ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

オバマ大統領がアルバニナノテクノロジーコンプレックスで演説

2012-06-30 | 報道/ニュース

ニューヨーク州北部のアルバニにあるニューヨーク州立大学にナノテクノロジーコンプレックスが2009年に設立されている。この大学に設置されたナノサイズ理工学部(CNSE,College of Nanoscale Science and Engineering)を中心とするもので、約2万平方メートルの敷地に15億ドルをかけて建設された研究所を含む。この研究所には、IBMやインテルなどの会社も参画している。サムスンや東芝、東京エレクトロンなども含まれている。約2700人の研究者、エンジニア、学生、教育者が所属しているという。そのミッションは、財政的にも技術的にも優れた環境を作りだし、製造業者に有利な条件を与えナノテクノロジー産業に力を与えることにある(垂直連携)となっている。

講演の内容からもわかるようにオバマ大統領のナノテクノロジーへの期待が大きいようだ(5/1参照)。講演では、CNSEが唯一のナノテクノロジー専門の学部であることを強調し、アメリカ経済の将来がこの地方にかかっているとも述べている。政治的発言も多々あるが、私の興味を引いたのは次の発言である。"我々は他国より低価格の製品を制作することはできないが、良い製品を作り出すことができる。これがアメリカのあるべき姿である。"さらに、雇用を作り出すのは会社である。高い技術環境を作りだし、優れた技術者を多数生み出すことによってアメリカの企業は中国からアメリカへ戻りつつあると続く。
http://www.electroiq.com/articles/sst/print/vol-55/issue-5/departments/news/president-obama-speaks.html

本日の日経新聞にパワーエレクトロニクス分野の共同研究体(TPEC)の記事が掲載されていた。CNSEと似ている点もあるが、研究は文部科学省(大学と研究所では担当局が異なる)、生産活動は経済産業省や厚生労働省と縦割り行政の日本ではうまくいくのだろうか(8/18-9/4参照)。いささか心配だ。


次世代エレクトロニクスの主役はグラフェンかシリセンか

2012-06-28 | 報道/ニュース

炭素原子で作られる単相の分子、グラフェン、は2004年に発見されて以来実に多くの研究が進められ興味深い性質が次々と明らかにされてきた(6/27および下表参照)。炭素原子と周期表の同じ族に属し(ホームページ2.1B2参照)、現在のエレクトロニクスの主役であるシリコンが作る同様の単相の分子、シリセン、は興味の対象となりながらほとんどその性質が明らかにされていなかった。

                        

シリセンに関しては、NECの研究グループの先駆的な理論研究に続きいくつかの理論研究があるが、その性質の実験的研究はほとんどなされていない。物質材料研究機構の研究グループは、シリコン上に成長させたボロンジルコニウム(ZrB2)の上にシリセンを形成することに成功した。この系を用いてシリセンの電気的性質の詳細を明らかにした。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25709.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T-poX057u00.google

この研究結果でなによりも興味深いのは、シリセンが半導体的なことである。グラフェンは特殊な構造をもつグラフェンナノリボン(10/10参照)を除くと金属的である。エレクトロニクス材料は半導体であることが必要であろう。また、シリセンは、理論的研究の結果知られていたが、グラフェンと違って全く平たんではないことも明らかになった(上図参照)。この構造は支持台の材料を調整することによって容易に変化するものと予想される。半導体として禁止帯の幅(9/25,27参照)は重要な量であるが、シリセンの構造が変わると変化すると予測できるという。

この研究がきっかけになって、今後シリセンが新しい研究対象として脚光を浴びそうだ。


ナノテクノロジーと自動車産業

2012-06-26 | 報道/ニュース

The A to Z nanotechnology社のニュースに表記の標題のニュースがあった。トヨタがBMWと提携しようというニュースもあり、興味深そうなので紹介しておこう。ドイツ放送局のビデオ(英訳付)も付いている。ハイブリッド車や電気自動車などは含まれていない。
http://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=3031

自動車産業は、引き続き燃費の削減、自然環境の浄化、安全性および乗り心地の向上を目指すが、そのいずれにもナノテクノロジーの貢献が期待できるという。以前から自動車産業は傷や汚れが付きにくくまたついた傷をひとりでに修復するコーティングを模索してきた。このなかで現在製品化されているのは、硬くてかつ水をはじく(12/17参照)ポリマー/ナノ粒子合成材料である。また赤外線を反射するペイントも開発されている(10/23参照)。自己修復ができるペイントは目下開発途上にある(1/12参照)

