民主進歩党は29日、第12期第10次中央執行委員会を開き、正式に謝長廷氏を2008年総統選挙の公認候補として決定した。謝長廷の個人事務所「長工弁公室」はこれを受けて「感恩音楽会」と題する謝恩音楽会を同日午後7時から台北市議会地下1階ホールで開いた。会場は約500人収容で一杯になって外にも何人もいた。ただし、謝系以外の民進党幹部・議員は姿を見せず、予備選挙のしこりが残っていないところを見せ付けた。
音楽会は、台湾語運動で活躍、今は台湾語チャンネルの司会などをやっている呉国禎ともう一人知らない女性が務め、はじめは台湾語歌謡研究家・歌手の孫徳銘氏の音楽教室の仲間による台湾語の古い歌謡曲が歌われた(焼肉粽、安平追想曲など)。それから現代歌謡の部となり、民進党系の集会ではおなじみの盲人歌手・蕭煌奇、
豬頭皮こと朱約信(とその娘・朱讃美)によるステージとなった。約信とは以前よく会っていたときは、オーローちゃんがまだ赤ちゃんやよちよちのころだったが、ずいぶん見ない間に大きくなったな。日本語では「リンダ、リンダ」も歌われた(これは最近同名日本映画がけっこう話題になったこともある)。
約信のステージの途中、午後8時35分ごろに謝長廷が入場、着席してから朱が何曲か歌ったが、それから謝長廷が舞台に登場。特技のオカリナによる「竹田の子守唄」を披露し、挨拶もした。
「少なくとも25万票差で勝つ。しかし選挙の競争は競争として、それは誰かを貶めるものではないから、勝利の後は馬英九も心配する必要はない。なぜなら中国の脅威と対抗するためには、馬英九とだって友達になってもいいから」といって会場を笑わせた。
また、同日付けの中国時報(最近ガセネタが多い)が「黄慶林・中央常務委員が謝長廷の高雄MRT汚職事件の関連が取りざたされていること(といってもそれも中国時報が勝手にでっち上げているだけなんだが)を嫌って、公認決定を暫定的に引き延ばすよう求めている」とやはりガセネタを書いていることを取り上げて「今日も黄氏は会場に来ているが、今朝確認したところ、そんなことはない、と否定した。それほどかように、党内の仲間を信じるべきであって、メディアを信用してはならない」と指摘。これは言外に、中国時報などが最近やたらと高雄MRT汚職事件との関連性を書き立てて、「起訴されるも間近」などという印象操作を行っていることを牽制する意味が込められている。
そもそも今の中国時報はまったく信用できない。日本では90年代までの堅実、中立的なイメージから中国時報を信用している研究者や記者が多いようだが、中国時報は昨年、王健壮という新新聞上がりの深藍系のキチガイ編集長になってから、完全に深藍のガセネタ新聞に転落している。社説はまだまともな部分もあるが、記事そのものは国民党本土派をたたいたり、民進党の内部分裂を仕組むような情報操作のものが多く、まったく信用できない。
その後は台湾語歌手として有名な蔡振南が2曲歌い、最後に謝長廷ら幹部がステージに上がって、会場全員で「伊是[口自]的寶貝(I si7 lan2--e5 po2-poe3)」を斉唱してお開きとなった。終わったあとは出口外で謝長廷と夫人、葉菊蘭が参加者の見送りをした。会が始まる前から葉菊蘭と李応元がずっといて、さらに謝が来てからもずっと横につきっきりになっていたのは印象的だった。
謝系の中核メンバーはほぼ全員揃っていた。ただ謝系でも立法委員の何人かと外交秘書は姿を見なかったが、別の用事があるのだろう。
謝系以外の顔は少なかったが、それでも謝系とは犬猿の仲の新潮流系も、市議員の李建昌、徐佳青、このほど文化建設委員会主任委員になった翁金珠は、予備選挙のときにももともと謝寄りだったこともあって参加していた。
謝長廷は京大留学経験があることを生かして、立法委員・浪人・高雄市長時代にもたびたび日本を訪れ、日本政界・官界・学界にも人脈を築いてきた。民進党に限らず台湾政界をリードする層の中で唯一の知日派といっていい。それだけでなく、単なるごみごみとした田舎町だった高雄市を見違えるような近代都市にした高雄市長としての実績、2020年台北五輪誘致のアイデアなど、行政手腕と議題設定能力でも現在の台湾政界の中では卓越したものを持っている。馬英九は行政手腕、議題設定、対日関係のいずれをとっても謝長廷の足元にも及ばない。
謝長廷には是非とも25万票差といわず100万票差を目指して欲しい。そうすることによって、「台湾は台湾」という現実を動かしがたい事実として世界に向けて示すことができるだけでなく、台湾と日本との関係強化、対中関係の処理も可能となるのである。