経験が増えると、理解できることが増えていきます。
それは、単に記憶の量が増えているだけではなく、パターン認識をしているからです。
パターン認識といっても、ちょっと分かりづらいから、具体的に説明しますね。
たとえば、スーパーに行ったとします。そのスーパーに入るのははじめてです。
卵を買いたい。ふつうに買えますよね。問題なく。
それは、買い物のパターンを認識してるからです。記憶だけに頼ると買い物が難しくなる。
それぞれのスーパーの買い方あって、いちいちそれを覚えないとダメだからです。
たとえば、そうですね。そのスーパーは、一回、自分でバーコードリーダーにかけて、レジに持っていくみたいな。
知らんよ、そんなのってなります。いちいち覚えてられません。
でも、だいたい同じ買い物の手順があって、それをパターン認識しているから、どのスーパーでも問題なく買えるわけです。
歳をとって、色んなことができるようになるのは、こういうことです。
様々なパターンを覚えていて、それに当てはめるから、理解が早い。
パターン認識は、すごく効率のいい脳の利用方法で、物事の理解を早めるのには役に立ちます。
しかし、問題もあります。
まったく想像していない出来事に遭遇すると、うまく機能しないのです。
つまり、そのパターンから外れたとき、新しい考え方をするのが難しくなるんです。
よく、歳を取ったら頭が固くなると言われますよね。
それは、このパターン認識が原因だと思われます。
つまり、自分の思考の型から抜け出せなくなるわけです。
しかし、このパターン認識から逃れて、新しい発想をするのに有効な方法があります。
それは、アートを鑑賞することです。とくに絵画を鑑賞することがいい。
絵画は、経験に基づいたパターン認識を使うことはできません。
そこには独特の観察眼を必要とする。
絵画の鑑賞は、言葉にはできない美意識を必要とします。
美意識は、過去のパターンから起こるのではなく、いまこの瞬間に自分が感じている心を、味わうことです。
もう一度、小林秀雄の「美を求める心」を引用してみますね。
諸君が野原を歩いていて、一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。
見ると、それは菫の花だと解る。
何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのを止めるでしょう。
諸君は心の中でお喋りをしたのです。
菫の花という言葉が、諸君の心のうちに入って来れば、諸君はもう目を閉じるのです。
それほど、黙ってものを見るという事は難しいことです。
このパターン認識から自由になることは、イノベーションと密接に関わっています。
イノベーションは、今までにない新しいパターンを自分で見つけ出すことだからです。
だからこそ、世界のエリートが、「美意識」を見直し始めているのです。
過去の経験にとらわれることなく、ここに今あるモノをシンプルに見ることは、簡単ではありません。
美しいものに触れることが、その近道でしょう。