粘着性の強いナノ接着剤もすでに実用化されている(3/7参照)。金属とプラスチックスなどを直接接着できるので車体の軽量化にも役立つという。また、タイヤの地面との接着性を増しかつ走行時の抵抗を少なくすることならびに耐久性向上のためカーボンやシリカが混入されているという。

水をはじくコーティングはウィンドシールドにも施されている。降水がそれほど激しくないときは、水滴が空気の流れによってはじき飛ばされワイパーが必要でないという。また同様のシールドをウィンドシールドの内部に施しておくと霜の付着を防ぐこともできる。ナノテクノロジーによってポリカーボネートをウィンドシールドに使用することが可能になりつつある。ポリカーボネートはガラスより軽く加工も簡単でウィンドシールドに利用しやすい。しかしながら傷がつきやすいという欠点がある。コーティングを施すことによってその欠点を補うことが試みられている。

車内で用いられている織物類をより強くまた汚れにくいものにしようとする試みがある。汚れが付きにくいフロロカーボンナノポリマーがVauxhall社やOpel Insignia社から市販されているという。


白金に代わるナノロッド触媒

2012-06-24 | 報道/ニュース

中国の研究グループが、鉄と炭化鉄のナノロッドが酸素還元反応用触媒として白金と同程度の性能を示すことを明らかにした。その価格は白金の約5%という。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25695.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T-VGD5oqsIc.google

彼らはこの触媒を微生物燃料電池に使用しほぼ白金と同程度の変換効率を得ている。以前燃料電池について説明したが(10/16,17ならびに下の注参照)。微生物燃料電池とは以前述べた燃料電池とよく似ているが、陰極側の溶液と陽極側の溶液とが水素イオンのみを通すイオン交換膜で隔てられている。陰極側の溶液に含まれる燃料から微生物の作用によって水素イオンを発生する。水素イオンは膜を通って陽極側に到達し酸素還元反応によって水となる。この反応で、水素イオンを発生する際陰極で作られ負荷を通って陽極に到達した電子が供給される。微生物燃料電池は、廃水を燃料に利用できるため、とくに遠隔地での活用が期待されている。

この燃料電池の両極に電圧を加えると水素が発生する。このようなシステムは microbial electric cellと呼ばれているが、この触媒はこのシステムにも利用可能であるという。

注: 10/16の記事で陽極と陰極とが逆になっていることに気がつきました。申し訳ありません。化学の世界ではanodeを陰極と訳すことを初めて知りました。


歪みペイント:材料の歪みが検出できるコーティング

2012-06-22 | 報道/ニュース

ライス大学の研究グループは、材料の歪みを検出できるコーティングを開発した。この研究には、同じ大学の土木環境工学教授の協力があったという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25681.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T-Pio3jbV8I.google

航空機、ビルディング、橋りょうなどの材料に歪みが生じていないかを定期的にチェックする必要がある。これには現在のところ歪み計が用いられているが、その操作は必ずしも簡単ではない。新しく開発された手法が実用化されると、コーティングの表面にレーザー光をスキャンさせ、発生する蛍光スペクトルを測定することによって歪みの有無およびその大きさが明らかになる。

一重壁カーボンナノチューブ(9/8参照)は歪みに敏感である。カーボンナノチューブの電気的性質や光学的性質を支配するのは表面から垂直に伸びているパイ軌道にある電子である。カーボンナノチューブに歪みが生じるとパイ軌道間の距離に変化が生じ、そのためこれらの性質が変化する。すでにグラフェンが同様の理由によって起こすピエゾエレクトリック効果について述べた(3/19参照)。コーティング材料はグラフェンを高分子に混合したものであるが、材料の歪みが効率よくグラフェンに伝達する必要があるなどのいくつかの問題点が解決されている。0.1%の歪みが検出できるという。カーボンナノチューブを用いたコーティングは強度を高めることもできる(9/8,23,10/31参照)。このほかの機能(10/10,1/11参照)を共有するコーティング材料を作成することも可能であろう。

市場の要求があれば製品化が可能であろうと研究グループのリーダーが述べている。


無駄に消費される熱エネルギーの回収:焦電効果の利用

2012-06-20 | 報道/ニュース

生成するエネルギーの約半分が熱エネルギーになって無駄に消えてしまうという。これを少しでも回収しようとする試みがある。熱電効果を用いたデバイスついていくつかすでに述べた(2/29,4/19参照)。熱電効果とは2種類の材料の接点に温度差があると発電するという現象である。

