ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

カーボンナノチューブを用いてナノ液体の冷却効率の増大を

2012-05-30 | 報道/ニュース

ナノ粒子を液体冷却材の中に分散させたナノ液体は、高い冷却効率が期待され注目されている(2/2参照)。EUでも新しいプロジェクトが進行中であるという。

これまでのナノ液体では、球形または平板状のナノ粒子が用いられてきた。この場合、問題点はナノ粒子と液体との間に熱が有効に伝達されないことにある。東京大学の研究グループは、一重壁カーボンナノチューブ(SWNT)を利用すること試み、成功を収めている(2/6参照)。カーボンナノチューブは熱伝導度が高く、SW NT内の熱伝導により冷却効果の増大が期待される。SWNTは液体中で固まりを作りやすい傾向にあるが、これを防ぐため従来は酸で処理することが試みられていた。この研究グループは、SWNTを胆汁塩で処理することによって、処理の過程で導入されるSWNT中の欠陥量を減少させることができた。SWNTに欠陥が生じるとその熱伝導度が低下する。0.2%のSWNTをエチレングリコールに分散させることによって、エチレングリコールの熱伝導率15%増加できたという。この結果は、ほぼ理論的の予想値に近いという。エレクトロニクス機器などの冷却に使用出来そうである。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=25206.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T62-U7YQLCQ.google


ナノテク触媒に光が:原子配列が乱れると触媒作用が増大する

2012-05-28 | 報道/ニュース

貴金属やレアアースに代わる安価なナノテク触媒に対する要望が強い(5/11参照)。

燃料電池(10/16,17参照)の触媒には通常は白金が用いられている。カーボンナノチューブを用いることが試みられたが、その効率は余り良好でなかった。スタンフォード大学の研究チームは多重壁カーボンナノチューブを触媒に用いるとき、いちばん外側の壁に切れ目を入れ少し開いてグラフェン状にすると触媒効率が増大することを明らかにした。さらに少量の窒素と鉄を加えることによってほぼ白金と同様の効率が得られるという。いちばん外側の壁を少しはがすことによってカーボンナノチューブに原子配列の乱れすなわち欠陥が生じ、これが触媒作用を増大するものと考えられている。多重壁カーボンナノチューブを用いたことによって、外側の壁に欠陥を作ってもその電気伝導度がほとんど変化しないのも都合がよい。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25388.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T8LHyWgJb8o.google

二酸化炭素と一酸化炭素および水素との混合物からメタンを作成するのに銅と酸化亜鉛ナノ粒子の多孔性の塊に少量の酸化アルミニウムを加えたものが用いられている。ベルリンを中心とする国際研究チームは、種々の解析手法を駆使して、銅や酸化亜鉛の表面欠陥や銅と酸化亜鉛の境界面の欠陥が触媒作用に寄与していることを明らかにした。触媒の選択がこれまで試行錯誤でなされていたが、今後ますます理論的な手法を交えた組織的な研究手法が用いられるであろう。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25011.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T5iy5RvS80Q.googlea

EUでは、生産過程をクリーンにするため、炭素を主体とする無金属触媒というプロジェクトを立ち上げている。研究所や企業など9団体が参加しているという。

 


DNA配列の決定が容易に:全員の配列決定が可能か

2012-05-26 | 報道/ニュース

DNAはヌクレオチドで構成される 高分子である。 ヌクレオチドはリン酸を介して高分子を形成するが、各ヌクレオチド にA,G,C,Tの4種類の塩基が結合している。この4種類の塩基の配列が遺伝情報そのものである。種々の塩基の配列決定法が開発され、その精度と測定に要する時間は年々改善され現在は精度99.999%程度に達している。しかしながら、さらに簡便な測定法が求められている。

