もう十五年くらい経つのかな。
当時、一緒に仕事をしていた年配のおじいちゃんが、うなぎをご馳走してあげるから、淺草で待ち合わせようということになりました。
あの有名なアサヒビール本社のうんこのオブジェからそんなに遠く離れていない場所でした。
ちょっと一軒家っぽくて小さい鰻屋さんで、ほんと美味しいのかなって感じの店でした。
名前は覚えていません。すいません。
うな重のたっぷりというのを頼んだのを覚えています。
全部おごってもらったので、値段も覚えていません。
うなぎって時間がかかるんですよね。出来上がって、いただくまでに。
その頃は、スマホもありませんでした。だから、おじいちゃんといろんな話をしました。
福島出身で、いろんな苦労をされている人でした。
東京に出てきて、辛かったことや、ちょっとここでは言えない話も聞きました。
おじいちゃんが若い頃に、この店につれて来られて、うなぎをご馳走になったそうです。
だから、僕にもご馳走しようということになったのでしょうね。
僕にその資格があったのかどうかわかりませんが。
最初はあんまり乗り気ではありませんでした。めんどくさいなって。
あんまり食べ物では、動かないタイプなんです。
でも、ああいう雰囲気のある場所で、いっしょに食事をして、いろんな話をしたことは、すごくよかったと思っています。
うなぎはすごくうまかった。僕が今まで食べたうなぎの中でも一番美味かったと思います。
日本人にとって、うなぎを食べるということは、ちょっと儀式的な要素がありますよね。
なんとなく特別な感じがする。
だけど、堅苦しい感じでもない。穏やかでニッコリしてしまうような空間です。
ふわふわの柔らかいうなぎを頂いて、不機嫌になる人はいませんよね。
もう、おじいちゃんは亡くなられて、この世にはいません。
しかし、土用の丑の日になると、あの二人の過ごした穏やかな時間を思い出します。
僕も彼が好きだったし、彼も僕が好きだった。今はそれがすごくよくわかります。
うなぎのちょっとした思い出です。