ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

科学技術は人類に幸福をもたらさなければならない

2011-09-30 | 日記
昨日のBSフジプライムニュースの討論にいささか疑問を感じた。

科学技術と人類の共存がテーマの一つであったが、絶対安全ということはありえないとのことで、科学技術があたかも猛獣であるかのように扱われているのが気になった。産業革命以来、科学技術の発達が人々の生活を豊かにしてきたことは否定出来ないだろう。21世紀には、ナノテクノロジーや万能細胞などの新技術の導入により、より多くの人々が幸福な生活を享受出来るようになる必要がある。それが、科学者、技術者の義務であろう。

福島原子力発電所の事故は、確かに科学技術が恐ろしいものであることを明確にした。しかしながら、この原因は、津波が起こる可能性のある場所に建設された原子力発電所の非常用電源が地下室に存在したことによる。もし、非常用電源が正常に作動すればこのような多量の放射性物質の撒き散らしが起こらなかったであろう。このような原子力発電所を建設した東京電力、またその建設を容認した原子力安全・保安院、原子力委員会および原子力安全委員会の責任は大きい。原子炉は廃炉になってもよい。放射線の撒き散らしさえ起こらなければ、単に電力会社の問題で、国家的・国際的問題にはならなかったであろう。

確かに絶対安全ということはあり得ない。しかし事故を回避出来ることも技術の一つである。野田首相が原子力発電所の安全性を世界最高水準に高めると国際公約したが、日本の科学者や技術者が先頭に立ってこれを必ず実行してほしい(9/26参照)。

昨日の議論でもう一つ気になったのは、自動車事故による障害と放射線障害を同等に扱っていることである。自動車事故の被害者にどのように対処するか、すべての外科医は熟知しているはずである。しかし放射線被ばく者に何が起こるかまだ明確ではない。特に内部被曝は外部被曝に比べて、その危険性が高い(8/14参照)。遺伝的効果も含めると、50年、100年後にどのような影響が現れるか予知出来ないのが現状であろう。子供を思う母親の気持ちがよくわかる。決して感情論ではない。

メディアの人々は、専門家によって意見が違うという。これは、その問題が未解決であるという証拠である。専門家同士は論理的な議論を行う。解決した問題であれば、議論が分かれるはずがない。

科学技術報道でのメディアの役割は大きい。新しい情報の報道は人々啓蒙するであろう。不適切な報道は人々を不安に陥れるであろう。

国別の発表論文数--訂正

2011-09-29 | 日記
昨日の記事を次のように訂正します。

下の表は、2000年9月より2010年8月までに発表された全分野での発表論文数を国別に示す。日本は、ドイツ、中国を抜きアメリカに次いで第二位を占めている。以前述べた(9/12参照)ナノテクノロジー関連のアメリカ、日本の論文数と比べると、日本がナノテクノロジー研究に重点を置いていることがわかる。中国の論文数が多いのも驚異的で、1998年から2008年までの調査では論文数が57万程度であったので、その増加にも驚くべきものがある。

表の被引用数の欄には、上の期間に発表された論文が引用された回数を示してある。最後の欄は被引用数を論文数で割った値である。論文とは、研究者が心血を注いでおこなった研究成果を発表したので、その中には必ず世界一の要素が含まれている (8/21参照)。論文が引用されるということは、その成果が認められたことを意味する。中国などの開発途上国ではこの値が小さい。中国の1998年から2000年までの調査では、この値が4.61であったから、一応着実に伸びているようである。韓国などについても同様である。

少し気になるのは、日本の論文あたりの被引用数が先進国の中で最も小さいことである。分野によって被引用数も異なるので、それほど深刻な問題であるとは言えないかもしれない。