1990年代に入ってから、ナノポァー(nanopore、12/20参照)にDNAを通すことによって、塩基を検出することが試みられている。当初はタンパク質ナノポァーが用いられていたが、2005年大阪大学の研究グループがシリコンナノポァーを用いてDNA配列決定を初めて試みた。ナノポァーを塩基が通過するトンネル電流(HP2.1参照、近日完成予定)が流れるが、その大きさが塩基の種類によって異なることを利用する。その後グラフェンや窒化シリコン(1/9参照)が用いられているが、いまだ十分な精度が得られていない。

アリゾナ州立大学の研究グループは、特殊な電極を開発し90%の精度を得たと報告している。電極には走査型トンネル顕微鏡(8/26,9/17,10/11参照)の針電極を用いるが、その先端に塩基を識別できる分子を付着させる。これによって、通過しつつあるDNAを一時停止させ、識別精度を上げることができるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25332.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T7xBTEjBrNk.google

DNAの高速配列決定の競争は、目下ホームストレッチ段階に入りつつあるという。各人が自分のDNA配列をデータとして保有出来るようになるには、さらなるブレークスルーが必要であろう。
 


サムソン電子研究グループが新型グラフェントランジスタを

2012-05-23 | 報道/ニュース

自然科学の新しい研究成果が発表される専門誌の中で最も定評があるのは、Science誌のReportsとNature誌のLettersである。ちなみに、物理ではPhysical Review Letters誌が高く評価されている。

グラフェンは特殊な電子構造をもつ(3/21参照)禁止帯の幅0の半導体である。グラフェン中での電子の動く速さはシリコン中と比べて約200倍速い。半導体素子を小さくすることと信号処理速度を上昇することが強く求められている(HP1.1,1.2参照)。グラフェンを用いたトランジスタへの試みについてすでに報告した(10/10,11/29,30参照)。

韓国のサムソン電子研究グループが、最近のScience誌にグラフェンバリスターと呼ぶトランジスタと同様の機能を持つ新しい素子を発表している。トランジスタのソースとドレインをつなぐシリコンに絶縁体を挟んでグラフェンを接触させたものである。グラフェン上の電子数を制御することによってソースとドレインとの間の電流を制御する。オンとオフとの間の電流比が10万対1になるという。このシステムの特徴は、既存のシリコンチップ上にグラフェンを付着させることによって作成できることである。すでに約2000個の素子からなる集積回路を試作している。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25280.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T7cAlWVOfFU.google

韓国のエレクトロニクス関連企業は元気が良い(2/27参照)。日本のエレクトロニクス関連企業の元気のなさが気に掛かる。韓国では、ドイツのマックスプランク研究所や日本の理化学研究所に並ぶ第一線級の研究所を立ち上げようとしている。


靴底のナノテクフィルムで発電を(ビデオ付)

2012-05-21 | 報道/ニュース

固体のピエゾエレクトリック効果(12/7,3/19参照)とは、固体に圧力を加えると電圧が発生し、電圧を加えると変形するという現象である。この効果を用いると、電気エネルギーを機械エネルギーに、また機械エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。すでにナノワイヤを用いたナノ発電機について報告したことがある(12/8参照)。

最近になってピエゾエレクトリック薄膜素子が開発されてきた。韓国とアメリカの共同研究グループは、ナノサイズのチタン酸バリウムとカーボンナノチューブ(CNT)の混合物(NC)を高分子(PDMC)で固めて作成した薄膜(p-NC)が、発電機として動作することを示した。チタン酸バリウムは以前からピエゾエレクトリック素子としてよく用いられていて比較的安価である。一辺13cmのフイルムが作成できるという。その製作過程、曲げると電圧が発生するところ(戻すと逆符号の電圧が発生する)、LEDを光らせるところをごビデオで見ることができる(http://www.youtube.com/watch?v=90rk7G3t30k&feature=player_embedded)。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25137.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T6iFsBKwt2Q.google

