ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

新しいタイプのトランジスタ

2012-07-30 | 報道/ニュース

シリコンなど半導体を基盤とするトランジスタが使われ始めてすでに60年にもなる。現在のトランジスタでは(10/29参照)、ゲートとドレインの間に加えた電圧によってドレインとソースとの間の電流を制御する。電流を流すことは発熱の原因にもなってあまり好ましくない。ナノテクをベースにする次世代LSIのトランジスタにこの方式を継承するべきであろうか。トランジスタに要求される性能は、流れる電流を少なくすることならびにゲートとドレインに電圧を加える前後(オンの状態とオフの状態)のドレインとソースとの間の電気抵抗比を大きくすることである。

理化学研究所(RIKEN)の研究グループは、Mott絶縁体と呼ばれる材料を用いて全く別のタイプのトランジスタの開発に成功した。Mott絶縁体の歴史は古い。1937年にイギリスの研究者たちがエネルギー帯構造[HP(アドレスはプロファイルに)2.1D参照]の上からは金属と見なされるはずのある種の材料が、絶縁体であることを見つけた。この現象に理論的な説明を与えた理論物理学者Mottの名前をとってMott絶縁体と呼ばれている。たとえば、RIKENの研究グループが用いた酸化バナジウム(VO2)は、ほぼ常温以上では金属であるが常温以下では結晶構造が変わり絶縁体となる。絶縁体となる理由は、電子間の強い相互作用が作用して、電子が動きにくい結晶構造に変化するためと考えてよい。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/jul/25/prototype-mott-transistor-developed

Mott絶縁体に信号を加え、金属/絶縁体間の変化を起こしトランジスタとして利用しようとする試み、Mottトランジスタを作成しようとする試みはこれまでにもなされてきたが成功していなかった。RIKENグループは、電解液に電界を加え酸化バナジウムの表面に正イオンを付着させると、結晶構造が変化し金属から絶縁体への変換が起こることを明らかにした。

今のところ、電解液を用いる必要があるとかまた金属/絶縁体の抵抗比が1:100しかないとか問題点が多い。しかしながら次世代LSIの構造ブロックとなりえないかという期待も大きい。一方でMott絶縁体の原因である電子相関、電子間の強い相互作用は超伝導の原因でもあり解明するべき事柄が多く残っている。


グラフェンの欠陥はひとりでに修復する

2012-07-27 | 報道/ニュース

炭素原子が1平面上に並んでいるグラフェンはいろいろおもしろい性質を持っている(2/27,6/28,HP2.2A1参照)。ナノエレクトロニクスへの応用にも期待が持て、いろいろな観点からの研究がなされている。

まず、グラフェン膜に作った穴がひとりでに修復されるという研究を紹介しよう。グラフェン膜にパラジウム(Pd)などの原子を少数個(たとえば数百個)のせ電子線を照射すると、グラフェン膜に穴があく。この穴はパラジウム原子が存在する限り続く。電子線がパラジウム原子の移動を促し、穴があいた部分の炭素原子間の結合を切断するようである。穴があいた部分の炭素原子はグラフェン膜のどこかに付着しているのであろう。電子線の照射をやめると、炭素原子が元の穴に戻ってきて、穴がおのずから修復されるという。グラフェン膜にあらかじめ炭化水素を付着させておくと、穴の部分に以前と異なった形状で炭素原子が並ぶという。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=25983.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.UAeYAK-zFnw.google

この研究は、イギリスのマンチェスター大学の研究グループによる。高性能の電子顕微鏡を用いて炭素原子が1個1個元の場所に戻ってくるのが観測出来るという。固体の自己修復など、これまで観測されたことがない現象で興味深い。著者たちはグラフェンを好ましい形に変える(テイラーする)のに使えると主張している。

太鼓の皮に張力を加えると音階が変化する。それと同様にグラフェンに張力を加えると電気的性質が変化することをアメリカ国立標準技術研究所(NIST)の研究グループが明らかにした。グラフェンにテントの様な部分を作ると、その部分に電子が集まり量子ドット(4/10,6/6参照)の様な働きをするという。グラフェンナノロッド(1/18参照)とグラフェンとが接続されているもので、デバイスの作成に利用できそうである。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=25935.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T_-dZq4IT-E.google


