ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

独立法人科学技術振興機構設立の目的は

2011-08-30 | 日記
もう一度繰り返すと、アメリカでは、基礎研究支援は国立科学財団が、開発研究・生産活動支援(開発研究に直結した基礎研究も含む)はエネルギー省など各省庁が担当する。基礎研究支援には、研究テーマなど一切の制約がない。これに対して、各省庁の支援には、経済発展・雇用促進など国策に応じた領域・分野を指定する。

我が国の開発研究・生産活動支援は、経済産業省など各省庁が担当するが、経済産業省には独立法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)があり、多額の予算を握っている。この問題点については、後に述べる。

基礎研究支援を担当する文部科学省の傘下に独立法人科学技術振興機構(JST)がある。これが戦略的創造研究推進事業を担当し、領域・分野を指定した基礎研究支援を行っている。その一つ、先端計測分析技術・機器開発事業はいささかピント外れであることを先日述べた(8/26、8/28)。このような事業に投入する予算は科学研究費に振り返る方がより大きな成果が期待できる。

戦略的創造研究推進事業の目的は国策に従って特定の領域の基礎研究を推進するもので、産業や社会に役立つ技術の種を創造することにあるという。支援の対象となるのは、大学、研究所の研究者が主で、企業の研究者も一部含まれている。しかしその成果が必ずしも生産活動に結びつくものとはいえない。一方、NEDOは、産業技術の競争力強化を目的として支援を行っているが、その領域にはJSTが支援する領域と重なっているものが多い。二つの独立法人が存在する理由がわからない。統一することによりより大きな効果が期待できそうだ。

官僚たちは、予算は財務省から獲得してばらまくものと心得ているようで、限られた予算でより大きな成果をあげなければいけないという感覚が薄いようだ。

文部科学省と経済産業省ともに開発研究に関与している

2011-08-29 | 日記
文部科学省の前身が文部科学省と科学技術庁であるためか、技術は文部科学省の領域であると考えているようだ。しかしながら、文部科学省が支援の対象とするのは、おおむね研究者である。企業そのものが推進したい開発研究や生産活動まで踏み込むことができない。文部科学省は産学協同を推進しようとしているが、それらは多くの場合、大学と企業の研究者が共同で行う研究である。必ずしも、企業自体が推進したい開発研究や生産活動に関連した研究であるとは言えない。企業が求める産学協同は、生産活動につながる開発研究に対する大学からの協力であろう。高度成長期の間も、我が国の大企業が協力を受けたのはおおむね外国の大学の研究グループで、多額の資金援助を行っていた。

もう一つ事態を複雑にしているのは、独立行政法人の存在である。文部科学省には科学技術振興機構、生産活動に携わる経済産業省には新エネルギー・産業技術総合開発機構がある。このような状況で、国内外の基礎研究で開かれた突破口が速やかに生産活動に結びつき得るとは思われない。

アメリカでは簡単である。基礎研究は国立科学財団、開発研究ならびに生産活動はエネルギー省、保健社会福祉省など関連省庁が担当する。その間の橋渡しをするのが大統領直属の科学技術政策局であろう。このような体制によって、アメリカは、世界の原子力技術、半導体技術を先導し、情報技術を支配してきた。ナノテクノロジーも現在はアメリカが支配していると考えられており、またその状況を継続しようと努力している。

基礎研究と開発研究・企業化

2011-08-28 | 日記
基礎的な実験研究は物事の突破口を開く。レーザーを例にとってみよう。レーザーとは、気体や固体を共振器と呼ばれる容器の中に閉じ込め、外からエネルギーを与えると、発振状態になり、狭い波長域の強い光を発する。共振器の両端に、平行に向かい合った鏡があり、その一方に小さな穴が開いていて、この光を取り出せるようになっている。原理的にレーザー発振が起こることが分かっていても、それを初めて実証するには、試行錯誤が必要であった。1950年代後半に突破口が開けると、企業化の道が開け、各種の製品が発売された。研究者はおおむね採算がとれるもの作りが得意ではない。生産活動に携わったのは、企業である。