国別の発表論文数

2011-09-29 | 日記
下の表は、2000年9月より2010年8月までに発表された全分野での発表論文数を国別に示す。日本は、ドイツ、中国を抜きアメリカに次いで第二位を占めている。以前述べた(9/12参照)ナノテクノロジー関連のアメリカ、日本の論文数と比べると、日本がナノテクノロジー研究に重点を置いていることがわかる。中国の論文数が多いのも驚異的で、1998年から2008年までの調査では論文数が57万程度であったので、その増加にも驚くべきものがある。

表の被引用数の欄には、上の期間に引用された論文の数が示してある。ここには、この期間だけではなくこれまでに発表されたすべての論文の被引用数が国別に示してある。最後の欄は被引用数を論文数で割った値である。中国などの開発途上国では論文数が急激に増加しているのでこの値があまり大きくない。中国の1998年から2000年までの調査では、この値が4.61であったから、着実に伸びているようである。韓国などについても同様である。

少し気になるのは、日本の論文あたりの被引用数が先進国の中で最も小さいことである。論文とは、研究者が心血を注いでおこなった研究成果を発表したので、その中には必ず世界一の要素が含まれている (8/21参照)。論文が引用されるということは、その成果が認められたことを意味する。したがって、被引用数が多いほど好ましいが、分野によって被引用数も異なるので、それほど深刻な問題であるとは言えない。

順位 国 論文数 被引用数 論文あたりの被引用数
1 アメリカ 2,967,957 46,796,090 15.77
2 日本 770,252 7,877,699 10.23
3 ドイツ 762,599 9,960,100 13.06
4 中国 719,971 4,227,779 5.87
5 イギリス 679,394 9,979,737 14.69
6 フランス 542,293 6,660,630 12.28
7 カナダ 430,856 5,619,293 13.04
8 イタリア 409,232 4,770,753 11.66
9 スペイン 315,420 3,256,075 10.32
10 オーストラリア 284,250 3,359,748 11.82
11 ロシア 267,319 1,243,711 4.65
12 インド 266,230 1,497,065 5.62
13 韓国 254,599 1,767,799 6.94
14 オランダ 239,892 3,687,829 15.37
15 ブラジル 190,801 1,197,953 6.28
16 スウェーデン 174,052 2,548,046 14.64
17 スイス 172,904 2,873,881 16.62
18 台湾 162,197 1,115,524 6.88
19 ポーランド 144,559 954,220 6.6
20 トルコ 138,345 687,389 4.97

Essential Science Indicators from Thomson Reuterより

ナノ粒子でメディカルイメージを

2011-09-27 | 日記
昨日に続いて、ナノテクノロジーの医療への応用について述べよう。癌などの診断にMRIが用いられている。電子がスピンを持っていることを述べたが(9/25参照)、陽子もスピンを持っている。電磁波を与えるとスピンの向きが反転する。反転が起こる電磁波の波長が水素原子の結合状態によって異なることを利用して病変部のイメージを得るのがMRIである。しかしながら、電子のスピンを反転させるほうがより鮮明なイメージが得られる。酸化鉄では、電磁波を加えることによって電子のスピンを反転させることが出来る。酸化鉄のナノ粒子を癌細胞にくっつきやすい分子でコートし、これを体内に注入する。電子のスピンが反転すると電磁波が吸収されるので、電磁波が吸収される部分を映し出すことによって、癌による病変部位のイメージを得ることが出来る。

昨日述べたように、シリコンなど半導体量子ドットは、紫外線を照射すると発光する。このことを利用して、量子ドットを癌細胞とくっつきやすい分子でコートして、メディカルイメージを造影するのに用いることも出来る。

医療におけるナノテクノロジーのもう一つの役割は、薬剤を患部に直接運ぶことである。現在行われている癌の化学療法では、癌細胞だけではなく正常な細胞まで破壊してしまう。そのため色々な副作用が現れる。ナノテクノロジーを用いると、薬剤を癌細胞に運んでいき、癌細胞だけを破壊することが出来そうだ。これはdrug delivery(ドラッグデリバリー)と呼ばれている技術である。それには色々な方法があるが、英紙ガーディアンにはカーボンナノチューブ(9/8参照)を用いる方法が記載されていた。

