14nm素子の3次元トランジスタ(12/14参照)の電流が変化しやすい理由を明らかにしたと報じられている。シリコンチップの素子数を増加するうえで貴重な研究成果であるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24552.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

東京大学とシャープの共同研究グループは、量子ドット型太陽光発電デバイス(10/6参照)で18.7%という最高効率を得たと報じている。それ以前の最高効率はロシアの研究グループが出した18.3%であった。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24614.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T2Pvm9dHwZo.google

また、Toray社は、指紋がつかないタッチスクリーンを開発したと報じられている。
http://tabtimes.com/news/ittech-manufacturers/2012/03/06/japanese-researchers-develop-fingerprint-free-tablet


量子ドットは医療にも

2012-04-10 | 報道/ニュース

半導体ナノ粒子は量子ドットと呼ばれている。紫外線やエックス線を当てると光を発するが、その波長がナノ粒子の大きさによって異なる。このような特徴を生かして、ディスプレイやLEDへの応用が考えられている。また、粒子サイズが小さくなるほど光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率が増加する。このことを利用して、太陽光発電の効率上昇に利用されようとしている。以下、これまで述べた量子ドットに関する記事をまとめておく。

                     

最近、医療への応用の道が開けそうだというニュースがあったので報告しておく。ワシントン大学の研究グループは、脳の中の神経細胞を量子ドットが発する光で刺激されることを明らかにした。神経細胞をオンにしたりオフにしたりして信号が伝わるかどうかを確かめることは、脳内の欠陥を調べるのに、ひいてはパーキンソンやアルツハイマーなどの治療に役立つ。これまで、神経細胞の刺激に電気信号が使われていたが、この手法は副作用が強い。光によるやわらかい刺激が望まれていて、光を発するたんぱく質を利用した刺激実験が試みられていた。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24215.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzMn_cvMcLE.google

今回の実験は量子ドット膜上に培養された細胞について行われた。次の段階では、動物の体内に量子ドットを注入することであるが、それにはターゲットを選択出来るよう量子ドットをコートすることや毒性に配慮することなどいくつかの問題があるという。

ホプキンス大学の研究グループは、量子ドットにコーティングを施すことによって、癌細胞に1個の量子ドットが付着するように出来ることを示した。これによって、腫瘍の大きさの定量的な評価が可能になるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24839.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T3-XOZSztHc.google


トイレの水を飲料用に:ビル・ゲイツ氏の環境および原子力問題新計画

2012-04-09 | 報道/ニュース

ナノテクノロジーの環境問題への貢献に対する期待が大きい。すでに海水の淡水化、水の純化、環境にやさしいプラスチックスの生成について説明した(10/1,11/16,12/5,15参照)。

世界的な水資源の不足が問題視されるなかで、極度に汚染された水の純化は、特に第三国における飲料水の供給に大きな役割を果たすであろう。水の純化には、殺菌と汚染除去が必要である。ナノ粒子は体積に比べて表面積大きいため、殺菌や汚染除去に効力を発揮する。殺菌にはナノ粒子に殺菌剤を付着させたものが用いられるほか、酸化チタンナノ粒子に紫外線を照射するのも有効である。汚染除去にはナノポーラス材料をフィルターとして用いるほか(12/5参照)、機能を持つナノ粒子も用いられている。たとえば、砒素は酸化鉄と付着しやすい。酸化鉄ナノ粒子に砒素を付着させ、磁場を加えて取り除くなどの方法が用いられる。

アメリカの環境保護庁はアリゾナ州立大学の研究グループに50万ドルの研究費を援助し、水の純化を推進しているというニュースもある。最近Microsoft社の設立者ビル・ゲイツ氏の財団が、イギリスのマンチェスター大学の研究グループに資金を出し、トイレの水を飲料水並みに純化する機械を2013年までに作成しようとしているという。この機械は、同時にバイオ燃料を生成することにも注目する必要がある。

ビル・ゲイツ氏は、同氏が設立したTerraPower社が開発している原子炉TWR(9/16,11/22,2/13参照)を積極的に推進している。昨年中国の科学技術省で講演し、その安全性と核廃棄物が少ないことさらに地震・津波の影響を受け難いことを強調したという。原子力村の住人が原子炉再稼働に腐心している間に世界は別の方向に向かっていくかもしれない(3/12,4/2参照)。