ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

12個の原子よりなる小さい磁気メモリデバイス

2012-01-14 | 報道/ニュース

12日付のNew York Times誌は、上記のような表題で、学術誌Scienceに最近発表されたIBM研究所の研究者たちの成果を報じていた。

記事の内容を説明する前に、磁気メモリについて少し説明しておこう。電子はスピンを持っている(9/25参照)。通常一つの電子軌道をスピンの向きが逆の2個の電子が占有する。このような場合、偶数個の電子をもつ原子は、磁界を加えても何ら反応しない。奇数個の電子をもつ原子では、磁界を加えるとスピンが向きを変えようとする。このような性質は、常磁性と呼ばれている。

鉄は強磁性と呼ばれる性質を示す。鉄の原子番号は26であるが、1個の電子しか占有してない電子軌道がいくつかある。したがって、磁界を加えるとスピンが磁界方向に向こうとする。しかも、一つの電子のスピンが磁界方向に向くと、隣りの原子もそれに同調する。したがって、よく知られているように鉄は磁界に強く反応する。このような性質を強磁性という。

強磁性を示す材料は磁気メモリ材料として有用で、現在ハードディスクなどに利用されている。しかしながら、現在もっとも進化した磁気メモリー材料でも、0または1の信号を記憶するのに、約100万個の原子を必要とする。IBMの研究者たちは、これを一挙に12個の原子に縮小したことになる。

新しいメモリデバイスは、窒化銅の平板の上に鉄原子を1列に並べたものである。走査型トンネル顕微鏡(8/26,9/17,10/11参照)は、表面上の個々の原子を識別出来るだけではなく、原子を持ち上げて特定の位置に移動することも出来る。したがって、このようなデバイスを作成することは不可能ではない。さて、このようにして並べた鉄は反強磁性を示す。すなわち、一つの原子の電子スピンが磁界の方向を向くと、隣の原子の電子スピンが逆方向を向く。したがって、磁界を加えると12個の原子のうち、6個の電子スピンは磁界の方向に、他の6個は逆方向に向く。たとえば、1番左の原子の電子スピンが磁界の方向を向いている状態を0、逆方向を向いている状態を1として、メモリに使用出来る。いずれの状態にあるかは、走査型トンネル顕微鏡の針を例えば左端の原子のすぐ上に位置すると識別出来、また電流を流すことによって2状態間の遷移を起こすことが出来るという。

この実験は極低温で行われたが、150個の原子を用いると常温で動作する同様のメモリデバイスを作成出来るという。

現在のスーパーコンピューターをしのぐコンピューター(10/13,11/3,12/23参照)の達成に向けて、新しいナノ材料、ナノ反強磁性材料が仲間入りしたことは大きな意義を持つかもしれない。