── まずブックディレクターというお仕事は、どんなお仕事なのでしょうか?
ひとことでいうと「本棚編集者」です。
自分で本屋をやっているのではなくて、書店や書店以外のお店やその他、本が必要な場所に、その場所のコンセプトやテーマに合わせて本を選ぶ、という仕事です。
ここに本が置きたいと言われたら、まず「なぜ本が必要なのか」「どんなコンセプトなのか」をヒヤリングして、それを踏まえて1冊1冊本を選んでいきます。もしクライアント側に具体的なイメージがない時には、こちらから提案していきながら一緒になってイメージをつくっていくところから始めていきます。
── 今のお仕事を始めるキッカケは?
元々、青山ブックセンター六本木店のデザイン/建築書籍コーナーのバイイングをしていたのですが、そこの常連のお客さんにとあるデザイン雑誌の編集長がいて、その方の縁で、編集者の石川次郎さん(雑誌『POPEYE』『TARZAN』『BRUTUS』などの編集長を歴任)にお会いして、次郎さんの会社に誘われたのが大きな転機でした。兼ねてから編集の仕事にも興味を持っていたので、次郎さんの会社(J.I.inc)に移って編集を学んでいたのですが、そこで担当した初めてのプロジェクトが、六本木ヒルズのTSUTAYA企画でした。
── 『TSUTAYA TOKYO ROPPONGI』のプロジェクトはどのように進んで行ったのですか?
既存店舗とは全く違った「大人のTSUTAYA」。従来の一般書店で扱うような文庫や文芸書主体ではなく、六本木ヒルズに集まる人たちに「ライフスタイルの提案」をしていくコンセプトブックストア。それがTSUTAYAさんからの要望でした。
そこで、ライフスタイルに根ざした「フード」「トラベル」「アート」「デザイン」を4つの柱として、テーマ性に沿って深くセレクトしていくことを提案し、そのメインコンセプトとしました。ただ文芸書を全く置かないかというとそうではなく、いい本は置きたい。例えば、ガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』を是非置きたい。しかし、この書店には海外文学コーナーがない。さあ、どうしよう?
で、考えた末に、この本の舞台が南米のコロンビアなので、「トラベル」の南米のコーナーに置こう!それでいいじゃないか、と。
それが「本棚の編集」のはじまりでした。既存のセグメントを壊して、その本のテーマや世界観に合わせて、本の置き場や紹介のしかた、見せ方を編集し直すということ。いままで旅のコーナーには地図とかガイドブックを置くのが当たり前だったけどそこに文芸を置いてもいいじゃないか。こうして既存の枠を超えたところに本を置いてみることをやってみたら、とてもお店が面白くなりました。
最初は分かりにくいというお客さんもいましたが、すごく面白がってくれるお客さんも多くて。六本木という場所柄、高感度の人たちが多く、そういう新しい取り組みをすーっと受け入れてくれたように思いますね。
11月にオープンしたHOYA CRYSTAL TOKYO。バッハがディレクションしたブックコーナー。 12月家を購入して引っ越しました。この小部屋がいらない!ということで、改造してます!
── この後、ブックセレクト集団「BACH」として独立してからも、旅専門書店『BOOK246』、アパレルショップ『LOVELESS』やインテリアショップ『CIBONE』のブックセレクトなど、様々なジャンルのお店のブックコーナーを手掛けられてますね。
インテリアショップ『CIBONE』のときには、カッコいいモノをカッコいい場所でカッコよく売るのって、カッコわるい、と思っていて(笑)、代表の横川さんとそうじゃない本の売場ができないものかと話していたときに、「アーバン・アドベンチャー/都会の冒険家」というキーワードが出てきました。
白州次郎とか伊丹十三とか植草甚一とか、過去の尊敬すべき都会の冒険家、都会を優雅に闊歩した大人の男。「彼らが21世紀に生きていたら、自宅の本棚にはどんな本があるだろう?」それがコンセプトになりました。
インテリアショップだから外国のデザインや建築の本がカッコよく並んでいるのではなくて、魚の下ろし方の本とか、植物図鑑とか。もちろん、素敵な寿司屋ののれんのくぐり方などマナーの本だったり。大人として、日本人として、国際人として、人間の幅を持っている人が読むべき本を提案すること。それが最先端のインテリアショップのブックコーナーとしてあるべき姿ではないかと考えた訳です。
── 2007年1月にオープンした国立新美術館のミュージアムショップでの斬新なブックセレクトと展示方法が非常に話題になっていますが、その実現にはどんな経緯があったのでしょうか?