カリフォルニア大学の研究グループはウィルスを用いて薄膜発電機を作成した。用いられたウィルスはM13と呼ばれるバクテリアをアタックするもので、人畜無害である。自然界に多数存在し、しかも強い繁殖力を持つ。自己アセンブリ(5/3参照)でおのずから形を平面状に整える。遺伝子的手法を用いて別のたんぱく質を付加することによって分極が生じ(正負の電荷が分離し)ピエゾエレクトリック効果が発生する。20枚程度の層を重ねて、取得できる電力を増大させることができるという。上と同様なビデオが作成されている(http://www.youtube.com/watch?v=F1PzYi8jmuo&feature=player_embedded)。ビデオの断面図(cross-sectional view)を見ると、ピエゾエレクトリック効果が発生する理由がよくわかる。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25217.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29


実用化に向かってはさらに研究を進め性能を向上させる必要がある。まずは人体に取りつけてスマートホンなどの充電に使えるようになるであろう。靴底に取り付けるのが最も有効だろうか。

再生可能にエネルギー源(太陽光、風力、地熱 ---)に人力が加わるかもしれない。


太陽光で水を分解:産業技術研究所で世界最高効率

2012-05-19 | 報道/ニュース

太陽光の利用には、太陽光発電(1/20参照)、バイオ燃料(5/8参照)、水の分解(10/18,4/5参照)がある。ナノテクノロジはこれらの効率を高めるのに貢献できるものと期待されている。

太陽光による水の分解には、触媒に光を照射する方法と、半導体電極に光を照射し電界を加えて電子正孔を分離し、正負の電極でそれぞれ酸素ならびに水素を製造する手法がある。いずれも日本発の手法で、初期は酸化チタンが用いられていた。酸化チタンでは紫外線でしか電子正孔対が作成出来ない。いろいろな半導体を組み合わせる方法が試みられていた。

産業率研究所の研究グループは、3種類の酸化物の多孔性フイルムを電極に用いることによって、従来得られていた効率の2倍に近い1.35%という高い効率を得たと報じられている。この手法では必要とする電圧が低いため、太陽光発電パネルを利用した低価格水素製造法への発展が期待されている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25268.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T7Wstkusx4M.google

3種類の酸化物を用いることによって広範囲の波長の光を吸収できる。光を効率よく吸収することならびに生じた電子正孔の再結合を少なくすることおよび電極の表面積を広くすることが効率を上げる秘訣であろう。さらに努力が重ねられている。

アメリカではHyperSolar社がクリーンな手法で廃水から水素を作り出すと宣言している。その詳細は不明であるが、2013年までにそのプロセスを提示できるという。
http://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/nanotechnology/hypersolars-zerocarbon-process-for-hydrogen-gas-production

そう遠くない将来、クリーンな手法で製造した水素を燃料とする車が走り回るのであろうか。


カーボンナノチューブセンサーで果物の成熟度を

2012-05-17 | 報道/ニュース

以前にカーボンナノチューブがセンサーとして利用できることを述べたことがある(10/31参照)。カーボンナノチューブが分子と相互作用するとその電気抵抗が変化することを利用する。カーボンナノチューブをそのまま利用することもあるが、カーボンナノチューブに金属原子を付加することもある。カーボンナノチューブと反応しやすい二酸化窒素、アンモニア、水素などをかなり高感度で検出できることが示されている(たとえばD R Kaufmann Angwantdte Chemie International Ed 47(2008) 6550参照)。

マサチューセッツ工科大学の研究グループは、カーボンナノチューブを用いてエチレンをppm(100万分の一)以上の感度で検出できることを示した。エチレンは安定な化合物でその検出があまり容易でない。新しく開発されたセンサーは比較的簡単な構造で、酸化シリコン支持台に2本の金電極を付着しその上に特殊な銅化合物と結合させたカーボンナノチューブの塊を載せる。エチレンが銅化合物と結合すると、銅とカーボンナノチューブとの間の結合が弱められ、カーボンナノチューブの電気伝導度が変化する。これを検出することによってにエチレンの吸着量を決定することができる。
http://www.chemistryviews.org/details/ezine/2050701/How_to_Tell_if_Fruit_is_Ripe.html

