ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

ナノ粒子の集団は微弱な音を聴くことが出来る:ナノ耳

2012-01-13 | 報道/ニュース

ドイツの研究者たちはナノ耳をアメリカの物理学専門誌Physical Review Lettersに発表した。人間の耳の100万倍の感度を持つという。

ナノ耳の原理を説明する前に、光ピンセットを説明する必要がある。レーザー光を絞り込むとそこに小さな粒子が捕獲される。生体分子を破壊することなく捕獲出来るので、生物学ではしばしば利用されている。粒子がレーザー光に引き寄せられる原因は、粒子の大きさが光の波長より大きいか小さいかによって異なる。光の波長より大きい場合は屈折率の違いが原因で、小さい場合はレーザー光の電場によって引き寄せられる。

ナノ耳を作成するためには、水中に金のナノ粒子を分散させ、レーザー光を通す。レーザー光の焦点を絞りこむと、その場所に金のナノ粒子が捕獲される。水分子は熱振動(11/12参照)しているが、金のナノ粒子は水分子と衝突しエネルギーをもらい、そのためレーザー光ビームの中心のまわりに一定の広がりをもって分布する。著者たちは、音波を発生すると金ナノ粒子の分布が変化することを観測した。音波が水分子を振動させ、その振動が金ナノ粒子に伝わり、金ナノ粒子の振動エネルギーが増加するためであると考えられる。ナノ粒子は小さくて軽いため、またレーザー光が粒子を閉じ込めるエネルギーがそれほど大きくないため、小さい音も検出出来る。

生きているバクテリアやウイルスが発する音の解析に利用出来るだろうという。また、音顕微鏡、すなわち音の発生場所を特定出来る顕微鏡も、著者たちの視野に入っているようだ。


自己修復出来る電池

2012-01-12 | 報道/ニュース

アメリカのイリノイ大学と国立アルゴン研究所の研究者たちは、損傷すると温度が上がりそのまま修復する電池を開発しようとしている。電池の損傷の多くは電極が破壊するものと考える。そのため、液体金属を含む小さな球状のカプセルを電池の中に混入しておく。電池や損傷すると、カプセルが破れ、液体金属が流出し電極を埋める。これによって電池が回復するという。

柔軟性のあるカプセルの中にナノ粒子を取り込め、デバイスの中の金属板などに生じたクラックを自己修復させようとする試みがなされ始めている。ピッツバーグ大学とマサチューセッツ工科大学のグループによると、カプセルが金属板上を転がり、クラックが存在するとナノ粒子を放出することにより修復し、さらに次のクラックを目指して転がり続ける。セレン化カドミウムのナノ粒子と表面活性剤とオイルをカプセルの中に混入し成功を収めている。カプセルの大きさはマイクロメーター程度でクラックの中に入り込むことが出来ないが、その柔軟性のため、クラックを見つけそこに停止することが出来るという。またカプセルの壁が薄く、かつセレン化カドミウムとクラックの吸着性のため、カプセル内の溶液がしみだすという。

この研究は、白血球が傷口を修復する手法にヒントを得たとのことである。


スマートウィンドウ

2012-01-11 | 報道/ニュース

スマートウィンドウとは、暑いときには透過する光の量を少なくし、寒いときには出来るだけ多くの光を透過することによって、冷暖房費を節約出来るようにした窓のことである。吸収した光エネルギーで発電出来るものもある。

デンマークの研究者が提案したスマートガラスの原理を説明しよう。窓ガラスに電気伝導性を持たせ、その外側に蛍光性の染料を混入した液晶の溶液を別の電気伝導性を持ったガラス板ではさむ。窓ガラスとガラス板の間に電圧を加えると、液晶がガラス板と垂直になり光が吸収されない。電圧に応じて液晶が向きを変えて、染料が光を吸収して蛍光を出す。ガラス板が導波管の役割を果たし、蛍光の一部が右端の発電パネル(PV)に導く。

                     