ジョージア工科大学の研究グループは、焦電効果を利用した熱エネルギー回収装置を試作した。焦電効果とは、特定の物質を加熱するとその両端に電圧差が生じるという現象である。この現象は、紀元前314年以来知られている現象である。この現象は、ピエゾエレクトリック効果(12/7,2/6参照)とよく似ている。ピエゾエレクトリック効果の場合は、材料に圧力を加えることによる結晶構造の変化によって電位差が生じるが、焦電効果の場合は温度上昇による結晶構造の変化によって電位差が現れる。この場合は温度変化によって発生した電位差は温度が一定に保たれると徐々に消滅する。この点が熱電効果と異なっている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25583.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T9lM83R8ovc.google

ジョージア工科大学で試作された装置の模式図を下に示す。ITOとは酸化インジウムスズで、透明電極として広く用いられている材料である。酸化亜鉛が焦電効果を起こす材料であるが、多数のナノワイヤーを用いることによって局所的な温度変化を電気エネルギーに変換できるという効用があろう。すでに熱電効果を実用化している会社が存在するが(たとえばスウェーデンのBeakon Technologies)、焦電効果を効果を併用するのも興味深い。この焦電効果デバイスは、熱エネルギー回収だけではなくセンサーや温度イメージングなどにも利用できるという。

                     


アメリカベンチャー企業2件

2012-06-17 | 報道/ニュース

A123 Systems社は、マサチューセッツ工科大学で開発されたリチウムイオン蓄電池(11/1参照)の製品化を目指して2001年に設立された会社である。このリチウムイオン蓄電池は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を陰極材料として用いるもので、高い技術水準をもちさらにナノテクノロジーを駆使していくつかのブレークスルーを乗り越えてきたという。今回発表したリチウムイオン蓄電池"ナノリン酸塩EXT"は、比較的高温や低温で使用出来る。したがって従来の鉛蓄電池やその他のリチウムイオン蓄電池に比べて、環境温度に配慮する必要がないという。

ナノリン酸塩EXTは、12ボルトの電圧を供給することが出来、従来エンジンのスタート用に優位に立っていた鉛蓄電池に置き換わるだろうと予想している。重量も軽くまた耐久性に富むという。自動車用のリチウムイオン蓄電池市場が2015年までに90億ドルに達すると予測している。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25612.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T9vqXzSuQJU.google

Daewon Innost社は、2011年にDaewon Industry社から独立した会社であるが、最近Glaxum LEDモジュールを発売している。このLEDは、ポーラスシリコン(10/6参照)上にGaN(窒化ガリウム) LED(10/3,4参照)を成長させたもので、LEDと支持材との間の熱抵抗が小さいという。従来の金属を支持材としたLEDに比べてシステムの製品コストを抑えることが出来るものと期待されている。LEDの使用中の温度が1度低下するとその寿命が1000時間伸びるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25611.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T9vpzlgCKkE.google


ナノテクノロジーと建築産業

2012-06-15 | 報道/ニュース

建築作業もナノテクノロジーに対する期待は大きい。第一に新しい材料の開発である。強靭性、耐久性がナノテクノロジーによって改善される可能性がある。第二にコーティングによって新しい機能を持たせることが出来る。水を弾くコーティング材料で汚染を防止することが出来ることについて説明した(3/3参照)。赤外線や熱線を反射するコーティングも模索されている。

セメントなど多くの建築材料は通常微結晶の集まりである。微結晶間の結合があまり強くない。また、結晶には転位と呼ばれる欠陥が含まれていて、これらが強度を下げる原因となっている。原子間の結合が強いカーボンナノチューブ(9/8,10/31参照)を混入して強化することが試みられている。カーボンナノチューブが微結晶と結合し互いに動きにくくする可能性がある。これまで多くの研究がなされているが、カーボンナノチューブは水にとってにくく、セメントの強化にはあまり適しているとはいえない。最近スペインの研究グループは"セメントナノチューブが存在するだろうか"という論文を発表した。彼らは、水酸化カルシウムとケイ酸カルシウム水和物をベースとするナノチューブの作成に成功し、これを用いて強化セメントの作成を試みた。現在のところ、カーボンナノチューブ強化セメントと同程度の結果しか得られていないが、新しいブレークスルーが見つけ出されさらなる発展が期待出来る。
www.nanowerk.com/spotlight/spotid=17138.php

