ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

海水の淡水化 I

2014-12-28 | 報道/ニュース

持続可能な発展になくてはならないものがクリーンウォーターである。地球上に住む人々の25%が良質の水を十分得ることができないと言われている。さらに人工の増加に伴いクリーンウォーターに対する要望が急激に増加するものと見なされている。地球上の98%の水が塩分を含むことから、海水の淡水化(desalination)技術の開発が期待されている。

水中の不純物を取り除くのに通常用いられるのは、逆浸透膜法(reverse osmosis)である。不純物の濃度が異なる2種類の水を浸透膜で隔てると、水は濃度の高い方から低い方へ移動し、全体として不純物濃度が一定となる。これに対して、一方に圧力を加えると水が不純物濃度の低い方から高い方へ流れる。これによって海水をより純粋にすることが出来る。

逆浸透膜法による海水の淡水化のプラントは、スペインやイスラエルなど水が不足しがちな多くの国々にすでに設置されている。圧力を加えるのにエネルギーを必要とする。必要とするエネルギーは浸透膜の透過度によって異なるが、現在のところ理論値、1立方メーカーあたり1.8kWh)の3または4倍程度(我々が払っている立方メートル当たりの水道代金とほぼ同じ)に達している。しかしながら、浸透膜を準備することおよびその汚れを取り除くのに必要なコストがエネルギーコストよりはるかに大きいのが現状である。

浸透膜には高分子材料で作成したものが用いられている。これに対してナノ材料を用いたより高性能の浸透膜の開発が試みられている。例えば浸透膜に下図のようにカーボンナノチューブ(HP2.2A2)を並べたものを用いることが提案され、多くの実験やコンピュータシミュレーションがなされている。孔の直径が一定であること、透過度が高分子材料で作成した浸透膜の約1000倍に達するなど、優れた性質を持っている。透過度が大きいのはカーボンナノチューブの疎水性(ブログ12/17/2011)による。ナトリウムイオンには数個の水分子が付着している(水和現象と呼ばれている)ので、1 nm以下のカーボンナノチューブを用いた浸透膜では、ナトリウムイオンなどが真水の方に漏れることが防げるものと期待されている。最近、韓国の研究グループなどは(例えばY. Baek et al 2014 J Membrane Sci 460, 171) 、カーボンナノチューブと高分子を組み合わせて汚れがつかない浸透膜の作成に成功している。現在のところこのような浸透膜は高価で面積が大きいものを得ることが困難であるが、今後の技術開発に期待するところが大きい。

参考文献
M. Elimelech and W. P. Phillip 2011 Science 333, 712
T. Humplik et al 2011 Nanotechnology 22, 292001

 

 


持続可能な開発と ナノテクノロジー

2014-11-30 | 報道/ニュース

再びブログに投稿を続けることとした。相変わらずナノテクノロジーの最近の進歩についての情報を提供するが、今度はナノテクノロジーが世の中をどのように変えていくのであろうかという点に重点を置くことにする。

今から50年前、私はアメリカのプリンストン大学にいた。すでにIBMコンピューター360型が設置されていたが、コンピューターを使って計算するには、命令文を一つ一つカードにパンチしそれをコンピューターに読み込ませる必要があった。それが今ではどうだろう。当時のコンピューターより性能が高いコンピューターを手に持って、それを指先で制御出来るようになってしまった。コンピューターのこのような進歩は半導体技術の進歩による。20世紀は、このほか飛行機、車など科学技術の進歩がもたらした画期的な文明の進歩の時代と言えよう。

世界情勢の変化も著しい。19世紀の西欧列強の植民地獲得競争は終わりを告げ、現在ではかつての植民地であった地域が独立国となり、独立国数は19世紀末からほぼ4倍に増え、200国に達しようとしている。残念ながら、国家間の格差や国家内での格差が著しく、紛争やテロ行為が絶えない。しかも地球上の人口は増え続け、21世紀末には、現在の70億の2倍以上にも達すると言われている。

地球環境も悪化しつつある。過度の二酸化炭素の放出が地球温暖化現象をもたらし、最近多く見られる異常気象の原因とされている。北極南極の氷の溶解による海面の上昇が深刻な結果をもたらすと予想されている。

