むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

ロンドン爆弾テロ(台湾各紙も一面で報道)

2005-07-08 21:54:48 | 世界の政治・社会情勢
 ロンドンで7月7日、アルカーイダ系武装組織「ヨーロッパの聖戦カーイダ秘密組織
(الجماعة السرية لقاعدة الجهاد في أوروبا)」の犯行とみられる連続爆弾テロ事件がおこった。毎日台湾国内のしょうもないニュースばかり一面にもってくる台湾各紙も、これはさすがに大々的に報道し、一般4紙ともに一面トップ。さらに聯合報と中国時報が5面まで、自由時報は3面まで関連記事を展開した。台湾日報は1面だけだった。報道によると、台湾人の犠牲者はいない模様だが、それはともかく不幸にして事件に巻き込まれた方の平安を祈りたい。
 毎回テロ事件が発生するたびに思うのは、各国政府・指導者・世論がいっせいにテロを非難する声を上げるが、一方的にテロリストを非難する偽善、優等生ぶりもやや食傷気味に思う。
 たしかに、私自身もテロや暴力という手段は反対である。テロや暴力によって、問題が根本的に解決されたことはいまだかつてないどころか、問題をさらに複雑化するだけだからである。
 しかし、今回ブレア首相らのテロ非難演説をCNNで見てしらじらしく感じた。それは、テロリストが横行する原因を作った責任の一端が欧米自身にあるのではないかという自省がまったく見られず、またテロの温床となっている社会構造や根本原因を正視しようとしない点だ。イラク戦争開戦の際に、アラブのマスコミなどで心配されたことは、戦争がさらなるテロを惹起する可能性だった。それが今回現実のものとなったのではないか?
 米英はイラクで何をしてきたのか。中国が国内であるいは国内植民地でやっていることはテロそのものではないのか?「国家」という形態をもてば、テロと同じ行為を「愛国戦争」「防衛戦争」「治安秩序維持」と美化される。これは、かつて中国南方の海上貿易集団が「海賊」と呼ばれたのと同じではないのか。
 そもそもテロが頻発する地域は中東と中南米だが、それらの地域を見ると、いずれも貧富の格差が著しいことがわかる。おなじ国民でありながら天と地の差。これを日常的に見せ付けられていては、絶望的になった貧困層が極端な手段に出ることは、それを「愚かだ」のひとことだけで済まされるものではないだろう。私が最近関心をもっているレバノンについても、テロとまではいかないが、貧困層の多くは過激な行動を行う集団に惹かれやすい。貧困そのものは悪ではない。ただ、貧富格差が著しくそれを見せ付けられる地域では貧困層の不満は過激な手段を生みやすい。
 もちろん、だからといって、テロや暴力に訴えるというのは、問題の解決にまったくならない。私が昨年フィリピンで左派政党アクバヤンの幹部と話したところでは、その幹部はかつてはテロを敢行するフィリピン共産党に所属していたが、「テロでは問題は解決しないことがいやというほどわかった。だから、共産党から足を洗ったわれわれは、平和的手段で、社会構造を徐々に変革していくことを求める」と強調していた。その口調と表情には、何も生み出さない極限の武力闘争への疲れがありありとしていて説得力があった。「アルカイーダ」を名乗るグループが実在していたとして、その凶悪なテロ行為は、何も生み出さないことは明らかである。
 そういう意味では、「テロには決して屈しない」というだけではなくて、「テロを生み出す社会矛盾を究明して、解決に向けて努力しなければならない」という言葉が、政治家の口から出てこないことが問題ではなかろうか。ブレアらも根本の原因解決に乗り出さず、テロを逆手にとって戦争発動や軍需産業強化に利用しているだけではないのか?
 しかも、今回またぞろ関係ない欧米在住のムスリムが、心無い市民によって罵倒や偏見の対象となっている。
 テロリストの偏狭な心と凶悪な行動を憎むがゆえにこそ「テロに屈しない」こととは、テロを生み出す社会条件や環境を見つめ、その改善を図ることだろう。それには長い時間がかかるだろうが、少なくとも根本原因を正視することこそが、テロ撲滅の第一歩ではないだろうか。

