NHKで「将棋界の一番長い日」という順位戦についての放送をしていた。雨が降っているので、それを見ていた。棋士の谷川浩司九段(51歳)がA級順位戦から陥落した。将棋ファンにとってはある種の事件である。
将棋を知らない人はA級と言われてもわからないと思うから順位戦についてちょっと説明する。
基本的に棋士のクラスである。
A級(10名)・B級1組(13名)・B級2組(25名)・C級1組(34名)・C級2組(46名)の5つのクラスからなる。
新規のプロ棋士はC級2組からスタートする。総当り戦で勝ち星上位の2名もしくは3名の棋士がC→B→Aと昇級する。ほとんどのプロ棋士がこのどこかのクラスに所属している。このクラスに所属していない棋士はフリークラス(30名ほど)となる。
最高峰のA級の優勝者が名人戦の挑戦者になる。
プロ棋士になるためには、まず奨励会(プロ棋士養成機関)に入って26歳までに四段にならないといけない。プロ棋士は将棋に関してはエリート中のエリートである。そのエリート集団の中でA級に昇級するのは、もっとすごい。そこで優勝するのはどういうことか説明はいらないだろう。今期は羽生さんがA級で優勝し、森内名人に対する挑戦権を得た。
森内・羽生は同級生で、小学生の時から対戦している。その二人の名人戦対決である。本当に興味深い。
将棋の勝負は、フィギアスケートの点数のようなグレーな勝負ではなく、非常に明快である。強い奴が勝つ。
大体、50歳になるとA級から陥落するそうである。将棋のような頭脳対決は歳を重ねるほど強くなっていくように思えるが、若いほう(三十代四十代)が強いというのはどういうことなのだろうか。
私個人のことを考えてみる。
10年ほど前の自分と比べてみると、ある種の激しさがなくなっているような気がしている。根拠なく相手を叩きのめしてやるという気概である。この意味のない闘争心が、勝負強さを支えているのかもしれない。
逆にいうと、今はそれだけ優しくなったともいえる。このことが、良いことなのか悪いことなのかよく分からない。今のほうが穏やかでいい人間になったともいえるのである。
女流棋士が男性棋士になかなか勝てないのは、脳の構造というより、戦うべき本能を遺伝子にインプットされている若い男の根拠なき激しい闘争心が欠けているからなのだろう。