ナノテク関連会社情報数件

2012-07-25 | 報道/ニュース

ecoSolargy社は、セルフクリーニングコーティング(12/17,3/3参照)を施した太陽光発電パネルを製作したと発表している。このコーティングを施すことによって、20年の期間で効率を35%高めることが出来るという。

NEI Corfporation社は、亜鉛めっきを施したスティールの新しいコーティング技術を開発した。このコーティングでは、自己修復コーティング(10/23,1/12参照)とその上に防護用コーティングを施すもので、悪い環境のもとでもサビの発生を防止出来るという。

エコを目的として、屋根に赤外線反射コーティング(10/23参照)を施す試みが多いなかで、Industrial Nanotech社は新しい屋根のコーティング材料を製作している。このコーティングは、屋根の外見を変えないで省エネルギー性および耐腐食性を兼ね備えるという。コーティング材料は熱伝導度が著しく小さいので、夏も冬も省エネに役立つ。

Klean Industries社は、使用済みタイヤからカーボンナノチューブやフラーレンなど炭素原子から構成されるナノ粒子の製造法を開発した。35年前に日本でパテント化された技術を発展させたもので、1日250トンの使用済みタイヤが処理出来るという。

ナノテクノロジーは、研究によるブレークスルーの発見と商業化とが両輪となって進展するもののようだ。


ナノテクノロジーと織物産業

2012-07-23 | 報道/ニュース

The A to Z Nanotechnology社は、特定の産業でのナノテクノロジーの現状についての記事をしばしば掲載している。これまでいくつか紹介したことがある(6/26,7/4参照)。

さて、織物産業でもナノ粒子やナノファイバーを混入した製品が出始めている。強靭な、化学薬品に強い、水をはじく、抗菌性織物などこれまで実現できなかった性質をもった織物が製作されようとしている。問題点もある。製法がこれまでのものと著しく異なる点があるので、開発コストがかさみまた品質コントロールに問題が生じやすい。またナノ粒子の人類に対する影響も問題である。さらに多くの研究が必要であるという。
http://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=3058

織物産業へのナノテクノロジーの導入には、通常織物にナノ粒子を混入したものと繊維の直径がナノサイズであるナノファイバー(11/4,12/9,1/31,2/26参照)とがあるが、ここでは前者について述べる。ナノ粒子の混入によって改善される種々の性質を下の表に示す。さらに、最終仕上げの過程がナノテクノロジーの導入によって著しく改善されるという。染料ナノ粒子を用いることによって、最終仕上げに用いる水量を大幅に軽減出来る。また、最終段階でナノコーティングを施すことにより織物そのものの性質を変えずに抗菌性など必要な性質を加えることも出来る。

<colgroup><col width="196" /> <col width="486" /> </colgroup>
混入するナノ材料 改善される性質
   
カーボンナノファイバー 強靭性,化学物質に対する抵抗性、高電気伝導度
カーボンナノチューブ 強靭性、軽量、高電気伝導度、高熱伝導度
酸化金属ナノ粒子 光触媒、電気伝導性、紫外線遮へい、抗菌性
金属ナノ粒子 抗菌性、太陽光発電、装飾
粘土ナノ粒子 紫外線遮へい、耐火性、絶縁性、化学物質に対する抵抗性



すでに製品化されている織物には次のようなものがある。強靭化されかつ脱臭性のあるスポーツウェア、抗菌性を持つ医療用織物、対化学薬品性および耐熱性を持つ個人保護用衣料、柔軟性を持つ防弾チョッキ、エレクトロニクス機能を持つ衣料品。



世界で最も軽い新材料: アエログラファイト

2012-07-21 | 報道/ニュース

ドイツの研究グループは、体積1立方センチメートルの重さが0.0002グラムで、しかも強靭な材料の作成に成功し、アエログラファイトと名付けた。これまで最も軽いとされていたのは、保温材や断熱材として用いられているドイツのダウ社のスタイロフォーム(泡状のポリスチレン)であるが、比重はその75分の1であるという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=25966.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

