自由広場

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十二人の怒れる男

2010-03-31 00:56:47 | たまには映画。
密室劇の金字塔をようやく観賞することができました。テレビドラマにて生放送された劇を、好評につき少々味付けして映画化されたもので、公開はもう50年以上前です。

洋画の邦題は大抵あかぬけないもので、最近ではほとんど原題のまま輸入されることが多いですが、この映画の場合は例外です。「12 angry men=十二人の怒れる男」と訳したのは、翻訳者の力量に感服せずにはいられません。原題の意味を崩さず、なおかつ耳に残りやすく映画の雰囲気自体も漂わせている。映画に対する思い入れがうかがえます。




善良な国民からランダムに選ばれた陪審員12人。彼らは父親殺しの罪に問われる少年に裁決を下す権利を得て裁判所に集まった。容疑者本人や目撃者たちから証言を得、様々な議論を見届けた後、彼らは陪審員室内で評決をついに下す。満場一致で「guilty」ならば、少年は即座に「the chair」、つまり電気椅子へと直行することになる。彼らの意見はほぼ合致していた。極刑は免れない。誰もがそう信じ、「guilty」の賛同に手を挙げる。ところが、ただ一人、「not guilty」を訴えるものがいた。11対1。スタンドアローンの逆境的立場にありながら、彼は奮戦し、様々な物証に対して議論を投げかけ、反駁する有罪派を論破していく。一人、そしてまたひとりと、当初少年の有罪を信じて止まなかった陪審員は意見を翻し、無罪派へと移っていく。果たして満場の「not guilty」を獲得し、少年は罪を問われない自由の身となれるのか。




この映画、僕にとって「映画の好きな要素」がたくさん詰まっています。

まず一つ目は、冒頭にも書いた「密室劇」であること。小さい頃一時演劇に夢中になった経験があったためか、僕はどうしてもこの系統の映画に弱いです。アクションやゴージャスさといったものはなく、低予算で役者陣の力だけで観るものを虜にする、そんなエンターテイメントが大好きです。
僕は「約30の嘘」という舞台が好きでした(映画化もされていますが、こちらはあまりオススメできません。役者一辺倒過ぎる)。寝台車の一室で繰り広げられるブラフ満載の密室劇で、子供ながら食い入るようにして観たのを覚えています。他に挙げるならば「サマータイムマシンブルース」、これも密室劇に近いですね。日本映画ばかりになりますが「キサラギ」、これも役者の力とシナリオの素晴らしさが光っています。こういった映画を好みとする方なら、まず間違いなく「十二人の怒れる男」にも惚れるはずです。



さらに好きな要素として、白黒映画であることは自分にとって大きいです。いいですよね、白黒映画。アナログであるがゆえ、視覚的な刺激が難しい状況下で培われる多くの手法。ライトの当て方一つをとっても目を見張るものがあります。シーンごとの役者さんたちの配置にもこだわりが見られます。不朽の名作とされる「市民ケーン」も表現技法に定評がありますが、僕としてはあれは長すぎなのです。気軽に白黒映画で唸りたければ、90分程度のこの映画はかなり優れていますね。


役者陣個々の演技も鳥肌物です。題名の通り、皆さん終始怒っています。
僕は未熟者なので、ほとんどの役者さんを知りませんでしたが、観終わる頃には彼ら全員の顔や声を脳裏に焼き付けていました。それほどまでに個性的で印象が強いのです。彼らに名前は与えられておらず、陪審員「1番」から「12番」までで設定されています。熱血肌で模範的な1番、息子とのいさかいで心傷の癒えない3番、野球のことばかり気になって判決がどう転がろうと構わない7番、やり手のサラリーマン風ながらも寒いギャグの絶えない優柔不断な12番、他のキャストもそれぞれの持ち味が出ていて全く見飽きません。


それにしても彼ら怒れる十二人、早口すぎて英語字幕だと何を言っているのか付いていけません。日本語字幕で観賞後、英語字幕で観たのですが、ほとんど字幕が追いつけず、役者がまくし立てるようにして怒涛のセリフの嵐が続きます。唯一セリフをしっかり聞き取ることができたのは陪審員2番だけ。古い映画なので聞き慣れない単語が多いせいもあるかもしれません。「I bet」というセリフが多発しているのも逆の意味で新鮮でした。いいセリフが多いのですが、諳んじるまでに覚えるのは時間がかかりそうです。



「密室劇」のパイオニアであり、最高峰。昔の映画だからってなめちゃいけません。「定期的に観返したい映画」のリストに余裕で入りました。