むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

台湾でも反米感情表面化

2006-05-14 22:45:47 | 台湾政治
今回、陳水扁総統の外遊で、米国本土トランジットが認められなかったことから、台湾でも米国離れ、もしくは反米感情が表面化するようになった。
台湾独立リベラル派の台湾日報6日付け1面には、独立派「908台湾国運動」が5日AIT前でブッシュの写真に「バカ」と書き込んだ。これだけなら反米というより反ブッシュだけのように見えるが、ついに12日付け同紙2面では11日に民進党台南市支部が中国と米国の国旗を燃やして、両大国の横暴を非難したと報じている。
中国時報9日付け3面では、緑陣営のオピニオンリーダーが反米運動発起を主張、政府関係者にやめるように説得されたとか、10日付け同紙に李登輝が「これを理由に反米になってはいけない」と呼びかけたりした、と報じられた。
従来、親米独立派的な色彩が強かった自由時報も6日付けでも、有名記者の解説記事で「布希,你錯了!」(ブッシュ、あなたは間違っている)として、米国の帝国主義的な横暴を批判する記事を載せた。
民進党の支持層を中心に、草の根では反米感情が広がってきている。

これは、台湾人が米国に裏切られた思いを持っているからである。
米国が望むとおりに民主化して、アジアでは模範的な民主主義を運営しているのに、米国はむしろ台湾に対して冷酷、冷淡になった、という気持ちである。
これについて、日本の親米派や米国政府高官には、「国際情勢を考えない台湾の視野狭窄、わがまま」と考える向きが多いようだ。ゼーリック国務省副長官が議会で「台湾独立は戦争を意味する。米国人の血を流すわけにはいかない」などと発言した背景には、「台湾のわがまま」に問題があるとする認識があるようだ。
しかし、これはおかしい。「わがまま」がいけないというなら、そもそも民主主義を望むべきではない。民主主義というのは、民意が表明され、それが重要な状態になることを言うのであって、民意が米国の言いなりになるはずもないから、台湾が民主主義であることは、つまり台湾の民意の「わがまま」が政策を決定するのは当たり前である。
米国はどうやら民主主義とは米国の言いなりになる状態を望んでいるようだが、それこそが米国のわがまま、横暴、傲慢というべきである。
米国はどうやら自らの傲慢が、世界で嫌われ、親米国家を減らしている現実をまだ理解できていないようだ。

米国は韓国についても、「韓国はわがまま」として、さまざまないじめを行っている。そのため、韓国では若者を中心に反米感情が広がってしまった。同じ失敗は、南米でも繰り返していて、ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビアなど反米色の強い政権が次々に成立し、それは拡散する傾向にある。
反米感情といえば、中東の民意は反米でほぼ固まっている。伝統的に親米的だったレバノンのキリスト教マロン派教徒の間でも、近年は反米に流れつつある。米国は、伝統的な盟友、同盟国を次々に失いつつある。

台湾はそれでも中国の脅威があるため「中国の脅威から守るには米国が頼り」という判断から、健気に親米的姿勢を維持してきた。しかし、米国が台湾の民主化発展・成熟にもかかわらず、台湾を大人として扱おうとせずに、相変わらず80年代の親米独裁政権に対するのと同じように「米国の言うことをおとなしく聞け」という態度をとり続けたことで、草の根では米国に対する鬱憤や不信が高まりつつあった。
それが、今回、米国が陳総統の本土トランジットを認めず、アラスカのように何もないところを指定した。これは、馬英九国民党主席が準国賓待遇を得て、ゼーリック国務省副長官とも面会したり、各地で講演を開くことを許されたこと、あるいは米中首脳会談で、胡錦涛主席をやはり準国賓として遇したことと対照的だった。確かに馬氏は野党党首、胡氏は国交のある中国の元首だとはいえ、これは「民主主義」を旗印にする米国のイメージから連想されるあり方とは反する対応だった。事実、陳政権に好意的な米国連邦議員は、米政府に対して質問状を出して「野党党首を高規格待遇したことは、米国政府が台湾の内政の一方に肩入れするものであり、また、中国の独裁者を遇することも、米国の民主主義理念を踏みにじるもの」といって非難したくらいである。しかし、米国政府は陳総統に申し訳ないというどころか、ゼーリック副長官は「台湾独立は戦争を意味する」といって、陳総統を罵倒した。
(イラク戦争などという無謀かつ無意味な侵略戦争を積極的に起こした米国が、台湾の民主主義を防衛することに血を流したくないという論理は奇妙だが。しかし、もしそうなら、台湾に武器を売りつける正当性も失われたということでもある。米国は錯乱している)

こうして明らかに侮辱するような仕打ちをしたことで、草の根に蓄積されてきた対米不信が一挙に顕在化して広がったのである。
もともと、台湾では、台北を中心とした高学歴エリート志向階層は米国一辺倒ではあったが、草の根の庶民階層はむしろ日本に対する親近感が強く、「米国など何するものぞ」という意識があった。もちろん、その部分でも「中国よりは米国のほうがマシだ」という認識はあったが、ここに来て「米国など屁でもない」という庶民意識がはっきりしてきたということである。米国は愚かである。

民進党が文化宣伝部の声明(http://www.dpp.org.tw/ 2006-05-04 蔡煌瑯:美國不智 文宣部)で指摘しているように、台湾が中米諸国と国交を維持することによって、米国の裏庭に対する中国勢力の浸透を防いでいるのである。そして、台湾が米国のパートナーであったことで、米国は極東においても優位を確保できた。米国がその価値を理解していないで、逆に「守ってやっている」という態度をとり、台湾に対して不当な処遇を続けるなら、台湾は、米国にも反発して、独自の路線を強めていくだろう。
それは台湾自身の発展にとっては良いことである。事実、今回「米国外し」の外遊ルートは、台湾外交展開の可能性を大きく広げた。今後は、中東との関係を強化していくべきだろう。
台湾にとって米国離れはメリットのほうが大きいが、米国にとってはデメリットのほうが大きくなる。民進党関係者も指摘していたが、「台湾が米国を必要とする以上に、米国にとって台湾が必要であり、台湾の価値は大きい」のである。韓国も台湾も米国に協力しなければ、米国の極東の防衛ラインは日本列島まで後退する。米国はもはや超大国ではなくなる。
米国は台湾について「わがまま」とみなすようなことを続ければ、台湾はベネズエラの二の舞になるかもしれない。すでに従来なら考えられなかった「米国国旗を燃やす」デモが登場しているのだから。
米国は、台湾と韓国という民主主義国家の民衆の誇りを尊重せず、これに対して横暴に接しているうちに、米国自身にとって大きな過ちを犯しているのである。



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