炭素原子で作られるナノ粒子、カーボンナノチューブやグラフェンは、軽くて強靭でしかも高電気伝導度という興味深い性質を持っている。これらのナノ粒子を集めて強靭なしかも比較的サイズの大きい材料に仕上げようとする試みはこれまでにもいくつかのされていた。この研究グループは、酸化亜鉛の微結晶の集まりから出発し、高温でその表面を炭素でコートし、さらに水素を注入して亜鉛を放出させるという方法を用いた。この材料は、圧力に対しても張力に対しても強い。95%圧縮しても元の形に戻るという。

いろいろな応用が考えられる。リチウムイオン蓄電池(11/1,25参照)の電極に用いると、表面積が大きくかつ電気伝導度が高いという利点を生かせそうだ。また、高分子材料などに混入し電気伝導度を高めることも可能であろう。ともかく軽くてしかも優れた機械的性質および電気性質をもち、その上表面積が大きいという特徴をもつ。水の浄化にも有効であるという。


もし大飯原発が地震津波の被害を受けたら: 人災か天災か

2012-07-19 | 報道/ニュース

2013年某月某日、北陸地方で発生した巨大地震と巨大津波により大飯原発が被害を受け、福島原発より大量の放射性物質のまき散らしを誘発した。多くの住民は避難を余儀なくされかつ北陸地方の東西の交通が遮断され、その及ぼす影響は甚大である。

翌年早々事故調が報告書を作成しこの事故が政官産学がもたらした人災であると決めつけた。福島原発事故を悲惨にした原因が主電源ならびに非常用電源の喪失であることを教訓とするならば、政府は各原発に非常用電源を安全な位置に設置するよう勧告するべきであった。にもかかわらず、原子力保安院は震災直後各原発に安全対策を提案するよう勧告した。各原発が運転を継続できるよう提案した応急的安全対策を保安院は了承した。

4メーター強の津波で水没するはずであった大飯原発の非常用電源に対する対策は、ドアのシール施工と電源車の設置のみであった(注1)。津波の際流失物でドアが破壊され、また地割れにより電源車がその機能を果たせなかった。

原子炉専門家の集団である日本原子力学会は、上記応急的安全対策を学会の安全に対する提言として採用したが、その不完全さを認識していたのであろう。これを前期提言とし、より完全な安全対策を中期提言とした(福島第一原子力発電所事故からの教訓)。前期提言が施行された各原子炉が安全であると公言した専門家たちの責任も重い。

注1 ストレステストの概要整理表(大飯3、4号機)ならびに福井県原子力安全専門委員会"福島第一原子力発電所事故 を教訓とした県内原子力発電所の安全性向上対策について   (大飯3、4号機の安全性について)"による。非常用電源の高所への移動は計画中とある。

あとがき: 原子力発電所が災害を受けたとき、まずなすべきことは (1)核反応の停止および (2)水冷の継続である。これによって放射性物質のまき散らしすなわち公害を防止出来る。それには、ほとんど人手を借りずに作動する非常用電源ならびにポンプ系統を、安全な場所に、二重、三重に設置するべきである。電源車が果たして役立つかどうか極めて疑問である。メディアがこのことを報道しないのも不思議だ。外国の新聞に、道路が狭くて事故処理に向かうにも避難するにも問題だろうと報じていたのも気にかかる。また、総理大臣が暫定的安全対策を提案するのはまだ理解出来る。しかしながら、技術者にとっては暫定的安全対策などあってはならない。地震国に設置される原子力発電所にはそれ相応の対策が必要であることが認識されるべきであろう。


電流測定の画期的進歩: 電子1個ずつの測定が可能に

2012-07-17 | 報道/ニュース

電流とは、通常実に多くの電子の流れである。1アンペアの電流は毎秒約10の19乗個の電子の流れを意味する。電流を測定するには、電流の周りに発生する磁界を利用するのが普通である。

アメリカのカリフォルニア大学などの研究グループは、電子の流れを1個ずつ測定する手法を開発した。電子1個の動きを観察する手法はこれまでにも知られていたが(2/28,3/23参照)、新しく開発された手法では1秒間に10兆個程度の電子を一つ一つ流すことが出来るという。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=25835.php#.UAEUGW1qIEs.google

