田原総一朗の政財界「ここだけの話」
小沢氏「起訴相当」で民主党の三つの選択肢
沖縄県の米軍普天間基地移設を日米両政府に求める県民大会が4月25日、沖縄県の読谷村で開かれた。約9万人が参加したという。
それを見て、私は「鳩山包囲網がだんだん狭まりつつある」と感じた。つまり、普天間基地の移設先はどうやら名護市の辺野古になりつつあるということだ。なぜそう考えるのか。次に挙げるいくつかの出来事があったからだ。
■だんだん狭まる「鳩山包囲網」の根拠
まず、現行案を条件付きで容認してきた仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事は大会に参加したが、「沖縄県内への移設に反対」とは明言しなかった。大会後、「いろんな方がいろんな考えを持っており、単純に表題通りではない」と述べ、県内移設に含みを残している。これは政府と何かしらの連携があるということではないか。
また、名護市の市議27人中14人が大会に出席しなかった。現行案を容認する前市長派のメンバーが中心で、その中には島袋権勇議長も含まれていた。
前回の本連載でも書いたように、鳩山さんは県外への移設を主張している。移設先は鹿児島県の徳之島だろう。その気持ちは今も揺らいでいない。
しかし、その徳之島でも18日に大規模な反対集会があり、滝野欣弥官房副長官が20日に徳之島の3町長に電話をかけ、平野博文官房長官との会談を要請したが、即、拒否された。
■鳩山首相は沖縄県民にも国民にも納得のいく説明はできない
その後、辺野古への移設(現行案)が出てきて、先のワシントン・ポスト紙の報道、25日の大規模な県民大会と続いた。「鳩山包囲網」とは、こうした流れを見て私は感じたのである。
辺野古となれば、県外ではなく県内移設だ。滑走路をV字型にしないなど微修正はあるかもしれないが、結局は県内でほぼ固まりつつあると見られる。
さて、そうなると民主党はいったいどうするのか。7月には参議院選挙を控えている。それまでに鳩山さんは普天間基地の移設問題をどのように説明するのだろうか。「本音」つまり「県外」を説明に入れるのか、入れないのか。そこが問題である
私は、鳩山さんは沖縄県民にも国民にも納得のいく説明をできないと思う。
■民主党が参院選に臨む際の三つのパターン、最悪なのは?
民主党が参院選に臨む態勢は3パターンある、と私は考える。
一つは、鳩山さんも小沢一郎幹事長も、平野官房長官も辞めずに参院選に臨むパターンだ。これは自民党が大歓迎するだろう。そして、民主党は惨敗する。
二つ目は、鳩山さんが小沢さんと平野さんに辞任してもらうパターン。
検察審査会が26日、鳩山さんの資金管理団体の偽装献金事件で「不起訴相当」と議決した。これに対し、小沢さんの問題に関する検察審査会は27日、「起訴相当」と議決した。これにより、鳩山さんにとって小沢辞任を求める大義はできた。
この二つ目のパターンでは、鳩山さんが内閣改造を行い、そして小沢さんと平野さんを切る。つまり、普天間問題の責任を平野官房長官に負わせ、小沢さんは政治資金問題で切るというパターンだ。
三つ目のパターンは、鳩山さんも小沢さんも辞め、代表も幹事長も交代するというものだ。そうなれば衆参ダブル選挙になるだろう。総理大臣が代わるわけだから、国民に信を問うということになる。
民主党はこれら三つのパターンのどれかを選ばざるを得なくなる。さあ、いったいどれを選ぶのだろう。7月は目前だ。
三つの中で最悪なのは第1のパターンだろう。民主党が惨敗すれば、鳩山さんと小沢さんはその責任をとって辞任しなければならない。
私は民主党の議員たちに数多く取材しているが、どうやら第1のパターンになる可能性が大きいのではないかと感じている。
民主党の議員たちがどこまで危機感を持ち、行動できるか。それに尽きる。民主党議員たちは第2、第3のパターンで臨む自信はどうやらなさそうなのだ。
■このままでは民主党が「失われた20年」を繰り返す
今、日本は「失われた20年」と言われている。1990年、日本の国際競争力は世界第1位であったのに、2008年には何と22位まで落ちてしまった。この間、何の決断もせずにズルズルときてしまった。
それと同じことを民主党政権はまたやってしまうのではないか。大胆に言えば、今、そこが問われているのではないだろうか。