生産活動と基礎研究との間には、いくつかの開発研究が必要である。たとえばレーザーの場合、波長が違った光を得るには、共振器の中にいろいろな気体や固体を入れる必要がある。それらの特性を得るなど種々の開発研究が必要である。企業の生産活動が経済発展ならびに雇用促進に結びつくことを考えると、基礎研究の成果を速やかに開発研究・企業化に結びつけることが要求される。

この結びつきが良好でないことを文部科学省は認識していたようである。それを解消する目的で、先端計測分析技術・機器開発事業が計画されたようであるが(8/26参照)、残念ながらもはや計測分析技術にはそれほど先端性の高いものが多くない。この事業にどれほどの意味があった疑問が残る。それより、世界的に先端技術と見なされているナノテクノロジーに関与する企業が少ないのが気にかかる。8/26の記述に付け加えると、ナノテクノロジーのバイオ・医療関係への応用に関与している会社は、日本では1社のみである。これに対して、アメリカでは200社余り、ドイツでは29社、イギリスでは19社ある。

この理由は、我が国における研究費支援機構が複雑であることが原因であろう。

事業仕分けへの再訪問---大型プロジェクト

2011-08-27 | 日記
事業仕分けでは、宇宙やスーパーコンピューターなどの大型プロジェクトも取り上げられた。議論を聞いて奇異に感じたのは、説明する側も仕分け側も共にほとんど専門的知識を持ってないことである。予算の使い道の議論ならともかくとして、このメンバーで事業の可否や予算額を議論するのは適切であると思えない。

蓮舫氏が世界一でなくてもよいのではないかと言ったのは有名である。計算速度のみの競争であれば、世界一である必要はなかろう。問題は、世界一のスーパーコンピュータを作ることによってどのような成果があげられるかである。このような議論は、もっと高いレベルでなされる必要があるが、我が国ではそのような組織が作られてない。幸いにして削減された予算が復活し、今年6月に毎秒8000兆回と世界一を達成した。

アメリカでこのような役割を果たしているのは、大統領直属の科学技術政策局である。アメリカはもっとすごいスーパーコンピューターを計画している。オバマ大統領の21世紀へのチャレンジの中には、これより100万倍早い計算機が含まれ、病気治療法、高性能材料や効率の高い自動車・飛行機などのシミュレーションや設計の効率化に利用できるとしている。大統領のチャレンジには、その他今後の技術開発の指針となりそうな事項、がん治療、太陽光発電、軽い防弾チョッキ、効率的な光合成システム、正確な翻訳ソフトウェアなどが含まれている。我が国の総理大臣のチャレンジより具体的で、ランクがはるかに高い。

事業仕分けへの再訪問---先端技術の企業化問題

2011-08-26 | 日記
誤解がないように一言述べておく。私は、日本の研究者の研究レベルが低いと言っているのではない。現在でも、日本の研究者の研究レベルは、世界的に高い位置を占めている。私の言いたいのは、研究費の配分方式が改良されると、さらにレベルが上がるであろうということである。

さて、昨年の事業仕分けで科学技術に関するいくつかの事業が取り上げられた。その中の一つに、先端計測分析技術・機器開発事業がある。その時の議論によると、この事業が企画された背景は先端技術を用いた機器の購入先がほとんど欧米であることである。たとえば、レーザーである。1950年代後半にレーザー現象が実証されて以来、各種のレーザーが開発された。レーザーは限られた波長の強い光を特定の方向に発射するので、その応用範囲が広い。多くのアメリカやドイツののベンチャー企業が各種のレーザーを製品化し販売した。

もう一つの例は、走査型トンネル顕微鏡である。1978年にスイスのチューリヒ研究所のローラーとビーニッヒが、固体の表面のすぐ近くを鋭い針を移動させ、表面での原子の並び方を検出することに成功し、ノーベル賞を受賞した。この手法はその応用範囲が広く、走査型トンネル顕微鏡として、またその後開発された同様の機能を持つ原子間力顕微鏡を、多くのベンチャー企業が販売を開始した。日本での販売が始まったのは、かなり遅れてからであった。日本では、ベンチャー企業が少なく、新技術に速やかに対応することができないようだ。