ここで電子ポンプと呼ばれている方法は、半導体表面に約100ナノメーター離して2本の金属のゲート電極を付着させる。ゲート電極の間に半導体量子ドットをおき(下図参照)、ゲート電極の左側から右側への電子の移動が量子ドットを経てしか起こらないようにしておく。電子を1個ずつ移すためには、右側のゲート電極に高い負の電圧を加えておき、その間に左側から数個の電子を量子ドットへ移す。しばらくの間、左側のゲート電極に適当な大きさの負の電圧を加え量子ドットに移された電子の内1個を残して左側の半導体に戻るようにする。量子ドットに2個以上の電子が入ると、電子の反発力によって左側のゲート電極に加えられた電圧を乗り越えて元に戻すことが出来る。量子ドットに残された電子が1個になったころを見計らって、左側のゲート電圧を高くし右側のゲート電圧を下げると、1個の電子が左側から右側へ移ることになる。左右のゲート電極にこのような電圧を繰り返し加えることにより、左側から右側へ電流を流すことが出来る。

この実験は難しい実験で極めて低い温度で行なう必要がある。電子の運動が熱エネルギー(HP2.1A7参照)の影響を受けるからだ。したがって、さしあたって何かに応用されるという見込みはなさそうだ。しかしながら、ナノ粒子を用いると今まで成し得なかったことが可能になる例として紹介した。

          


大容量電気エネルギーストレージへの新しい道

2012-07-15 | 報道/ニュース

再生可能エネルギーを活用するためには、出来るだけ多量の電気エネルギーを貯蔵し、必要に応じて放出するシステムが必要である。現在のところ、この目的を達するのは蓄電池(11/1,25,6/17参照)とスーパーキャパシター(11/26,3/19)であるが、これらにはいずれも限界がある。

フィラデルフィアにあるDrexel大学の研究グループは、蓄電池とスーパーキャパシターを組み合わせたような全く新しい手法で、大容量電気エネルギーストレージシステム、電気化学フローキャパシターを開発している。その原理を下図を用いて説明しよう。正負の電極の間にはイオンを通す絶縁性膜を隔てて、カーボン粒子を含む電解液(スラリ、懸濁液)が満たされている。充電を開始すると、陽極側のカーボン粒子が負に、陰極側のカーボン粒子が正に帯電する。帯電したスラリを下のレーザーバーに蓄え、上部のレーザーバーから帯電していないスラリを補充する。放電の際はこれと反対の操作を行う。普通の電池と比べてレーザーバーに蓄えた電荷に応じ余分の電気エネルギーを蓄えることが出来る。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=25924.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

この研究グループは、すでにプロトタイプの装置を作成し実験を行っている。カーボン粒子には、表面積が大きい球形のボーラスカーボンが用いられている。これまでに電解液を流して蓄える酸化還元フローバッテリが開発されているが、それに比べると充電放電の繰り返し回数を多く出来るという(100万回)。また、リチウムイオン蓄電池に比べると10倍以上の電荷を蓄えることが出来るという

                                   


大容量強誘電体メモリへ

2012-07-12 | 報道/ニュース

以前に強誘電体について述べたことがあるが(1/30参照)、説明不足の点があったのでもう少し詳しく説明しておこう。チタン酸バリウム(BaTiO3)を例に取ろう。その結晶は8個の酸素イオンが作る立方体の各面の中心にバリウムイオンが、立方体の中心にチタンイオンが存在する。チタンイオンの位置が中心から少しずれている。電界を加えるとチタンイオンの位置が少し移動するが、その移動が隣の格子に伝わり同じ方向に移動する。このため電界を加えると強い分極が生じる。強誘電体はこのような性質の故メモリデバイスとして有望視されている。

メモリの容量を高めるためには、ナノサイズの強誘電体を用いる必要があるが、これまでほとんど研究がなされていなかった。強誘電体を小さくしても強誘電体としての性質が保持されるかどうかが問題である。バークレイ国立研究所を中心とする研究グループは、電子顕微鏡などを巧みに利用して、5nm程度のナノ強誘電体でも強誘電性が常温で保持されることを明らかにした。
http://www.nanowerk.com/news2/newsid=25896.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T_zgMInTuNQ.google

