ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

グラフェントランジスタ(続き)

2011-11-30 | 日記

昨日提示した図面の説明が間違っていた。あのトランジスタに使うグラフェンは半導体である必要がない。禁止帯幅0の通常のグラフェン(10/10参照)で良い。グラフェンの電子は、その振舞いは普通の金属と異なっている。その説明は、量子力学でもかなり難しい分野に属するので、ここではあきらめる。

グラフェントランジスタを最初につくり出したのは、アメリカのIBMの研究者である。図に示すように、炭化シリコンの上に半導体グラフェンナノリボンを成長させる。その上に、絶縁のため薄い高分子をかぶせ、ドレインおよびソースとなる電極を載せる。さらに絶縁してその上にゲートとなる電極がのせてある。グラフェンの中では、電子がシリコンと比べて非常に速く移動出来る。このため、高い周波数の信号を増幅出来ることが特徴である。この実験では100ギガヘルツの信号が増幅できたという。

                          

カリフォルニア大学の研究グループは、電極にナノワイヤーを用いてさらに速い信号に対応するトランジスタを作り出している。

また、アメリカでは、シリコンの代わりに、数層積み重ねたグラフェンを用いてチップを作成しようとする試みがある。現在のところ計算機シミュレーションの段階である。どのようにして現在の半導体チップの限界を打破するか、その競争はますます激化するであろう。

すでにカーボンナノチューブトランジスタも作成されている。カーボンナノチューブやグラフェンのトランジスタを結合してチップが作成出来るのは、まだずいぶん先の話だろう。シリコンの代わりにグラフェンレイヤーを用いる方法が比較的速やかに達成されるかもしれない。


グラフェントランジスタ

2011-11-29 | 日記

エレクトロニクス分野でのナノテクノロジーの寄与をもう少し詳しく説明しよう。そのために、まずトランジスタの機構を説明しよう。

下図に現在広く用いられているシリコン電界効果トランジスタ(FET)の原理図を示す。図はn型FETの場合で、チャネルと呼ばれるp型半導体にソース(S)とドレイン(D)の二つのpn接合(10/2,3参照)が作られており、電子がソースからドレインに流れる様電圧を加えておく。ゲート(G)に電圧を加えると、チャネルの中に生じる電界によってドレインに到達する電子の数が変化する。ゲートに信号を与えると、ソースとドレインとの間を流れる電流がその信号に応じて変化することになる。

                     

アメリカのライス大学の研究者が作成したグラフェントランジスタもFETによく似ているが、その性能は多彩だ。図に示すように絶縁体の上に半導体型グラフェンナノリボン(10/10参照)をのせ、それにドレイン(D)とソース(S)を付着させた簡単なものである(大変難しい実験であろうが)。ゲートに加えた電圧によってDとSとの間の電流を制御出来ることはFETと同様である。しかしながら、グラフェントランジスタはシリコンFETが持っていない色々な性能を発揮する。

             


グラフェンはどのように利用されるだろうか

2011-11-28 | 日記

先日紹介したFuture Markets社が、グラフェン関連会社がどのような製品を目指しているかを調査した結果を下に示す。数字は%を表す。ちなみに、グラフェンについてはたびたび説明したが、各項目についての説明した月/日も表示した。説明の中には、ただ単に項目に触れたものからやや詳しく説明したものまで色々ある。どうしてこのような製品が期待されるかは、すでに述べて来たグラフェンの強靭性、高電気伝導性、高熱伝導性、広い表面積、やや強い結合性などから理解できよう。

             
グラフェンナノプレイトレット(11/24参照)について説明を加えておく必要がある。グラフェンをただ積み重ねるだけではその表面の特性が生かされない。グラフェングラフェンとの間に他の物質をはさむ必要がある。発売されている製品にはその構造があまり明らかではない。窒化ボロン(10/10参照)や酸化ボロン(11/25参照)を挟んですき間を空けるのも目的によっては一つの方法であろう。アメリカのインディアナ大学の研究者たちは、下図に示すようなグラフェンの3次元構造を作り出すのに成功している。図の青色の線で示したグラフェンは、黒色のグラフェンと、青色の6角形で示すハイドロカーボンを介してつながれていて、互いにほぼ垂直に位置している。これはいわばグラフェンの量子ドットで、太陽光発電にも利用出来るという。