エチレンは植物のホルモンとして作用する物質で、実の成熟度や発芽などをコントロールする。果物の実が熟するのは、エチレンが特殊なレセプターと結合することから始まる。したがって、実から発せられるエチレンの量を測定するとその成熟度が分かるという。また、バナナなどは実が青いうちに収穫して輸送する。輸送中は窒素中に封入して成熟を抑える。成熟させる必要があるときエチレンを封入するが、その際エチレンの量をコントロールする必要がある。この目的のためにも開発されたセンサーが役立つであろうという。

特定の化合物を選別して検出可能なセンサーとして興味深い。


大飯原発は本当に安全なのか:メディアと専門家への注文

2012-05-15 | 報道/ニュース

先週のフジテレビの番組で枝野経済産業大臣が[原子力発電所の再稼働の可否を決めるのはその安全性である]と明言した。経済性から再稼働の必要性を論じる政治家、識者、専門家、メディア関係者が多いなかで、きわめて明快な発言で評価できる。

福島原子力発電所の事故の教訓が、原子力発電所にも事故が起こるものであるととらえられがちである。本当の問題点は放射性物質のまき散らしである。多くの近隣の住民が避難を余儀なくされ、農業、漁業などの産業が甚大な影響を受け、さらに東電は廃炉ならびに保証に莫大な費用を要し国の予算にも影響しかねない現状である。事故が起こってもこのような公害を起こさないようにすることがその産業に従事する技術者の責任であろう。

今回の事故で、非常用発電機が水没しなければ放射性物質のまき散らしを阻止できたであろうことは多くの専門家が認めるところである。原子炉の事故では、燃料棒の注入によって核反応を停止させかつ燃料を水冷し続けることができれば、燃料を正常な位置に保持したまま冷温停止状態に持ち込むことができるはずである。燃料のメルトダウンも放射性物質のまき散らしも生じることがない。廃炉も容易である。枝野大臣の安全性はこのことを指していると思われる。

さて大飯原発は安全だろうか。IAEAに提出した報告書の津波対策の項によると次のようになっている。4.65m以下の津波に対しては安全である。扉や貫通部にシール施工の結果4.65mから11.4mの津波に対しては、補機給水は失われるが主給水の喪失は回避できるかもしれない。恒常非常用発電機の設置が計画されているが、現在のところは電源車で間に合わせようとしている。

枝野大臣は専門家が安全だと保証したというがその内容があまり定かではない。原子力安全委員会は5分間の審議で結論を出した。福井県の審議会は安全だと結論したが、大阪市が派遣した調査団には疑問をはさむ団員が多かったように思われる。メディアは主電源が失われた後も冷却し続けることができるようになっているのか詳細に調査して報道すべきである。シール施工がどれほど効力があるのか専門家の意見を聞きたい。

原子力学会が2011年5月9日付で福島第一原子力発電所事故の教訓と題する書類を発行している。これを読んで驚いた。その提言が原子力保安員と電力会社が同年4月末にまとめた応急的な緊急安全対策にお墨付きを与えるようなものだからである。提言は短期と中期とに分かれている。短期では電源車の準備とかシール施工が提言されている。中期の提言があるということは、短期の提言では不十分であることを認めているようなものである。中期の提言が達成されない間に地震が発生したらどうなるのだろう。事故の深刻さに対する認識が甘い専門家の安全宣言を信頼できるかどうかが疑問である。

