ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

ナノレンズ: 100ナノメーター以下への集光

2012-10-29 | 報道/ニュース

電磁波を受信したり送信するのに用いられるアンテナのサイズは電磁波の波長と同程度であることが必要だ。従来光の制御には鏡、レンズ(光の屈折による)などが用いられているが、これらはレンズの概念とは程遠い。ナノテクノロジーの進歩に伴って、光の波長のサイズのアンテナを加工したりまたナノ粒子を配列させたアンテナが開発されている(8/2,13/12,9/9/12参照)。アンテナは自由に伝搬している電磁波のエネルギーを集中させたりまたはその逆の動作をするもので、もちろんレンズ(1/23,9/21/12参照)の役目を果たすことも出来る。

ドイツの研究グループは、DNAの助けを借りて2個の80-100 nmの金ナノ粒子を数10ナノメーター間隔で並べると、光をナノ粒子の間に集光させナノレンズとして作用することを明らかにした。DNAは高い精度でいろいろな形に成形でき、また粒子を付着させることが出来るのでナノ粒子の自己配列など種々の操作に便利が良い(HP2.1C6参照)。2個の金ナノ粒子はDNAに付着しているが、さらに色素を付着させ、集光の結果色素が強い蛍光を出すことを示した。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=27097.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UItRxkm_qWM.google

このように光を小さい領域に集光出来ると、とくに生物現象などの観測にのに威力を発揮するものと期待されている。また光がナノ粒子とどのように相互作用するのかを明らかにすることはナノオプティクスの基本であろう。この分野での貢献も期待されている。


ナノテクディスプレイの現状: フィールドエミッションディスプレイ

2012-10-27 | 報道/ニュース

アメリカのMITの技術誌にフィールドエミッションディスプレイ[HP(http://www.ne.jp/asahi/noriaki/itoh/)3.5A1参照]に関する記事が掲載されていたので紹介しておこう。
http://www.technologyreview.com/featuredstory/403306/nanotech-on-display/

現在広く使われている液晶ディスプレイやプラズマディスプレイには種々の欠点がある。液晶ディスプレイは見ることが出来る角度は限られている上、反応は遅い。プラズマディスプレイは消費電力が大きくまた静止画像を長時間映像し続けるとその部分のピクセルが破壊される恐れがある。これに代わる候補の一つがフィールドエミッションディスプレイと有機ELディスプレイで、おそらくナノテクエレクトロニクスで最初に製品化されるものはディスプレイであろうという。

フィールドエミッションディスプレイに関して現在世界をリードしているのは韓国のサムソン電子である。サムソン電子に続くのは日本の名古屋大学を中心とするグループである。このグループは、経済産業省に属する独立法人NEDOの資金援助を受けていて、日立、旭硝子、ノリタケが協力している。今のところ韓国に遅れをとっていることを認めている。テレビのディスプレイは年商600億ドル程度であるのでその期待は大きい。しかしながらその製品化には真空中で電子を加速する必要があるなどいくつかの越えなければいけない問題がある。 競争相手には有機ELディスプレイ(HP3.5A2)ならびに量子ドットディスプレイ(HP3.5A3)もある。

ちなみにサムソン電子は有機ELディスプレイや量子ドットディスプレイでも世界をリードしている(6/6参照)。


ナノの世界では摩擦にも異変が: 摩擦係数がゼロや負に

2012-10-24 | 報道/ニュース

床に置いてある物体を動かそうとすると力が要る。これは床と物体との間に摩擦力が働くためである。摩擦力は物体が床を抑える力すなわち重力に比例する。摩擦力と床を抑える力との比を摩擦係数と呼ぶ。この摩擦係数は通常正の値をもつが、ナノの世界では摩擦係数がほとんどゼロになったりまた負になったりすることがあるようだ。MEMS(12/8参照)と呼ばれるスイッチなどの小型機械では、体積に対して表面積が大きいため摩擦は深刻な問題で盛んに研究されている。

中国とオーストラリアの共同研究グループの実験によると、厚さ200-400ナノメーターで一辺の長さが20マイクロメーターの柱状のグラファイトの上面に酸化シリコンを張りつけ水平に動かすとグラファイトの一部がはがれる。この際動かす方向によっては摩擦係数がほとんどゼロになるという。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/apr/05/nanomachines-could-benefit-from-superlubricity