ナノ粒子が建築材料に用いられ始めると、ナノ粒子が起こすかもしれない公害に懸念が生じる。ライス大学の研究グループが"建築産業におけるナノ材料"と題する総括的な論文を発表しているが、その中に示されている下図に、人間がナノ粒子の影響を受けるすべての可能性が示されている。技術者には公害を発しない製品を提供する義務がある。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=17138.php


金属の表面に氷が張らない

2012-06-12 | 報道/ニュース

以前に、はすの葉を教訓に開発された表面に生じた水滴が直ちに流れ去るコーティング法(12/17参照)について述べた。ナノ粒子でコーティングすると、水滴がナノ粒子より大きいので水滴が表面にとどまらない。水滴が溜まらなければ、氷点下でも表面に氷が出来ないはずである。ところが、その後の研究によって、このコーティング法では高湿度の場所では表面に氷が張るのを防げないことが明らかになった。水滴がたくさん集まると水の膜を作ってしまい、それが凍ってしまうらしい。

水滴が溜まらないようにするもう一つの方法は、完全に平たんな表面を作ることである。水と表面との吸着力を水の表面張力より小さくしておけば、生じた水滴は直ちに転がり去ってしまう。固体の表面では表面欠陥すなわち原子の抜け穴などがあって完全に平たんにすることが出来ない。ハーバード大学の研究グループは新しいコーティング技術、滑りやすい液体を染み込ませたポーラス表面(SLIPS,slippery liquid-infused porous surfaces)を発明した。このコーティング材の表面は液体すなわち潤滑油で完全に平たんである。広い表面積をもつポーラス材料は、潤滑油を安定に吸着させておくためのものである。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25554.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T9aiWopax-g.google

アルミニウム材料にこのコーティングを施した実験の結果、満足出来る結果が得られているという。表面に氷が張らないことにより、安全性の増加のみではなくエネルギーコストの低下が期待出来る。航空機産業や冷凍機産業などに活用出来よう。

それにしてもナノテクノロジー技術者や科学者は次から次へと新しいアイディア出しそれを実現する。それに比べると日本の原子炉関連技術者や科学者は全く保守的である。そもそも福島の事故は彼らの先輩がアメリカで内陸用に開発された原子力発電所をほぼそのままの形で海岸に設置したことに端を発している。にもかかわらずその事故を教訓とせず、応急措置を施した現存のすべての原子炉の再稼働に協力している。この原子力発電所のこの部分を補強すれば福島と同様の放射性物質のまき散らしが起こる確率が限りなくゼロに近いという原子力発電所が日本に存在しないのであろうか。そういう発電所から逐次再稼働を始めるようにしてほしい。日本の原子力産業の将来が全く心配だ(5/15参照)。


ナノケーブル:大容量キャパシターへ

2012-06-10 | 報道/ニュース

ナノテクノロジでは扱う粒子が小さいというだけではなく、小さい粒子を組み合わせた新しい構造が生まれ、それに伴って新しい性質が生まれてくる。以前にコア・シェル構造について述べたことがある(4/12,16参照)。

ライス大学のグループは、銅-酸化銅-カーボンナノチューブで構成されるナノケーブルが予想外に大きい静電容量を持ち、大容量キャパシターとして有望であることを明らかにした。通常のケーブルは同心円筒状に金属や絶縁体を重ね、電力や信号を送るのに使われている。このナノケーブルは、銅のナノワイヤーの表面を酸化させ、それにグラファイトの薄膜を巻きつけたものである。ナノケーブルの外側の直径は130nm,長さは600nm程度であるという。

http://www.sciencedaily.com/releases/2012/06/120607154146.htm

再生エネルギー活用のためには、出来るだけ小さい体積の中に出来るだけ多量の電気エネルギーを蓄える装置が必要である。蓄電池ももちろん有力候補であるが、化学反応を伴わないキャパシター(11/26参照)への期待も大きい。これまでにもナノケーブル型キャパシターがいくつか提案されている。この研究の興味深いところは、静電容量すなわち蓄積出来る電気エネルギーの量がよく知られている公式での計算値の10倍から40倍にも達するという。その理由は、厚さが薄いために生じる量子力学的効果であると考えられている。静電容量の量子力学的効果は、1980年代から知られているが、金属などの伝導帯(9/25参照)の中での電子分布が変化することに起因する。