ついでにもんじゅについて一言述べておきたい。もんじゅのようなナトリウム冷却型高速増殖炉では事故で制御不能に陥ったとき水冷が出来ない。ナトリウムが水と激しく反応して爆発を起こすからである。もんじゅだけの問題ではない。将来国内に建設されるであろう高速増殖炉のいずれかの直下で地震が発生する可能性もある。この計画を推進している人々は、巨額の費用を使っていつ爆発するか分からない巨大爆弾を子孫に残そうとしているようなものだ。

日本の原子炉専門家にお願いしたい。原子炉安全神話が崩壊したということは、原子力発電所が再度同じような事故を起こすことを容認するものであってはならない。たとえ事故を起こしても放射性物質のまき散らしを起こさないよう万全の措置を講じること、これが原子炉専門家の責任であることを認識してほしい。現在活躍している原子炉専門家の先輩たちがアメリカで内陸用に開発された原子炉を輸入して不用意に海岸に設置したことが、福島の事故の遠因であろう。いつどこで地震が起こるか分からない地震国に適合する原子炉について再検討する絶好の機会であろう。アメリカでは高速増殖炉も含めてさらに安全性の高い原子炉開発されようとしていると聞く(3/2,4/12参照)。


閑話休題

2012-05-14 | 報道/ニュース

ブログ"ナノテクノロジーニュース"を始めてから200日以上も過ぎてしまった。はじめは個人的なメモよりもブログにしておいた方がどなたかに読んでいただけるという軽い気持ちだったが、他人に読んでいただくということで緊張感もあり、おかげでよく勉強させていただいた。これまでは、ニュースと言いながら説明を加えている部分が多かったが、すでに多くの事項について説明を済ませてしまった。そこで、この際"まとめ"を作成してホームページhttp://www.ne.jp/asahi/noriaki/itoh/に残しておこうと決心した。ニュースは2日に1回とし、残った時間で徐々にホームページを充実させていく予定だ。


白色光を出す量子ドット

2012-05-13 | 報道/ニュース

量子ドットとは半導体ナノ粒子のことである(9/27,28参照)。量子ドットを禁止帯の幅より大きなエネルギーをもつ光で励起すると、電子/正孔対が生成し、それらが再結合する時ほぼ禁止帯の幅の光を発する。この禁止帯の幅がナノ粒子のサイズが小さくなるほど増加することはずいぶん以前から知られていた。2005年にアメリカのVanderbilt大学の研究グループが、偶然、2nmより小さいカドミウムセレン量子ドットを励起すると白色光を発することを見つけた。この理由はよく分かっていないが、このような小さなナノ粒子では、粒子に含まれる60個程度の原子のうちかなりの原子が表面に出ているためであると考えられている。LED光源として好ましい現象であるが、当時は発光効率が低く実用には適さないとされていた。

同じ大学の研究グループは、量子ドットをカルボン酸で処理することによって、効率が以前の約10倍、40%にも上昇することを明らかにした。現在市場に出回っている白色LEDは、3種類以上の半導体LEDを混合したものであるが、電力1ワット当たりの発光量は28-90ルーメンであるという。改良された量子ドットを紫外線を出すLEDで励起すると、1ワット当たり40ルーメンの光が得られるという。研究者たちはさらに発光効率を上げる努力をしている。
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白金に代わる水電気分解用ナノ触媒

2012-05-11 | 報道/ニュース

一昨日は、ナノ粒子を組み合わせて作成した人工材料について説明した。ナノテクノロジーが興味を持たれる理由の一つに、新しい特性を持つ新ナノ粒子や新材料を見つけ出すことがある。すでにカーボンナノチューブ強化プラスチック(9/23参照)、磁性を持つ金や熱膨張係数の小さい材料(2/17参照)について説明した。

 種々の触媒にはレアメタルや貴金属など貴重な金属が使われていることが多い。これらに代わる新ナノ粒子を見つけ出す努力が多くなされている。アメリカのブルックヘブン研究所の研究グループは、白金に代わって、窒化ニッケル-モリブデンのナノシートが水の電気分解触媒に使用できることを見つけ出した。電気分解の際の触媒は、水素を適当な強さで吸着する必要がある。吸着が弱いと水素は溶液の中に戻ってしまう。あまり強いと回収が出来ない。ニッケルとモリブデンの組み合わせが触媒としての機能を発揮するという。窒素と化合させることによってナノシートが出来上がったようだ。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=25174.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T6sen0YP5fg.google