摩擦係数が負になることはアメリカの国立研究所NISTの研究グループによって報じられている。この実験では、直径30nmのダイアモンド針をグラファイトの表面に接近させ表面と平行に移動させる。これはもともとは原子間力顕微鏡(AFM,7/2参照)の操作で、ダイアモンドとグラファイトの間に電圧を加え針と表面との間の力を測定することによってグラファイト表面の原子の配列を知ることが出来る。さて、ダイアモンドの針を動かすのには摩擦力に打ち勝つ必要がある。針が表面に近いほどグラファイト表面との間に働く力が大きいため摩擦力が増加するように考えられる。ところが、ダイアモンドの針を表面から遠ざける程針を動かすのに大きな力が必要であるという。この結果は、グラファイトの層(グラフェン)が針に引っ張られ歪み、針が表面から離れるほど歪みが大きくなり針を動かしにくくなると考えられている。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/oct/18/negative-friction-surprises-researchers

ナノの世界では全く予想されないことが起こることがまたは起こすことが出来るようである。


ナノテクノロジーと宇宙産業

2012-10-22 | 報道/ニュース

宇宙産業にもナノテクノロジーがその効力を発揮しつつあるという記事がNanowerkに掲載されていた。これまでもいろいろな分野でのナノテクノロジーの影響についての記事を掲載したが、それらの所在をホームページの4.トピックス欄にまとめておいた。
http://www.nanowerk.com/nanotechnology-in-space.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

さて、現在のところロケットの噴射には化学燃料が使われている。これを電気噴射に変えようとする試みがある。電気噴射が成功すると使用する燃料の量が格段に少なくなるという。すでにNASA(アメリカ)のDeep Space1,日本のHayabusaならびにESA(EU)のSMART-1では、デモンストレーション行われ成功を収めている。電気噴射では、電荷をもつナノ粒子に電圧を加え加速させる。粒子の質量が小さいため各粒子は大きく加速され、その結果ロケット噴射に十分なエネルギーが得られるという。

宇宙飛行士の宇宙線による被曝も深刻な問題である。宇宙線の内中性子線はボロン(B)によって吸収される。ボロンナノチューブを宇宙衛星の壁に混入することによって中性子線の被曝を少なくしようとする試みがある。中性子を吸収したボロンには余剰のエネルギーが蓄えられる。このエネルギーは壁の中で熱エネルギーに転換するので、これを利用することも出来る。デバイスの放射線による損傷も問題である。デバイスは素子の一部が損傷を受けてもその機能を損なうことがある。ナノテクノロジーによって素子を小さくすることに期待が寄せられている。

量子ドット(HP2.2B1参照)を用いて対宇宙衛星ミサイルの追撃を防護しようという計画がある。対宇宙衛星ミサイルは光を放出して宇宙衛星から反射される光を検知しつつ宇宙衛星を追跡する。対宇宙衛星ミサイルが発射されたという情報を受けて量子ドットの雲を宇宙衛星の周辺に放出する。量子ドットを光によって励起すると種々の波長の光を放出する。これを利用して対宇宙衛星ミサイルの進行方向を宇宙衛星から回避させようというものである。

最後に宇宙エレベーターの計画があるが、これについてはすでに述べた(2/6参照)。

アメリカでは、宇宙産業の国際的優位を維持するために、ナノテクノロジー関連の研究開発にさらに多くの予算を投じるべきであるという意見もある。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=27000.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UH4jnLcpELU.google


再び"透明マント"

2012-10-20 | 報道/ニュース

これまで"透明マント"という表題の記事を2回掲載したが(5/9,10/17/12参照)、電磁波(光)に関する説明が欠けていたので、改めて紹介しよう。

目に見えなくすることはinvisibilityまたはcloaking effectと呼ばれている。cloakingとはマントの様なもので覆うことであるので"透明マント"と訳してしまったが、実際はもちろんマントとは程遠い。

さてcloakingには二つの方法が提案されている。一つは前回(5/9参照)述べた方式で、電磁波をナノ粒子の周辺を通過させ、通過した後は全くナノ粒子が存在しなかったかのように電磁波が進行する(下図参照)。このようなことを可能にするためには、ナノ粒子の周りを人工材料で囲み電磁波に特別な性質を持たせる必要がある。またナノ粒子の半径は電磁波の波長より小さいことが必要である。この手法は現在のところマイクロ波領域でのみ達成されている。

もう一つの方法はナノ粒子に被覆物を付着させナノ粒子による反射係数を小さくする方法である。例えば2009年のNanowerkのニュースによると、ナノ粒子をシリコン板で覆うことによってナノ粒子を赤外線領域の波長の光で見えなくすることが出来るという。このほか金属にプラズマ振動を誘起させcloakingを起こさせるなど種々の試みがなされている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=10407.php

これらの課題については、特に波長より短い距離での電磁波の挙動を理解する目的で実に多くの研究がなされている。また、センサーをcloakした場合もセンサーの感度が低下しないがセンサーによって光が散乱されなくなるという