このような状況下で、21世紀に要望されるのが持続可能な開発(Sustainable Development, SD)である。最近の内閣府の調査によると日本ではあまりよく知られていないようではあるが、これは地球上に住むすべての人々が発達した文明の成果を享受でき、しかも地球環境を悪化させずさらに資源の枯渇を招くこともないという理想的なアクションプランである。地球上で人類が生存し続けるには、その達成が不可欠であると言っても言い過ぎではなかろう。21世紀はSDの世紀でなければならない。最近名古屋でユネスコのSDのための人材養成に関する会議が開催されたが、メディアは皇太子ご夫妻がその会議に出席されたということを報じるだけで、会議の内容については残念ながら十分報じられてない。

持続可能な開発を達成するにはさらなる技術開発が必要である。例えば現在でも海水の蒸留により、海水から真水を取り出すことは可能であるが、多大のエネルギーを必要とする。ナノテクノロジーの進歩によりより安価な海水からの真水生成法が実現しようとしている。SD実現のためのその効果は計り知れない。ナノテクノロジーは、エレクトロニクスのほかエネルギー、環境、医療などの分野において多くの可能性を秘め、SD達成のためにはナノテクノロジーにおけるイノベーションが不可欠である。

今後このブログでは、持続可能な開発問題を中心に、ナノテクノロジーの新しい進歩について述べていく。従来と同様にナノテクノロジーの基本的な問題については、ホームページにまとめておく。次回は海水から真水を作成する方法を述べる。

[注] SDの実現には、社会(society)、環境(environment)、経済(economy)の調和のとれた発展を必要とする。下図を参照にその概要が想像できよう。ここでbearable, equitable, viableはそれぞれ、耐えることが出来るが、公平性を保つことが出来るが、実現は可能であるが、とでも解釈するとどうだろう。

 

 

この図の日本版が下のサイトに掲載されている。
http://nortonsafe.search.ask.com/search?geo=JP&prt=360&locale=en_JP&o=15527&ver=21&chn=retail&q=%E6%8C%81%E7%B6%9A%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AA%E9%96%8B%E7%99%BA&tpr=10&ctype=pictures

 


日本の原発安全基準がやっとアメリカに近づきつつある--空白の2年間、その原因は--強い報道規制

2013-02-04 | 報道/ニュース

ニューヨークタイムス誌の[日本原発の新しい安全基準はビジネスを阻害すると批判されている]という表題の記事の中で、"今回原子力規制委員会が提案した新しい安全基準の多くはアメリカの標準的基準と同等である"という記述が気にかかった。新しい安全基準はすでにドイツやスイスでも採用されているという。事故後2年もかけて制定される基準に従って原発を改造するのにさらに時間を要する。その間を猶予期間とし再稼働を認めようとする雰囲気もある。その間この国に住む人々は、原発が地震・津波が災害を受けないよう祈るのみである。

原発が操作不能に陥ったとき、冷却を続けるようにすることならびに格納容器内に発生した水素ガスを抜き取れるようベントを設けることはいわば国際的常識である。これによって放射性物質のまき散らしすなわち放射線公害が起こる確率をきわめて少なく出来る。このことを基準として制定するのに2年も要した責任は、官産学ならびにメディアにあると思われる。

事故直後原子力保安院(官)は各電力会社(産)に安全対策を提案するよう指示した。これはJOCが柔道協会内での暴力問題の調査を柔道協会に依頼したのとよく似ている。電力会社はもちろんすべての原発が再稼働可能なよう応急的安全対策を提案し、これを保安院が採択した。

専門家(学)の集まりである原子力学会はこの応急的安全対策を前期安全対策として採択した。その不完全さをよく認識していたのであろう。それに加えて恒久的安全対策を提案している。多くの専門家は応急的安全対策のもとで再稼働を進めるよう提言している。より安全な対策を加えたうえで再稼働を進めるべきであるという認識は薄く、直ちに再稼働すべきであるという原子炉賛成派(原子力ムラ所属)と反対派に分かれているようである。

メディアも放射線公害を起こさないよう原発を運転出来ると認識していたように思われる。事故直後田原総一郎氏が"非常用電源が水没したため事故が大きくなった。非常用電源を高所に設置すべきだと言ったら、そんなことをしたらすべての原子炉の運転ができなくなってしまうと言われた"と述べていたのを思い出す。それ以来この案は封印されてしまった。新しい基準にはこの対策が含まれている。

