眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

2007年に観た映画  (劇場での日本映画編)

2008-01-13 12:42:23 | 映画1年分の「ひとこと感想」2006~
2007年に映画館で観た日本映画は、たったの15本だった。と言っても、数年前までは年間を通じて観る映画全部でそのくらいの本数だったことを思うと、「たったの」なんて言ったら、それこそ映画の神サマのバチが当たるかもしれない。

それでも・・・私は昔から、自分はどんな映画でも、それなりに楽しんで最後まで観る方だと思っていたので、最近の日本映画には「苦手」な作品が珍しくないという現実が、なんだか悲しくなる時がある。どんな作品でも、一つくらいは印象に残るような部分があって、それを発見すると、もうそれだけで嬉しくて、気分良く映画館を出ることができたのに・・・などと思う。

これは作品側の要因なのか、それとも私自身の変化なのか。要するに自分が歳を取って、集中力が落ちてきただけなのかな・・・などと思ったりもするけれど、なんとなくそれだけでは納得がいかない気もする。

私は、最近の日本の映画や歌や小説などでよく見かける、「守ってあげたい」、「救ってあげたい」、或いは「救われたい」、「癒されたい」、果ては「(誰かを)守るために死にに行く」とまで言い出しそうな雰囲気が、本当に苦手なのだ。(「あ~ら、貴女、いつも自分がそうワメイテルじゃないの。」とでも言われそうだけれど、それでも苦手なものは苦手なので、仕方がない(と開き直る)。)

お陰で、『海猿』シリーズや『日本沈没』のような大作も、もっとササヤカなラブ・ストーリーも、予告編を見ただけで気力が萎えてしまったりする。(こうして書きながら自分でもアホみたいや~と思うけど。)

「人間、映画1本で救われる・・・なんて状況はかなり危険で、もしも本当の意味でのそういう救いに出会うことがあったとしても、それこそ稀有なことなんじゃないかな・・・。」とか、「人を癒すほどの作品を作るには、大変な手間ヒマかけて、それでもなかなかウマクいかないくらいだと思うけど・・・。」などなど。要するに、「簡単には手に入るはずのないものを、あまりに手軽に扱ってる」ように、私には見えてしまうのだろう。(やっぱり、歳のせいのような気がしてきた。)

言っても詮無い(これも殆ど死語だ)グチはやめて、以下感想を書くことにする。

実は、ごちゃごちゃ文句を言ってる割には、去年観た日本映画の中にも「観て良かった~」と思った作品は何本もあった。特に、日本製アニメの技術的なレベルの高さには、驚愕したと言ってもいいほど。ただ、「問題は内容・・・」という気持ちがどうしても残ることが多く、そういった話を若い友人といろいろできたのも、この1年の収穫だったと思う。


【2007年映画館で観た日本映画】

『時をかける少女』  アニメとしても物語としても良くできていて、寧ろ「トンガッタものを感じさせない」良さを感じた。ただ、どういう観客を想定して作られたのか、私には分からない。作品全体に、どこか回顧趣味というか「作り物(正にバーチャル?)」の雰囲気があり、登場人物たちも、私には現代の高校生とはとても思えない。私は前作(実写)の出た時代を知っているので、それとの対比も面白かったけれど、若い人たちがこのアニメを単独で見たらどう思うのだろう・・・などと考えた。(本当のことを言うと、私は心のドコカで、この作品の持つ「オジサンオバサン」?的センスが残念だと思っているのかも。)

『魂萌え!』  掲示板で話題になっていて、幸い原作を読んでなかったので観に行ってみた。映画としては面白いし、こういう作品が好きな人が沢山いるだろうなとも思った。ただ、亡くなった夫を挟んでの妻と愛人との確執と、妻自身の自己実現とでも言うべき内容なので、予想していた通り、私にとってははっきり苦手な部類に入る作品。こういうリアル?さ、生々しさは、私自身からは本当に遠い所にあるらしい。(ただ、私の年齢だとここまで遠いヒトは少数派なのかな・・・などとも思った。)

『それでもボクはやってない』  なぜか伊丹十三監督の映画を連想した。この映画の監督サンは日本の裁判制度に呆れ、本気で腹を立てている(らしい)のに、それが剥きだしにならないように、ユーモアに包まれて、丁寧すぎるほどの説明も加えられて、しかも(教育映画ではなく)あくまで娯楽映画として面白い作品になっている。2回観る人はいないかもしれないけど、何年に1回でもいいから、こういう作品を作ってください。