事業仕分けでも、先端計測分析技術・機器開発事業にいくつかの問題点が指摘された。私が感じた最大の問題点は、研究費の配分先が研究者であることである。先端技術を用いた機器類の生産を促進するのなら、企業を支援すべきであろう。研究者の協力が必要な場合のみ、研究者をも支援すればよい。日本では、技術問題を文部科学省と経済産業省とが取り合いをしている。高度成長期に産業がアメリカの技術を基盤としていたことの名残りであろうか。

世界では先端技術が計測分析技術からナノテクノロジー(8/18参照) に移っているようだ。ナノテクノロジーの根幹をなすのは、炭素原子が平面状に並んでいるグラフェン(2005年ガイムとノボセロフが発見、2010年ノーベル賞)とカーボンナノチューブ(1991年飯島が発見)であろうが、これらを取り扱っている会社は、アメリカにはそれぞれ36社と2社あるが、日本にはカーボンナノチューブを取り扱って会社が1社あるのみである(Nanowerkによる)。日本では、先端技術を企業化することが定着していないようである。ちなみに、中国ではカーボンナノチューブ関連会社が10社、グラフェン関連会社が1社ある。

大学分権を

2011-08-24 | 日記
アメリカの国立科学財団(NSF)には毎年約4万件の申請があり、そのうち約1万1000件が採択されるという。採択されなかった申請も送り返された査読報告書を参考に、いつでも再申請できる。研究期間が3、4年程度するとかなり採択率が高いと考えられる。アメリカでは1万1000件もの研究グループが、計画したプロジェクトに従って研究を進めることができる。

日本の科学研究費等の中で、金額的に計画したプロジェクトに従って研究をすすめることができるものは限られている。科学研究費の特別推進研究、特別領域研究、新学術領域研究、基礎研究Aと、独立法人日本学術振興会と科学技術振興機構が受け持つ支援事業(8/21参照)であろう。採用件数は、ホームページでは全貌が把握しがたいが、合計1000件にも満たないだろう。これ以外の研究グループは、配分された金額でできることを遂行するしか方法がない。大学には、講座研究費と称して毎年教授および准教授各1名に300万円程度が支給されるが、この金額もその他の科学研究費で支給される金額と同程度である。基礎研究の研究費配分に格差が生じているように思われる。

いろいろな面で、官僚があまりにも細かいことまで支配しすぎているのでは無かろうか。大学分権、大学上層部にもう少し自由度を与えればどうだろう。講座研究費は研究の進捗にかかわらず毎年一定金額が支給されるという弊害がある。講座研究費と文部科学省から特別に支給される研究費と合わせると、大学として独自の展開を図ることが可能であろう。新しい研究グループへの支援、成果をあげた研究グループの拠点化などなど。

文部科学省は、各大学の進捗状況の審査を徹底すればよい。発表した論文数も重要であるが、最近は各論文(ほとんどすべての論文が英語で記述される)がどれ位注目されているかすなわち何回引用されているかを容易に知ることができる。一般家庭からでも、Google Scholar に研究者の名前を入れるとすぐに分かる。各研究者の国際舞台での活躍ぶりにも注目すべきであろう。文部科学省はいろいろな観点から各大学の研究活動を評価し、特別に支給する金額を加減すればよい。

基礎研究の研究費配分は官僚機構に支配されている

2011-08-24 | 日記
文部科学省のグローバルCOEプログラム、世界トップレベル研究拠点プログラムは、いささか奇妙な資金援助である。大学や研究所の中で、いくつかの関連した研究を行っている優れた研究グループを集め、世界の中心や拠点としようとするものである。大学総長や研究所長のもとで計画を練り、申請した結果を文部科学省で審査する。そもそも研究拠点などというものは、優れた研究者が何人かいればおのずから形成されるもので、研究拠点をつくるための予算要求とは理解しがたい。

しかしながら、これらのプログラムで支給される金額は10億円を超えるもので、各大学ともその獲得に必死である。このように、いろいろな形で研究費支援の網が張られていて、大学や研究所の上層部も研究者も官僚に頭が上がらない。このような状況が、原子力村の形成の背景にあったようにも考えられる。

日本にとって、科学技術の振興はきわめて重要な課題である。そのためには、研究者が必要とするとき必要な額の研究費の支援を受けることが好ましい。金額が多すぎても、必ずしもありがたくないはずである。年度内に消費する必要があるからだ。