先ほどの三つのパターン以外に、実は第4のパターンも考えられる。それは小沢さんが鳩山さんを切るというものだ。だが、検察審査会が小沢さんを「起訴相当」と議決したことで、この可能性は薄くなった。この第4のパターンを目論む人物のシナリオは、小沢さんで参院選を戦って敗れた後に大連立、である。
2007年11月、自民党の福田康夫首相は小沢さんに党首協議を持ちかけ、大連立構想を話し合った。しかし、このときは小沢さんが民主党に根回しをしていなかったため、党役員が大反対し、失敗してしまった。
大連立となれば相手は自民党になるのだろうが、連立政権を組む相手は「第三極」プラス公明党という可能性もある。新党改革の舛添要一さんだって可能性はあり得ると思う。
なぜなら、政治家とは権力を求めるものだからだ。権力の下には、論理というものはすぐにひっくり返る。舛添さんが改革クラブと組んだ。マスコミは「改革クラブは郵政民営化に反対だったでしょう? あなたは賛成ではないか」と問うが、そんなことは何の障害にもならない。理屈など何とでもなる。
■政治に理屈などない、権力とはそういうものだ
もちろん、私はこうしたことに直ちに賛成するものではない。だが、権力とはそういうものなのだ。
1994年、羽田孜内閣が総辞職した後、自民党は何と、天敵であるはずの社会党の委員長、村山富市さんを総理大臣に据えて自社さ連立政権(自民党、社会党、新党さきがけ)を発足させた。
また、小泉純一郎氏は、亀井静香氏に平身低頭で「あなたの言うことは何でも聞く。あなたに全部、相談する」と言って権力を手にし、そして100%裏切った。どれもこれも「権力とはそういうものなのだ」という実例である。
政治の世界では理屈や論理は信用できない。だから、これから7月に行われる参院選まで何が起こるか目を離せないのである。
さらに、岡田克也外相が移設先について「現行案を大筋で受け入れる方向だとルース駐日米大使に伝えた」と、米ワシントン・ポスト紙(電子版)が24日付で報じた。
ただ、この報道に関して岡田さんは否定しており、鳩山由紀夫首相は岡田さんとルース大使の会談は認めたものの、「現行案が受け入れられるなどというような話があってはならない」と否定している。
2010年4月28日 日経BP
小沢氏「起訴相当」で民主党の三つの選択肢
沖縄県の米軍普天間基地移設を日米両政府に求める県民大会が4月25日、沖縄県の読谷村で開かれた。約9万人が参加したという。
それを見て、私は「鳩山包囲網がだんだん狭まりつつある」と感じた。つまり、普天間基地の移設先はどうやら名護市の辺野古になりつつあるということだ。なぜそう考えるのか。次に挙げるいくつかの出来事があったからだ。
■だんだん狭まる「鳩山包囲網」の根拠
まず、現行案を条件付きで容認してきた仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事は大会に参加したが、「沖縄県内への移設に反対」とは明言しなかった。大会後、「いろんな方がいろんな考えを持っており、単純に表題通りではない」と述べ、県内移設に含みを残している。これは政府と何かしらの連携があるということではないか。
また、名護市の市議27人中14人が大会に出席しなかった。現行案を容認する前市長派のメンバーが中心で、その中には島袋権勇議長も含まれていた。
前回の本連載でも書いたように、鳩山さんは県外への移設を主張している。移設先は鹿児島県の徳之島だろう。その気持ちは今も揺らいでいない。
しかし、その徳之島でも18日に大規模な反対集会があり、滝野欣弥官房副長官が20日に徳之島の3町長に電話をかけ、平野博文官房長官との会談を要請したが、即、拒否された。
■鳩山首相は沖縄県民にも国民にも納得のいく説明はできない
その後、辺野古への移設(現行案)が出てきて、先のワシントン・ポスト紙の報道、25日の大規模な県民大会と続いた。「鳩山包囲網」とは、こうした流れを見て私は感じたのである。
辺野古となれば、県外ではなく県内移設だ。滑走路をV字型にしないなど微修正はあるかもしれないが、結局は県内でほぼ固まりつつあると見られる。
さて、そうなると民主党はいったいどうするのか。7月には参議院選挙を控えている。それまでに鳩山さんは普天間基地の移設問題をどのように説明するのだろうか。「本音」つまり「県外」を説明に入れるのか、入れないのか。そこが問題である
私は、鳩山さんは沖縄県民にも国民にも納得のいく説明をできないと思う。
■民主党が参院選に臨む際の三つのパターン、最悪なのは?