政界、経済界、電力業界ともに放射線公害を軽視している。福島の事故でまき散らされた放射性物質は原子炉内に存在した放射性物質の10%程度だろうか。もしこれがその2倍または3倍だったら。または当初アメリカが予測したように最悪の事態が発生していたら。このような事態が狭い日本で再度発生することを極力防止するでべきである。

ニューヨークタイムスにもう一つ面白い記事が掲載されていた。日本の報道の自由の指標が世界179カ国のうち53位とのことである。前回の31位から22位後退したという。その理由は原発反対に対する報道規制が強化されたためだそうだ。なんとも気持のわるい話である。(http://en.rsf.org/japon-journalists-barred-from-anti-06-11-2012,43640.html に報道規制の様子を表したビデオがある。)


科学技術政策に大改革を

2013-01-14 | 報道/ニュース

甘利経済再生大臣が総合科学技術会議に改革を加えたいと発言したと読売新聞が報じている。現在のところ、省庁縦割りの傾向が大で、文部科学省が強い権力をもち、基礎研究の製品化・産業化への配慮が欠けていると発言している。日本の経済を成長させるためには科学技術政策のさらなる大改革が必要であろう。すでに何回かにわたりブログで日米の科学技術政策の差異について述べてきた(8/18-9/4/11,9/18-20/11,9/30/11,10/15/11,11/22/11,12/6/11,12/16/11,12/31/11,3/26/12,6/30/12,11/2/12)。

日本では高度成長期には、通産省が半導体、エレクトロニクス関連企業に多額の支援をしていた。過去20年間製品化・産業化への配慮の欠如がGDPの増加が抑制されていた原因とも考えられる。

アメリカの産業構造は実にうまく科学技術のの進歩に対応している。家庭用電化製品から始まって、半導体ならびにコンピューター、ITシステムならびに製品といずれも世界をリードしてきた。21世紀はナノテクノロジーの世紀であるとの見通しで、その基礎研究をもちろん製品化・産業化に力を入れている。ナノテクノロジー関連予算年間20億ドルを投資している割に経済効果に反映していないという議論もあるが、大統領の科学技術諮問機関PCASTは、さらに予算の増額を要求している。

オバマ大統領の演説の中にはナノテクノロジーという言葉がでてくることが多いが、さて阿部首相は?


2年間の無駄な空白---原発安全新対策に猶予期間

2013-01-13 | 報道/ニュース

朝日新聞が原子力規制委員会の新しい安全対策の骨子を報じている。原子炉施設から離れた安全な場所に冷却設備を備えた特定安全施設を設置するもので、放射線公害が発生する確率を極力小さくするものと期待できそうである。しかしながら、猶予期間があって、その期間内に工事を完成するよう申請すれば、現存の応急安全対策のまま再稼働を認めるようである。

提案された対策は新しいものではなくすでにドイツやスイスで施工されているという。それならば何故事故直後直ちにこういう提案がなされなかったのか、原子炉専門家ならびに政・官・産それにメディアの責任も大きい。


民意は原発推進を求めたのではない---放射線公害を再度起こしてはならない

2013-01-04 | 報道/ニュース

産経新聞電子版に掲載された京都大学原子炉実験所教授山名元氏の "[正論]年頭にあたり(http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/619367/)" を読んで背筋が寒くなる思いをした。内容は、今回の選挙での自民党の勝利は、民意が脱原発政策を否定することを意味するというもので、原発を含めたエネルギー政策について持論を展開している。民主党政権下の彼らにとっての厳寒の時代から春の兆しが見えてきたという書きっぷりである。今回の選挙の争点が原発ではなかったことも問題であるが、私が最も不安を感じるのは、この筆者が原子炉工学に携わる専門家であるからだ。

そもそもそもそも科学者ならびに技術者は真理を探求しその結果得られた新技術を世の中に送り出すのが使命だ。しかも送り出すされた新技術は公害を伴うものであってはならない。福島原発事故以来日本の原子炉専門家のとった態度は不可解だった。もし彼らが、今回の事故の結果放射性物質のまき散らしすなわち放射線公害を引き起こしてしまったのは非常用発電機が地下室にあるなど地震・津波国日本に不適切であったことを謝罪し、放射線公害が起こる確率を極度に小さくする手法を立案し政府に提言していたとしよう。人々の原発に対する不安はこれほど大きくならなかったであろう。残念ながら、原子力保安院と電力会社が現存のすべての原発が再稼働可能となるよう決めた応急的安全対策を専門家たちはそのまま承認し、原発は安定な電力源であるから継続すべきであると主張した。人々が原発に対する信頼を失ったのは、専門家のこのような態度によるところが大きい。