アメリカでは、新しく着任した若い准教授に、研究室を立ち上げるための多額の(数千万円-1億円)が、大学から支援されることが多い。これによって、彼らが自立し外部からの研究費の支援を受けることができるようになる。文部科学省の挑戦的萌芽研究、若手研究、奨励研究は若手研究者が対象であるが、とても新しい研究を遂行できるような金額ではない。多くのノーベル賞クラスの研究は、20代や30代に達成されている。理論物理学者の湯川秀樹、朝永振一郎、それに最近の小林・益川はいずれも20・30代の業績であるが、これらはほとんど研究費がかからないその当時の理論研究である。江崎玲於奈や田中耕一の実験研究も20・30代に達成されたものであるが、研究場所は会社である。IPS細胞の京都大学山中伸弥はノーベル賞候補に上っているが、我が国の大学や研究所で20.30代に達成されたノーベル賞級の実験研究は極めて少ない。

基礎研究支援のあり方の再検討が必要であるように思われる。

研究費援助方式: アメリカと日本-3

2011-08-23 | 日記
文部科学省の基礎研究支援事業には、科学研究費のほかにいくつもの種目がある。個人や研究者の集団が申請できるものには、独立法人科学技術振興機構が受け持つCREST、さきがけ、ERATO、TriP(高温超伝導)、山中iPS細胞特別プロジェクト、先端的低炭素化先端技術、先端計測分析技術・機器開発事業、独立法人日本学術振興会が受け持つ最先端研究開発支援プログラム、最先端・次世代開発支援プログラムがある。さらに文部科学省には、大学や研究期間が申請できる事業、グローバルCOEプログラム、世界トップレベル研究拠点プログラムがある。

太平洋戦争終戦直後は、各個研究と試験研究とからなる科学研究費が存在するのみであった。高度成長に伴い、旧文部省や旧科学技術庁が旧大蔵省と折衝し、事業ならびに予算額を拡大した結果であると思われるが、いくつかの問題点がある。

第一に、科学技術振興機構が受け持つ事業は研究領域を指定するが、基礎研究に国が方向付けを与えることが好ましくない。国策として経済発展と雇用創出を目指して振興しようとする課題に対する基礎研究は別である。アメリカでもエネルギー省(DOE)は、燃料電池や新エネルギー源など区別テーマの基礎・開発研究を公募しているが、基礎研究を担当する国立科学財団(NSF)は一切テーマの規制をしない。研究者たちは、何が重要項目であるかを十分把握しており、国が指針を与えなくても最先端プロジェクトの研究計画申請が提出されるはずである。

第二に、指定されたテーマの中に生産活動につながりそうなものもある。後で述べるように、経済産業省も同様のプログラムを持っており、重複している嫌いがある。

第三に、日本学術振興会が受け持つ事業では、数10億の研究費がいくつかの研究グループの集団に支給される。選ばれなかったグループから良い研究プロジェクトが現れないという保証がない。

研究費援助方式: アメリカと日本-2

2011-08-22 | 日記
アメリカの国立科学財団( NSF)の研究費援助方式は、きわめて単純である。まず締め切り日がない。申請書を提出するのは、大学または研究所の研究グループのリーダーである。研究者が計画した研究プロジェクトを数年かけて達成するために必要な費用を申請できる。その中には、研究に必要な装置、器具類はもちろん、国内外旅費、博士の学位を持つ研究員(ポスドク)や大学院学生のサラリーも含まれる。

日本での基礎研究支援の主なものは文部科学省の科学研究費であるが、その内容はきわめて複雑で、かつ研究者に親切ではない。まず、年1回の締め切り日がある。国際会議に参加するための旅費やポスドクならびに大学院学生の奨学金は別途独立法人日本学術振興会へ申請する必要がある。また、科学研究費の種目が著しく多い。特別推進研究、特別領域研究、新学術領域研究、基礎研究A、B、C、挑戦的萌芽研究、若手研究、奨励研究と、金額および支援を受ける研究者の身分や年齢によって異なる。このため、研究グループのリーダーだけではなく、一つの研究室からいくつもの応募があり、申請数が多くなり審査を難しくしている。現在、特に理系の研究室ではほとんどがグループ研究であり、研究室内の個人が研究費を受けても経理が煩雑になるだけであまり意味がない。またこのように研究費の配分を細分化するため、日本では、大型研究を除き、申請した研究計画がどのような成果を収めたかを追跡されることはほとんどない。