J B Pendy et al 2006 Science 312 1780



電子に対する"透明マント"の効用は

2012-10-17 | 報道/ニュース

以前にナノテクノロジーを用いた人工材料で、見えるはずの物体を見えなくすることが可能であることを述べた(5/9参照)。これは光線が物体の周りを通り、物体を通り過ぎるとあたかも物体がなかったかのように進行することによって達成出来る光ではいまだ実現していないが、特定波長の電磁波に対してはほぼ実現している。量子力学のもとでは電子も波とみなすことが出来る。したがって、電子で見ようとしても見えない物体を作成することが可能であるはずだ。

MITの研究グループはこのことを理論的に明らかにした。この研究グループによると2種類の金属の同心球(コアセル構造4/12,16,9/4/12参照)に電子を通すと電子の流れが全く乱されないようにすることが可能であるという。この場合、電磁波の場合のように電子が物体の外側を通過するのではなく、物体内部を通過し、その後全く物体がなかったかのように進行するという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26959.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

このようなシステムの熱電効果(11/12,12/2,2/29,4/19参照)への応用が考えられているようだ。熱電効果とは2種の材料を接触させ電圧を加えると接点の間に温度差が生じる現象、また逆に温度差を与えると電圧が発生する現象である。この電気エネルギーと熱エネルギー間のエネルギー変換の効率を上げるためには、電気伝導度が高く熱伝導度が低い材料を選ぶ必要がある。コアセル構造のナノ粒子を一定間隔で配置すると、この目的のためには理想的であろう。また、コアセル構造に何かを付着させると電子流が変化することからスイッチにも利用出来るという。


ナノウエブ(ナノサイズの蜘蛛の巣)

2012-10-15 | 報道/ニュース

フランスの研究グループは、絶縁体のナノロッドを蜘蛛の巣状に規則正しく並べたナノウエブが入射してきた光をほとんど透過しないことを見つけた。これは、ナノウエブで光が散乱され透過しなくなるためで、ナノロッドが吸収する光の25倍の光がナノウエブでブロックされるという。
http://physics.aps.org/synopsis-for/10.1103/PhysRevLett.109.143903

この研究グループは、シミュレーションと実験を行っている。実験では太さ500nmの窒化シリコンのナノロッドを3ミクロン間隔で並べたものが用いられている。このナノウエブで特定の波長の光がほぼ100%ブロックされるという。

以前に金属ナノ粒子を規則的に並べたものが、プラズモンを誘起するため光のフィルターとして使用出来ることを紹介した(3/9参照)。この場合は、光が共鳴的にプラズマ振動を誘起するため光のエネルギーが吸収される。吸収されたエネルギーは最終的には熱エネルギーに変換する。ナノウエブは吸収される光エネルギーが小さいため有利であろう。今後フォートニックス(11/18,12/11)の素子として効力を発揮するであろう。


閑話休題

2012-10-13 | 報道/ニュース

ブログを始めてから1年2カ月が経ってしまいました。記事数301件、おかげで随分色々と勉強しました。集まった資料をホームページ(http://www.ne.jp/asahi/noriaki/itoh/)にまとめつつあります。その表題は"誰でもわかるナノテクノロジー"です。前世紀では、学術論文の中で生活様式を変えるかもしれないと思わせるものはほとんどありませんでした。ところがナノテクノロジー関連論文の中にはそういうものが非常に多いのです。そういうものをブログに記載しています。ホームページではまず応用からまとめようと試みています。最近"ディスプレイ"を記述しました。基礎は応用の記述に必要なものから順に掲載します。


種々の分子を識別出来る高感度センサー

2012-10-12 | 報道/ニュース

表面増強ラマン散乱surface enhanced Raman,SER) という現象がある。ラマン散乱とは、分子の集団にレーザー光を照射し、散乱する光の波長を測定すると少し長波長へずれる。これは、レーザー光が分子の振動を励起しそれによってエネルギーを失うためである。分子の種々のモードの振動を励起するため、散乱光のスペクトルを測定することによって分子が識別出来る。分子の集団をあまりスムースではない金属の表面に置くとラマン散乱光の強度が増大する。1970年代に見つけられたこの現象をSERと呼ぶ。この現象が起こる理由は、入射したレーザー光によってプラズモンが誘起されそのエネルギーが入射するレーザー光をならびにラマン散乱光に乗り移るためであると考えられている。表面がスムースでない方がSERが顕著になる理由は、入射光や散乱光と振動方向が一致したプラズマ振動がSERに寄与するからである。サイズの大きい金属の表面より金属ナノ粒子の集まりの方がSERが顕著であることは明白であろう。