原発安全神話の崩壊した後人々が求めるのは、同様の事故が起こってもこのような放射線公害を起こさないことである。安全神話が崩壊したことが "再びこのような放射線公害が起こるかもしれない" を意味するのであってはならない。

原発に最も詳しいのは専門家たちである。民意や政治家は専門家たちの意見にしたがって方針を決めるもので、たまたま民意がそちらに傾いたと思えることで喜んでいる場合ではない。放射線公害を起こさないよう原発を運転し続けること、これが専門家たちの責務であろう。

ちなみに専門家たちは高速増殖炉もんじゅを即刻廃炉にするよう提言すべきである。制御が可能になったとき水冷が危険で、放射線公害が起こる確率を小さく出来ないからである。

原子炉専門家たちは視野を広くすることが必要であろう。海外ではより安全な現存型の原子炉や高速増殖炉が開発されようとしている。現在我が国が原子炉工学を放棄し原子炉廃炉工学に専念することは好ましくない。そのためには、どのような事故があっても放射線公害を起こさないことが先決である。その責務は専門家にある。専門家の集まりである原子力学会が原子力規制庁に支配されるのはあまり好ましい姿ではなかろう。


福島原発事故と笹子トンネル事故の共通点

2012-12-06 | 報道/ニュース

もし福島原発の非常用電源が津波で水没しない場所に設置されていたならば、あのような大公害は起こらなかっただろう。笹子トンネル事故は想定外であったという人もいるが、ボルトで上部に固定された重量物は、ボルトの劣化に伴って落下するのは必至である。両方とも霞が関の安全性に対する意識の欠如に起因する人災であるといえよう。福島原発事故と笹子トンネル事故の共通点

もし福島原発の非常用電源が津波で水没しない場所に設置されていたならば、あのような大公害は起こらなかっただろう。笹子トンネル事故は想定外であったという人もいるが、ボルトで上部に固定された重量物は、ボルトの劣化に伴って落下するのは必至である。両方とも霞が関の安全性に対する意識の欠如に起因する人災であるといえよう。


原発安全対策を早急に

2012-11-28 | 報道/ニュース

ワシントンポスト誌によると、アメリカの科学者が福島原発事故調査のため来日し、原子炉に何が起ころうとも大事故に至らないよう安全対策を策定しようとしている。原子力規制委員会委員の更田氏は"規制づくりに忙しく安全対策を議論する暇がない"というが、何時地震が起こっても不思議ではなくしかも次々と原発が再稼働されようとしている日本では、順序が逆ではなかろか。日本の原子炉専門家は原子力ムラの温泉にでも浸っているのであろうか。さらに9月25日参照。


おわびと科学技術政策について一言

2012-11-02 | 報道/ニュース

ブログ"ナノテクノロジーニュース"を続けてきましたが、当分の間専門的な仕事に戻ろうと決心しました。そういうわけで約1年間ブログの執筆を休ませていただきます。

さて、半導体に続いてエレクトロニクスとかつて日本が誇った産業が危機に立たされつつあるようです。この原因は開発途上国が安価な製品を供給するからであると考えられていますが、日本の科学技術政策の貧困にも起因しているかのように思えます。科学技術政策とは、基礎科学の進行と、さらにグローバルな基礎科学の進行を的確に把握した上での製品化につながる新技術開発の推進を目指すべきです。特に後者は経済発展ならびに雇用促進に密接に関係しているはずです。高度成長期には通産省がアメリカに追い越すという目標の元、企業を援助しました。1980年代末以降この機能が全く失われています。これがGNPの増加が停止した理由とも考えられます。これまでブログで科学技術政策、特に日本とアメリカとの違いについて述べてきました(8/18-9/4/2011,9/18-20/11,9/29/11,10/15/11,12/6/11,12/30,31/11)。下に要点をまとめておきます。