カーボンナノチューブは炭素原子が円筒状に並んだものであるが、壁が1重のものだけではなく、2、3、--- 15重のものまで作ることが出来る。この壁に薬剤を付着させる。壁の数が多いほど付着出来る薬剤の量が多い。これを癌に付着しやすい分子でコートし、体内に注入し癌細胞にくっつける。電磁波を送るとカーボンナノチューブに付着した薬剤が癌細胞を死滅させる。

ナノテクノロジーと医療

2011-09-27 | 日記
ナノテクノロジーの進歩は医療にも大きな変革を起こしそうだ。診断の精度の向上、身体内部のメディカルイメージの造影、薬物の直接患部への付着、再生治療などこれまで全く想像されなかったような手法が可能となりそうである。これは小さいナノ粒子が細胞膜を自由に通過出来、また血液やリンパ液に混じって体内を循環出来るからである。

ガーディアンに掲載されていた記事では、いくつかの例を挙げながら、一方でナノ粒子が健康な人たちに影響を及ぼす可能性も指摘している。いずれにしても、現在はマウスなどを使った実験段階で、今後さらなる研究が必要である。

今日は、その一例を紹介しよう。そのためには、半導体に紫外線などを当てると発光することを説明しておく必要がある。昨日述べたように、価電子帯には電子が充満していて伝道帯には電子が存在しない。紫外線を当てて価電子帯の電子を伝導帯に移すことが出来る。この場合、光の波長と禁止帯のエネルギー幅との関係が重要である。量子力学では、粒子は波の性質を兼ね備えており、また波も粒子の性質を兼ね備えている。光は粒子としてのエネルギーを持っているが、そのエネルギーは光の波長が短いほど大きい。すなわち、青い光の方が赤い光より、また紫外線は青い光より粒子としてのエネルギーが大きい。禁止帯の幅より大きいエネルギーをもつ紫外線が価電子帯の電子を伝導帯に上げると(これを励起という)、兵性をされると紫外線の粒子は消滅する。すなわち紫外線が吸収される。

価電子帯の電子が1個励起されると価電子帯に孔が(これを正孔と呼ぶ)、伝導体に電子が生じたことになる。この電子と正孔が結合して元の位置に戻ると、禁止帯の幅のエネルギーが光となって放出される。

半導体のナノ粒子を量子ドットと呼ぶが、その禁止帯の幅は粒子が小さくなるほど大きくなる。さて、これを医療に用いるには、赤、黄、緑に発光する量子ドットをマーカーとして分子に付着させ、それらの動きを観察し癌細胞の発達の様子を知ることが出来る。その結果が治療に役立つことになる。

原子力発電所の安全性を世界最高水準に

2011-09-26 | 日記
野田首相は、国連総会で原子力発電所の安全性を世界最高水準に高めると国際公約した。これは大変結構なことであるが、本当に実行出来るのであろうか。

第一に、世界で最も危険なナトリウム冷却型高速増殖炉(8/15,8/16,9/16参照)の原型炉「もんじゅ」に2012年度も予算を計上しようとしている。26日の読売新聞(電子版)によると、400億円の予算の2割程度を削減するにすぎない。

第二に、原子力学会の反応である。朝日新聞によると、最近福島原子力発電所の事故をテーマにしたシンポジウムが開かれたらしい。そこでいくつかの反省の弁が聞かれたことは評価出来る。しかしながら、続いて開催された「学会は何が出来るか」というパネル討論会の報告された内容に不満を感じる。「世間から信用されていない」、「常に改善が必要だ」などの意見はあり触れていてつまらない。