これ以外にもいろいろなスマートウィンドウが提案されている。酸化バナジウムは大変面白い性質を持っている。摂氏68度以下では半導体(9/25参照)で、赤外線、可視光を通す。68度以上の温度では金属となり、赤外線を通さないが可視光を通す。冬は半導体に、夏は金属にしておくと極めて都合が良い。しかしながら、現在までのところ実用に供されるような結果が得られていなかった。中国の研究者たちは、ナノサイズの酸化バナジウム粒子とナノポァー(12/20参照)を含むバナジウム粒子の混合物を用いると、スマートウィンドウとして良好な結果が得られると報じている。
                   
赤外線や可視光線を完全に反射する状態から、完全に透過する状態へ簡単に切り替わるような物質があれば大変都合が良い。最近中国の研究者たちは、ガラスの上に特殊な有機化合物をスプレイしたものに化学処理(水和作用)を施すと、その光透過度が91%から0%に変化すると報告している。

商品化されるにはまだまだ時間がかかりそうであるが、いずれは、窓ガラスだけではなく建物全体にこのような措置が施されるようになるであろう。


ナノコーティングいろいろ

2012-01-10 | 報道/ニュース

ナノテクノロジーを応用したコーティングについては、すでに成果が上がっているようだ。

英国航空は、同社のエアバスA318をTripleops社のコーティング塗料TripleOで塗装した結果、燃料費が節減できたと報じている。同社はさらにボーイング777-200に同様の塗装を試行し、10万ポンドが節減出来ると期待している。TripleOコーティングとは、ナノ粒子と高分子を組み合わせたコーティング材料で、ナノ粒子がコートされる材料表面の凹部に入り込み、塗装高分子材料を固定するもののようだ。

フォード社は、ウィンドシールドを車体に取り付けるのにナノテクノロジーを利用した新しい手法を開発した。これまでの方法では、揮発性有機化合物を用いる必要があったが、新しい方法では完全に自動化が可能である。まずセラミックスをコートしたウィンドシールドの接着部分にプラズマクリーニングを施す。すなわちガス中で放電させ、これによって表面をクリーンにし、かつセラミックスを活性化しナノ粒子を吸着しやすくする。これにPlasmaPlus社のナノコーティングを施す。これによって、ポリウレタンをウィンドウシールドに密着させることが出来る。これらの過程に要する時間が1分以内であるという。

Clear-tone社が発売する補聴器は、同様の方法でナノコーティングが施してある。湿度が高いときの水分の凝縮や汚染によって聴きにくくなることがないという。コーティングに用いるポリマーの厚さはナノスケールである。

Ecology Coating社は、化学会社大手のDuPont社の傘下にあるが、紫外線を照射することによって硬化する種々のコーティング剤を開発している。たとえばプラスチックのような紙、食品用包装紙などを発売している。


ナノテクノロジーとDNA

2012-01-09 | 報道/ニュース

ナノ粒子を規則的に並べることは、ナノテクノロジーの基本操作の一つであるが、DNAが作る規則的な構造が利用出来ることや、DNAが自己アセンブリ(自己組織化)を助けることなどをすでに述べた(9/27,28参照)。

DNAとはディオキシヌクレオチドの高分子である。ディオキシヌクレオチドとは、ディオキシリボースとリン酸、塩基とから構成される核酸で、塩基には、A、G、C、Tと略記される4種類がある。この4種類の塩基を含むディオキシヌクレオチドの結合順序が遺伝情報を決める。ディオキシヌクレオチドの結合順序を決めることをDNAシークエンシングというが、生物学的ならびに医学的にきわめて重要である。

DNAシークエンシングにはすでに色々な方法が開発され、良好な結果れられているが、長時間を要することが欠点である。DNAをナノポァー(ナノサイズの孔,12/20参照)を通すとき、ナノポァーを持つ材料に誘起される電荷が、塩基の種類によって異なることが指摘されていた。最近、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の研究者が、ナノポァーを持つ窒化シリコンにシリコンナノワイヤートランジスタ(10/22参照)を組み合わせたデバイスを作成した。これにより、DNAをナノポァーを通過させるだけでシークエンシングが可能であることを証明した。この方法が確立すると、DNAシークエンシングが画期的に効率化されるであろう。