(1)日本の総合科学技術会議はほとんど機能していません。科学技術基本政策の作成は文部科学省に丸投げ、いくつかのサブグループはすべていずれかの省庁に属しています。アメリカの大統領直属の科学技術に関する諮問機関PCASTと比べものになりません。基礎科学で見いだされたブレークスルーが速やかに生産活動に導かれるよう体制づくりが必要です。省庁縦割り行政でしかも独立法人が介在する現状を打破する必要があります。
(2) 基礎研究で得た成果を商品化し経済発展ならびに雇用の促進に貢献するのは企業です。どのような分野で大企業やベンチャー企業の開発研究ならびに生産活動を支援するかは国策ですから、この方針は国が決めるべきです。これは経済産業省や厚生労働省の仕事だと思います。現在日本では独立法人NEDOが担当しているようですが、その機能を果たしているのか疑問です。
(3) 最近の科学技術研究はほとんどグループ研究です。しかるに文部科学省や日本学術振興会の基礎研究に対する研究費援助は旧態依然とした個人向けです。研究グループの特定の研究計画を支援し、その成果を追随するという体制を確立すべきです。
(4) ノーベル賞受賞研究を達成した年代のピークは40歳程度だそうです。30代後半の優秀な研究者がグループを組織して研究に取り組めるような体制が必要です。iPS細胞の山中教授はこの数少ない成功例だと思います。ちなみにアメリカの大きな大学では準教授が就任すると数千万円以上の経費が与えられ、グループを構成し研究室を立ち上げているようです。
(5) 基礎研究のテーマに文部科学省が方向付けをすべきではありません。日本の研究費の配分方式はトップダウン方式です。アメリカのボトムアップ方式を見習うべきです。また文部科学省の評価により特定の大学に多額の研究費を援助するシステムがあります。このような体制のもとでは大学や研究所のスタッフならびに研究者は官僚に頭が上がりません。原子力学会が原子力ムラにはまり込んでいる(9/25参照)のもこのような理由によるのでしょうか。
(6) 最近論文の評価に被引用数が用いられます。日本は先進国の中では最低です。上位20位にも入りません。これは若手が満足すべき条件で研究を遂行できないからだとも考えられます。

アメリカの半導体産業やエレクトロニクス産業は日本などに追いつかれ衰退しています。しかしITで世界を制覇し、さらにナノテクノロジーでもトップに出ようとしています。日本が技術先進国で有り続けるには、簡単に追随できない新技術を開発し続けることが必要でしょう。







ナノレンズ: 100ナノメーター以下への集光

2012-10-29 | 報道/ニュース

電磁波を受信したり送信するのに用いられるアンテナのサイズは電磁波の波長と同程度であることが必要だ。従来光の制御には鏡、レンズ(光の屈折による)などが用いられているが、これらはレンズの概念とは程遠い。ナノテクノロジーの進歩に伴って、光の波長のサイズのアンテナを加工したりまたナノ粒子を配列させたアンテナが開発されている(8/2,13/12,9/9/12参照)。アンテナは自由に伝搬している電磁波のエネルギーを集中させたりまたはその逆の動作をするもので、もちろんレンズ(1/23,9/21/12参照)の役目を果たすことも出来る。

ドイツの研究グループは、DNAの助けを借りて2個の80-100 nmの金ナノ粒子を数10ナノメーター間隔で並べると、光をナノ粒子の間に集光させナノレンズとして作用することを明らかにした。DNAは高い精度でいろいろな形に成形でき、また粒子を付着させることが出来るのでナノ粒子の自己配列など種々の操作に便利が良い(HP2.1C6参照)。2個の金ナノ粒子はDNAに付着しているが、さらに色素を付着させ、集光の結果色素が強い蛍光を出すことを示した。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=27097.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UItRxkm_qWM.google

このように光を小さい領域に集光出来ると、とくに生物現象などの観測にのに威力を発揮するものと期待されている。また光がナノ粒子とどのように相互作用するのかを明らかにすることはナノオプティクスの基本であろう。この分野での貢献も期待されている。


ナノテクディスプレイの現状: フィールドエミッションディスプレイ

2012-10-27 | 報道/ニュース

アメリカのMITの技術誌にフィールドエミッションディスプレイ[HP(http://www.ne.jp/asahi/noriaki/itoh/)3.5A1参照]に関する記事が掲載されていたので紹介しておこう。
http://www.technologyreview.com/featuredstory/403306/nanotech-on-display/

現在広く使われている液晶ディスプレイやプラズマディスプレイには種々の欠点がある。液晶ディスプレイは見ることが出来る角度は限られている上、反応は遅い。プラズマディスプレイは消費電力が大きくまた静止画像を長時間映像し続けるとその部分のピクセルが破壊される恐れがある。これに代わる候補の一つがフィールドエミッションディスプレイと有機ELディスプレイで、おそらくナノテクエレクトロニクスで最初に製品化されるものはディスプレイであろうという。