大容量キャパシターに組み上げるにはさらなる研究が必要であろうが、新しい指針を与えるものとして興味深い。


原子炉再稼働

2012-06-09 | 報道/ニュース

野田首相は大飯原発の安全性を我が国やIAEAの専門家が保証しているというが疑わしい。

2011年3月末に原子力保安員が各原子力発電所に緊急安全対策を講じるよう指示した。これが現在施行されている安全対策である。同年5月に日本原子力学会は [福島原子力発電所事故からの教訓] を発行している。その中に前期提言と中期提言がある。前期提言は緊急安全対策にお墨付きを与えるもので本格的な安全対策は中期提言の中に含まれる。そもそも安全対策に暫定的などあり得ないが、両方とも安全であるというのが日本の原子力専門家の共通認識であるようだ。技術者の良心を失っている。彼らの安全宣言は信用出来ない。

 1月31日付のニューヨークタイム誌によると、IAEAスポークスマンのGreg Webb氏は次のように述べている。[IAEAは日本の原子炉の安全性を保証するものではない。経済性と安全性とを天秤にかけて再稼働するかどうかを決めるのは日本だ]。経済上必要であれば多少危険であっても再稼働しなさいと意味するように思える。

原子炉事故の際燃料のメルトダウンおよびそれに伴う放射性物質のまき散らしを起こさないためには、燃料に制御棒を挿入しかつ燃料を水冷し続けることである。福島原発事故を悲惨なものにした理由は、水冷用電源が失われたからである。大飯原発のストレステストの結果提出された書類によると、同原発では約4メーターの津波で水冷用電源が失われるが、ドアにシール施工を施すことによって約11メーターまでかさ上げし、かつ電源車を用意してあるという。これで十分とは思えない。

日本の原子炉専門家は原子力ムラに属しているかあるいは自由に発言出来ない環境に置かれているように思われる。メディアは外国の専門家の意見を聴くべきであろう。

もう一言、ナトリウム冷却高速増殖炉は危険である。水冷が出来ない。もんじゅだけの問題ではない。将来各地に設置される高速増殖炉近辺で直下型地震が起こったらどうするのだろう。もんじゅ開発に携わっている人たちは、巨費を使っていつ爆発するか分からない巨大爆弾を子孫に残そうとしているようなものだ。

このままでは日本の行く末が心配だ。地震国日本での原子力発電がどうあるべきか考え直して欲しい。メディアが日本の原子炉専門家に反省を促すよう期待する。アメリカではさらに安全性の高い原子炉開発も進められている。

 

 


経済発展にナノテクノロジーを

2012-06-08 | 報道/ニュース

イギリスのロースクールの教授がイギリス政府にかみついたという記事が目についた。内容は、イギリス政府がナノテクノロジーの商機を逸したことおよび公衆に対する安全性を確保するべき規制を作成していないことである。
http://www.walesonline.co.uk/news/welsh-politics/welsh-politics-news/2012/06/06/government-attacked-over-nanotechnology-91466-31120821/

この教授の主張は次の通りである。もし自分が首相であったらナノテクノロジービジネスがイギリスに集まるよう経済環境を整えたであろう。このため、政府が数10億ポンドの税金を投じることならびに投資を導き出すことが必要acであろう。世界の経済発展の道筋が不確定である現在、今後10年間で1兆ドルの経済効果が予想されているナノテクノロジーに対する期待は大きい。開発と市場の拡大がバランスよく進むようコントロールし、経済発展を増進する必要がある。

特に期待される分野は、がん細胞を直接破壊するがんの化学療法(2/3、3/15参照)であろうが、その応用範囲は歯磨きペーストからテニスボールなどと広い。その発展のスピードは速く、将来はナノロボットを体内に取り入れ破壊した細胞を修復出来るような時代が来るかもしれない(3/31参照)。

このような要望に対するイギリス政府の公式見解は次の通りである。"ナノテクノロジー研究に関しては世界的に高い評価を受けている。また政府は産業に対しても支援している。ナノテクノロジーは研究諮問委員会(Research Council)や技術企画協議会(Technology Strategy Board)の重要課題である。"

さて日本では?


