脳辺雑記帖 (Nohhen-zahts)

脳病と心筋梗塞を患っての独り暮し、Rondo-Nth の生活・世相雑記。気まぐれ更新ですが、気長にお付合い下さい。

組織団体権力の与奪。

2018年08月19日 19時41分53秒 | 社会時評
全剣連の居合道で、高段位認定の際に金銭の授受が50年もの間慣行化
しているという報道があった。武道の段位が半ばカネで買われている訳
である。私大医学部への官僚子弟ワイロ入学に次いで、袖の下問題は、
武道界に飛び火である。

私も刀好きなので、全剣連居合を少しやっていたことがある。ある時稽
古の休憩時間の会話に、古流の某居合流派では高額謝礼を支払わないと
段位をくれないという噂を聞いた。皆口々にカネで武道を売るのはけし
からんとか憤慨していたのだが、5段・6段の高段位の方々は、むしろ
逆にそれをやや擁護する向きがあった。

いわく、古流の流派は家元制度なので、居合等の武術を代々継承する務
めがあり、弟子からの謝礼等で生計を立てているので、昇段の認定等に
付け届けや金品が絡むことは昔からよくあるとか。茶道や華道、書道等
あるいは日本舞踊でも日展とかの絵画の世界でも、昇進や入賞には一部
金品が絡む慣行は常にあり、半ば仕方ないかのような意見だった。

居合は古武道の剣術各派にもあるが、全剣連は剣道・杖道・居合を部会
にもち、一般向けのスポーツ武道の振興を目的とする団体である。古流
武術の居合流派とは異なり、全剣連は金儲けが目的ではなく、武道振興
や会員育成を目指し、公共の役割を担う公益法人であろう。そこでは、
手前勝手な「家元制度」をやってはいけない訳である。それでは、アマ
チュア・ボクシング連盟のY会長の独裁と同じ処に行き着きかねない。

ふと思い出したが、先般処刑されたオウム教のA教祖は、確か講道館柔
道の2段だか有段者だった。オウム事件が世を騒がせていた頃、講道館
は彼から柔道の段位をはく奪したことがある。私はこの講道館の処置は
恣意的で公正・公平さに欠けておかしいのでは、と当時疑問を抱いた。

例えば、酒飲み運転で人をひき殺した人が、柔道や剣道の有段者だった
ら当局は同じことをするのだろうか。犯罪や刑罰と、何らかの保有資格
や段位とは次元が別だろうと思う。人を殺して有罪になっても、英検1
級や簿記検定1級なら、資格をはく奪はされないのだろうが、武道やス
ポーツの地位(代表者・指導者・審判等)や資格は、時に別扱いされる。

また例えば、卒業した高校・大学・大学院等も、事後の重大犯罪者から
は卒業資格をはく奪すべきだろうか。それをするなら社会的制裁ではな
く人権侵害であろうし、その正当な権限が、学校という当局にあるとも
思えない。大学は名誉学位を個人に贈ることもあるが、博士号を持った
者が罪を犯したので、学位をはく奪したというケースってあるのだろう
か。(大学の権威や信用の問題に係わる場合とかでは、稀にはあり得る
のかもしれない。)

武道の段位であれ、大学の入学・卒業資格であれ、公正な試験や審査で
皆が競い合っているなかで、特定の者に対してだけ、カネで便宜を図る
不公正は勿論あってはならない。(そんなことをする大学なら、卒業証
書返すから支払った学費を返せ、という卒業生が現れてもいいのだが。)

殺人等の重大犯罪の加害者であっても、彼の能力故に認定された資格や
段位等が、事後にはく奪や取り消しにされることは、差別や人権侵害の
一種であり、一般的には公平公正ではないと、私は思う。過去を書き換
える正当な権限は、本人以外には誰にもないとも思うから。

勿論、物事には例外ということはあり得る。事後に資格のはく奪や取り
消しが許されるのは、その資格や段位を彼が持ち続けることが、社会に
とって明白に有害である等特殊なケースだけだろう。A教祖への講道館
の処置は、Aという犯罪者への嫌悪や不快感、伝統ある柔道団体の体面
や世間体の取繕い、世間の感情の風向きに迎合し配慮しただけに思える。

スポーツや武道、あるいはアカデミズム(更に近年では、芸能人)におけ
る地位や資格(段位称号等)には、一般人よりも高い倫理観や道義が要求
される傾向が強まっているのかもしれない。だから事後の不祥事には、
地位や資格のはく奪等も行われ得るとしても、では重大犯罪罪ではなく、
不倫やいじめ、セクハラ発言の場合では、どういう処遇が適切なのか?

(よその奥さんと浮気したら、剣道5段が剣道初段に下げられましたは
ないだろうし、女子高生に無理やりキスした有名芸能人が、自動車の
運転免許をはく奪されました、とかない訳だから。)

何をしたら、どこまでの処分が及ぶのが適切なのか、当局となるべき組
織・団体は個人に対して、どこまでの権限を正当に有するのだろうか。
だいたい卒業した学校とか、資格や段位を取得した認定組織・団体とい
う「当局」の、当局性というのも何だろうか?










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