図は、渋沢龍彦「幻想博物誌」角川書店昭和52年から。
スキタイの羊
きょうは、わかったような、わからない話です。
図のとおり、羊が、樹木から出てくる奇怪な挿絵について、頭の体操をします。
1イタリアの宣教師・オデリコの「東方紀行」
オデリコは、1314年頃、布教のため、小アジア、ペルシャ、インド、セイロン、スマトラ、ジャヴァ、ボルネオを経て、福建省の泉市に上陸、北京に3年滞在、その後、チベットの吐番を通って帰国した。
31章「一頭の子ヒツジ大の獣が、生まれるメロン」の記述。
カディリという大王国には、コーカサス山脈に、非常に大きなメロンができると聞く。熟したメロンは、二つに割れて、中から子羊ほどの小動物がみられる。
2ジョン・マンデヴィル「東方旅行記」1360年頃にも、
3ヴァンサン・ド・ボ・ボウ-ヴエ「自然の鏡」(中世の百科事典)にも
同じような記述がみられる。
カディリ国は、スキタイの居た黒海の北にぴったりと符合する。
(七海注、トルコ半島の付け根の南沿岸にカディリ市あり、スキタイは、黒海に来る前に居た農耕スキタイを指すと考える。この地は、シリアの北。また、下記の韃靼は、タタール:室葦族で大遼河の満族地域にいたので、西方黒海のスキタイと場所がちがうが、動く民族の拠点は、不明です。なお、宗谷海峡を韃靼海峡という。)
3の自然の鏡には、「スキタイの羊」(韃靼ダツタンの羊)と呼ばれている。黄色っぽい綿毛に覆われて、ヘソの緒に似た長い茎で、地面につながっている。
子ヒツジにそっくりで、切れ血のような汗が出ると言う。
別説では、保温の代わりになるので、季節になると商人が摘みにくる。
これらの話をめぐって、各種の想像が、語られる。
パロメッツは、中国北部に自生するシダ(羊歯)の一種をさす。
シダの若葉には、綿毛のような毛が密生している。各地でこれを紡績し織物を作る。根も含めて毛状で紡織する。
また、H・リー「韃靼の植物羊」によると、綿の木という。
かくして、上図を誰かが、面白半分に作ったのでしょう。
南方熊楠は、羔子という韃靼の植物羔で、欧州で珍重された奇薬という。羔(コゥ)は子羊ですが、熊楠は、羔子(コゥシ)と混同しているとする。
ジョセフ・ニーダム「中国の科学と文明」では、ハボウキガイが吐きだす糸を指す。ヘレニズム時代に、この糸を乾燥させ、織物に為し得ることが地中海で発見され、シリア商人が中国に輸出した。
中世ペルシャの詩人は、支那海の果てに、ワクワク島があり、イチジクの植物の果実から、人間の若い娘が生じると記す。
以上、渋沢龍彦を略記。渋沢さんは、シダ説をとる。
七海の想像
これで、思い当たる話しは、「フンヨウ」です。
国語の魯語(魯国のことば)
李桓子「井戸を掘ると土のカメのようなものが出てきて、中に羊がいた。」不思議に思い、仲尼に聞かせた。
李「私が井戸を掘っていたら、イヌが出て来た。これは何ですか」
仲「私の聞くところでは、それは羊です。私の聞くところでは、
木石の妖怪は、虁(キ)と罔両(モウリョウ)、
水の妖怪は、龍と罔象(モウショウ)、
土の妖怪は、フンヨウといいます。」
「羊+賁」の一字。・・・(フン、ブン)の音です。
さらに羊を付けた二字で、フン羊、ブン羊の音です。
七海注記、フンヨウは
土中の妖怪。頭の大きな羊で、雄雌の未だ成らないもの、という。
日本の羊大夫は、風神の信仰者で、綿帽子のように飛んでゆく。
やっぱり、シダ(パロメッツの類)とおもいますが、何時の間にか、西にゆけば、全くあり得ない、傑作な話になったのでは、ないか。
一方で、人騒がせな連中が、西洋にも居るのでは、と思う。
ところで、斉の国では、犬(イヌ)を地羊という。楚辞の校注も、狗は黄羊という。(2011・1・29犬戎国5のブログ参照)・・・上記のフンヨウは、どっちがどっち。・・・背後にイヌが隠れていました。
なお、瓜類のメロンが、関係しているから、やはり、中国の洪水神:共工の後裔が、面白おかしな話に仕立てたのではないか。
この震源地は、共工、瓜、イヌなどの三苗が「山危山」(敦煌の山)へ追放されて、その三苗が広めたのではないか。
なお、三苗は、三毛国と同じで、景行紀に神木の御木国(みけこく)として筑後に出て来ます。
羊が一匹、
羊が二匹
・・・おやすみなさい。