『大奥』  前回のオフシアター・ベストテン選考会の際、初めて会った若い映画ファンの方たち(女性)が勧めて下さって、ふと興味が湧いて観にいった作品。観て一番印象に残ったのは、「絵島にとっての『仕事』の持つ意味を(その人なりに)理解してくれた」生島という、いかにも現代風の「新しい」生島像だった。生島が(親方まで道連れにして?)それでも最後まで「身に覚えがない」と言い続けたのは、しがない役者稼業の自分とは違って「私には自分の命より大事なものがあるのです。」と絵島が言い切ったからのように、私には見えたのだと思う。その言葉が、彼女を生島にとって特別な存在にし、その「(絵島自身より)大事なもの」に、命を懸けてくれたのだ・・・とでもいうように。絵島の言葉を聞いた瞬間の生島の表情には、私にそう思い込ませるだけの力があった。全く見当はずれの思い込みかもしれないけれど、こういう思い込みはちょっとした宝物なので大切にしよう・・・と。(西島サンがいい俳優さんだということは分かっていたけれど、ああいう顔を観たのは初めてだったかも。ついでに言うなら、美しい声の持ち主だということも初めて実感。)

『叫』  観た直後のメモに、「俳優さんの良さもあって、ホラーの苦手な私でも、ちゃんと観られるようにはなっている。でも、観た後の『寂しさ』がとても強く感じられて・・・たとえそれがテーマなのだとしても、こういう寂しさは私は苦手。」

『バッテリー』  野球好きの友人に強く勧められて観に行ったら、言われた通り、とても「気持ちがいい」映画だった。(主人公の男の子の「健康な孤独」が丁寧に描かれていて、友人が「たまにはこーゆーのも観たらァ?」と言った訳がワカル気がした。)それに、男の子たちはみんな野球の現役とかで、とっても上手。素人の私の眼には眩しいくらい。

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』  「究極のマザコン・ストーリー」とでもいうべき物語。でも、母親だけが嬉しそうとか、息子は満足そうだけど母親は心配そうっていうんじゃなくて、「2人とも幸せ」そうな風景が良かった。「時々」のオトンも、とっても魅力的!

『ピアノの森』と『神童』  2作をハシゴして観た。どちらも「ピアノの天才」の話だけれど、ほとんどファンタジーとでも言うべきコウトウムケイなくらいの才能!を扱うのなら、私はなぜかアニメーションの方が、「音楽」のもたらす幸福感を強く感じさせるようで好きなのだと判った。ただ、個人的には「コンペのためのピアノ演奏(練習も本番も)」が、私は今となると苦手なのだと思う。私(のピアノ)を認めてくれ!!と怒鳴っているようなあの響きは、私には「音楽」とは異質のものに聞こえるのかも。ピアノという楽器の音が私はとても好きだけれど、「ピアノは打楽器」ということを思い出させられるというか、「音」が「音楽」になるためには、もっと違う何かが必要なのかもしれない・・・と感じる瞬間が、どちらの映画にも多かった気がする。

『キサラギ』  評判通り面白かった。(夜、家族4人で観に行って、帰りは車中でツッコミ満載、ワイワイ盛り上がった作品。)ただ、一番最後の付け足しはちょっと余分という気も。

『歌謡曲だよ、人生は』  なつメロ12曲が12本のオムニバスに。映画館も古くからの場所なので、終わって出てくる時には、なんだかのんびり、鄙びた温泉にでも行ってきた気分に。

『ワルボロ』  良かった!のひと言。私は暴力シーンはホラーの次に苦手なヒトだけど、「ただただ喧嘩に明け暮れる、元ガリ勉中三男子」とその仲間たちの物語は、不思議なくらい気持ちのいい映画になっていた。「自分で何かを確認しなければ、コドモは(オトナから言われるままには)次のステップには進めないように出来ている」のが、ウソっぽくなく描かれているからだろうか。(「それにしても、西原サンの悪友だというゲッツ板谷サンって、こんなに(松田翔平クン)カッコ良かったのだろーか?」などと、メモには書いてあった。)

『サウスバウンド』  原作の持つ尖った屈折のある感じが、ものの見事に無くなっていて、以前に観た『間宮兄弟』より、もっと「気の抜けたサイダー」度が高いように感じる。八重山の文化風土や人々の感じも、自然に撮れてないのが残念。ただ、主人公も含めて、子どもたちは好演。それに何より、父親役の豊川悦司サンが凄い! もうこの人のこういう姿見ただけで、観に行った甲斐があったというもの。

『クローズド・ノート』  俳優さんたちが好演していて魅力的。作品自体も、「気持ちのいい」映画なのだろうと思う。ただ、私自身は「健康な人たちは、要するにこういう世界に住んでいるんだな・・・」という、何か、自分の間との境界線のようなモノを感じた作品だった。