平板上に配列した金属ナノ粒子を用いて高感度のSERセンサーを作成する試みは多くなされてきた。必要とすることは、出来るだけ高密度でナノ粒子を配列すること、ナノ粒子の配列が均一であること、ならびに製作費が安いことであろう。シンガポールの研究グループは、シリコンなどの支持台を特殊な高分子の薄膜でコートし、その上に金ナノ粒子を落とすと規則正しく配列(セルフアセンブリ)し、これが高感度のSERセンサーとして動作することを見つけた。金属ナノ粒子間の間隔は5nmと小さく、まだ製作費も安いという。
http://www.sciencedaily.com/releases/2012/10/121010150806.htm

高感度SERセンサーが開発されると、がん細胞、食べ物中の病原体の検出に威力を発揮するであろう。

 


2012年ノーベル物理学賞とナノテクノロジー

2012-10-10 | 報道/ニュース

今年のノーベル物理学賞はフランスのSerge HarocheとアメリカのDavid J. Wineland両氏に授与されたが、彼らの研究はいずれもナノテクノロジーの目指す究極のコンピュータ、量子コンピューターの根幹となり得るものである。

現在使われているコンピューターのメモリは1ビット当たり0または1を識別出来るのにすぎない。量子コンピューターでは量子状態をメモリに用い、量子ビットと呼ばれている。0または1がが識出来る二つの量子状態が相互作用すると、絡み合いという現象の結果4この状態を識別出来る。このように1量子ビットでさらに数多くの情報を記憶することが可能となり、コンピューターの性能の格段の進歩が期待されている。

量子ビットとしてある状態の原子を用いることが出来る。しかし絡み合いによって生じる状態のエネルギー差は非常に小さいので、原子記憶させた情報をそのまま読み取るには工夫が必要である。Wineland氏が開発した手法はレーザー冷却(laser cooling)と呼ばれる手法である。原子をレーザー光によって励起するがその時原子は光から圧力を受ける。レーザー光のエネルギーを励起に必要なエネルギーより少し小さくしておくと、ドップラー効果の作用によりレーザー光ビームの外側に動く原子がより強い圧力を受け、それによってレーザー光ビームの中心に引き寄せられる。その結果、原子の運動エネルギーがほとんど0なり情報が乱れることがない。

Haroche氏の手法は、原子ビームを磁界を加えた容器の中を通し、その際電磁波を加えて原子を所定の量子ビット状態にし、この状態を速やかに検出するという手法である。

このほかにも固体の中に混入した原子を量子ビットに用いようとする試みもある(3/1,10参照)。


ナノテク関連会社情報: 蓄電池から剃刀まで

2012-10-08 | 報道/ニュース

ニュースで紹介している新しい研究成果はブレークスルーとなり得るもので興味深いが、商業ベースへの実現には年月を要すであろうしまた実現不能なものもあり得る。それに比べると会社関連情報ははなはだ現実的な情報である。

1996年にカナダに設立されたElectrovaya社は、次世代リチウムイオン蓄電池(11/1,25,6/17参照)の製造を開始したと発表した。新しい電池の1キログラム当たり蓄積される電気量は200Wh(ワット×時間)で、すでに製作されているリチウムイオン蓄電池では最高クラスであるという。この値は、現代自動車に用いられている蓄電量の約5倍程度である。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26826.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UGPTeVvf5uE.google

ベルギーのImec社とSolvay社は、有機半導体(HP2.1D7および3.7A2参照)を用いた有機太陽光発電モジュール(2/20参照)の発電効率5.5%を達成したと報じている。この発電効率は現在のところ世界一であるという。有機太陽光発電モジュールは低価格で薄くまた軽くしかも製作が容易であるため、携帯用電子機器などに用いられようとしている。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26793.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UGEil0R_hyg.google

アメリカのNano-Sharp社は、非常に切れ味の鋭い刃物を製作しようとしている。現在用いられているセラミック刃物は、シリコンなどの薄板をシャープにとがらせて製作している。同社の製品の製法の詳細は不明であるが、シリコンの平板をエッチして平板に垂直なシリコン薄板を作り出す際に形成されるようである。刃の先端の厚さはシリコン原子の大きさ程度であるという。今のところ非常に高価(1枚600ドル)で、医療用刃物などに用いられているという。

http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26733.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UFfklCYJcIs.google