 ちなみに、現場のロンドンに本拠を置くサウジ資本・レバノン右派系汎アラブ紙「アル・ハヤー」の記事一覧:http://www.daralhayat.com/world_news/europe/07-2005/
Item-20050707-f2f911ca-c0a8-10ed-00f8-029791b289f6/story.html
 同紙が伝えた(最初は湾岸のテレビ、アル・アラビーヤという話だが)欧州カーイダ犯行声明の記事:http://www.daralhayat.com/world_news/europe/07-2005/
Item-20050707-f28b2e13-c0a8-10ed-00f8-02972bfce695/story.html
 アラビア語グーグルで「ヨーロッパのカーイダ・ジハード」で検索した結果の最初のページ
http://www.google.com/search?hl=ar&q=%D9%82%D8%A7%D8%B9%D8%AF%D8%A9+%D8%A7%D9%84%D8%AC%D9%
87%D8%A7%D8%AF+%D9%81%D9%8A+%D8%A3%D9%88%D8%B1%D9%88%D8%A8%D8%A7&btnG=%D8%A8%D8%AD%D8%AB
+Google&lr=
(いずれもURLが長すぎて本文表示に支障が出たので、直リンクにせず、また改行しました。
閲覧する際は、エディターなどで一度行を合体、補正させてからご覧ください)

台湾が2020年オリンピック候補へ

2005-07-08 21:53:18 | 台湾政治
 台湾の謝長廷行政院長が7月6日、院会(閣議)で、2012年五輪がロンドンに決まったことを受けて、「2020年の五輪開催に、台湾も名乗りを上げるべきだ」と述べた。同氏が高雄市長を務めていた2004年、高雄市は2009年ワールドゲームズ(五輪以外の種目を競う世界大会)開催権を見事獲得している。それが無事開催できれば、「その4年後の2013年には2020年の開催地が決められる」「東京、ソウルが開催し、北京も開催される。台湾もできないわけがない」として、台湾の台北、あるいはその他の大都市の立候補に向けて意欲を示した。(参照 台湾・自由時報の記事:http://www.libertytimes.com.tw/2005/new/jul/07/today-fo6.htm
 切れ者で知られる謝長廷らしい、野心的で、大胆な発想である。
 2008年の総統選挙を狙っている彼としては、おそらく次のような計算があるのではないか--つまり、2008年から2012年に民進党がさらに政権を担当し、その間に、陳水扁2期で積み残した台湾主体性の強化に向けた文化・システムの整備づくりを進める。そして2012年には必ずしも民進党ではないが、台湾の主要政党がすべて台湾派となり、台湾主体・独立意識が確立し、そうなれば国際社会での台湾認知も進み、2013年に立候補すれば勝てる見込みが出てくるだろう。また、中国も2008年北京五輪、2010年上海万博を経て、なんらかの形で成熟して、台湾の開催に反対できないような雰囲気になっているのではないか--。
 私自身も、よほどの突発事態があって前倒しにならない限り、このままの形で推移するならば、次々回の2012年の総統選挙を経て、台湾が本格的に建国に進むと予想している。
 現時点の中国がそのときも続いているば、当然反対するだろうが、中国そのものがいつまでも安泰とは限らない。よしんば中国が安泰であっても、台湾自身、今のような「国家アイデンティティ分裂」状況がいつまでも続くわけではないから、中国との力関係では、台湾の力は相対的に増大する。おそらく2012年までには、李登輝・元総統が指摘する「台湾意識75%にならなければならない」という条件はクリアされているであろう。台湾がこれまで中国との力関係で劣勢におかれたきた最大の原因は、国家アイデンティティの問題だった。表面的に目に付く、人口や面積の圧倒的な差は、実は問題ではない。中国そのものが地方によってばらばらで一枚岩ではないからだ。
 台湾の人口2300万人というのは、欧州に持っていけばかなりの大国となる。決して少なくない。しかも教育程度が高いわけだから、いったん国家アイデンティティ問題が解決すれば、大きなまとまりとなるだろう(とはいえ、台湾人はしょうもないことで、内部対立・分裂する傾向がある点は注意しなければならないが)。
 だが少なくとも、中国との力関係での台湾の劣勢は、台湾側の与件が変化すれば、大きく変わるものなのだ。日本人の中には、そうした条件・与件の可変性を無視して、すべてを定数で固定して考える癖を持っている人が多いが、それこそ情勢を見誤る原因であろう。
 台湾が2020年五輪開催権を獲得できるよう、私もできる限りのバックアップをしたいと思う。

 (余談)2012年がロンドンに決まったのは、実は2008年の北京が危なくなったときの代替地として08年立候補で得票2位だったパリを視野に入れているのかもしれない・・・というのはうがちすぎだろうか?