                        


ナノテクノロジーの恩恵

2011-11-27 | 日記

英紙ガーディアンがナノテクノロジー特集を掲載している。そのなかで「ナノテクノロジーの恩恵」という記事を紹介しよう。「人類が生存し続けるには、ナノテクノロジーが必要である」との記述もあるほど、ナノテクノロジーの重要性が強調されている。この記事では、ナノテクノロジー製品を扱うEUのの企業も紹介されている。

まず匂いがつかない靴下やTシャツが取り上げられている。銀は優れた抗菌性を持つことで知られている。ナノサイズの銀粒子を繊維の中にしのばせると汗に菌が繁殖するの防ぐことが出来る。しかも粒子が小さいので、繊維に影響を与えることがない。EUの合弁会社BacterioSafeは、傷が可能し始めると警告を発する抗菌カプセル入りの包帯を開発している。

EUのプロジェクトNanocapsはコーティング材料を開発していて、これによってヨーロッパの自動車製造業者は腐敗防止経費を30%減少させ得るとしている。また、昨年Mazdaは新しい触媒を開発し、レアアースの使用量を著しく減少させたと報じている。

また、電気によって光の透過度を変えることが出来るスマートウィンドウや地震を感知する壁紙も注目されている。EUのプロジェクトPolytechは地震の初動を検知する壁紙を開発している。

昨年タイ国の研究者は、殺虫剤ナノ粒子を取り込んだネットを開発したと発表している。このネットは、従来使われているものよりも5倍も長持ちし、しかも人間を蚊から守ることが出来る。

ナノテクノロジーの恩恵はエレクトロニクスの領域にも及ぶものと期待されている。SharpのビジネスディレクターThompson氏は、次世代TVディスプレイは量子ドット(9/27,28参照)LEDを用いることにより、現存するものよりもっと薄くなるであろうと予想している。パーソナルコンピュータにもナノテクノロジーの恩恵が及びつつある。現在のコンピューターのプロセッサには約5億個のトランジスタが使われている。Intelは、ナノ粒子を用いた3次元構造を開発し、30億個に増やそうとしている。MRAMと呼ばれるナノ粒子を取り入れたRAMも開発されつつある。


ナノテクノロジーとキャパシター:グラフェン

2011-11-26 | 日記

2枚の金属板の間に絶縁体をはさんだもの(下図左参照)を静電気キャパシターという。金属板の間に電圧を加えると、正の電圧を加えた陽極から負の電圧を加えた陰極へ電子が移りエネルギーが貯蔵される。蓄電池のように大量のエネルギーを貯蔵出来ないが、蓄電池と違って化学反応を伴わない。したがって、対応が速やかで電気回路に使われている。エネルギー貯蔵量を増やすためには絶縁体を薄くする必要があるが、高い電圧を加えてエネルギー貯蔵量を増やそうとすると、絶縁体の中で放電が起こってしまう。

もっと高いエネルギー貯蔵量を得ることが出来るのは、Faraday(1791-1867)の時代に知られていた電解キャパシター(下図中央参照)である。電解キャパシターでは、一方の電極が金属ではなく電解液である。通常陽極に用いられるのはアルミニウムで、陰極との間に電解液を挟んで電圧を加えるとアルミニウムの表面に酸化アルミニウムが生じる。酸化アルミニウムは優れた絶縁体で、これがキャパシターの役割を果たす。

エネルギー貯蔵量をさらに増やすために1960年ころ考案されたのが電気二重層キャパシター(下図右参照)である。正負の電極の中央に絶縁体板が入っていて、これが左右の部分に分離している。正負の電極には多孔性カーボンが付着しており、絶縁体板の両側には電解液が満たされている。電圧を加えると、左右それぞれの部分で負イオンは陽極に向かって、正イオンは陰極に向かって移動する。移動したイオンは多孔性カーボンの表面に捕らえられ固定される。電圧を加える前には均一に分布していた正イオンと負イオンが、電圧を加えることによってそれぞれ電荷の符号と異なる電極へ引き寄せられる。このような現象を分極というが、これによって陽極、陰極に電荷が蓄えられる。絶縁体板の両側の電解液は電気を通しやすい。絶縁体板が存在しないと、陽極・陰極間に電気が流れて、エネルギーを貯蔵することが出来ない。

