坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

創作木版画の奥深い魅力

2012年06月05日 | 展覧会
現在、府中市美術館で開催されている国内作家の創作木版画展は、伝統的にも日本人の感性の豊かさ、温もり、ユーモアの表現が展開されていて、企画的にも手作りの面白さがあります。
自分で描き、自分で彫り、自分で摺る創作木版画のもつ5つのパワーを紹介。第1章は、木版画の特質である単純化された形態の強さと深さを、山口進(敬称略、以下同)前田政雄らで紹介。明快な色彩のリズムがアクセントをつくっていました。
また、ゆかいな「版」の世界では笑いを巧みに表現に取り入れた手法により、前川千帆、亀井藤兵衛、浅野竹二らが展開。その他に、木のぬくもりと優しさの表現、繊細な感覚と幻想の世界を映し出す作品など木版画ならではの魅力を感じさせました。

◆イメージの叫び パワー・オブ・創作木版画/開催中~7月1日
 府中市美術館(京王線東府中駅から徒歩17分)

リヒテンシュタイン バロックの宝庫

2012年06月04日 | 展覧会
国立新美術館開館5周年記念の秋の企画は、バロックの宴で始まります。
18世紀、華麗なバロック様式で建てられたウィーンのリヒテンシュタインの宮殿から、伯爵家が所蔵する美術作品と家具調度が、一堂に展示されます。
ザ・美術史という感じで、ルネサンスから新古典主義まで名画のエッセンスが楽しめます。
掲載作品は、ペーテル・パウル・ルーベンス「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」1616年。ラファエッロ、クラナッハ、レンブラント、ヴァン・ダイク他油彩画の頂点とも言える躍動を伝えます。
中でも必見は、繊細華麗な筆触で宮廷画家として君臨した17世紀フランドルの宮廷画家ルーベンスの大作の数々が来日にすることです。
約3×4メートルの超大作「デキウス・ムス」の展覧も話題の一つです。

◆リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝/10月3日~12月23日
 国立新美術館(六本木)他

美術館で旅行!-東海道からパリまでー

2012年06月02日 | 展覧会
6月に入り、梅雨も間近となりましたが、夏休みの計画を立てていらっしゃる方も多いでしょう。美術館でも家族で楽しめる夏休み企画の案内が入ってきました。
近代日本画のコレクションで知られる山種美術館ですが、浮世絵から洋画を含めて、旅にまつわる作品を年代を超えて展覧。作品を見ながら旅をしようという企画です。
江戸時代の「東海道中膝栗毛」でも分かるように旅が人気となり、歌川広重の「東海道五拾三次」の浮世絵シリーズが生まれました。
旅は、創作の源となり新たな視覚を生み出しました。
掲載作品は、佐伯祐三「レストラン(オ・レヴェイユ・マタン)」です。
浮世絵シリーズをはじめとして、横山大観の中国、速水御舟のエジプト、佐伯祐三のパリ、平山郁夫のシルクロードというように、少し異なる視点で楽しめる展覧会となりそうです。

◆夏休み企画 美術館で旅行!-東海道からパリまで/7月28日~9月23日
 山種美術館(渋谷区広尾)

小泉悟 野生への問い

2012年06月01日 | 展覧会
小泉悟さん(1983年~)の人物像は、どこかはかなげで清らかさがあります。沖縄県立大学大学院の彫刻専修を修了し、楠を素材に動物の表皮をかぶった人物像として制作を続けています。
馬の首から人間の上半身が伸びるギリシャ神話のケンタウロスの動的で獰猛な激しさとはま逆な静かにたたずんでいる感じが特徴的です。
今、今秋に開催される「メトロポリタン美術館展」の原稿を書いているのですが、この展覧会のテーマが古代から自然や動植物を人間はどのようにとらえてきたかというものです。
小泉さんもまた、高度文明社会に生きている私たちの失いかけている自然、野生を人物像の中に見出そうとしています。
私たちは今映像中心のバーチャルな世界に生きようとしていて、リアリティ、人間存在の意識が希薄のようにも見えます。
作品はそのような問いを投げかけてくれます。
半身像の新しいシリーズの作品を加えて、約7点の新作木彫刻の発表です。

◆小泉悟「Opposite」/7月6日~28日/Showcase MEGUMI OGITA GALLERY(銀座5丁目エルメス通りの同ギャラリーのもう一つの 隠れた?空間です)