第三に、当面運転を継続する原子力発電所の安全性である。ストレステストに合格すればということになっているが、ストレステストを実施するのは、やらせの原子力安全・保安院である。EUのストレステストの明細の洪水欄を見ると、非常用ディーゼル発電機とさらに補助発電機の記載もある。また、これらが使用不能になったときの対応も詳細に規定している。これに対して、日本の玄海、泊などでは、電源車を準備しているのにすぎない(8/15参照)。

これまでの国内情勢から判断すると、従来型原子炉を新たに設置することは困難であろう。先日のBSフジプライムニュースで国際エネルギー機関(IEA)の元事務局長田中氏が述べていたように、燃料効率と安全性が高い次世代原子炉の構想がいくつかある(9/16参照)。日本が原子力発電所の安全性を高めるためになすべきことは、従来型原子炉の安全性を高めること、ならびに安全性の高い次世代原子炉を開発することであろう。国は、「もんじゅ」に予算をつけるかわりに、これらの研究開発に予算をつけるべきであろう。メディアも、原子力村の住人でない内外の専門家から情報を得て、将来を見据えた報道をなすべきであろう。

明日はナノテクノロジーに戻ろう。

金属と半導体との違い----ナノテクノロジーの基礎

2011-09-25 | 日記
原子核のまわりに束縛されている電子の状態を表すのに軌道という言葉を用いる。量子数nには、n*n個の軌道がある。1軌道には2個の電子が存在し得る。電子は自転している。これをスピンと呼ぶが、1軌道にはスピンの方向が互いに異なる2個の電子しか入ることが出来ない。水素原子は、量子数1の軌道に1個の電子しか存在しないので反応しやすく他の水素原子と反応して水素分子を構成する。水素ガスを構成するのは水素分子である。ヘリウム原子は、量子数1の軌道に2個の電子が存在しているため安定で、ヘリウムガスはヘリウム原子の集まりである。

原子番号3のリチウム原子は、量子数1の準位に2個の電子を、量子数2の準位に1個の電子をもつ。リチウム原子は結合しやすく固体になるが、固体ではエネルギー準位が帯になる。これをエネルギー帯という。さて、リチウム原子の量子数1の電子は内殻電子と呼ばれ、通常は材料の性質には関与しない。固体リチウムのエネルギー帯は量子数2の状態で作られるが、このエネルギー帯には2個の電子が入り得る。これに対して、リチウム原子は量子数2の電子を1個しか持っていない。したがって、図に示すように固体リチウムのエネルギー帯は半分しか満たされていない。

ダイアモンド(9/6参照)では事情が全く異なっている。ダイヤモンド結晶では図に示すように各炭素原子はそれぞれ4本の手を出して隣接した炭素原子と結合している。炭素原子は量子数2の電子を4個持っているから、4本の手には、それぞれ隣接した原子が出し合う2個の電子が入っていることになる。それぞれの結合の手にはスピンの方向が異なる(9/25参照)2個の電子しか入ることが出来ないから、ダイアモンドではこの4本の手が作るエネルギー帯には電子が充満していることになる。これを充満帯と呼ぶ。

リチウム金属では、エネルギー帯の中に電子が充満している部分のすぐ上に電子が存在しない部分がある(図参照)。電子は熱エネルギーをもらってこの電子が存在しない部分に入り込むことが出来る。このためリチウムでは電子が動きやすく、金属である。これに対して、ダイヤモンドでは電子が充満している部分(充満帯)のすぐ上に電子が存在出来ない禁止帯がある。禁止帯の上に空のエネルギー帯があり(図参照)、ここでは電子が移動出来るが、ここまで到達出来る電子は数少ない。したがってダイヤモンドは絶縁体である。禁止帯の幅が小さい材料が半導体と呼ばれている。

明日は、少し脱線してナノテクノロジーと医療について述べよう。

ナノテクノロジーには量子力学

2011-09-24 | 日記

我々の周りにある物体の運動はニュートン力学にしたがう。しかし、電子のような軽い物体(電子の重さは陽子のの重さの約1800分の1である)の運動は量子力学にしたがう。

