むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

「国民党のほうが両岸関係を改善できる」は虚構

2005-12-21 19:29:45 | 台湾政治
 台湾政治についてよくいわれていることに「民進党は中国と接触も交渉もできない。民進党が政権にいる限りは対中関係は良くならない。国民党のほうが中国とも交流ができて、国民党が政権をとれば対中関係は良くなる」というものがある。これは単なる神話であり虚構である。
 理由は二つ。
ひとつは、中国共産党への敵対政策は国民党の思想であり、国民党はいまだに冷戦型反共イデオロギーを引きずっていて、共産党に対しては複雑な感情とルサンチマンを抱いていること。
もうひとつは、台湾外交部には青=国民党支持の外省人が多いが、外交部の活動に対して中国は相手が国民党支持者であっても一様に圧迫を加えていること。

第一の理由についてだが、国民党政権時代には、一貫して中国共産党には敵対政策をとってきた。それは李登輝という、中国のいう「中華民族と歴史への裏切り者」の台湾人が主席になってからではなくて、蒋介石・蒋経国時代もそうだった。
これに対しては「国民党は連戦が今年5月に訪中してから、共産党との国共合作を進めているではないか。共産党のほうも、台湾独立勢力の台頭に危機感を覚えて、台湾独立という第一の敵との対抗上、反共でも同じ中国起源の国民党という第二の敵とも結んでいるではないか」という反論が出てくるだろう。
ところが、それもあまりにも表面的な事象解釈である。
国民党は、いまだに冷戦型反共イデオロギーを引きずっていて、個人レベルでの中国共産党への敵意とルサンチマンは根深い。
それに台湾の国家安全法、人民団体組織法、政党に関連する法律などでは、いまだに「共産主義を主張してはならない」という条文があるが、これはそもそも国民党政権時代に国民党側がそう主張していた。民進党は一貫してこの条文に反対してきたし、政権獲得後の民進党はこうした条文の削除を進めようとした。しかし立法院で多数を占める国民党と親民党は「共産主義の主張は抑圧すべきである」と強固に主張して譲らず、したがって、人間の基本的な自由権を抑圧する「反共条項」はいまだに残されている(もっとも民進党政権になってからは、執行面ではその条文は活用されていないが)。
つまり、国民党が「国共合作を進めている」というのは、嘘なのである。実際には、国民党はいまだに共産主義を蛇蝎視し、反共主義の立場から思想の自由を認めていない。共産党と交流を進めているのは、いまや大資本家集団になった共産党との「親分同士の手打ち」「利権の山分け」を狙ったもので、国民党が心底から共産党や共産主義を受け入れたり、認めているわけではない。
逆に、民進党のほうが本来、中国共産党や共産主義には、敵意はなかった。もともと民進党は国民党独裁政権に対する抵抗運動から起こったこともあって、国民党こそが第一の敵であって、しかも民進党が長年もってきた「台湾独立志向」からいって、中国は単なる外国のひとつに過ぎないから、中国という外国で何党やどんなイデオロギーが支配していようが、それは「外国のこと」であり、反感どころか関心すらなかったのある。
それに、初期の民進党は、社会主義や環境主義の色彩が濃厚であった。もちろん、社会主義といっても西欧社会民主主義ではあり、共産主義とは一線を画していた。しかし、社会民主主義と共産主義は(すべてではないが)マルクス哲学に淵源があるわけで、あくまでも哲学レベルでは(政治的には別として)社会民主主義者は共産主義の哲学そのものには嫌悪感を持つわけがなかった。しかも、国民党に抵抗していた民進党は、国民党が強制してきた反共教育にも疑問を持っていたわけだから、共産党や共産主義そのものには、そういう点でも嫌悪感はなかったのである。
ただし、民進党は一方では、国民党が体現していた中国文化そのものへの疑念は従来から持っていた。とくに、中国文化には覇権的で時代錯誤的で反動的な側面が濃厚に存在していることは、国民党を見れば明らかだったので、中国共産党に対しても「中国文化を基盤にしていること」から、一定の不信感と疑問は持っていたことは確かである。
もっとも、民進党は90年代初頭までは中国共産党への警戒や敵対意識はほとんどなく、むしろ中国との対話や交流、中国を知ろうという運動を進めていたくらいである。
ところが、90年代半ばを境に、民進党は中国および中国共産党への反感に傾斜していく。それは96年の総統直接選挙において中国がミサイル実験と称して、露骨に威嚇を行ったことが大きなきっかけとなっている。これを民進党は中国文化の反動的な体質に由来すると考え、以降急速に中国そのものに対する反感に傾いたのである。
そして政権交代以降は、中国は露骨に民進党を敵視する。敵視されて、それでも相手を愛するものなど普通はいない。民進党はますます中国への不信を深めていった。
ただ、ここで注意すべきなのは、民進党の中国への不信と反感は、決して反共イデオロギーにもとづいたものではなく、「中国文化の反動性」への反感であるということである。
民進党は反共右翼ではない。その証拠に、ベトナムとは友好を求めているし、90年代には北朝鮮との交流にも積極的だった。さらに、急進左翼であるデンマーク社会主義人民党、ニカラグア・サンディニスタ解放戦線とも交流をしている。民進党のホームページ(中国語)のリンク(友好連結)でも、欧州の政党で挙げられているのは主として左翼政党である。韓国でも中道左派ウリ党とは友好関係にあり、左派の民主労働党にもシンパシーを持っている。そもそも独裁への抗議運動から出発しているのだから、本来弱者の立場に立つ社会主義、共産主義の基本哲学には、親近感を持っているのである。政権をとってからは、とくに経済政策では右傾化しているとはいえ。
それに対して、国民党の中国共産党というか共産党全般、左翼思想全般への嫌悪感、不信感は、ほとんど病的である。人民団体組織法などの「反共条項」の削除に強硬に反対している。「三つ子の魂百まで」ではないが、共産党に権力を奪われたという被害妄想に陥っている国民党には、病的で情緒的な反共感情が根底にあるのである。
国民党にはたしかに反日と大中華思想がある。その点だけ見れば中国共産党と馬があいそうに見える。しかし、根底にはどうしょうもなく情緒的な反共もある。これでは、中国とは上層部だけの手打ちで終わり、ほんとうの意味での信頼関係や交流など築けるわけがない(中国に対して信頼という言葉が通じるかどうかは別問題として)。