研究費援助方式: アメリカと日本-1

2011-08-21 | 日記
研究者にとって、国からの研究費支援はなくてはならないものである。アメリカでの研究費支援は、研究者にとってきわめて親切な方式がとられている。これに対して、日本では官僚支配が強い。原子力村など、官僚と研究者との癒着が強いのはこのような面が反映しているとも思われる。

アメリカでは、基礎研究の支援は国立科学財団(NSF)が一手に引き受けている。申請書は通常3人の査読者が査読にあたり、その結果を参考にNSF職員(研究経験があり博士の学位を持つ)が採否を決定する。査読結果は申請者に返され、採択されない場合は再申請も出来る。査読結果が申請者に返されるので、申請者は採択されなかった理由を知ることができる。これに対して、日本では分野ごとに文部科学省官僚が3人の査読者を任命する。査読者は分野全体のかなり多数の申請書を審査し、5段階評価で採点する。必ずしも査読理由を付加する必要がない。査読者の評価をもとに採否が決定され、採択された場合にのみ申請者に通知される。採択されなくても、その理由を知ることがない。

NSF方式は、研究の振興に最も適していると言える。研究者が新しい研究プロジェクトを計画するとき、必ず世界一となる側面を含む。そうでないと、論文が書けないからである。その世界一に普遍性がありまた実現性があるかどうかを評価できるのは、その研究分野に最も近い研究者である。3人の査読者は、このような研究者の中から選ばれる。申請者が、査読者の候補者を指名することもできるが、査読者の決定は、NSF職員が行う。日本の方式では、不採択の理由が明らかでないこととともに、分野ごとに査読者が指定されるため、専門外の分野の審査も余儀なくされる。必ずしも適切な評価方法とは言い難い。

このほかにも、我が国の研究費支援には官僚支配の傾向が多々認められる。

我が国では科学技術政策が各省庁独自で決められている

2011-08-20 | 日記
内閣府に総合科学技術会議があるが、外部委員は6名程度しかいない。総合科学技術会議の下にいくつかの専門調査会がある。そのなかで政策に関係したものは基本政策専門調査会であるが、それに所属するプロジェクトチーム(PT)はいずれも各省庁に所属している。たとえば、ライフサイエンスPT、ナノテクノロジー・材料PTは文部科学省に、ものづくり技術PT、エネルギーPTは経済産業省に所属する。総合科学技術会議の審議は方法論的なものが主で、国家プロジェクトなど具体的な内容に関するものはほとんどない。

大統領直属の科学技術政策局(OSTP)があり、科学、技術、エネルギーおよび環境、国家安全および国際問題の直轄4分科を持つ。OSTPには、20人程度の専門家を含む大統領科学技術諮問委員会(PCAST)があり、その会合の様子はインターネットでも視聴できる。具体的な問題を審議し、推進すべき政策につき大統領に勧告している。宇宙、原子力などの大型プロジェクトや、研究の発展や社会の状況を見据え推進すべき開発研究の方向性をも勧告する。関連省庁は大統領の決定に基づき、予算の配分を受け研究ならびに生産活動を推進しているようである。

我が国の科学技術総合会議は、科学技術基本計画の策定を文部科学省に丸投げしている。文部科学省は、大学や研究所の研究者を対象とする省庁である。ここで立案された科学技術基本計画には、研究開発や生産活動に対する具体的な記述や少なくまた投資にあまり重点が置かれていない。最近作成された第4期科学技術基本計画には、開発研究に対する投資を、官民合わせてGDP比4%、官1%にするとある。しかしながら、科学技術行政には各省庁の元いくつかの独立法人が関与していて、その成果に疑問が残る。

以下、アメリカの現状と比較しつつ我が国の科学技術行政の複雑さを述べる。

科学技術政策に期待するもの

2011-08-19 | 日記
科学技術政策は、基礎科学の振興から、開発研究ならびにその成果を基盤とした生産活動の推進に及ぶべきものである。生産活動の推進は国の経済発展ならびに雇用促進に結びつくもので、極めて重要である。