正の電荷を持った金属球と負の電荷を持った金属球を並べておいたとしよう。放電が起こらないように表面をプラスチックスでコートしておくと、二つのボールは互いに引っ張りあってくっついてしまうであろう。水素原子は正の電荷を持った陽子と負の電荷を持った原子からできているが(9/6参照)、陽子と電子はくっついてしまうことは無い。量子力学では、ある時刻に電子が存在する場所を特定することが出来ない。電子がある場所に存在する確率だけしかわからない。電子が陽子の周りにぼやっと雲のように存在していると想像すればよかろう。

この電子は、陽子に束縛されているわけであるが、この束縛から自由にするのに13.6電子ボルトのエネルギーが必要である。1電子ボルトとは、電子を1ボルトの電圧で加速したときに電子が得るエネルギーである。自由な電子で運動エネルギーを持たない電子のエネルギーを0とすると、陽子に束縛された電子のエネルギーは-13.6電子ボルトということになる。この様子を図に示しておく。0より上のエネルギーは電子の運動エネルギーである。

陽子の周りに束縛された電子は、-13.6電子ボルトのほかに、図に示すように、-13.6/4、-13.6/9、---  -13.6/n*n のエネルギーをとることが出来る。nは正の整数で、量子数と呼ばれる。電子が持つことが出来るエネルギーをエネルギー準位と呼ぶ。下から順に、量子数1の準位、量子数2の準位 --- と呼ぶ。

明日は、今日の話に続いて、金属と半導体がどのように違っているかを説明しよう。

カーボンナノチューブ強化プラスチックスは鉄より軽くて強い

2011-09-23 | 日記
先日の朝日新聞に自動車の車体などに炭素繊維を用いるという記事が載っていた。炭素繊維とは、重量比90%が炭素原子であるという繊維で、軽くしかも結合が強い。先日述べたように(9/6参照)、炭素原子は原子番号が低く軽い原子である。原子の大きさは原子の種類によってそれほど変わらないので、原子番号が小さい原子から作られる物質ほど軽い。また、炭素と炭素との間の結合は極めて強い。

自動車を製造するのはBMWであるが、炭素繊維のシェアは日本が世界一であるらしい。炭素繊維をプラスチックスの中に取り込んだ炭素繊維強化プラスチックス(CFRP)は、鉄よりも強くしかも軽い材料である。問題はその価格で、これまで飛行機や競走用自動車には用いられてきたが、BMWは一般向けの乗用車にも導入しようとしている様である。

CFRPはナノテクノロジーとは無関係であるが、ナノ粒子、カーボンナノチューブ、で強化したカーボンナノチューブ強化プラスチックス(CNRP)は、CFRPより数倍強くしかもその比重がCFRPの25-30%と言われている。カーボンナノチューブでの炭素間の結合はきわめて強いが(9/8参照)、カーボンナノチューブの両端がプラスチックスを構成する分子と結合してプラスチックスの分子が互いに滑らないようにしてしまう。残念ながら、CNRPはCFRPよりさらに高価である。

CNRPはすでにゴルフクラブに使用されている。フォードは2001年ころCNRPを自動車に用いるよう計画したが、未だ研究段階の様である。ロッキードはこれをベアリングや戦闘機に利用しようと計画している。すでにCNRPを用いた翼の先端部分を、CFRPを用いるより安価に製作する方法を開発したとしている。

アメリカでは、国立研究所だけではなく大学の研究者も軍から資金援助を受けることが多い。それらの成果が直ちに発表されない場合もあるようだ。また、企業も軍を相手にしている限り価格競争が熾烈ではないだろう。しかしながら、その間に養うノウハウは貴重なものであろう。