女性の政治参加の足跡を描いたドキュメンタリー映画

2005-07-08 21:42:34 | 台湾社会運動
 1997年民進党婦女発展部(女性部)が制作したドキュメンタリー映画《回首來時路-渚D們參政的足跡》(過ぎし日来し方を顧みて-女性政治参加の足跡)の英語・日本語字幕付きDVDベータ(評価)版を改めてつけて、日本などの女性映画祭に出品するためらしい。日本語字幕、台湾人の若い世代にやらしたんだろうけど、うーん、案の定、ちょっと問題があるなあ。まあ、後で訂正することにしよう。
 同映画は、BetacamおよびDVD版、59分。2000年ニューヨーク女性映画祭、2004年日本大阪Women Make Sister Waves女性映画祭でも、参考出品されている。
 それはともかく、この映画は、有名なフェミニズム運動家だった彭婉如が、民進党婦女部主任(女性部長)だったときに制作したもの。民主化運動の過程で、女性活動家がいかに大きな役割を果たしてきたかを描いたもので、台湾フェミニズムの提唱者で現副総統の呂秀蓮をはじめ、民主化運動の闘士・陳菊、また民主化運動の闘士の妻として、夫が投獄あるいは抗議自殺をした後に政治の道に入った翁金珠、葉菊蘭、呂秀蓮とともに女性運動の草分けとなった外省人の教授李元貞らのインタビュー、当時の写真、各種民主化デモのビデオなどを編集して構成したもの。
 制作した彭婉如はその後、ヤクザと見られる人間に拉致され、惨殺死体が発見された。この映画の紹介については、彭婉如の死後、彼女を記念して作られた彭婉如文教基金会(彭婉如教育財団)のHPの中にあるので、それも参照のこと(中国語)→http://www.pwr.org.tw/public/p2_3_6.htm
 今の台湾社会では、母系社会だった過去が復活して、女性の力は強く、女性政治家も東アジアではダントツに多い。しかし、この映画では、1980年代に彼女たちが声を上げたときには、まだまだ国民党・中国の「男性優位」思想が幅を利かせていて、女性の声はしばしば男性政治家たちによって嘲笑され、妨害されたという。インタビューを受けた女性はいう。外には国民党の抑圧があったが、民主化運動勢力の中も、男性が中心だった点では同じだった、と。それを地道な運動によって克服してきた。
 その結果、1998年に民進党大会で民進党の公職候補には女性のクオーター制(公認候補枠の最低4分の1を女性とすること)が導入され、さらにそれが民進党以外の台湾社会における「常識」となって、ついに今年確定した改憲でも今後の立法委員選挙の比例代表部分では女性を半分以上とすることが決められた。女性の権利という点では、日本より先を進んでいる。
 また、デモの場面は私自身も参加したものもあって、非常に懐かしかった。そうなのだ。台湾はこういう人たち、あるいは無数の民衆の参加によって、民主化が勝ち取られたことを改めて思い出した。政権獲得後の民進党に問題がないわけではないが、民進党が台連と比べて全国政党として強い支持を獲得している背景には、やはり民主化運動の先頭に立ってきたという実績の積み重ねがあるからだ。台連にはかつての民進党員もいるが、中心は国民党本土派(台湾派)で当時はこうしたデモに参加せず、(内心では声援を送っていたのかもしれないが)傍目で傍観していた側だったのだから。
 監督はドキュメンタリー専門の女性監督・簡偉斯。彼女は、台北女性影展(女性映画祭)の企画も参画している。昨年話題になった、日本時代の台湾語歌謡の歴史を追ったドキュメンタリー映画《Viva Tonal 跳舞時代》(104分、2004年公開)の共同監督の一人もつとめたことでも知られる。(簡偉斯と映画・跳舞時代については、次を参照:http://www.taiwanus.net/MediaVideoAudio/vivatonal/index.htm