アメリカのテキサス州立大学オースチンのグループは、多孔性カーボンの代わりに化学的処理を施したグラフェンを用いて、現在自動車に用いられている鉛蓄電池と同程度のエネルギー貯蔵量を持つスーパーキャパシターを得ることに成功している。また、昨日述べたグラフェンの間に水分子が入ると反発しあうことを利用するとスーパーキャパシターの貯蔵容量を増やすことが出来るという報告もある。このようなスーパーキャパシターが鉛蓄電池に置き換わることが望まれる。

                


エネルギー貯蔵とナノテクノロジー:グラフェン

2011-11-25 | 日記

太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの有効利用のためには、発生した電気エネルギーの貯蔵が必要である。電気エネルギーの貯蔵には、リチウムイオン蓄電池(11/1参照)とスーパーキャパシターが有望であろう。このほか燃料電池(10/16,17参照)用の燃料、とくに水素貯蔵もエネルギー貯蔵の重要な手段の一つであろう。

リチウムイオン蓄電池では、充電中は、陰極に送り込まれた電解液の中のリチウムイオンがリチウム原子となり、これによって陰極に電子を蓄える(陽極では陰イオンとの反応によって正孔(9/27参照)が生じている)。放電時にはこの電子が負荷を通って陽極に達して発電する。蓄電池の性能向上とは、充電時の電流増加とリチウムイオン蓄積量の増加である。陰極にグラフェンを用いるとリチウムイオンを吸着するが、それだけでは性能向上につながらない。中国の研究グループは、グラフェンと垂直にカーボンナノファイバーを成長させることに成功した。これによって、陰極部分の表面積が増加し、電流量および蓄電容量を増加出来るという。また、オーストラリアの研究グループは、グラフェンとグラフェンとの間に水分子を挟むと、グラフェン間に斥力が働き、グラフェン間に隙間をあけて積み重ね得ることを見つけた。リチウムイオン電池の陰極に適しているという。

グラフェンが水素貯蔵(10/21,31参照)にも使いそうだという指摘もある。グラフェンの表面に水素が吸着するが、グラフェンを重ねるとグラファイトのようになってしまってグラフェンとグラフェンとの間には水素が入り込めない。アメリカの研究グループは、グラフェン間を図のようにボロンの酸化物で連結することに成功した。これはグラフェン・酸化物フレームワーク(GOF)と呼ばれている。グラフェンは、温度が上がるほど多量の水素を吸着出来ることが明らかになっており、水素貯蔵にグラフェンレイヤーが利用出来るようになるかもしれない。

スーパーキャパシターについては明日説明する。
                       

                           


グラフェンはますます

2011-11-23 | 日記

グラフェンは2005年に発見されて以来、その注目度は日増しに高まりつつあるようだ。先日紹介したFuture Markets社の統計によると、2010年中のグラフェンに関する特許が1000件、論文が4000編という。EUは10年間に10億ユーロの資金援助を、韓国とイギリスは商品化に向けてそれぞれ3.5億ドルおよび5000万ユーロの投資を計画している。

C&EN(    CHEMICAL & ENGINEER NEWS)の記事によると、グラフェンやグラフェンを基盤とする製品が続々商品化されつつあるという。グラフェンの優れた電気的や機械的などの性質を利用して、次世代電池、エネルギー保存装置、LED、有機太陽電池、コンピュータディスプレイなどへの応用が検討されている。

初期には少量のグラフェンを研究者向けに販売する会社がいくつか設立された。Nanowerkの統計によると、材料としてのグラフェンを販売する会社は9社(スペイン3、アメリカ、インド各2、中国、イギリス各1)ある。

アメリカのVorbeck社とXG Sciences社は、グラフェンナノプレートレット(グラフェンを重ねたもの)を発売している。比較的コストがかからない製法を、XG Science社の社長兼ミシガン大学教授の研究グループが開発したもののようだ。また、両社はグラフェンとポリマーの複合体を製作している。その強靭性の故航空機や自動車の材料に利用出来るが、用途によっては、高分子より電気伝導性や耐熱性に勝るもの、また溶剤やガスを通しにくいものを作成することが出来るという。韓国のPosco社との連携が成立しているようだ。