フィールドエミッションディスプレイに関して現在世界をリードしているのは韓国のサムソン電子である。サムソン電子に続くのは日本の名古屋大学を中心とするグループである。このグループは、経済産業省に属する独立法人NEDOの資金援助を受けていて、日立、旭硝子、ノリタケが協力している。今のところ韓国に遅れをとっていることを認めている。テレビのディスプレイは年商600億ドル程度であるのでその期待は大きい。しかしながらその製品化には真空中で電子を加速する必要があるなどいくつかの越えなければいけない問題がある。 競争相手には有機ELディスプレイ(HP3.5A2)ならびに量子ドットディスプレイ(HP3.5A3)もある。

ちなみにサムソン電子は有機ELディスプレイや量子ドットディスプレイでも世界をリードしている(6/6参照)。


ナノの世界では摩擦にも異変が: 摩擦係数がゼロや負に

2012-10-24 | 報道/ニュース

床に置いてある物体を動かそうとすると力が要る。これは床と物体との間に摩擦力が働くためである。摩擦力は物体が床を抑える力すなわち重力に比例する。摩擦力と床を抑える力との比を摩擦係数と呼ぶ。この摩擦係数は通常正の値をもつが、ナノの世界では摩擦係数がほとんどゼロになったりまた負になったりすることがあるようだ。MEMS(12/8参照)と呼ばれるスイッチなどの小型機械では、体積に対して表面積が大きいため摩擦は深刻な問題で盛んに研究されている。

中国とオーストラリアの共同研究グループの実験によると、厚さ200-400ナノメーターで一辺の長さが20マイクロメーターの柱状のグラファイトの上面に酸化シリコンを張りつけ水平に動かすとグラファイトの一部がはがれる。この際動かす方向によっては摩擦係数がほとんどゼロになるという。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/apr/05/nanomachines-could-benefit-from-superlubricity

摩擦係数が負になることはアメリカの国立研究所NISTの研究グループによって報じられている。この実験では、直径30nmのダイアモンド針をグラファイトの表面に接近させ表面と平行に移動させる。これはもともとは原子間力顕微鏡(AFM,7/2参照)の操作で、ダイアモンドとグラファイトの間に電圧を加え針と表面との間の力を測定することによってグラファイト表面の原子の配列を知ることが出来る。さて、ダイアモンドの針を動かすのには摩擦力に打ち勝つ必要がある。針が表面に近いほどグラファイト表面との間に働く力が大きいため摩擦力が増加するように考えられる。ところが、ダイアモンドの針を表面から遠ざける程針を動かすのに大きな力が必要であるという。この結果は、グラファイトの層(グラフェン)が針に引っ張られ歪み、針が表面から離れるほど歪みが大きくなり針を動かしにくくなると考えられている。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/oct/18/negative-friction-surprises-researchers

ナノの世界では全く予想されないことが起こることがまたは起こすことが出来るようである。


ナノテクノロジーと宇宙産業

2012-10-22 | 報道/ニュース

宇宙産業にもナノテクノロジーがその効力を発揮しつつあるという記事がNanowerkに掲載されていた。これまでもいろいろな分野でのナノテクノロジーの影響についての記事を掲載したが、それらの所在をホームページの4.トピックス欄にまとめておいた。
http://www.nanowerk.com/nanotechnology-in-space.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

さて、現在のところロケットの噴射には化学燃料が使われている。これを電気噴射に変えようとする試みがある。電気噴射が成功すると使用する燃料の量が格段に少なくなるという。すでにNASA(アメリカ)のDeep Space1,日本のHayabusaならびにESA(EU)のSMART-1では、デモンストレーション行われ成功を収めている。電気噴射では、電荷をもつナノ粒子に電圧を加え加速させる。粒子の質量が小さいため各粒子は大きく加速され、その結果ロケット噴射に十分なエネルギーが得られるという。