ナノテクノロジーがMRIに画期的な変化を

2012-01-07 | 報道/ニュース

MRI(磁気共鳴イメージング)は、原子核がスピン(9/25,28)を持つことを利用する。スピンを持つ原子核は小さな磁石であると考えればよい。人間が、大きな磁石が発生する強い磁界の中に横たわると、体内のスピンが向きを揃える。これに電磁波を加えると、スピンが電磁波のエネルギーをもらってその向きを変える。この現象は、光(光も電磁波である)が半導体の価電子帯の電子を持ち上げる現象(9/27参照)と同じような過程であると考えてよいが、この場合はスピンの向きを変換出来るのは特定の波長の電磁波に限られる。これを磁気共鳴という。外から加える電磁波を切断すると、向きを変えていたスピンが電磁波を放出してもとの方向に戻る。MRIに用いるのは通常水素原子核であるが、その結合状態によって共鳴が起こる波長やスピンの向きを変える速度が異なる。このことが診断に利用されている。また、患部に造影剤を投与することもある。

3次元のイメージングのためには電磁波のビームをスキャンさせる。しかも電磁波の進行方向に磁場の強さを少し変えておく。放出される電磁波の波長が磁場の強さによって少し異なるので、これを利用して3次元のイメージングを可能にする。

ダイヤモンドのナノ粒子は、生体の中で無害でドラッグデリバリーにも利用されている。カドミウムを不純物として含むダイヤモンドナノ粒子が、放出する電磁波の強度を増大し、造影剤の役割を果たし得ることが示されている。最近、酸化鉄のナノ粒子がその周辺の磁場を乱すため、造影剤として利用出来ることも示されている。すでに治験の認可が得られているという。

現状では、MRIの分解能を上げるためには電磁波ビームを小さくする必要があるが、発生する電磁波が弱くなって測定出来ない。アメリカのピッツバーグ大学の研究者たちは、最近窒素を不純物として含むダイアモンドナノ粒子を用いて、局所的な磁界の強さを従来の方法に比べて10倍程度の高精度で測定出来ることを示した。この方法を用いて細胞内の分子集団のMRIを得ることが出来るものと研究を進めている。


ナノテクノロジーお国事情

2012-01-06 | 報道/ニュース

アメリカの電気学会IEEEのニュース記事「何故分子ナノテクノロジーがロシアでホットなのにアメリカでは冷めているのか」に興味をひかれた。

分子ナノテクノロジーとは、いわばナノテクノロジーの原点で、原子を積み上げてナノ粒子を構築しようとするものである(8/18)。アメリカでは、前世紀末頃までは、Drexler教授たちを中心にこの分野で先駆的な研究がなされて来た。今世紀に入ってからナノスケールの材料研究に重点が置かれるようになってきた。

ロシアでは、分子ナノテクノロジーに対する興味は依然として強く、ロシアで開かれた国際会議に出席したDrexler教授が、大歓迎を受けたとのことである。アメリカで転換が起こったのは、アメリカ政府の方針である。比較的近い将来に実用化への成果が現われそうな研究の支援に重点が置かれ、分子ナノテクノロジーの分野では、よほど目的が明確なものでない限り支援を受けることが難しくなっているようだ。ロシアではこのような変化が起こらないのは、政府の形態の違いが原因であるという。ロシアでは、政治家への資金が化石燃料などから多く流れていて、税金を払う市民にあまり気を使う必要がないからだろうと推測している。

日本では、ナノテクノロジーに関しては文部省傘下の産業技術総合研究所や各大学などが先駆的な研究を行っている。2007年には、国際ナノアーキテクトニックス研究拠点(MANA)が立ち上げられ、すでに国際誌Advanced Materialsに特集号を組むほどの成果をあげている。この研究拠点に所属する約200名の研究者の半数が外国人であるという。代表者は、元旦にNHKのナノレボリューションで紹介されていたナノスイッチの開発グループの主導者、青野氏である。青野氏は、この研究拠点の目的は、世界中から最先端の研究者を集め、良い環境のもとに、ナノテクノロジーと材料科学を結びつけた最先端研究を遂行するという。最近、ドイツ発のナノテクノロジーニュースでは、「日本政府は小さいものの研究を大きく考える」と評していた。年1回この拠点を訪問するアメリカのノーベル賞受賞者、Kronko教授(フラーレン(9/8参照)の発見者)は、この研究所の若手を称賛していた。