『ALWAYS 続・三丁目の夕日』  前作を上回りたい!という作り手の意気込みを感じた。冒頭のゴジラとか羽田から飛び立つ飛行機とか、日本のVFX(っていうのかな?)って、こんなことも出来るんだ・・・って、なんだか嬉しかったり。その一方で、久しぶりに松竹の「寅さん」を観たような気分にもなったのだから、ずいぶんゼイタクな話だと思う。実は、去年前作を観た時、10代の友人は「要するに、昭和っていうのはこういう時代だったんだな・・・。明日は今よりは絶対良くなるってことを、誰もが疑わなかったというか。でもこれから先は、こういう時代はもう二度と無い。」と、真顔で断言した。「僕らは、限られたパイを奪い合う時代を生きている。」と、昭和の旧世代である私に説明するかのように。そして、その後「そういう『昭和』のいい部分だけ集めて作ってあったから、若い世代にも受けたんだ。」と付け加えた。私は前作は私のような「旧世代」に「受けた」のだと思っていた。でも、彼の言うことがもし本当なら、もっと違う題材(ほとんど何でもOKかも)を、こういう手法で作品化することが出来るということなのかもしれない・・・などと、今回2作目のレベルの高さを見て、ふと考えた。

『しゃべれどもしゃべれども』  2007年の最後に観たのがこの映画。古い小さな映画館の雰囲気にぴったりで、幸せな「映画の年越し」になった。実は以前に原作の小説を読んで、それがとても良かったので、逆に映画のほうは観に行くのを迷っていたのだけれど、勧められて観に行って本当に良かったと思った。とにかく、小説を読んでいる間、頭の中を出入りしていた登場人物たちが、そのままスクリーンで動いているのに「感動!」。(イメージを大分変えているイクコさんでさえ、違和感が無かった。)背景にもとても気を使っていて、これ見よがしじゃない日本趣味の良さを、久々に感じた。原作は、かなり内容がぎっしり詰め込まれている感じなので、それを思い切って捨てるべきは捨てて、整理しているこの映画は、案外「原作を以前に読んだことがある」という人の方が、楽しめるのかもしれない。原作のイメージを裏切る感じが全く無くて、しかも、私には「どうにもならなさ」が強く印象に残った原作よりも、もっと心地よい「ほのぼのとした暖かさ」に満ちていると思った。




これで、私の2007年がやっと終わると思うと、なんだかぼんやりしてしまう。この1週間は、それこそ映画の世界を旅行している気分だった。書くこと自体が楽しくて、2006年の感想より長いものが増えてしまって、自分用の備忘録としてはいいのだけれど、誰かに読んでもらえるようなものでは、さらになくなってきた気もする。


(こんなに長ったらしいモノに、ここまで眼を通して下さった方に、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。)







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4 コメント

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おもしろかったよー (お茶屋)
2008-01-13 14:53:35
全部、読みました。
どれも、すごく面白かったです。
『海でのはなし。』でちょっと腹の立ったムーマさんを見てみたかったです(笑)。『海での』の博士もよかったけど、『大奥』の生島もカッコよかったよねー。ちょんまげがあそこまで似合うとは(笑)。『大奥』では発声の仕方がいつもと違ってたので声がよく聞こえたのかも。
『善き人のためのソナタ』の主人公、本当に繊細な瞳でしたね。すごくきれいな人だな~と思いながら見ていました。
私は『秒速5センチメートル』を見逃したのが残念なんですが、ムーマさんは『近松物語』が残念でしたねー。わたし、溝口特集を見た中で一番好きな作品です。
『サウスバウンド』は不評が多い中、豊川悦司がほめられていたのが嬉しかったです。あの時代錯誤な父ちゃんは、ツボだったんですよ(照)。
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あまりの素早さにア然・・・ (ムーマ)
2008-01-13 18:01:11
お茶屋さん、ようこそ~(わーい)。

こんなに早く、それもぜ~んぶ!読んで下さったなんて、もう感謝感激デス!!

というか、さすがに今回は(あまりに長丁場なもんで)全部読んで下さる方はいないんじゃないか・・・と、内心細く思ってました。

「どれも、すごく面白かったです。」なんて言っていただけるなんて、もう夢のよう・・・(本当に)。

今年もまた、お茶屋さんトコの「かるかん」、楽しみにしています。オモシロイ映画あったら、教えてくださいね~。

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長くても (お茶屋)
2008-01-13 19:22:10
それは、もうグイグイと。
面白いから読めちゃった(^_^)v。
ムーマさん独自の視点が新鮮だし、ずいぶんと「深いなぁ」を思いながら拝読しました。
ありがとうございました。
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どうもありがとう!! (ムーマ)
2008-01-13 21:33:03
褒められるとドギマギオタオタ、日本語忘れるムーマです。
あ~今日は良く眠れそう。今夜見る夢を初夢にしよう(笑)。

読んでくださって、書き込んで下さって、本当にありがとう!!! 
味をしめて、また書きます。
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