(足元に 蟻の群がる クマ蝉)
●蝉時雨、今日もまた蝉時雨
●君は時雨れて蝉になる 雌が飛ぶ
●追いかけ 飛び回る雄 雄叫び
●今日もまた 雄叫びの矢で 射抜く空
●愛を叫ぶ 命が時雨れる 真夏
●クマゼミの 羽化に釘付け 時が止まる朝
命の美しさに 息を呑む日 生きていて良かった
人間やめて昆虫の合唱に加わりたい刹那
●刺すような眼差 関係の飢餓 情のない彼ら
蝉の抜け殻を生きている女の眼差、偽善の海
●教授が家に火をつけた鬱の夏 彼女は朝からその話
そういえばあの警察沙汰になった教授とスーパーで
会ったわよ、ニコニコしていたわ、とS先生
警察はマークしていたのよね、その常習犯だと
離婚されていたからね
●セクシュアリティーの闇と光、君は幸せな人生なの
とクマゼミが聞き返した
幸せで不幸せと応える夏、クマゼミに負ける夏
●柳 美里の文体は濃密でいい!この濃密さは肌にベトッと
しがみつくことば、で離れない。