Vorbeck社はまたグラフェンを含む電気伝導性インクを販売している。この電気伝導性インクは、包装専門会社と組んで盗難防止包装に使われて用としている。折り曲げても電気伝導性を保ち続けることを利用したものである。2012年に売りだそうとしているこの盗難防止包装では、インクを施した包装商品をアラームに接続して陳列し、客が持ちだせないようにするとのことである。グラフェンやカーボンナノチューブは原価が安いため、大量生産が可能になると色々な利用法が開けそうである。


提言型政策仕分け:原子力と科学技術

2011-11-22 | 日記

昨日と一昨日提言型政策仕分けを視聴したが、いずれにも失望した。

まず原子力について。テレビ朝日の報道ステーションSundayを視聴した時も同じ感想を持ったが、日本人は、政治家もメディアも評論家も官僚も福島原子力発電所事故の教訓を全く理解していない。どのような天変地異が起こっても原子力発電所に蓄積されている放射性物質をばらまいてはならない。そのためには、核反応を即時停止することとそれでも加熱し続ける燃料を冷却し続けることが必要である。ナトリウム冷却型高速増殖炉では水冷が出来ない。ナトリウムが冷却管から漏えいしていると(その可能性は大きい)、水と爆発的に反応するからである。ナトリウム冷却型高速増殖炉は地震国日本にはなじまない(9/16参照)。このタイプの原子炉は絶対に地震国日本に建設すべきではない。

私は、次のように提言したい。(1)もんじゅを廃炉にする。直ちに廃炉計画を策定し、2012年度にはそれに必要な予算を計上する。(2)地震国日本にふさわしい核燃料サイクルの確立を目指した研究費予算を計上する。

高速増殖炉はナトリウム冷却型だけではない(9/16参照)。ガス冷却や鉛冷却高速増殖炉や溶融塩炉が提案されている。いずれも技術的困難を伴う。鉛や溶融塩では、接触する金属の腐食が問題となろう。ひょっとしたら、ナノテクノロジーがその解決の端緒となるかもしれない。また、Travelling-wave reactor(TWR)も魅力的である。TWRでは、一つの原子炉の中に現存するタイプの原子炉と高速増殖炉が共存する。しかも両者が逐次場所を変える。Bill Gates氏が率いるTeeraPower社が設計を試みている。Toshibaも協力しているようだ。野田総理が原子炉安全性を世界水準に高めると世界公約した以上、ナトリウム冷却型高速増殖炉の開発を続けるわけにはいかないだろう。

科学技術政策の仕分けでは、政府・官僚の責任を追及するような議論が多かった。しかしながら、何もかも官僚に頼るのはいかがなものかと思われる。官僚が仕事をするたびに組織が複雑化する。すでに科学技術に関係するのは、文部科学省、経済産業省、日本学術振興会、科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構などがあり、その分担が鮮明ではない。また、文部科学省と経済産業省は共に技術に関与するのも奇妙である。その上、内閣府の総合科学技術会議はほとんど機能していない。科学技術基本法をはじめほとんどすべての重要案件を関連省庁に丸投げしている状態である。さらに、研究費支援の採択が各省庁や独立法人がそれぞれの”目利き”の意見にしたがうという現在のやり方も好ましくない。

まず理工系の研究は、研究グループを支援の対象とすべきである。現状のように個人に支援することはほとんど意味がない。支援方法はアメリカの方式を見習うべきである(8/21,22参照)。文部科学省が担当すべき基礎研究については、テーマ、締め切り日、金額などについて何ら制約を設けない。経済産業省はじめ各関連省庁が担当する応用研究に関しては、経済発展ならびに雇用促進を計るべくテーマを設定する。これらについて、基礎研究、開発研究および生産活動を支援する。支援申請の採否の決定は論文の採択方式にしたがう。すなわち、もっとも専門が近い数人のレフェリーの報告をもとに採否を決定する。レフェリー報告は採否に関わらず申請者に送り返す。関連省庁には、レフェリー報告が理解出来る研究歴がある(博士号を持つポスドク以上)官僚が必要であろう。