ナノテクノロジーで肥満を治せるか

2012-01-05 | 報道/ニュース

医療関係のニュースを二つ紹介する。

Arrowhead Research Corporation社が、新薬アディポタイドを治験に用いる許可をアメリカ食品医薬品局から受けたと発表した。アディポタイドとは、脂肪に血液を供給している血管に選択的に作用し(ドラッグデリバリ,9/28,10/30参照)、血管を縮小させる。これによって脂肪細胞を死滅させることが出来るという。

マイクロフルイディックスと呼ばれる微少流体を扱う最先端技術がある。1980年頃から開発されていて、直径100ナノメーター程度の管の中に液体を通し、種々のテストを行う。酵素、DNAなどに関する生物学的な目的に活用されてきている。

カナダの研究者たちは、80種類もの癌センサーを含むマイクロフルイディックス装置を開発した。80個の小さな柱が付いていて、血液をこの装置の中に通すと、いずれかの癌の恐れがあるときには、その癌に対応する柱が点灯するという。精度が劣るかも知れないが、遠隔地で手早く検査するのに適している。癌以外の病気の検査にも使えるという。


太陽光発電:低価格、高能率

2012-01-04 | 報道/ニュース

太陽光発電に関しては、これまで何回か述べて来た。ウェブサイト http://sroeco.com/solar/images/PVeff-rev100414.png を開くと、その効率が年とともにどのように変化して来たがよくわかる。現在市販されているのは、茶色の中抜きの〇で示した染料を付加したシリコンパネルで、その効率は十数%である。

太陽光発電の原理はすでに説明したが(10/2,26参照)、もう一度まとめておこう。半導体の中で、電子は最もエネルギーの低い充満帯に閉じ込められ(9/25参照)、動くことが出来ない。充満帯のすぐ上には禁止帯があり、その上に電子が自由に動ける伝導体がある。半導体に光が当たると、その波長に応じて決まったエネルギーを電子に与える。そのエネルギーが、禁止帯の幅より大きいと、伝導体に電子が移り、価電子帯に正孔が生じる。pn接合を作っておくと、電子が外部回路を通って正孔と結合する、すなわち、電気が仕事したことになる。

効率が上がらない理由は色々ある。光が電子に与えるエネルギーのうち、禁止帯の幅より大きい分は熱エネルギーになってしまう。また、光が半導体の表面で反射される。シリコンを用いる場合、効率は約30%を超えないことが証明されている。

EUが支援しているRODSOLプロジェクトは、ナノテクノロジーを用いて、シリコン太陽光発電パネルのコスト削減と高効率化を目指している。シリコンの板に垂直にシリコンナノロッドの林を立てることにより(10/25参照)、光の反射を抑えかつ使用するシリコン量を低減出来る。今のところ、効率は9%とまであるが、シリコン量はかなり軽減出来るという。

上記のウェブサイトのグラフで最高の効率が得られているのは、多重pn接合を用いた太陽光パネルである。電子に与えられたエネルギーが無駄にならないように、禁止帯の幅が異なる数個の半導体のpn接合を重ねたもので、これはナノテクノロジーとは関係がない。また高価である。さらにナノ粒子を用いると二つの利点がある。第一に、ナノ粒子が小さくなると禁止帯の幅が大きくなる。膜圧が薄い場合も同様であるので、別の種類の半導体薄膜を挟むことも試みられている。もう一つは、禁止帯幅の2倍以上のエネルギーが与えられたとき、2対の電子・正孔が生じる確率が大きいことである。

太陽から地球に到達するエネルギーは、全人類が消費するエネルギーの6000倍に過ぎない(9/5参照、以前は1万倍であったが、エネルギー使用量が増加したのだろうか)。効率が100%であるとしても、太陽から降り注ぐエネルギーの6000分の1を利用する必要がある。効率が10%であると、600分の1を利用しなければならないことになる。

