さくら館にて
ノルウェイの森を読了。
この小説は1987年に刊行されているから、世に出ておおよそ40年くらい経つ。
もう恋愛小説の古典と言ってもいいだろう。
私は最初20代のときに読んだ。それから5,6回読んでいると思う。
そして、一貫して、村上春樹の小説の中では、個人的に評価が低かった。
自殺が多く、暗いトーンで、登場人物のほとんどは良い人なのに救いがない。
私は基本ポジティブな人間なので、気の滅入る小説は嫌いなのだ。
しかし、今回はその認識を改めようと思う。
私の読み込みが甘かったのだ。決して暗いだけの小説ではない。
本を読んでいる最中、激しく心が揺さぶられ、最後は切なく感動した。
本当に素晴らしい小説だと思った。歳を取るのも悪くない。
歳を取ったからこそ、若者たちの微妙な心の動きが手に取るように分かったのだと思う。
村上春樹は心理描写を言葉巧みに書いている。天才の仕事だ。
この小説が、長い間、読み継がれる理由が分かったような気がする。
歳を取ったからこそ、見えることもあるんだなと思った。
小説の中の主要な登場人物の恋愛関係を簡単に表すと、
緑→ワタナベ→直子(自殺する)⇔キスギ(自殺)
緑はワタナベが好きで、ワタナベは直子が好きで、
直子とキスギは幼少期から愛し合っている。
しかし、キスギは17歳のときに自殺した。直子も後で自殺する。
どの恋愛もうまくいかない。
ただ、ワタナベと緑が最後に結ばれる可能性を残して小説は終わる。
私がノルウェイの森をそれほど良い小説ではないと思いつつ、
何回も繰り返し読んだのには理由がある。
それは作中に出てくる小林緑がすごく好きだったからだ。
今まで何百冊もの小説を読んできたが、その中に登場する女性の中で、緑が一番好きだ。
村上春樹はキャラクター造形が非常にうまいが、緑は特にすごいと思う。
とにかく魅力的でかわいい。
私は、20代のときに読み、50代になって再度読んで、
それでもまだ緑とワタナベの会話のところに差し掛かると、かなりウキウキする。
二人がイチャイチャするところは、これぞ青春って感じがする。
女性の読者の中にも、緑に感情移入している人が多いと思う。
女性にも嫌われないタイプじゃないかな。
というのも、緑の人生は苦労の連続で、全然報われない。
しかし、苦労を見せずに、明るく健気に生きている。
なので、彼女の心の奥にある打ちのめされた惨めな気持ちが見えにくい。
しかし、よく読めば、彼女の心はすごく傷ついているのが分かる。
ところで、男というものは(笑)、わんわん泣いている女には興ざめするが、
辛くて泣きそうなのに必死にそれを堪えている女の子を見ると、スイッチが入るのだ。
スイッチとは、この子を守ってあげなくてはいけないという感情だ。
ワタナベくんが、直子のことを考えて無神経になっているときに、
緑が見せる傷ついた心に触れるたび、彼女を守ってあげたくなる。
あともう一つ、村上春樹の小説の主人公は、「なぜモテるのか問題」がある。
別に努力して口説いているわけではないのに、
勝手に女が寄ってくるのはおかしいという主張だ。
たしか、10年くらい前に、有名な女性エッセイスト兼フェミニストみたいな人が言っていた。
その当時は、たしかにそうかも知れないと思っていたが、
今回この小説を読んで思ったことは、
主人公のワタナベくんは顔はそれほど良くないが(緑が言っていた)
落ち着いているし、女性の話をよく聞くし、ユーモアのセンスはあるし、やさしい。
だから、モテない理由はないよなと思った。
イケメン・金持ちだけど傲慢。狩猟民族のようにガツガツいく男。
スペックは高いが女を物のように扱い、ほとんど話を聞かない男。
こんな奴らより、ワタナベくんのような優男のほうが実際モテると思う。
この歳になってから気づいても遅いけどね。
話は逸れたが、ノルウェイの森は、当時のキャッチフレーズのように、
ほんと100%恋愛小説でした。
もし、この小説を読んでいない人がいたらラッキーだと思う。
最初は暗くてつまらないが、緑が出てくるまで読んでください。
急にラブコメみたいになるから。