この研究は、チタン酸バリウムとテルル化ゲルマニウムについてなされている。実現にはいろいろな問題があろうが、大容量の不揮発性メモリーへの指針を与えたものとして興味深い(12/22参照)


グラフェンとタンパク質とで新材料を

2012-07-10 | 報道/ニュース

種々の性質をもつナノ粒子を構成ブロックとして組み合わせることによって新しい性質を具現できる可能性がある。ナノテクノロジーで期待できることの一つに、今までには見られない新しい性質をもった新材料の開発がある(9/23,2/17,3/21参照)。一方、タンパク質もナノ粒子であるが、互いに結合しやすく、結合によって種々の機能を持つ材料を形成するという特徴がある(HP2.1C5参照)。たとえばコラーゲンは繊維状に合成され、筋肉、皮膚、骨など種々の生物学的な機能をもつことができる。

チューリヒの研究グループは、グラフェンとアミロイドタンパク質を用いて興味ある性質をもった新材料を作り出した。グラフェンは電気伝導度が高くまた機械的に非常に強いナノ粒子である(9/8,3/21参照)。アミロイドタンパク質はアルツハイマーを引き起こすタンパク質として知られているが、タンパク質の中では最も強固なものの一つである。両者を合成して作成したフィルムは強固であるが、湿度が高いところに置くと柔らかくなる。形状記憶フィルムとしても使えそうだという。湿度に敏感なのはアミロイドタンパク質の性質であるから、組成を変えることによって湿度に対する感度を変えることもできる。またこのタンパク質は酵素と結合する。酵素と結合することによってこの材料の電気伝導度が変化する。したがって、酵素に対するバイオセンサーとしても利用できる。
http://www.nature.com/nnano/journal/v7/n7/full/nnano.2012.86.html?WT.ec_id=NNANO-201207

人口のナノ粒子と自然界のナノ粒子を混合するという新材料開発への新しい道が開けたといえそうである。


DNAをナノ導線にまたナノ粒子結晶の作成に

2012-07-08 | 報道/ニュース

ナノエレクトロニクスの目指すところは、ナノサイズのデバイスを整列させこれを導線で結び、ボトムアップ方式で集積回路を形成することにある(HP(URLはプロファイルに)1.1参照)。DNAはこれらの目的に格好の性質を持っている(HP2.1C6,10/27, 28,30参照)。

ドイツの研究グループは、DNAをシリコン支持台上に固定しそれに銀を付着させ導線として用いることを可能にする手法を開発した。導線の直径は10nm以下にできるという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25808.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T_OyCQ6Sla0.google

溶液中の金属の粒子に多数の1本鎖DNAを付着させ、DNAのベアリング法則を用いて金属ナノ粒子の結晶を作成しようとする試みも数多い。この場合、結合に関与しないスペーサーとなるDNAの先に結合に関与するDNAを継ぎ足しておく。しかしながら、結晶体を作り出し条件が限られていて、これまで成功した例は数少ない。最近、イギリスとオランダの共同研究グループは、理論的ならびに実験的両面から研究を進めていて、金ナノ粒子などのナノ粒子結晶が形成される条件を綿密に検討している。
http://physics.aps.org/articles/v5/71


ナノテクノロジー関連会社情報数編

2012-07-06 | 報道/ニュース

Industrial Nanotech社が新製品Nanoinsulate@Diamondを発表した。この製品は、耐熱ならびに耐食性コーティング材で、200℃の温度まで耐え得る。エネルギーセービングや機械の保護に利用できるという。コーティング材料の詳細はよく分からないが、ナノサイズの厚さのダイヤモンド膜(11/14参照)をベースにするものであろう。この会社は2004年に設立された会社であるが、すでに住宅用コーティング剤(3/3参照)、屋根用コーティング剤(10/23参照)などを発売している。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25726.php#.T-5fO-GWo50.google