次世代ディスプレイは量子ドットディスプレイか

2012-06-06 | 報道/ニュース

量子ドットディスプレイ(11/27,1/25参照)に関する動きがある。。有機LEDディスプレイは液晶ディスプレイより薄く出来ると期待されているが、劣化しやすいという欠点がある。インクジェット(11/23,2/23参照)で量子ドットの薄膜の作成も可能で、量子ドットディスプレイの次世代ディスプレイへの期待も大きい。

以前から量子ドットディスプレイに強い関心を示しているのが韓国のサムスン電子である。すでに2006年にQDvision社が単色の量子ドットディスプレイを試作しているが、昨年サムスン電子の研究グループは4インチのフルカラー量子ドットディスプレイの製作に成功している。インクジェットを用いたプリント法に工夫が凝らされているようだ。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=20313.php

ドイツの著名な会社Merck社がイスラエルのQLight Nanotech社と協力して量子ドットの分野に進出すると発表している。QLight Nanotech社は、これまでエルサレムのヘブライ大学と協力して量子ドットを用いたディスプレーや高効率光源を開発してきた。すでにMerck社との協力を開始して3年になるという。Merck社の目指すところは量子ドットを用いた新技術開発特に次世代ディスプレーの開発にあるようだ。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25326.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T7xAA0oDiY8.google


ナノテクノロジーと万能細胞

2012-06-04 | 報道/ニュース

イギリス誌ガーディアンの記事 [ナノテクノロジーが万能細胞研究にどのような影響を与えるか] を紹介しておこう。
http://www.guardian.co.uk/nanotechnology-world/nanotechnology-shaping-stem-cell-research?newsfeed=true

この記事は、最近のノースウェスタン大学の研究グループが発表した論文に基づくものである。万能細胞はその名の通り特定の条件を与えると神経細胞、骨細胞、心臓細胞など特定の細胞として増殖する。生物の体内では、物理的な信号または化学的な信号を受けて万能細胞が特定の機能を発揮する。しかしながら体内で受ける信号の正体はあまり明らかにされていない。実験室では化学薬品を用いることが試みられているが、その成果は必ずしも芳しくない。今回発表された研究は万能細胞がその機能を発揮するための物理的な信号に関するものである。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24517.php

ノースウェスタン大学では以前からScanni ng Probe Lithogrfaphy(SPL、走査プローブリソグラフィ)という技術を開発している。これはいわば走査型トンネル顕微鏡の針(9/17,10/11参照)を用いたリソグラフィ(10/24,11/3参照)で、半導体表面などの構造までを制御しようとするものである。

万能細胞に特定の細胞として増殖させるためには広い範囲にわたってその環境に適合した条件を作り出す必要がある。たとえば骨細胞と心臓細胞とでは硬さが極端に異なる。この研究グループは高分子ペンリソグラフィと呼ばれる手法を開発した。これは多数の針状の高分子を用いた走査プローブリソグラフィで、これを用いて多くの系の分子レベルのマイクロメーター範囲まで及ぶパターン情報を獲得した。このパターン情報の一つをフィブロネクチンと呼ばれる糖タンパク質上に再現し、万能細胞から出発して骨細胞を増殖することに成功している。このようにして増殖して細胞を動物に移植することが可能であるという。

新しい視点に立った研究で今後の発展が期待される。


細胞のナノコーティング:新機能を持つ細胞

2012-06-01 | 報道/ニュース

生きている細胞に生きたままでコーティングを施し、細胞に新しい機能を持たせようとする試みがなされている。アメリカの化学会専門誌ACSManoに、ロシア、アメリカの研究者の共著で、これまでの研究のまとめとその展望が掲載されている。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=25399.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T8WdCz5lJnM.google

遺伝子操作によって細胞に新機能を持たせることも可能であるが、ナノコーティングを施す方がバラエティに富む新機能を持たせることが出来る。たとえば、養分接種の増進、有害物質からの保護、紫外線からの保護、磁性や発光性の付与などが考えられる。

コーティングを施すためには、細胞を溶液の中に浸す。ロシアとアメリカの両グループが採用している手法は、正および負の電荷をもった高分子で一層ずつ交互にコートする方法である。これによって、細胞を殺さずに種々のコーティングが可能であるという。通常、4-5nm程度の厚さのコーティングがなされている。

いろいろな機能を組み合わせて保持させることが可能であるから、その応用範囲も広範であろう。差し当たって、組織再生、生物吸着剤、胞子形成への応用が試みられている。機能化された細胞を2次元や3次元に集合させることによって、たとえば溶液中に浮遊したバイオフィルムの作成も可能であるという。また、毒性分子を付着させるバイオセンサーはその性能が徐々に低下するが、バイオセンサーに磁性を持たせ性能が低下すると磁界によって除去出来るようにする。このようにして、センサーの性能を長時間維持出来るという。

増殖を含めた細胞のいろいろな機能を考えるとこの種の研究は今後指数関数的に増えるであろうと著者たちは予測している。