さらに、大学ならびに研究所では新しく採用された若手が研究グループを組織し(ポスドクの採用など)、かつ新しく研究室を立ち上げるのに十分な研究費支援を受けるよう配慮すべきである。文部科学省は細かいことまでその決定に関与するべきではない。大学や研究所に全権を委任するべきである(8/25参照)。評価体制を確立し、その結果に応じて大学や研究所を指導し、かつ分配する経費の額を査定すればよい。


ナノコーティング関連会社

2011-11-20 | 日記

ナノコーティングに関しては以前に何回か説明した(10/11,22,23参照)。おそらくナノテクノロジーの中で最も実用化が進んでいる分野であろう。

技術コンサルタントを専門とするFuture Market社は、ナノテクノロジーに関する色々な統計資料を発表している。その中で、ナノコーティングに関する関連会社の種目別の会社数は下の表の様になる。

                      

この統計によると、ナノコーティング関連会社は世界中で合計約560社ある。Nanowerkの統計によると、ナノコーティングも含めたナノ材料関係の会社は、日本には12社しかない。大企業などが実際ナノテクノロジーを採用していても統計には現れないものもあるだろうが、日本は、ナノテクノロジー生産活動の面で少し遅れをとっているような気がしてならない。


フォートニックスとプラズモニックス:ナノテクノロジーで新展開(続き)

2011-11-19 | 日記

フォートニックスとプラズモニックス何が出来そうなのか、いくつかの例を挙げておこう。

フォートニックスでは、単色光の強い光を出す光源が必要である。これには、通常は半導体レーザーが用いられる。レーザーとは光を増幅する装置である。半導体レーザーの場合、多数の電子・正孔を作った半導体に禁止帯の幅(9/27参照)のエネルギーを持ったフォートンを通すと、刺激発光という現象が起こって、電子と正孔が結合し光を放出する。このような半導体を、対峙した鏡の間に置いて、多数の電子と正孔とが急激に結合するよう設計したものである。多数の電子・正孔を作るのにエネルギーが必要で、発光に対するエネルギー効率が良くない。ナノサイズの半導体レーザーもつくられている。

アメリカのスタンフォード大学の研究者たちは、レーザーに変わる強い単色光源を作り出した。それは、ナノLEDをフォートニック結晶の真ん中に置く。フォートニック結晶の格子間隔を調整しておくと、LEDから発せられた光は反射してLEDに戻る。このようにして強い光を発することが可能となる。レーザーに比べてエネルギー効率が数千倍の光源が得られている。

また、シンガポールの研究者グループは、金ナノ粒子を図のように配置してその系からの光の反射など光学的な性質を測定した。4個の金ナノ粒子の集団が格子状に配置されている。図の白い棒の長さは100ナノメーターである。金ナノ粒子のプラズマ振動がフォートニック結晶全体に伝搬し特異な性質を示す。4個の金ナノ粒子の配置を変えると光学的な性質が変わることから、スイッチやセンサーに使えるという。

フォートニックスは歴史が古いが、最近になってナノフォートニックスという言葉が使われ始めている。プラズモニックスはなによりも光が金属上を伝わることが特徴で、研究者の注目を集めている。

                                     


フォートニックスとプラズモニックス:ナノテクノロジーで新展開

2011-11-18 | 日記

エレクトロニックス(electronics)は電子(electron)にicsを加えた言葉であるが、電子という粒子の動きを制御する科学技術の1分野を意味する。同様に、フォートニックス(photonics)では、フォートン(photon)と呼ばれる粒子の動きを制御する。

以前述べたように(9/27参照)、量子力学で扱う小さな粒子は、すべて粒子としての性質と波としての性質を兼ね備えている(*脚注参照)。フォートンとは光の粒子である。フォートニックスには、光の発生、放出、伝搬、変調、信号処理、信号記憶、増幅、検出など光の技術的処理すべてが含まれる。

フォートニックスという言葉が使われはじめたのは1960年代である。エレクトロニクスが材料中の電子の移動に依存するのに比べると、光ははるかに速く移動する。したがって、信号処理の時間を短縮出来る。すでに光ファイバーは光信号の伝搬に広く利用されている。また、方向性を持つ強い光信号の発生にはレーザーが用いられている。フォートニック結晶と呼ばれるものは、ナノ粒子を周期的に並べたものである。粒子の間隔を光の波長と同程度にしておくと、特定の波長の光を通さなくすることが可能である。