宇宙飛行士の宇宙線による被曝も深刻な問題である。宇宙線の内中性子線はボロン(B)によって吸収される。ボロンナノチューブを宇宙衛星の壁に混入することによって中性子線の被曝を少なくしようとする試みがある。中性子を吸収したボロンには余剰のエネルギーが蓄えられる。このエネルギーは壁の中で熱エネルギーに転換するので、これを利用することも出来る。デバイスの放射線による損傷も問題である。デバイスは素子の一部が損傷を受けてもその機能を損なうことがある。ナノテクノロジーによって素子を小さくすることに期待が寄せられている。

量子ドット(HP2.2B1参照)を用いて対宇宙衛星ミサイルの追撃を防護しようという計画がある。対宇宙衛星ミサイルは光を放出して宇宙衛星から反射される光を検知しつつ宇宙衛星を追跡する。対宇宙衛星ミサイルが発射されたという情報を受けて量子ドットの雲を宇宙衛星の周辺に放出する。量子ドットを光によって励起すると種々の波長の光を放出する。これを利用して対宇宙衛星ミサイルの進行方向を宇宙衛星から回避させようというものである。

最後に宇宙エレベーターの計画があるが、これについてはすでに述べた(2/6参照)。

アメリカでは、宇宙産業の国際的優位を維持するために、ナノテクノロジー関連の研究開発にさらに多くの予算を投じるべきであるという意見もある。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=27000.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UH4jnLcpELU.google


再び"透明マント"

2012-10-20 | 報道/ニュース

これまで"透明マント"という表題の記事を2回掲載したが(5/9,10/17/12参照)、電磁波(光)に関する説明が欠けていたので、改めて紹介しよう。

目に見えなくすることはinvisibilityまたはcloaking effectと呼ばれている。cloakingとはマントの様なもので覆うことであるので"透明マント"と訳してしまったが、実際はもちろんマントとは程遠い。

さてcloakingには二つの方法が提案されている。一つは前回(5/9参照)述べた方式で、電磁波をナノ粒子の周辺を通過させ、通過した後は全くナノ粒子が存在しなかったかのように電磁波が進行する(下図参照)。このようなことを可能にするためには、ナノ粒子の周りを人工材料で囲み電磁波に特別な性質を持たせる必要がある。またナノ粒子の半径は電磁波の波長より小さいことが必要である。この手法は現在のところマイクロ波領域でのみ達成されている。

もう一つの方法はナノ粒子に被覆物を付着させナノ粒子による反射係数を小さくする方法である。例えば2009年のNanowerkのニュースによると、ナノ粒子をシリコン板で覆うことによってナノ粒子を赤外線領域の波長の光で見えなくすることが出来るという。このほか金属にプラズマ振動を誘起させcloakingを起こさせるなど種々の試みがなされている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=10407.php

これらの課題については、特に波長より短い距離での電磁波の挙動を理解する目的で実に多くの研究がなされている。また、センサーをcloakした場合もセンサーの感度が低下しないがセンサーによって光が散乱されなくなるという

J B Pendy et al 2006 Science 312 1780



電子に対する"透明マント"の効用は

2012-10-17 | 報道/ニュース

以前にナノテクノロジーを用いた人工材料で、見えるはずの物体を見えなくすることが可能であることを述べた(5/9参照)。これは光線が物体の周りを通り、物体を通り過ぎるとあたかも物体がなかったかのように進行することによって達成出来る光ではいまだ実現していないが、特定波長の電磁波に対してはほぼ実現している。量子力学のもとでは電子も波とみなすことが出来る。したがって、電子で見ようとしても見えない物体を作成することが可能であるはずだ。

MITの研究グループはこのことを理論的に明らかにした。この研究グループによると2種類の金属の同心球(コアセル構造4/12,16,9/4/12参照)に電子を通すと電子の流れが全く乱されないようにすることが可能であるという。この場合、電磁波の場合のように電子が物体の外側を通過するのではなく、物体内部を通過し、その後全く物体がなかったかのように進行するという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=26959.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

このようなシステムの熱電効果(11/12,12/2,2/29,4/19参照)への応用が考えられているようだ。熱電効果とは2種の材料を接触させ電圧を加えると接点の間に温度差が生じる現象、また逆に温度差を与えると電圧が発生する現象である。この電気エネルギーと熱エネルギー間のエネルギー変換の効率を上げるためには、電気伝導度が高く熱伝導度が低い材料を選ぶ必要がある。コアセル構造のナノ粒子を一定間隔で配置すると、この目的のためには理想的であろう。また、コアセル構造に何かを付着させると電子流が変化することからスイッチにも利用出来るという。