ロック探偵のMY GENERATION

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「上を向いて歩こう」60周年

2021-12-29 15:26:27 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

このブログでは、今年のいろんな「〇周年」について書いてきましたが……

もうひとつ、大きなアニバーサリーがありました。

それは、「上を向いて歩こう」60周年です。
1961年にこの曲が発表されてから、もう60年が経ちました。これについて記事を書こうとずっと思いつつ、なかなかそのタイミングをつかめずにいたんですが……もう2021年も残すところあと数日というところまできたので、いよいよ書こうと思います。

歌っているのは、いうまでもなく坂本九。

この人が一時ドリフターズにいたという話は以前書きました。
ドリフターズがお笑いメインになる前の話です。

そのドリフターズにいた関係から、彼は曲直瀬信子と出会います。
この方は、日劇ウェスタンカーニバル開催に関わり「マダム・ロカビリー」と呼ばれた渡辺美佐の妹。
この出会いから、「上を向いて歩こう」が生まれるのです。


時代は、テレビが普及しつつあった頃。
映画ではなく、テレビのスターというものが出てきます。そこで求められる明るさや親しみやすさといった資質を持っていた坂本九は、「勝手口のスター」となっていくのです。

その坂本九の代表曲が、「上を向いて歩こう」。

ちょっと前にこの歌を取り上げたテレビ番組があって、そこでちょっとびっくりするような話がありました。
というのは……われわれの知っている「上を向いて歩こう」は歌いだしの一拍目が休符になっていますが、当初中村八大が書いた譜面では、そうではなかったというのです。
つまり、「ッうえをむーいて」ではなく、「うーえをむーいて」だったと……
これはかなり衝撃的な事実だと思います。
実際に坂本九が歌う段になって、すりあわせしていくなかで一拍目が休符になったそうです。それによって、いわゆる裏拍を強調した、どこかはずむようなリズムが生まれたということでしょうか。まさに、高度成長にむかっていく時代をとらえていたといえるのかもしれません。


もう一つ、時代ということでいえば……この歌の背景として忘れてならないのは、60年安保です。

永六輔によるこの詞には、60年安保の挫折感が投影されているといわれます。
上を向いて歩こう、涙がこぼれないように……
以前ちょっと触れましたが、かぐや姫のヒット曲「神田川」は、70年安保の挫折を背景にしているといわれます。戦後日本歌謡曲史における屈指のヒット曲二曲が安保闘争の敗北を背景としている、そこにあるのは“敗北の美学”である――といったようなことを書きました。
そういう意味でも、「上を向いて歩こう」は時代を代表する曲といえるでしょう。

この曲はアメリカでもヒットし全米チャートで一位になったことでも知られます。まさに、日本の歌謡曲を代表する一曲となったのです。
そんなわけで、国内外で多くのアーティストにカバーされ、忌野清志郎などもレパートリーに加えていました。
それら多くのカバーバージョンのなかから、いくつかを紹介しましょう。
まずは、Charさんによるカバー。

上を向いて歩こう - Char 【 "STAYING ZICCA"先行予約盤限定DVDより 】


今から10年前には、なんと、ベン・E・キングが日本語でカバー。
2011年、東日本大震災を受けて、日本への支援の意を込めて発表されました。

ベン・E.キング - 上を向いて歩こう

この2011年というのがつまりは「上を向いて歩こう」50周年ということになるわけですが、実はベン・E・キングの代表曲「スタンド・バイ・ミー」も同じ1961年発表で50周年でした。ということは、今年は「スタンド・バイ・ミー」60周年でもあるという……

最後に、最新のカバーとして、来年テレビドラマ『となりのチカラ』に使用される上原ひろみさんのピアノバージョン。

【主題曲解禁!】テレビ朝日 木曜ドラマ『となりのチカラ』1月20日スタート毎週木曜よる9時放送 主題曲(「上を向いて歩こう」上原ひろみ)ver.PR

「上を向いて歩こう」は、60年にわたって、打ちひしがれた人々に寄り添ってきました。
まさに、戦後日本が誇る名曲といえるでしょう。