ナノテクノロジーとエネルギー問題

2011-09-22 | 日記
20日の英紙ガーディアンに「ナノテクノロジーは安価なエネルギーを供給出来るであろうか」という記事が載っていた。原子力発電に問題点が見いだされた現在、エネルギー問題は人類にとって極めて重要である。ナノテクノロジーがエネルギー問題に貢献出来るとすると、エネルギーの発生と貯蔵である。この記事の結論は、生産者の安全上の問題を克服出来れば、かなり期待が持てるというものであった。ナノテクノロジーがエネルギー発生に貢献出来るとすると、太陽光発電と燃料電池である。

現在、太陽光発電にはシリコンが用いられている。シリコンを用いる場合、原理的にその発電効率が32%を超えることがない。現在用いられている太陽光発電装置の効率は十数%である。シリコンにナノ粒子を併用することによって、またシリコンの代わりに他のナノ粒子を用いることによって、その効率を上昇させることが期待されている。また、ナノ粒子を混入したプラスチックスがシリコンと同様太陽光発電に利用出来ることが見つけられている。本日のnanowerkのニュースに、その効率が18.6%に達したと報じられている。プラスチックスの太陽電池は柔らかく、どこにでも貼り付けられるという特徴を持っている。効率を上げるとともに、生産コストを下げることが今後の問題であろう。

燃料電池とは、陰極から水素イオンを、陽極から酸素イオンを発生し、それらを反応させることにより継続的に発電する電池である。イオンを発生する触媒の作用を改善するなど、ナノテクノロジーの応用が期待されている。

太陽光発電の効率がナノテクノロジーによって改善される理由を説明するためには、もう少し基本的知識が必要である。明日以降、具体的な発展を述べつつ、基本的知識(量子力学の初歩)を説明しよう。

日常生活でのナノテクノロジー

2011-09-21 | 日記
ナノテクノロジーの市場規模が2015年には1兆ドルになるであろうと予想されていることをすでに述べた(9/6参照)。この報告は2008年になされたものであるが、もとになるデータが2000年になされた国際的調査による。最近の調査によると、2009年の市場規模は117億ドル、2015年には267億ドルと予想されている。ちなみに、NSFでなされた報告によると、2000年の市場規模がすでに400億ドルと評価されている。いずれにしても、すでにわれわれの周りにはナノテクノロジー製品が存在していることには間違いない。

    

英紙ガーディアンの記事「日常生活でのナノテクノロジー」によると、すでに普及しているものの例に、しわがよらないシャツ、傷がつかないサングラス、カメラホーンなどが挙がっている。また、飛行機の車体やその他色々のものの被覆材にナノ粒子を含むものが用いられているという。これらは、ごみをくっつけない、水をはじくなど色々な効用がある。プールの掃除にもナノテクノロジーが使われているようだ。

この記事の中で、ナノ粒子の作用が動植物の中で実際起こっていることが強調されている。たとえば、渇いていても濡れていても同様に接着する接着剤を開発するため、トカゲの足に生えている毛や水中で岩に吸着する貝類をナノスケールで解析している研究者もいる。また、セミ類の羽は光を反射させないで98%の光を通過させてしまうが、これは羽の上に約200ナノメーター間隔で小さな突起があるからである。また東南アジアに白いかぶと虫がいるが、それはその羽の上で分子が特殊な並び方をしていて、光をすべて反射させるためであることがわかっている。こういった特性を利用すると、光の透過しやすいシートや光を反射してしまうシートなどを作成することが出来る。また、汚れがつかない窓ガラスが作られているが、これはハスの葉が水をはじく性質を観察して作られたものである。

これまで、炭素原子が作るナノ粒子について主に説明してきたが、金属でも半導体でもどんな材料でもナノサイズになると大きなサイズでは見られない特殊な性質を示すようになる。どうしてこのようなことが起こるか、さらにどのような発展が期待されるかについてもう少し組織的に説明しよう。

日本では教育の機会均等が失われている

2011-09-20 | 日記
日本に住む人々は、それぞれその能力に応じて各自が希望する教育を受けることが出来なければならない。この教育の機会均等が失われているように思われる。