さて、ナノテクノロジー集積回路ではナノサイズ素子間を光信号で連結することが好ましい。しかしながら、現在光信号の伝搬に使われている光ファイバーは、太すぎてこの目的には適応しない。光信号の伝搬に使えると考えられるのがプラズモニックスである。プラズモニックスという言葉は、約10年ほど前から使われ始めている。

昨日、固体のプラズマ振動は固体中を伝搬する波であると述べた。伝搬するプラズマ振動は同時に粒子の性質を持っていて、プラズモン(plasmon)と呼ばれる。プラズモニックス(plasmonics)は、プラズモンの発生、伝搬などを扱う。ナノサイズ素子間をナノワイヤーで連結し、その間の信号伝達をナノワイヤー表面を走るプラズモン(表面プラズモン)で達成出来るものと期待されている。


*量子力学では、粒子が存在する場所を決めることが出来ない。決めることが出来るのは、ある場所に存在する確率のみである。この存在確率が波としての性質を保有していると考えても良い。


金属ナノ粒子は形によって色が変わる:プラズモン

2011-11-17 | 日記

11月13日の記事で、金属ナノ粒子が、形を変えると異なった波長の光を吸収すると述べた。この現象は、ナノテクノロジーで重要な役割を果たしているので、少し詳しく述べよう。

そのためには、まずプラズマについて説明する必要がある。プラズマとは、正の電荷と負の電荷が同数存在する系で、少なくとも一方が自由に動けることが必要である。太陽は巨大なプラズマである。核融合(9/5参照)を起こすためには、水素プラズマが必要で、容器に閉じ込めた水素分子を解離し、生じた水素原子をほぼ完全に電離しなければならない。

固体もプラズマとみなすことが出来る。いちばん外側の電子は他の電子に比べてゆるく結合されているからである。たとえば、金(Au)は、Au+と電子からなるプラズマと見なすことが出来る。Au+は重たくてあまり動かないが、電子は軽くて動きやすい。

プラズマには、プラズマ振動が発生する。これは、正の電荷と負の電荷の位置が集団的にずれて、正負電荷間の引力に引かれて振動する現象である。固体の中でプラズマ振動が発生すると、その振動は波になって伝わっていく。このような波をプラズモンと呼ぶ。

プラズモンの振動数は、正の電荷と負の電荷との間の力が大きいほど高いことは想像できよう。大きな固体の中でのプラズマの振動数は、それぞれの固体で決まった値を持っている。しかしながら、ナノ粒子になると事情が異なってくる。振動の結果電子がナノ粒子の外まではみ出すと、電子と正電荷との間の引力が弱まり振動数が低下する。ナノ粒子の形によって振動数が異なることが理解できよう。

ナノ粒子に光を照射すると、光の振動数(光速/波長)がプラズモンの振動数と一致すると、共鳴を起こして光が吸収される。参考までに、ナノ粒子が吸収する光の波長を示しておく。



環境にやさしいプラスチックス

2011-11-16 | 日記


ヨーロッパに、バナナの茎など有機廃棄物から環境にやさしいプラスチックスを合成しようとするプロジェクトが進行中である。このプロジェクトはECLIPSEと呼ばれ、大学や企業が参加している。その中心的な役割を果たしていくのが、スペインのCidetecIK4社のテクノロジーセンターである。

現在用いられているプラスチックスは、環境にやさしくない石油から作られている。石油資源は無限に存在しない。このため、サトウキビやトウモロコシを用いてポリ乳酸(PLA)が生産され、プラスチックスに代わっての使用が試みられている。しかしながら、この製法では食品価格の高騰をもたらすため、あまり歓迎されていない。

ECLIPSEの計画は、バナナの茎、ナッツの殻、エビなど甲殻類動物の殻からプラスチックスを合成しようとするものである。この手法が成功すると、石油資源の消費を抑えることが出来、また食品価格を高騰させる恐れもない。

