ベルのきもち

日常のささやかな幸福感を書いていきたいと思います。

カメレオンの影

2020-08-23 09:53:00 | 本の紹介



byミネット・ウォルターズ。成川裕子訳。創元推理文庫。

イラク戦争で頭部と顔面を負傷し、片目をなくしたアクランドは病院で目覚める。二か月間の記憶がなく、母親と元婚約者を遠ざける。退院し除隊したのち彼はロンドンのフラットで一人暮らすが、パブで暴力事件を起こす。折しもその頃ロンドン郊外で元国防省の文官、建設業者、タクシー運転手が殴殺されていて、三人とも元軍人。そしてまた元軍人の老人が同じ手口で殴殺される。この老人と殺される少し前に接触したのがアクランドで彼は警察に拘束されてしまう。主人公のアクランドもさておき、パブの経営者でレズの医師ジャクソン、ホームレスのチョーキー、元婚約者で高級売春婦のジェンもアクランドの母親もこの小説に出てくるキャスト全員、誰も彼もが煮ても焼いても食えない輩。恐るべしミネット。わたしがウォルターズのミステリーを好きなのはそれが理由かも。タイトルのシャドゥは心理学用語でペルソナとシャドゥ。ペルソナはまわりの人に見せる表の顔。シャドゥは心の奥底に隠さなけばならない本来の顔。人間など一皮剥けばみな同じかも。くれぐれも見かけに惑わされないように。

さて、別の日のベル。




ちょっと休憩。メグちゃんも。












もう終わりにしよう。

2020-08-19 09:20:00 | 本の紹介



byイアン・リード。坂本あおい訳。ハヤカワ文庫。

この小説は、語り手の『わたし』が付き合って日の浅い恋人、ジェイクと挨拶がてらに彼の両親の家に行くだけの物語。ジェイクは大学の研究所の研究員。ジェイクも『わたし』も物事を深く考えすぎな、繊細な神経、豊かな想像力を持っていて、それは正気でいられるぎりぎりの許容範囲内であったはずだった。陰鬱な冬の夜、雪が降って閉ざされた空間、人のいない田舎の農場、ジェイクが話す飼っていた家畜の壮絶な最期、どこかおかしい両親の言動。気がついたら読み手はどこがどうおかしいのかわからない歪んだ世界に取り込まれたような感覚に陥ってしまう。漠然とした不安が恐怖に変わるとき、恐怖が人を殺す・・・と言っても過言ではないようなこの小説の衝撃的なラスト。

さて、別の日のベル。




暑いので、ほとんど家の中。