五輪工費の高騰の原因は? 3つの競技会場は落札率ほぼ100%…「都議会のドン」が監査役の企業も
産経新聞 10月2日(日)9時30分配信
2020年東京五輪・パラリンピックの開催費などを検証する都の調査チームが、計画撤回を含めた見直しを提言した都の競技場3施設では、今年1月の工事の入札で落札率が最大約100%に及ぶなど、整備費高騰の一因となっている。落札した共同企業体(JV)の一部には自民党の大物都議が役員を務める企業も含まれており、「利害関係者である議員が関わる企業が工事に参加することは不透明さがある」との指摘もある。
■高い落札率
落札率は入札の上限となる予定価格に対する落札額の割合を示し、高いほど業者の利益は大きくなる。都は予定価格を公開した上で入札を実施した。
落札率が約100%に及んだのは、ボート・カヌー会場「海の森水上競技場」。大成建設などのJVのみが入札し、落札額は約249億円。予定価格より約31万円低いだけだった。
バレーボール会場「有明アリーナ」の入札には2つのJVが参加し、竹中工務店などのJVが落札した。予定価格約361億円に対して落札価格は約360億円で、落札率は99・82%だった。水泳会場「オリンピック・アクアティクスセンター」は、3つのJVのうち大林組などのJVが約470億円(予定価格約538億円、落札率87・26%)で落札した。
五輪競技施設のうち、最も費用がかさむこの3施設の整備計画では、都の調査チームが9月29日に示した報告書で、代替施設の調査や大会後の活用、維持費の試算など検証不足を厳しく指摘し、再検討を促している。こうした高い落札率が費用の高騰の一因にもなっている。
高い落札率をめぐっては、築地市場(東京都中央区)の移転先となる豊洲市場(江東区)でもあった。土壌汚染対策の盛り土が行われていなかった水産卸売場棟などで、主要3施設の建設工事の再入札の平均落札率が99・9%だったことが判明。豊洲市場は土壌汚染対策費も当初計画の約1・5倍の858億円に膨張するなど、最終的な総事業費は5884億円に及ぶと見込まれており、事業費について小池氏は都政改革本部で検証する考えを示している。
■都議役員企業も参加
有明アリーナとアクアティクスセンターを落札したJVには、小池百合子知事が選挙戦で「都議会のドン」と称した内田茂都議(自民)が監査役を務める「東光電気工事」が参加している。都連の前執行部は7月の知事選で小池氏の推薦を認めず、元総務相の増田寛也氏を擁立。小池氏はその意思決定の過程を「ブラックボックス」と表現し、内田氏について「都議会のドン」と批判していた。
また、有明アリーナの入札には鹿島建設のJVも参入し、応札額は竹中工務店のJVより低かったが、専門家が実績を評価する「技術点」で同社JVが満点を獲得して総合的に上回り、“逆転落札”した。金額だけで決めないのは「技術提案型総合評価方式」と呼ばれる方法を導入しているからだ。入札金額から算出する価格点と、都が求める技術的な課題に対する技術」の評価値で決まる。都の担当者によると「金額だけで決めて、工事能力がない業者が受注すると問題がある。特に五輪関連の工事は簡単ではないため、技術力も含めて総合的に判断している」という。
■競争原理働きにくく
入札に詳しい法政大大学院の武藤博己教授は「9割近い落札率は高く感じる。特に五輪の工事は技術的に高いものが要求されるため、入札に参加できる企業は限定される。企業間で競争が働きにくい現状がある」と指摘。一方、都では国と違って予定価格があらかじめ公開されていることから、「都の設定した予定価格が本当に適正な額ならば、落札率が100%でも問題はない」とした。
都議が役員を務める企業が落札したことについては「違法ではないが、不透明さは残る。利害関係者である議員が関わる企業が、行政の工事に参加することが倫理的にどうなのかということについて、今後議論が必要になってくるだろう」と述べた。
3施設の落札率について都の担当者は「予定価格は公開しているため、高い落札率となることも問題はない」とした。落札した大成建設などは「適正な手続きで受注した」とコメント。東光電気工事は「担当者が不在で回答できない」としている。