Nano-Sharp社の設立過程が興味深い。カリフォルニア大学デービスにあるEngineering Translational Technology Centerは、いわば工学を技術に転換するセンターで、プライベートな資金援助が期待出来るようなベンチャー企業を育てようとしている。Nano-Sharp社は、このセンターで立ち上げられた三つの企業のうちの一つで、カリフォルニア大学の教授が創設者の一人であるという。


燃料電池用の高効率有機触媒

2012-10-06 | 報道/ニュース

水素燃料で電気エネルギーを発生する燃料電池は環境にやさしいエネルギー源としての期待が大きい(9/26参照)。燃料電池で水素と酸素を結合させるのに白金が触媒として用いられている(10/16,17,10/12,5/28参照)。しかしながら水素燃料を実用化するのには、白金に代わる安価で資源として豊富な触媒材料の発掘が必要であるといわれている。

2009年にアメリカの研究グループが、炭素原子の一部を窒素原子で置き換えたカーボンナノチューブを電極と垂直に整列させることによって、白金と同程度の触媒効果を示すことを明らかにした。炭素原子を窒素原子でおき変えることによって電子密度が上がることになるという。その後、金属を用いないこのような触媒の効率を高める努力がなされてきた。最近、スウェーデンの研究グループは、カーボンナノチューブの炭素原子を置き換えた窒素原子の周辺の原子配列によって触媒効率をさらに高めることが出来ることを明らかにした。この触媒はまた水を分解(9/17参照)にも効力を発揮するという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26906.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UG-Uit6yoC0.google

ナノ粒子の電子構造は種々雑多である。どのような電子構造が触媒に最適であるかコンピュータシミュレーションならびに実験による研究が活発に行われている。


グラフェンで金属の腐食防止を

2012-10-04 | 報道/ニュース

前回に引き続きグラフェン、すなわち単原子厚さで結合した炭素原子のシートの応用を紹介しよう。グラフェンは強くまた化学的に安定でしかも電気をよく通すという優れた性質を持っている。オーストラリアとアメリカの共同研究グループは、グラフェンで金属をコートすることにより金属の耐腐食性を格段に増大出来ることを示した。彼らは800から900℃でグラフェンを銅の表面に付着させた。その結果、耐腐食性が100倍以上増加したという。通常コーティングによる耐腐食性の増大は5、6倍程度だという。したがってグラフェンのコーティング効果は絶大であるといえる。しかも通常のコーティングと比べてグラフェンコーティングは化学的にも安定である。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26835.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UGUCJDEYmgc.google

この研究グループは、すでにニッケルやステンレススチールでも同様の耐食性があることを確認しているという。またさらにもっと低い温度でのコーティングで同様の効果が得られないか検討中であるという。炭素原子は地球上に有り余っている。グラフェンによるコーチングが実現すればその影響は大きい。


グラフェンがシリコンに置き換わるか(ビデオ付き)

2012-10-02 | 報道/ニュース

ノルウェーの研究グループが全く新しい半導体の製法を見つけだした。それはグラフェン(HP2.2A1参照)上に化合物半導体GaAsナノワイヤーを垂直に成長させたものである。ナノワイヤーはグラフェン面上に規則正しく分布している。ナノワイヤーの長さは1ミクロン程度である。このハイブリッド材料は半導体として動作する。その厚さは、現在用いられてシリコンの厚さの数百分の1でほぼ透明である。ベースとなるグラフェンはシリコンより電気伝導度が高く、また温度によって変化しない。GaAsは電子の移動速度が速いなどシリコンに比べると優れた性質をもっている。差し当たってLEDや太陽光発電パネルへの応用が考えられている。窓にTVスクリーンや太陽光発電パネルの機能を持たせることも可能になるかもしれない。またこのハイブリッド半導体は柔軟性をもっているので、携帯電話のスクリーンを腕時計のよう腕に巻きつけることが出来るようになるかもしれない。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26851.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UGZXXqhDEP8.google

このハイブリッド半導体の製法をアニメーションビデオ(http://youtu.be/3wLOXHRVVwQ)を見ながら説明しよう。ビデオではまず超高真空装置の中が現れる。手前にグラフェンが設置されていて、窓が開くとガリウム原子ビームが飛び出してくる。ガリウムは液滴となってグラフェンの上に規則正しく配列する。次にその様子の説明がある。さらに、今度はヒ素原子ビームの窓も開く。ガリウム原子とヒ素原子は液滴とグラフェンの接触面で結合しGaAsナノワイヤーが一層ずつ垂直に成長する。数分で1ミクロンに達するという。

これまで半導体ナノワイヤーは厚い支持台の上に成長されていた(12/7,8参照)。この点でもこの研究は画期的である。

ビデオではCrayoNanoと共同開発中と述べているが、サムソンやIBMも興味を示しているという。