 白金1kg50,000ドルに対して、ニッケル1kg20ドル、モリブデン1kg32ドルと約1000分の1の価格である。新しい触媒は白金とほぼ同程度の能力を持つという。水素の製作費を安くすることができたが、まだこれを燃料電池(10/16,17参照)の水素燃料として使用できるほどではない。しかしながら、このグループの研究者たちは安価で高効率の触媒開発への突破口が開けたと考えている。ブルックヘブン研究所には燃料電池について先駆的な研究を行っているグループも存在する。水素燃料利用が可能になるよう両グループが力を合わせて研究を進めていくようだ。


ナノテク人工材料で透明マントが

2012-05-09 | 報道/ニュース

ナノテク人工材料を用いると自然界には存在しない性質を持つ材料が実現できる(1/23,3/14,22参照)。Harry Potterで見られるような透明マントも実現可能であるかもしれない。ある材料を見えないようにするためには、光の波がその材料に入り込むことなくそのまわりを滑るように通過すればよい。理論的にはいくつかの材料を組み合わせることによって実現できることが示されている。多くの実験がなされていて電磁波の領域では実現されているが、光の波長ではまだ満足な結果が得られていないようだ。高分子の中にフォトニック結晶を埋め込むことによって2次元ではその目的が達せられるという報告もある。

ドイツのカールスルーエ工科大学の研究グループは、音波を通りすごさせる材料を見つけ出した。電磁波の場合は電波と磁波の両方を通りすごさせる必要があるため、直感的に理解しにくい。これに対して、液体のように滑りやすい材料には音波が侵入し難いことは理解できる。ペンタモード構造と呼ばれる構造は人工液体とも呼ばれ、この条件を満たすことが理論的に証明されている。

カールスルーエの研究グループは、リソグラフィを用いて下図のような高分子ペンタモード構造を作り出すのに成功した。測定の結果によるとほぼ満足すべき特性をもつ。音波に対するプリズムやラウドスピーカーの作成に利用出来そうであるという。

                            
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ナノテクノロジーと二酸化炭素回収・貯蔵

2012-05-07 | 報道/ニュース

応急的な安全対策しか施されていない原子力発電所(3/12,4/2参照)の再稼働が容認されないことは大変好ましいが、これに代わる燃料として石油や天然ガスが使用されると二酸化炭素放出が問題となろう。ここで注目されるのは二酸化炭素の回収/貯蔵(Carb on dioxide capture and storage, CCS)である。欧米やオーストラリアでは多数の発電所などでCCSプロジェクトが進行中である。
http://sequestration.mit.edu/tools/projects/map_projects.html

CCSプロジェクトでは排気ガス中から二酸化炭素を分離しこれを地中に保存する。二酸化炭素の分離には通常化学反応が利用されているが、ナノテクノロジーによる効率の改善を目指して研究がなされている。テキサスA&M大学のZhou教授のグループは、MOF(3/2参照)が二酸化炭素分離に有効であるとの見通しの元、広範な研究を展開している。MOFはその形を変えることによって、特定の分子を吸着させることができる。二酸化炭素のみを吸着できるMOFの開発に成功したとの報告もあり、これを用いると煙突から排出されるガスの中から相当量の二酸化炭素を取り除くことができるという。
http://www.sciencedaily.com/releases/2012/05/120501162516.htm

フローレンスバークレー国立研究所の研究グループは、ゼオライトと呼ばれる材料がCCSに有効であると考え、計算機シミュレーションで最適構造を模索しているという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24436.php