低価格で高効率の太陽光発電パネルを開発する努力は今後も続くであろう。


ナノテクノロジーで木綿トランジスタを

2012-01-03 | 報道/ニュース

ナノ粒子は、軽くて、小さくて、姿が見えない。黒子の役目を果たすようだ。

アメリカ・コーネル大学の繊維ナノテクノロジー研究所の研究者たちは、イタリアの研究者たちと協力して、木綿でトランジスタ(12/22参照)を作ろうと試みている。彼らは、まず木綿繊維の束に金ナノ粒子を付着し、その上に電気伝導性の高い高分子の薄い膜を付着させた。この操作は、繊維を染色する操作に近く、木綿は少し固くなるだけであまりその性質を変えないが、電気伝導度を約1000倍にすることができた。残念ながら、この程度の電気伝導度では、まだトランジスタを作ることが出来ない。

しかしながら、センサーとして利用することが出来そうである。センサー付きの衣服が作れそうだ。たとえば脈拍数が計測出来るTシャツ、有毒ガスを検知出来る消防隊員用防護服、歩いた人間の数が計測出来るじゅうたん、などなど。

まだトランジスタへの夢は捨てられていないようだ。Tシャツの中には非常にたくさんの繊維があり、かつそれが互いに接続している。したがってかなり高い計算力が期待出来るという。Tシャツに取り付けられたイヤホンで音楽を聴きながら街を歩く姿が見られるようになるかもしれない。ちなみに、このグループのナノテクノロジーを用いた多機能繊維の開発研究は、アメリカ政府や工業会の支援を受けている。


ナノテクノロジーニュース:2012年も

2012-01-02 | 報道/ニュース

謹賀新年

ブログを始めてからすでに148日、我ながらよく続いている方であると思う。昨日、NHKの「ナノレボリューション」を見た。3夜連続の第1夜であるが、さすがに動画には迫力があって説得力がある。NHKがナノテクノロジーを取り上げたのは大変好ましいことで、こんな番組がしばしば放映されると、このブログも意味がなくなる。残念ながら、日本のテレビ局は、ほとんどなのテクノロジーを取り上げない。NHKと朝日テレビとでサーチして見たが1、2年前のものしか出てこない。ちなみに、アメリカの代表的テレビ局の一つABCでサーチすると、2011年に放映されたものが32件あった。今回NHKで放送されたものも、オーストラリアとフランスとの共同製作である。

日本メディアの科学技術記事のレベルが低いようだ。報道されるのは、ヒグス粒子などのように国際通信社が取り上げたものと、国内の比較的一般向きのニュースに限定されているようだ。世界中を飛び交っている英文の情報に見向きもしないのではないかと思われる。優秀な科学技術記者を養成するためには、理学または工学のポスドクを採用するべきであろう。学部を卒業してから博士号を取得するまでの4、5年間の進歩は著しい。研究の意義、手法を理解し、また英文の読み書きも出来る。ポスドクの興味が、博士論文を目指して研究した分野に限られているというのは間違いである。また間違いであってほしい。広い分野に、鋭い洞察力を発揮出来るはずである。

科学技術の進展にメディアの役割は重要である(9/3,4参照)。科学技術は、研究者だけのものではない。その成果を開発し製品化することが経済発展と雇用促進につながるはずである。それには、政治家、官僚、企業家や投資家の支援が必要である。また、高校生、中学生の興味を喚起し、人材を育てることも必要だろう。メディアが取り上げなければ、これらの人々に情報が伝わらない。

メディアはしばしば日本は技術力の高い国であるという。しかしながら技術は日進月歩である。かつて日本が誇っていた電気製品製造技術は、すでに韓国、台湾などに奪われている。技術’先進国’の生きる路は、開発途上国が直ちに追随出来ない新製品を開発することである。2015年にまでに予想されるナノテクノロジーの市場規模1兆ドルをめぐって(9/21参照)、各国とも必死である。しかもその市場規模はその後も急速に広がると予測されている。

微力ながら、今年もナノテクノロジーの新しいニュースを記載し続けよう。