国公立の高校・大学へ進学するために、多くの中学生・高校生は塾で勉強している。家庭の事情により塾に通えない生徒にはハンディキャップがついてしまう。最もひどいのは、大学医学部である。現状では、偏差値が高く国公立大学の医学部の入学試験に合格出来る学生か、親が裕福で私立大学の医学部を卒業出来る学生しか医者にはなれない。

戦後の日本では、アメリカ進駐軍の命令により地主の持つ農地が戦時中小作人と呼ばれていた人たちに配分された。また、組合が強くなり人々が比較的高賃金を得るようになり、一億総中間層の時代に突入した。このころは、勉強さえすれば誰でも大学へ進学出来たはずである。

大学受験に失敗した浪人のために作られた塾が、いつの間にか高校、中学校、小学校の在校生にまで広がってしまった。塾の授業の方が学校の授業より面白いという生徒が多いようだ。塾の教員には教員免許を持たない人が多い。現在では、大学卒業時に取得した単位によって教員免許が発行されるようになっているが、もっと門戸を広げる必要があろう。

教育者は生徒・学生を評価する義務がある。アメリカでは、その評価に基づき教育者が生徒・学生を選別するシステムが確立しているようだ。著名州立大学では入学者数に対して卒業者数の割合が低い。多くの学生が、その能力に応じて格下の大学へ移って行くからである。このためか、アメリカの大学生は日本の大学生よりよく勉強する。また、高・中・小学校では飛び級がある。推薦入学の仕組みも確立しているようだ。

どのように改革するかはともかくとして、科学技術のみでなくあらゆる面で日本の活力を維持するためには、誰でも勉強したい生徒が希望する大学へ進学出来るように改善する必要があろう。奨学資金の給付も現在のところ入学してから決定されるものが多い。入学前に決定していなければ本来の意味を持たない。

明日は日常生活でのナノテクノロジーの話に戻ろう。

英語教育を変える必要がある

2011-09-19 | 日記
英文の読み書きの話が出たついでに、英語教育について意見を述べておきたい。日本人の英会話能力が、北朝鮮より少し上であると言われてから久しいが、英語教育法が本質的に改善されているとは思えない。

70台以上のドイツ人、フランス人、イタリア人は、流暢に英語を話す人でもその英語はそれぞれドイツ式、フランス式、イタリア式である。もちろん日本人もその例に漏れない。日本人の場合はもっと若くても日本式英語を話す人が多い。最近テレビで聴いた英語では、たとえば前原民主党政調会長の英語は日本式である。

ヨーロッパとくにドイツ、デンマークなどの若い人たちの英語は、急速にネイティブなみになってきた。どうやら、小さいときから英語を学んでいるらしい。歳をとると、英語の発音に必要な舌の動きが出来なくなってしまうようだ。その意味で、小学生が英語を習うのは大賛成であるが、誰が教えるかが問題である。まずネイティブなみの発音ができる人である必要がある。さらに、ある状況に置かれた時に、ネイティブと同じ言葉が速やかに出てくる人でなければいけない。子供は、相手がどう反応するかを観ながら言葉を速やかに覚えていくからである。講習会を受けた小学校の先生方に英語教育をさせようとしているようであるが、あまり期待がもてない。教員免許の枠を緩めて、在日のネイティブや帰国子女などを活用するべきではなかろうか。

高校や大学教養での教科書が薄すぎる。英語の文章を逐一日本語に訳すのではなく、英文で書かれたものの内容を速やかに理解できるようになる必要がある。英作文では、日本語の英訳ではなく自分の考えを英語で表現する修練が必要であろう。とにかく多くの学生に教えて欲しいのは、英文学や英語学ではなく英語である。