基礎科学の振興は国の威信に関わるもので、各国とも力を入れている。宇宙物理学や素粒子物理学は、それぞれ宇宙や原子核を構成する粒子の根元に迫ろうとするもので、きわめて基礎的な色彩が濃い。しかしながら、材料科学、化学、生物学などの基礎研究の中には、産業に直結したものが多い。前世紀後半のシリコントランジスタに始まる固体エレクトロニクスの発達は、1925年頃に完成した量子力学をもとに、固体物理学(現在では材料科学と呼ばれることが多い)が著しい進歩を取れたことに起因する。当時の物理学者たちは、真空中での電子の移動を制御する真空管に比べて、固体中の電子の移動を制御するトランジスタの優越性を認識していたのであろう。

基礎研究と直結した開発研究や生産活動を推進するには、総括的な科学技術政策を必要とする。しかしながら、我が国の政治では省庁の壁が厚い。基礎研究は文部科学省、開発研究や生産活動は経済産業省や厚生労働省の担当となっている。高度成長期には、この省庁縦割り方式がうまく機能した。経済産業省(当時の通産省)が、日本株式会社と外国から揶揄されるほど企業、主として大企業を援助した。当時は、アメリカに追いつけ追い越せと目標が明確で、他省庁と協力する必要がなかった。わが国のGDPの増加が1990年ころから急速に遅くなったが、これは省庁縦割り方式が機能しなくなったのと無関係ではなさそうである。

21世紀前半は新技術競争時代だ

2011-08-18 | 日記
20世紀後半の技術進歩は著しい。現在日常的に使われているコンピューターや携帯電話がここまで進歩したのは、半導体技術の進歩に起因する。

20世紀前半のエレクトロニクスの主役は真空管であった。真空管では、加熱した金属から真空中に放出される電子の運動を制御する。これに代わるものが、1945年に発見されたトランジスタである。トランジスタでは、シリコンなど固体結晶の中での電子の運動を制御する。真空管とトランジスタとの違いは、その大きさである。真空管は、ガラス管の中に電極などを封じ込めたものである。いくら小さくしても、直径1センチメーター、高さ2cmぐらいしかならない。これに対して、発見された当時のトランジスタは数ミリ程度の大きさであったが、年とともに急激に小さくなった。1960年にムアーの法則が発表された。トランジスタの大きさが毎年2分の1になるというものである。実際この予測が見事的中して、現在では100ナノメーターに近づいている(1ナノメーターは10億分の1メーター)。現在使われている方式は、大きなシリコン結晶を小さく区分するもので、トップダウン方式とも呼ばれている。この方法はもはや技術的限界に近づいていると言われている。

それにとって代わると言われているのが、ナノテクノロジーである。100ナノメーターより小さい粒子を規則的に並べて、区画されたシリコン結晶(チップと呼ばれる)と同じような機能を持たせようとするものである。このボトムアップ方式は、朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を受賞したアメリカの理論物理学者ファインマンによって、1959年に予想されている。

20世紀末からのナノテクノロジーの進歩は著しい。エレクトロニクス分野では、未だ研究段階であるが、その応用範囲は広く、エネルギー、材料、医療の分野に及ぶ。その経済効果は、10兆円を超えようとしているともいわれている。これまで全く研究がなされていない領域なので、画期的な技術進歩に貢献することが期待されている。各国ともその発展には力を入れている。適切な科学技術政策が要求される。

閑話休題

2011-08-17 | 日記
泊原子力発電所の再開が問題になっている。この原子炉も、緊急安全対策としては非常用電源車を設置したのみのようだ。どの原子力発電所のホームページにも、緊急安全対策の明細か書かれてない。このような状況で、首長の判断で原子力発電所が再開されるのはいかがなものだろうか。柏崎原子力発電所が再開されそうになった時も、ニューヨークタイムズに「日本では一知事が原子力発電問題の将来を決めようとしている」と、揶揄するような記事が載っていたことを思い出す。