国立新美術館のミュージアムショップを『CIBONE』がやるということになって、それまでの流れもあって、是非一緒にやりましょうと。美術館のミュージアムショップではあるけれど、美術とかアートの文脈に捕われないで、今の東京の新しくて面白い空気感を凝縮していくことがコンセプトでした。それがショップ名でもある「スーベニアフロムトーキョー(東京土産)」。
ミュージアムショップだから美術書を置くのではなく、例えばアニメの本やアキバ系カルチャーも外国から見たら東京のひとつの側面なのでそれは欠かせない。だから、例えばガンダムのプラモデルも商品として置いてたりします。でも、だだガンプラが置いてあるだけでは単にオモチャ屋になってしまう。
そこで、その横に原作者の富野由悠季さんの自伝を置いたり、ガンダムを想起させるジオデシック・ドームで有名な建築家、バックミンスター・フラーの本を置く。富野さんの自伝を読むと、実はアンチモビルスーツ、反戦の人だということが分かったり、また、ガンダムにも通じる建築界の偉大な異端児の作品を紹介することで新しい興味の広がりを持ってもらうキッカケにも。ガンプラがただのガンプラではなくなって、その世界観に奥行きが出てくるようにしています。
他にも、宮本武蔵の『五輪書』と宮本武蔵を描いたマンガ『バガボンド』を並べて、その横に日本刀モチーフのアートオブジェを置いたり、水の写真集『WHO OWNS THE WATER ?』の横に日本の古い航海図を使ったレターセットを置いて、その横に海賊モチーフのマンガ『ONE PIECE』を置いてみたり(笑)。機会があれば是非覗きに行ってみてください。
── お仕事において大切にしていることは何ですか?
本という伝統的なものを扱っていますが、個人的には新しいものが大好き。常に新しくて面白いことを心がけてます。そういう意味では「常に現状を疑っている」と言えるかもしれませんね。キーワードとしては「落差」だったり「違和感」だったり。そこから新しい事、面白い事がでてくるんだろうと思います。
── いま幅さんが個人的に注目していること、ハマっている事は何ですか?
少年ジャンプで連載されている『ONE PIECE』と『NARUTO』が大好きなんですが、『NARUTO』で自来也亡き後の世界がどうなるかが非常に気になります!(12/20現在)
あとは日曜大工ですね。最近古いマンションを買って、そのリノベーションにハマってます。いままで賃貸だったのでいじれなかったのですが、今回はインパクトドライバー(振動ドリル)を使って壁に穴をあけまくって、棚とか作ってます(笑)
── 最近の案件や今後予定しているプロジェクトなど教えてください。
2007年10月にオープンした、脳卒中の方が社会復帰するためのリハビリテーション施設『千里リハビリテーション病院』。ここでは病気の本は一切置かず、リハビリにつながるような図鑑や絵本の他、懐かしくて思わず手に取ってしまうような本、早く社会復帰の意欲が湧くような旅の本や、悠久な時間を楽しんでもらえるような歴史の本などを選んでいます。
2008年1月26日に渋谷神山町にオープンする、書店兼出版社『SHIBUYA PUBLISHING & BOOK SELLERS』。ここでは、40年代、50年代、と年代別に書棚を構成しています。例えば80年代でいえば、その時代を反映するファッションや音楽、演劇、小説などを集め、80年代をいろんな書籍を通じて見直してもらえるようにしています。
また、2月に大阪梅田にオープンする阪急百貨店メンズ館では、メンバーズラウンジの書棚と、本と雑貨のセレクトショップ「The Lobby」のブックセレクトを担当しています。
同じく2月に銀座マロニエゲートの東急ハンズ銀座店7階にオープンする『ハンズブックス』でもセレクトしています。
本屋に人が来ないのであれば、人が来る場所に本屋を持って行く。
そんな発想で、これからもいろんな場所に本のある風景を作っていきたいと思っています。
本屋は「行きたいという書店」と「そうでない書店」がある。昔からそう思っていた。本や本棚の並びが、僕の心に影響を与えているのだ。それを「職業」とした人が出て来た事は嬉しい。
ひとことでいうと「本棚編集者」です。
自分で本屋をやっているのではなくて、書店や書店以外のお店やその他、本が必要な場所に、その場所のコンセプトやテーマに合わせて本を選ぶ、という仕事です。
ここに本が置きたいと言われたら、まず「なぜ本が必要なのか」「どんなコンセプトなのか」をヒヤリングして、それを踏まえて1冊1冊本を選んでいきます。もしクライアント側に具体的なイメージがない時には、こちらから提案していきながら一緒になってイメージをつくっていくところから始めていきます。
── 今のお仕事を始めるキッカケは?
