先週、吉田妙子さんと、平良さんの宜野湾のご自宅にいっしょに行こうと約束した所だった。携帯に電話しても応答がないことに、妙子さんも気にしていた。「どんな時でも電話は必ず折り返しきていたのに、おかしいね」と妙子さんは話していたのだ。いっしょに行ってみようかと約束した土曜日、急に妙子さんは腹痛が激しくなり、取りやめた。夕方5時半に彼女を久茂地のマンションに迎えに行き、宜野湾に行く予定だった。その時、２７日午後５時２０分に平良進さんは、逝かれたのだ。
翌日曜日、妙子さんは少し体調がよくなったので、夕方から宜野湾に行こうと電話があった。私は急すぎるから明日（月曜日）にしましょうと提案したのだった。その後、八木政男さんから妙子さんに平良さんが亡くなったと電話があり、妙子さんはすぐこちらにも知らせてくれたのだった。
正月休み明けの4日に携帯に電話したらお嬢さんが電話に出られた。明日伺いますと話すと、太鼓の稽古があるからとの事だった。それ以来、気になったままで、吉田さんに相談したのだった。
最後にお話したのは、ちょうど真喜志康忠さんの命日の日のイベント会場だった。平良さんは、午後はACOの大道のピースホールでの舞台に出て、それから博物館講堂に来られる約束だった。「身体の調子が悪くて舞台にも出られなくて、失礼します。みなさんによろしく」との伝言だった。
体調が気になっている矢先の訃報に、落胆している。前立腺癌で手術されたことを去年打ち明けられていて、幾分痩せられた姿が気なっていたのは事実である。それでも高嶺剛監督の映画に出るのだと、進さんは、情熱を内に秘められていた。凄い方である。沖縄芝居も映画も、現代劇も熱心に取り組み、ご自分の劇団「綾船」の公演も今帰仁でやると話されていた。
89歳の現在まで、現役で舞台に立ち続けてきた方である。
生涯現役の役者として、心身を投じたその役者根性はどこから来たのだろうか。平良進論は今から掘り下げられていくだろう。吉田妙子さん共々、多く映画に出演した方である。沖縄芝居だけでなく、ACOの現代劇でも主役を演じ、挑戦されていた。そばにはいつもとみさんがいて、進さんは飄々と自然体で舞台の空気になじんでいる風だった。
宮古島出身で宮古なまりをウチナー芝居の口調に直すにもたいへんな努力を要したに違いない。とても謙虚で率直な方だった。
2018年、はじめて国立劇場おきなわが「護佐丸と阿麻和利」を舞台化した時、平良さんは演出を任されていて、私は『華風』にその解説を書くため、台本読みやリハに参加したことがあり、また演出家としてのコンセプトなどを伺った。その時、平良さんの演劇に対する感性の鋭さに感銘を受けた。真喜志康忠氏が脚本をまとめ、主役や演出を担ってきた作品を独自の視点で、解釈し、物語の筋書を、演出によってより直截に見える作品に仕上げていた。
もちろん、演出家として満足に至らない口惜しさも漏らした。「稽古がね、もっとできたら」と話していたのだ。
康忠氏率いる「ときわ座」は、主役だけが生きる芝居をしてこなかった。脇役も含めて、集団演技にも目が行き届いていた。それゆえに、康忠座長の厳しい舞台作りで鍛えられていた平良進さんは、その他大勢の演技に歯がゆい思いをしていたのである。
ああ、このように、一座の芸は継承されるのか、と驚いた。映画や現代劇の出演を通して、おそらく演劇のもつ独特な実在感や、イメージ、リズムを、無意識に取り込んでいたのだ。芸が生きるか、死ぬか、役者の全存在が如実に表象として具現化される舞台は、その芯が常に試されるのだろう。
平良さんにはこれから大事な演出が待ち受けていた。悲嘆や落胆を超えて、次のステップを踏まなければならない。
ありがとう進さん、あなたは斬新で柔軟な精神を持ち続けていた役者でした。生涯現役役者を貫いた進さん、とみさんといっしょにあの世からウチナー芝居にエールを送ってください。あなたやとみさんが歩いた役者人生は、沖縄の演劇史に強烈な足跡を残したのです。
訃報をうけて、琉球新報と沖縄タイムスがどう生涯現役の役者・平良進さんを記事にしたかが分かります。新報は3人の記者が平良進さんの役者人生を掘り下げました。対してタイムスはお一人で記事にしています。その対応の差が紙面に現れています。
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