二酸化炭素と水からバイオ燃料を作り出し得る可能性もある。これまで銅がこの反応の触媒となり得ることが知られていたが、銅ナノ粒子が不安定で実用に供することが出来なかった。マサチューセッツ工科大学の研究グループは、同様の触媒作用を持ちしかも安定である金と銅の合金ナノ粒子を水中に浮遊させ、電圧を加えつつ二酸化炭素を注入するとこの反応が生じるとを明らかにした。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24876.php


クイーン賞がNanoSight社へ:イギリスのナノテクノロジー政策

2012-05-05 | 報道/ニュース

今年度の企業向けのクイーン賞国際貿易部門がNanoSight社に授与されたと報じられている。NanoSight社は、2005年に設立された従業員数25人のベンチャー企業であるが、ナノ粒子のサイズ分布の測定では世界をリードしている。売り上げの90%は国外であるという。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=25080.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T6CZB-6dusI.google

ナノ粒子のサイズ分布は電子顕微鏡などを用いて決定することができるが、NanoSight社が開発した方法は、光学顕微鏡とレーザーを用いるもので、測定に要する価格も安く時間も短い。溶液中のナノ粒子の集合体にレーザー光を照射する。ナノ粒子は溶液分子と衝突を繰り返しブラウン運動と称するジグザグ運動をする。個々のナノ粒子の運動を光学顕微鏡で観察して粒子の大きさを決定する。この原理を利用してすでに450種類の装置を製作しているという。ナノ粒子のサイズの決定やドラッグデリバリー(3/27参照)の際、ナノ粒子のコーティングが着実に行われているかどうかを確認することなどに用いられる。

アメリカと同様に(5/1参照)、イギリスでもナノテクノロジーに関する政策が決定され文書化されている。アメリカのNNI(10/22参照)と同様な省庁をまたぐ組織が取り仕切っている。ナノテクノロジーの進歩がイギリスの経済ならびに消費者に恩恵をもたらすという予測のもとに政府が技術革新や製品開発を支援するという。次の四つのカテゴリーについて政策を経て進行することになっている。ビジネス・産業・技術革新、環境・健康・安全に関する研究、規制および広報。

わが国では、研究支援は文部科学省、ナノテクノロジー材料に関する産業支援は経済産業相と省庁縦割りでいささか心許ない。


自己アセンブリにも進歩が:ナノ粒子を整列させる

2012-05-03 | 報道/ニュース

個々のナノ粒子は興味ある性質をもっているが、その本領を発揮するのは集合体を作った場合であることが多い。集合体を作るのには自己アセンブリ(自己組織化)と呼ばれる現象が利用される。下表のように、これまでいくつかの例を述べて来た。これまで説明して来た手法を大別すると3種類ある。ナノ粒子を固体表面や他のナノ粒子に付着させるときおのずから一定の距離を保つことを利用するもの、リソグラフィで作ったパターンにナノ粒子を付着させるもの、DNAが作る規則正しい構造を利用するものである。

これらのほかに、高分子に付着したナノ粒子を利用する方法がある。高分子が互いに結合することによって、付着したナノ粒子を規則正しく配列させることが出来る。真珠が成長するのはこのような機構によると言われている。バークレイ国立研究所とカリフォルニア大学バークレーの研究グループは、金ナノ粒子と共重合体超分子の溶液から、1次元、2次元、3次元の金ナノ粒子の配列を作り出すのに成功した。超分子は1個の分子のように振る舞うがいくつかの分子の集まりで種々の機能を持つ。共重合体とは2個以上の高分子によって成り立っている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25058.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T5zKutfvgac.google

この研究で用いられた手法は種々のナノ粒子の集合体を作るのに適用出来そうで、その意義は大きい。また、ここで作成された1次元および2次元の配列での金ナノ粒子間の距離は8-10nmで、プラズモニックス(11/18,19,3/9参照)の研究に利用出来そうである。