元々、青山ブックセンター六本木店のデザイン/建築書籍コーナーのバイイングをしていたのですが、そこの常連のお客さんにとあるデザイン雑誌の編集長がいて、その方の縁で、編集者の石川次郎さん(雑誌『POPEYE』『TARZAN』『BRUTUS』などの編集長を歴任)にお会いして、次郎さんの会社に誘われたのが大きな転機でした。兼ねてから編集の仕事にも興味を持っていたので、次郎さんの会社(J.I.inc)に移って編集を学んでいたのですが、そこで担当した初めてのプロジェクトが、六本木ヒルズのTSUTAYA企画でした。
── 『TSUTAYA TOKYO ROPPONGI』のプロジェクトはどのように進んで行ったのですか?
既存店舗とは全く違った「大人のTSUTAYA」。従来の一般書店で扱うような文庫や文芸書主体ではなく、六本木ヒルズに集まる人たちに「ライフスタイルの提案」をしていくコンセプトブックストア。それがTSUTAYAさんからの要望でした。
そこで、ライフスタイルに根ざした「フード」「トラベル」「アート」「デザイン」を4つの柱として、テーマ性に沿って深くセレクトしていくことを提案し、そのメインコンセプトとしました。ただ文芸書を全く置かないかというとそうではなく、いい本は置きたい。例えば、ガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』を是非置きたい。しかし、この書店には海外文学コーナーがない。さあ、どうしよう?
で、考えた末に、この本の舞台が南米のコロンビアなので、「トラベル」の南米のコーナーに置こう!それでいいじゃないか、と。
それが「本棚の編集」のはじまりでした。既存のセグメントを壊して、その本のテーマや世界観に合わせて、本の置き場や紹介のしかた、見せ方を編集し直すということ。いままで旅のコーナーには地図とかガイドブックを置くのが当たり前だったけどそこに文芸を置いてもいいじゃないか。こうして既存の枠を超えたところに本を置いてみることをやってみたら、とてもお店が面白くなりました。
最初は分かりにくいというお客さんもいましたが、すごく面白がってくれるお客さんも多くて。六本木という場所柄、高感度の人たちが多く、そういう新しい取り組みをすーっと受け入れてくれたように思いますね。
11月にオープンしたHOYA CRYSTAL TOKYO。バッハがディレクションしたブックコーナー。 12月家を購入して引っ越しました。この小部屋がいらない!ということで、改造してます!
── この後、ブックセレクト集団「BACH」として独立してからも、旅専門書店『BOOK246』、アパレルショップ『LOVELESS』やインテリアショップ『CIBONE』のブックセレクトなど、様々なジャンルのお店のブックコーナーを手掛けられてますね。
インテリアショップ『CIBONE』のときには、カッコいいモノをカッコいい場所でカッコよく売るのって、カッコわるい、と思っていて(笑)、代表の横川さんとそうじゃない本の売場ができないものかと話していたときに、「アーバン・アドベンチャー/都会の冒険家」というキーワードが出てきました。
白州次郎とか伊丹十三とか植草甚一とか、過去の尊敬すべき都会の冒険家、都会を優雅に闊歩した大人の男。「彼らが21世紀に生きていたら、自宅の本棚にはどんな本があるだろう?」それがコンセプトになりました。
インテリアショップだから外国のデザインや建築の本がカッコよく並んでいるのではなくて、魚の下ろし方の本とか、植物図鑑とか。もちろん、素敵な寿司屋ののれんのくぐり方などマナーの本だったり。大人として、日本人として、国際人として、人間の幅を持っている人が読むべき本を提案すること。それが最先端のインテリアショップのブックコーナーとしてあるべき姿ではないかと考えた訳です。
── 2007年1月にオープンした国立新美術館のミュージアムショップでの斬新なブックセレクトと展示方法が非常に話題になっていますが、その実現にはどんな経緯があったのでしょうか?
