「ここは広場ではない。通路である。歌うのをやめなさい。ここは広場ではない。通路である。」
このセリフははるか40数年前、新宿西口で繰り広げられた警察の拡声器を通した叫びである。「フォークゲリラ」とよばれた若者たちは、新宿西口広場でフォーク音楽集会を開き、さまざまなメッセージを社会に発していた1960年代終わりの頃の話だ。私はすでに生まれてはいたが、そんな時間に新宿西口に行くわけはないので、正直、ニュース映像や本の中から学んだ、いわゆる「歴史の知識」にすぎない。
こうした若者の「危険な」現象を阻止すべく、「権力」は、ある日から、新宿西口広場を、「広場」ではなく「通路」にかえてしまったのである。通路は歩くところだから、そこに若者が集まり座って集会を開くことができなくなってしまったのだ。というより、集会をできなくしたのである。
さて、一昨日、新宿西口にたまたま用があってこの場所を通ったとき、黄色いサインボードに目をやると、なんと「西口広場」になっているではないか!ということは、「ここは広場ではない。通路である。」とまるで抑揚のないアナウンスが繰り返された場所は、「ここは通路ではない。広場である。」とまた元に戻ったわけだ。まあ、今、この広場で集会をやることはさまざまな規制があってできないんだろうが、たとえできても、あんなフォークゲリラなんて現象が今起きるなんて全く想像すらできない。たとえ起こったとしても、今度は、渋谷のスクランブル交差点でアナウンスをした敏腕の機動隊広報部のお兄さんが、昔よりずっとスマートなアナウンスで、若者を手のひらで転がすように、上手に移動させるに違いないけれど。