日本のラジオなどの電子機器がアメリカで発売され始めたとき、「マニュアルの英語が文法的には正しいが変(funny)である」とアメリカ人によく言われた。どうやら、日本語のマニュアルを”英語に堪能な”英文学・英語学の専門家に英訳してもらっていたらしい。こういうときは、ネイティブの書いたマニュアルをいくつか集めて、そこに使われている英語で新しい電気機器のマニュアルを作成するのが正道であろう。

日本のメディアは科学技術に弱い

2011-09-18 | 日記
イギリスの新聞ガーディアンの記事「日常生活でのナノテクノロジー」を紹介しようと思ったが、その前に記事数の多さと啓蒙性の高さを強調しておきたい。これはガーディアンに限ったことではない。イギリスの主要紙タイムズも、またアメリカの主要新聞でも同様である。

これに対して日本の各紙はいささかお粗末である。記事数もさることながら、ほとんどの記事が日本で起こった事柄の報告である。たとえば「体温を2度下げるスプレー、五霞(地名)の企業が開発」などなど。これに対して、ガーディアンなどの記事にはローカルな記事もあるが啓蒙的な記事が多い。たとえば、「水純化技術はグリーンエコノミーを刺激するであろう」、「ナノテクノロジーと科学---ナノ医薬品は少ない投与量で大きな効果を与える」、「ナノテクノロジーの世界---ナノ医療は新しい治療法を作り出す」などなど。

科学技術の進歩はグローバルである。人々は、科学技術の世界でどのような変化が起こっているかを知る必要がある。もちろん、日本でも専門家の間では最先端の情報が飛び交っている。これを一般の人々に伝えるのがメディアの役目である。

私は、日本の科学技術記者たちが、世界中を飛び交っている英文の情報を読まないのではないかと臆測する。理系の大学の学部を卒業して新聞社に入り取材に追いまわされていて、とてもそんな暇がないのかもしれない。理系大学の学部を卒業して修士・博士の学位を取得した人たちは、研究の過程で科学技術に対する理解をさらに含め、英文の読み書きにも熟達する。日本では、ポスドク(博士の学位を持った研究者)の中に直ちに就職口を見つけ得ない人たちがいるとも聞く。ポスドクが情報活動に関与することができれば、人々の啓蒙に役立つように思われる。

世界で最も小さいモーター

2011-09-17 | 日記

H L Tierney et al Nature Nanotechnology (2011) doi:10.1038/nnano.2011.142

ワシントンポスト紙の「ナノテクノロジー電気モーターは一つの分子でできている」という記事を紹介しよう。電気モーターとは電流を流すと回転する機械であるが、これをナノの世界で達成したという報告である。これまで200ナノメーターの大きさのモーターが存在していたが、新しいモーターは1ナノメーターの大きさである。このモーターは銅(オレンジ色)の上にブチル・メチル・サルフィッドと呼ばれる分子を乗せたものである。図の黄色い丸が硫黄原子で、銅原子と結合している。硫黄原子の左側にはメチル基(1個の炭素原子と3個の水素原子)、右側にはブチル基(4個の炭素原子と9個の水素原子)が結合している。硫黄原子に向かって電流を流すと、硫黄原子を中心にしてこの分子が回転するとのことである。

硫黄原子の上にある電極には、走査型トンネル顕微鏡(8/26参照)の針を使用する。この装置は、原子を1個1個識別することが可能であるから、硫黄原子に向かって電流を流すことは容易である。

このモーターをどのように使うかまだ答えが出ているわけではない。ナノテクノロジーの世界では、非常に感度のよい、例えば1個の分子でも検出できるセンサーを作ることができる。このようなセンサーが発する電流を使って何かほかの物を動かす必要があるかもしれない。一般に、ナノサイズで運動を伴うようなデバイスをNEMS(nano-electro-mechanical system)と呼ぶが、このようなモーターはNEMSの中で重要な役割を果たすことになるであろう。

明日は、もう少し現実的な製品の紹介をしよう。