国立新美術館のミュージアムショップを『CIBONE』がやるということになって、それまでの流れもあって、是非一緒にやりましょうと。美術館のミュージアムショップではあるけれど、美術とかアートの文脈に捕われないで、今の東京の新しくて面白い空気感を凝縮していくことがコンセプトでした。それがショップ名でもある「スーベニアフロムトーキョー(東京土産)」。
ミュージアムショップだから美術書を置くのではなく、例えばアニメの本やアキバ系カルチャーも外国から見たら東京のひとつの側面なのでそれは欠かせない。だから、例えばガンダムのプラモデルも商品として置いてたりします。でも、だだガンプラが置いてあるだけでは単にオモチャ屋になってしまう。
そこで、その横に原作者の富野由悠季さんの自伝を置いたり、ガンダムを想起させるジオデシック・ドームで有名な建築家、バックミンスター・フラーの本を置く。富野さんの自伝を読むと、実はアンチモビルスーツ、反戦の人だということが分かったり、また、ガンダムにも通じる建築界の偉大な異端児の作品を紹介することで新しい興味の広がりを持ってもらうキッカケにも。ガンプラがただのガンプラではなくなって、その世界観に奥行きが出てくるようにしています。
他にも、宮本武蔵の『五輪書』と宮本武蔵を描いたマンガ『バガボンド』を並べて、その横に日本刀モチーフのアートオブジェを置いたり、水の写真集『WHO OWNS THE WATER ?』の横に日本の古い航海図を使ったレターセットを置いて、その横に海賊モチーフのマンガ『ONE PIECE』を置いてみたり(笑)。機会があれば是非覗きに行ってみてください。
── お仕事において大切にしていることは何ですか?
本という伝統的なものを扱っていますが、個人的には新しいものが大好き。常に新しくて面白いことを心がけてます。そういう意味では「常に現状を疑っている」と言えるかもしれませんね。キーワードとしては「落差」だったり「違和感」だったり。そこから新しい事、面白い事がでてくるんだろうと思います。
── いま幅さんが個人的に注目していること、ハマっている事は何ですか?
少年ジャンプで連載されている『ONE PIECE』と『NARUTO』が大好きなんですが、『NARUTO』で自来也亡き後の世界がどうなるかが非常に気になります!(12/20現在)
あとは日曜大工ですね。最近古いマンションを買って、そのリノベーションにハマってます。いままで賃貸だったのでいじれなかったのですが、今回はインパクトドライバー(振動ドリル)を使って壁に穴をあけまくって、棚とか作ってます(笑)
── 最近の案件や今後予定しているプロジェクトなど教えてください。
2007年10月にオープンした、脳卒中の方が社会復帰するためのリハビリテーション施設『千里リハビリテーション病院』。ここでは病気の本は一切置かず、リハビリにつながるような図鑑や絵本の他、懐かしくて思わず手に取ってしまうような本、早く社会復帰の意欲が湧くような旅の本や、悠久な時間を楽しんでもらえるような歴史の本などを選んでいます。
2008年1月26日に渋谷神山町にオープンする、書店兼出版社『SHIBUYA PUBLISHING & BOOK SELLERS』。ここでは、40年代、50年代、と年代別に書棚を構成しています。例えば80年代でいえば、その時代を反映するファッションや音楽、演劇、小説などを集め、80年代をいろんな書籍を通じて見直してもらえるようにしています。
また、2月に大阪梅田にオープンする阪急百貨店メンズ館では、メンバーズラウンジの書棚と、本と雑貨のセレクトショップ「The Lobby」のブックセレクトを担当しています。
同じく2月に銀座マロニエゲートの東急ハンズ銀座店7階にオープンする『ハンズブックス』でもセレクトしています。
本屋に人が来ないのであれば、人が来る場所に本屋を持って行く。
そんな発想で、これからもいろんな場所に本のある風景を作っていきたいと思っています。
本屋は「行きたいという書店」と「そうでない書店」がある。昔からそう思っていた。本や本棚の並びが、僕の心に影響を与えているのだ。それを「職業」とした人が出て来た事は嬉しい。
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