現在試みられているのは、有機燃料を生成する際に生じた糖質廃棄物からまず乳酸を生成する。これまで乳酸分子を重合してポリ乳酸にするのはあまり容易ではないとされている。重合の際、水が生成しこれがPLAの性質に悪影響を及ぼすからである。ところが、有機廃棄物にナノファイバーを混合することによって良質のPLAが生成することが明らかにされている。

このプロジェクトの完成は環境浄化に貢献するだけではなく経済効果をもたらすものと期待されている。


アメリカエネルギー省(DOE)の戦略的プラン

2011-11-15 | 日記

最近、アメリカのエネルギー省(DOE,8/16,23,9/1参照)は2011年から2020年にわたる戦略的プランを発表した。概略を紹介しよう。

まずDOEの使命は、「エネルギー、環境、原子力関連への科学技術的挑戦を通して、アメリカの国家安全と繁栄を維持することにある」としている。さらに、次のようなゴールが掲げられている。すなわち、クリーンエネルギー技術のリーダーシップを維持すること、経済発展の礎石となる科学技術を推進すること、原子力の安全性を確保すること、各省庁の連携を深め最高の機能が発揮出来るようフレームワークを作成することとある。

「エネルギーシステムの改革」という項があり、その中に「現存する技術を有効に利用せよ」、「新しい解決法を見つけよ」というサブ項目がある。技術の有効利用のサブ項目では、まずグリーンハウスガス放出を2020年までに17%、2050年までに83%(2005年を基準とする)としたうえで、エネルギーの利用効率の増進を掲げている。さらに、現存する技術を活用して、2012年には再生可能エネルギーの利用を倍増するとしている。このサブ項目では、さらに電気系統のグリッドの充実が掲げられている。

新しい解決法を見つけるというサブ項目では、研究の推進と得られた技術の企業へのトランスファーの重要性が強調されている。テクノロジートランスファーは最近各国とも重視している問題である。DOEの計画では、新技術に興味を示すベンチャー企業を積極的にサポートするなど、その効率化を計るようである。

具体的な研究項目については、DOEが抱える国立研究所の大型研究の内容などが書かれていて、いささか総花的である。ナノ材料を含めて材料の開発が諸問題解決の重要因子であることが強調されている。

我が国の科学技術基本政策は具体性に乏しい。経済産業省とNEDO(8/30参照)の戦略的プランを知りたいものだ


ダイヤモンドナノワイヤー

2011-11-14 | 日記

これまで、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブなど炭素原子で構成されるナノ粒子について述べて来た(9/8参照)。これらは、グラファイトと同様に炭素原子が3個の手を出して平面状に結合したものである。これに対して、ダイアモンドでは、炭素原子が4個の手を出して三次的に結合している(9/6参照)。最近になって、アメリカのアルゴンヌ国立研究所の研究者たちは、ダイヤモンドのナノワイヤーを作りだすのに成功した。ダイヤモンド状に結合したナノ粒子はグラファイト状に結合したナノ粒子に比べて反応性が低く、バイオセンサーとしての応用が有望視されている。

アルゴンヌ研究所では、20世紀末にナノサイズの厚さのダイアモンド膜を作るのに成功した。それ以前からダイアモンド膜と呼ばれるものが存在していたが、それらにはグラファイト状に結合した粒子が含まれる。これに対して、ウルトラナノ結晶性ダイアモンド(UNCD)と呼ばれるアルゴンヌ研究所で見いだされた膜は結晶性のダイアモンドだけで構成される。従来のダイアモンド膜は、その硬さを利用して研磨材に用いられている。UNCDは、もちろん従来のものより硬いが、しかもその表面はスムースである。そのため、高硬度・低摩擦コーティング材料や医療用品インプラントとして利用出来る。また、結晶粒と結晶粒との間に分子が付着すると性質が変わることからセンサーに利用されている。

アルゴンヌ研究所は、すでにAdvanced Diamond Technologies社を設立し、その技術をトランスファーしている。センサーやウエファーなどの製品が発売されている。

ダイアモンドナノワイヤーは、UNCDにリソグラフィ(10/24,11/3参照)を施し(通常は電子ビームなどを照射する)切断して作成された。その大きさは、30x40ナノメーターで、差し当たってはセンサーとしての利用が検討されている。