思考の踏み込み

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蟲師 続章6

2014-04-14 07:18:19 | 日記
「蟲師」の魅力の重要なものに作者の "ことば" の感覚のセンスの良さがある。

例えば "風巻 (シマキ) "や "ムグラ" 、颪 (オロシ) 、カイロギ、ウロ、、産土 (ウブスナ) 、薬袋 (ミナイ) 、イサザやスグロ、クマドなど。

これらは蟲の名前に使われたり、登場人物の名になっていたりするが、どこか万葉的な香りや山窩 (サンカ) と呼ばれた人々、またはマタギやワタリといった山で特殊な生業を行っていた者たちのの言葉の影響を匂わせる。



もちろんアイヌ的な言語も源流にあるし、言霊という範疇まで意識されているだろう。
( 蟲師の世界観にあっては "山" は特別な位置付けをなされているように思う。やはりそれは強い生命力の顕れというか凝った場所という意味で、象徴的な事象としてである。)




それはきわめて純日本語に近いもので、「蟲師」の時代設定が江戸と明治の間とかいった架空の時代であることも含めて文化的世界への作者の感覚の非凡さを感じさせる。

そして台詞回しの巧みさも見事である。伝えきれる筈もないが、一部紹介してみよう。



「沖つ宮」にて "生きた時間を喰う蟲" に飲み込まれかけたギンコ ー




「…このまま こいつに喰われれば
俺も 胚にまで 戻してくれるんだろうかー」

「全てが始まる その前まで ー」

「ああ… そりゃあ」
「たいそう悪い 冗談だ ー 」





「眇の魚」で常闇 (トコヤミ) に飲まれるヌイ。



「お前の目玉がこちらを見ると まるで陽のあたるように温かだ」

「あの仄暗い 池の傍で それがどんなに なつかしかったか……」

「…さあ この先は片目を閉じてお行き」

「ひとつは 銀蠱にくれてやれ トコヤミから抜け出すために」



「だがもうひとつは 固く閉じろ
また陽の光を 見るために ー 」


このセリフからふとゲーテの詩が思い起こされた。


" ー もしもこの目が太陽でなかったならば 決して太陽をみることは できないだろう
ー 我らの中に神の力が宿らなかったならば 聖なるものが なぜに心を惹きつけようか "

ゲーテ「穏和な風刺詩」