第二の理由であるが、中国は台湾の外交活動に圧迫を加えているが、それは国民党支持者が多い外交官に対しても容赦なく行われているという事実がある。
もし、中国が民進党だけは敵視して、国民党には甘く友好の手を差し伸べているという巷の説がほんとうなら、台湾が無邦交国に設けている代表部の活動に対して、中国がすさまじいまでの圧迫や妨害を加えるのは、論理的に矛盾する。
そもそも台湾外交部や在外代表部員は8割以上が青陣営の支持者であり、民進党に批判的でる。ところが、彼らが「中華民国」のために活動を行ったとしても、それは中華人民共和国としては容認できるはずがないから、民進党政権と同様に圧迫を加える。その結果、青陣営支持の在外外交官は、中国政府に対する強烈な反感を抱くことになる。在外代表部で働いている台湾の外交官のほとんどが台湾の内政については青支持・反緑であっても、こと中国(赤)という要素が絡む外交部門では、むしろ緑への反感はなくなり、強烈な反赤、反中国を表明することになる。
 国民党の上層部が「国共合作」を進めていようが、それは支持層の知ったことではない。あくまでも宮廷政治よろしく「上層部だけの利権の山分け、手打ち」というものであって、実際の政策のすり合わせ、不信の解消とは無関係の出来事なのだ。だから、連戦が訪中しても、各地にある台湾代表部の国民党支持の外交官には、中国大使館の圧迫がなくなることはない。
 
 「国共合作」は単なる上層部の山分け、手打ちに過ぎない。国民党は相変わらず反共感情を引きずり、共産党は国民党支持者も一視同仁に「台湾人」として圧迫を続けているのだ。
 いやむしろ下手に「国共合作」「国共融和」を演出して、できもしない幻想を支持者に与えたことで、その幻想と現実との落差から、利権の山分けを享受できない外交官や一般支持者は、国民党への失望、中国への反感、台湾への愛着を持つという効果が芽生えはじめている。
それが「国共合作」なるものの実態である。
日本のマスコミや国民は、「上が決めれば下にも貫徹する」「物事を決めたらそのとおりに動く」という妙な思い込みがあって、「国共合作」を喧伝しているが、国民党の内実を見れば、「合作」どころではない。日本人のものさしで、まったく異なった文化をもつ中国国民党や中国共産党を見ても意味がないのである。



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