NanoSteel社は、新しいナノ構造スティールの開発に成功したと発表している。通常用いられるスティールはマイクロメーター(1000ナノメーター)サイズの微結晶の集まりである。微結晶のサイズを小さくすると、微結晶間が滑りにくくなり強度は増加するが、柔軟性が悪くなり薄い板を作るのが困難になるとされていた。この会社は、新しい機構を見つけ出しこの困難を克服したという。この会社はこのほかにも鉄コーティング材料などを発売している。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25650.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T-KPqt6sa7Y.google

Imec社とKaneka社は、6インチサイズで発電効率が22.68%の太陽光発電パネルの作成に成功したと発表している。このパネルは結晶性シリコンを用いるもので(2/20参照)、製作費が高額であろう。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25560.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T9gTEY2BfRg.google


ナノテクノロジーと糖尿病

2012-07-04 | 報道/ニュース

糖尿病治療に対するナノテクノロジーへの期待が大きいようで、しばしばニュースになっている。最近のThe A to Z Nanotechnologyのニュースに現状と将来への展望をまとめた記事が掲載されていたので紹介しておこう。
http://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=3033a

糖尿病は血糖値(グルコースの量)の増加をもたらす代謝性の疾患で、I型とII型がある。I型は膵臓のインシュリン生成機能が衰えているもので常にインシュリンの補給を必要とする。II型では肥満などのため細胞がインシュリンの存在に対応できなくなっている。

現在のところインシュリンの注入は皮下注射によって行われているが、インシュリンの飲み薬が開発されつつある。インシュリンがそのまま胃の中に入ると胃液によって分解してしまう。キトサンと呼ばれる高分子のナノ粒子でインシュリンを囲むと胃液から保護され血液中に吸収されるようになるという。また、血糖値を常時観察するセンサー(10/31,3/14参照)も開発されつつある。グルコースを吸着しやすい分子で機能化したカーボンナノチューブ電極を体内にインプラントする方法や吐息中のグルコースを検出する方法などが提案されている。また、有望視されている方法にスマート"入墨"がある。グルコースの量が危険値を越えると蛍光を発する分子を付着させた高分子ナノ粒子を皮膚に埋め込む方法である。

さらに人工膵臓が模索されている。血液中のグルコースの量を検出し、必要に応じてインシュリンを供給する装置である。この考えは1974年ころ提案されたが実現には至っていない。人工膵臓が実現すると糖尿病は完全に治癒することになる。ナノテクノロジーが人工膵臓の実現に必要であることは確実ですでに多くの研究がなされている。


電界でコントロールできるナノサイズ光源:グラフェン

2012-07-02 | 報道/ニュース

グラフェン(2/27,6/28参照)に関する新しい研究成果は次々と報じられていてとても紹介しきれないほどである。専門誌Natureの最近号にグラフェンが発する光を電界によって制御できるという論文が2編発表された。一つはアメリカの、もう一つはスペインの研究グループの成果である。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=25690.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.T-VD0S8W-Kg.google

現在のエレクトロニクスに用いられている半導体チップでは信号を伝達するのは電子の流れである。もし光による信号伝達が可能になると(フォートニックチップ)コンピューターの計算速度が1000倍程度になることはすでに述べた(4/3参照)。今後の発達が期待されているナノエレクトロニクス(8/18,10/10,24参照)においても同様で、光による信号伝達は魅力的な手段である。しかしながら、これまでナノスケール材料で電圧を加えることによって光をオンオフする手法が見つかっていなかった。

両グループの実験は独立に行われたがよく似ている。一端が尖ったグラフェンナノリボンに原子間力顕微鏡(走査型トンネル顕微鏡とよく似たもの、針と試料との間に電流を流さず針に高い電圧を加えるのみである、10/11参照)の針を近づけ針に赤外線を照射する。近接場効果と呼ばれる強い電場の作用によってプラズモン(1/23参照)が誘起される。プラズモンはグラフェン上を移動して尖った部分に到達しそこで光を出して消滅する。グラフェンに電圧を加えて電子を流し込むと、この発光が観測されなくなるという。

光を媒介とするナノエレクトロニクスすなわちナノオプトエレクトロニクスの新しい有望な道が開けたと言えよう。またセンサーとしての応用も期待できるという。