民主党が参院選に臨む態勢は3パターンある、と私は考える。
一つは、鳩山さんも小沢一郎幹事長も、平野官房長官も辞めずに参院選に臨むパターンだ。これは自民党が大歓迎するだろう。そして、民主党は惨敗する。
二つ目は、鳩山さんが小沢さんと平野さんに辞任してもらうパターン。
検察審査会が26日、鳩山さんの資金管理団体の偽装献金事件で「不起訴相当」と議決した。これに対し、小沢さんの問題に関する検察審査会は27日、「起訴相当」と議決した。これにより、鳩山さんにとって小沢辞任を求める大義はできた。
この二つ目のパターンでは、鳩山さんが内閣改造を行い、そして小沢さんと平野さんを切る。つまり、普天間問題の責任を平野官房長官に負わせ、小沢さんは政治資金問題で切るというパターンだ。
三つ目のパターンは、鳩山さんも小沢さんも辞め、代表も幹事長も交代するというものだ。そうなれば衆参ダブル選挙になるだろう。総理大臣が代わるわけだから、国民に信を問うということになる。
民主党はこれら三つのパターンのどれかを選ばざるを得なくなる。さあ、いったいどれを選ぶのだろう。7月は目前だ。
三つの中で最悪なのは第1のパターンだろう。民主党が惨敗すれば、鳩山さんと小沢さんはその責任をとって辞任しなければならない。
私は民主党の議員たちに数多く取材しているが、どうやら第1のパターンになる可能性が大きいのではないかと感じている。
民主党の議員たちがどこまで危機感を持ち、行動できるか。それに尽きる。民主党議員たちは第2、第3のパターンで臨む自信はどうやらなさそうなのだ。
■このままでは民主党が「失われた20年」を繰り返す
今、日本は「失われた20年」と言われている。1990年、日本の国際競争力は世界第1位であったのに、2008年には何と22位まで落ちてしまった。この間、何の決断もせずにズルズルときてしまった。
それと同じことを民主党政権はまたやってしまうのではないか。大胆に言えば、今、そこが問われているのではないだろうか。
先ほどの三つのパターン以外に、実は第4のパターンも考えられる。それは小沢さんが鳩山さんを切るというものだ。だが、検察審査会が小沢さんを「起訴相当」と議決したことで、この可能性は薄くなった。この第4のパターンを目論む人物のシナリオは、小沢さんで参院選を戦って敗れた後に大連立、である。
2007年11月、自民党の福田康夫首相は小沢さんに党首協議を持ちかけ、大連立構想を話し合った。しかし、このときは小沢さんが民主党に根回しをしていなかったため、党役員が大反対し、失敗してしまった。
大連立となれば相手は自民党になるのだろうが、連立政権を組む相手は「第三極」プラス公明党という可能性もある。新党改革の舛添要一さんだって可能性はあり得ると思う。
なぜなら、政治家とは権力を求めるものだからだ。権力の下には、論理というものはすぐにひっくり返る。舛添さんが改革クラブと組んだ。マスコミは「改革クラブは郵政民営化に反対だったでしょう? あなたは賛成ではないか」と問うが、そんなことは何の障害にもならない。理屈など何とでもなる。
■政治に理屈などない、権力とはそういうものだ
もちろん、私はこうしたことに直ちに賛成するものではない。だが、権力とはそういうものなのだ。
1994年、羽田孜内閣が総辞職した後、自民党は何と、天敵であるはずの社会党の委員長、村山富市さんを総理大臣に据えて自社さ連立政権(自民党、社会党、新党さきがけ)を発足させた。
また、小泉純一郎氏は、亀井静香氏に平身低頭で「あなたの言うことは何でも聞く。あなたに全部、相談する」と言って権力を手にし、そして100%裏切った。どれもこれも「権力とはそういうものなのだ」という実例である。
政治の世界では理屈や論理は信用できない。だから、これから7月に行われる参院選まで何が起こるか目を離せないのである。
さらに、岡田克也外相が移設先について「現行案を大筋で受け入れる方向だとルース駐日米大使に伝えた」と、米ワシントン・ポスト紙(電子版)が24日付で報じた。
ただ、この報道に関して岡田さんは否定しており、鳩山由紀夫首相は岡田さんとルース大使の会談は認めたものの、「現行案が受け入れられるなどというような話があってはならない」と否定している。
2010年4月28日 日経BP