昨日の、TBSのニュース23で、ジャーナリスト立花隆氏がSACLAと呼ばれる播磨地区に新設されるエックス線レーザーを紹介したが、中国新幹線が中国独自の創作であるという報道と趣が似ているという印象を受けた。すでにスタンフォード大学にエックス線レーザーが存在し、利用されている。SACLAは、スタンフォード大学のものより波長が短いエックス線を作り出すことに成功し、またきわめて短いエックス線パルスを発生することになっている。この意味では新しい成果が期待できるが、日本人にしかできない技術であるという印象を与えるのは好ましくない。TBSの科学技術関連報道にはずさんなものが多いようだ。

これまで10日間ほどにわたって、原子力発電について感じることを述べてきた。途中で何回かもうやめようかとも思ったけれども、少ないながら訪問者がいることからともかく続けてきた。何でもいいからコメントがいただけるとありがたい。

原子力発電について、これ以上詳しく述べても仕方がないので、少し見方を変えて科学・技術全般についてもう少し続けてみようかと思っている。インターネットで日々たくさんの情報(ほとんど英語であるが)が入ってくるので、面白そうなものを少しずつ紹介する予定である。さしあたっては、日本の科学技術行政の現状について述べてみたい。

原子力発電の問題点 10.もっと的確な対応を

2011-08-16 | 日記
昨日のニュース23に五木寛之氏が出演し、敗戦後の荒廃した日本には今回の震災後に比べてもっと明るさがあったと述べていた。確かにその通りで、敗戦によって軍部が壊滅し,自由にものが言えない日本から明るい日本に急変した。今回の震災は、なんとなく閉塞感に満ちた状況にさらに追い打ちをかけた上、これまでの状況がそのまま引きずられているようにしか思えない。

このような大災害にもかかわらず、国の原子力発電所に対する対応にはほとんど変化が見られない。経済産業省は、電力の不足を理由に点検が終了した原子炉を再開しようとする。非常用電源の水没が今回の事故を大きくした原因であるので、安全な場所に非常用電源を設置した原子力発電所を再開しようとするのなら、まだ理解できる。しかし、玄海原子力発電所のように、非常用電源が水没する可能性がありながら、電源車を用意するだけで発電を再開しようとする。これに対して、メディアも専門家たちもそれに政治家も全く反論しない。この状況は、震災以前と全く変わっていない。

原子炉運転再開問題、避難区域の設定、放射性物質含有量基準値の決定などすべてのことが官僚を中心とした狭い範囲の人々で決定されているように思われる。政府はもっと多くの専門家の意見を聞くべきであろう。アメリカのエネルギー省(DOE)は、種々の問題についてワークショップを開催する。内外の専門家20-30人程度が、オフシーズンのホテルなどに缶詰になり、徹底的に議論する。参加者の中にはもちろんDOEの役人がいるが、彼または彼女は、学位を持った専門家と対等に議論できる人材である。議論のまとめが、DOEの種々のプロジェクトの進行に生かされていく。日本のように、官僚が準備した資料をもとに審議する委員会とは大違いである。

差し当たっては、被害を受けた福島発電所の後始末の問題と日本に住む人々に対する放射線の被害をいかに少なくするかが大問題であろう。また、原子力発電所をすべて停止するわけにはいかないだろう。それならば、今回の災害を教訓にどの原子炉が最も安全であるかを検討し、それらの運転を続けるべきであろう。原子力発電が今後も必要であると主張する専門家は、地震国に最も適した原子炉の設計を試みればよい。昨日述べたナトリウム冷却高速増殖炉「もんじゅ」は核燃料サイクル問題と直結している。発電用原子炉での使用済み核燃料には、プルトニウムが含まれている。このプルトニウムを抽出して、高速増殖炉で発電すると、通常の発電用原子炉で使用できる燃料が生成される。このサイクルを利用すると、地球上に存在するウランを有効に使うことができる。しかしながら、ナトリウム冷却高速増殖炉は、地震国日本には適さない。即座にもんじゅを廃炉にし、我が国の原子炉研究者は、新しい核燃料サイクルの手法を検討する必要があろう。

脱原発か否かが問題なのではなく、人類の将来を考えてエネルギー問題をどのように解決するか、分岐点に立たされていると言えよう。大震災を受けた日本では、何かが変わるべきであろう。そうでなければ、前進が期待できない。