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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-49-

2008年02月22日 | 投稿連載
2007年3月25日に始まった「愛するココロ」もいよいよ大詰めです。

        愛するココロ 作者 大隅 充
             49
東京行きの新幹線は、動き出した。
トオルは東京に戻ることになり、由香はカトキチの研究室の仕事が一
段落ついて、再び東京で新しい仕事を探すという名目で一緒に上京す
ることになった。
 窓側の座席に座ったトオルは、まさかこんなに長く東京のアパート
を離れるとは思ってもみなかったので借りていたドリフターズの
DVDをTUTAYAに返すのを忘れて延滞金が嵩んでいることを
急に思い出した。
ヤベエー!
その瞬間列車は、関門トンネルに入った。
泣き面の顔が暗い窓ガラスに映った。
「まだエノケン一号のことがそんなに悲しいの?」
トオルが映った窓ガラスの中に由香の笑い顔がにゅうと入り込んできた。
「違うよ。DVDのレンタル返すの忘れてたのを思い出したんだよ」
「なーんだ。」
と隣に座っていた由香が鞄からペットボトルのお茶を取り出して、
フロントテーブルの固定穴に差し込んで置いた。
「ああ。そうだ。パン屋の明子おばちゃんからいっぱいパンを
持たされたんだ。」
トオルは、足元から紙袋に入ったメロンパンやサンドウィッチを山の
ように取り出した。
「車内弁当買わなくてもよさそうね。」
「でもポッキーとビールは買ってほしいな。」
「買って?」
「だってエノケンのミッションが終わった祝いでしょ。」
「うーん。どこまでもちゃかりしてる。」
「いいじゃん。」
「しょうがないか。これは私の個人的な奢りってことで・・・」
「すいっまっせーん!」
パクパクとサンドウィッチを頬張って食べ出したがあまりにいっぺん
にガッついたのでトオルはすぐに喉につっかえた。
慌てて由香のテーブルのペットボトルをワシ掴みにすると
ゴクゴクと飲み干した。
「もお。なんで全部飲むの。買ったばかりなのに。」
「悪りぃー。」
「いつもトオル君ってそうだから。直さないと・・・
今度こそ言いつけるよ。」
「前のことも?・・・」
「黙って人のもの使ったり盗んだりってよくない・・・」
「わかった。わかったから、あのことは、親には絶対云わないで」
「あのこと?」
「エノケン一号の入力アルバイトやらなきゃばらすって
云っていたことよ。」
「ああ。あれ。」
トオルは、生唾をゴクンと飲んだ。
「去年東京からカトキチの研究室に行く前、最後に恵比寿で飲んで
トオル君と長い駅中の通路で別れたときの、こと。」
「えええ。恵比寿?何だろう?」
「深夜で駅にいく長い動く通路で酔ったトオル君がいきなり
抱きついてきて」
「抱きついた?」
「ブチュッと・・・」
「オレが・・・・・」
「はげしくて抵抗できずに・・・」
「キスした・・・・」
「唇を奪った!」
由香はトラフグみたいに唇が尖がらせている。
「なーんだ。それか。オレ、また夏に由香の部屋に遊び行った
ときに乳パットを灰皿代わりに使ったことかと思った。」
「何?それ。」
「いや、あの、その、去年の夏。はじめて由香の部屋入ってお茶
をご馳走になったとき。ひとりで待ってて、ついタバコを吸ってて
ベッドの脇にあったので・・・はい。すいまっせーん。」
「知らなかった・・・どうりで片っ方無くなったと思ったら・・」
「ごめん・・・ちゃ。」
「もーうおー。」
とトオルの耳をつねったところにピョロロロンとトオルの
ケイタイメールが鳴った。
誰だろう、と受信箱を開くとマンザイ・コンビでトオルと
喧嘩別れしたミツルからだった。
《俺はもうお笑いやらないけど、今度ピン芸人のオーディション
新宿ルミネでやるみたいだ。ネタがあったら、
以下連絡3○○○ー○○○○。》
「へえ。ミツルだ。」
「二度と口きかないと云って喧嘩した人ー」
「ああ。今でもな。まあ、メールはセーフ。」
「変なの。」
由香は、ケラケラと笑った。
その由香の反応には関与せず、トオルは黙ってメールの返信をした。
《わかった。ピンでもやる。ネタは『お猿のおまわり』って
いうんだ。》
送信ー。
新幹線が長い海底トンネルを抜けて、春の日差しのぽかぽかの
地上へ出てきた。
 由香は眩しくて目を細めて窓外に流れていく本州下関の海岸線
を乗り出して覗き込んだ。
「海峡渡った。エノケンさん、さようなら!」
「こんにちは。エノケン!」
と由香の言葉に返して、身を乗り出していた由香の頬にキスをした。
由香は、ぷうっと頬を膨らまして怒ってみせるとすぐにお返しの
キスをトオルの口にした。
眼をパチクリして驚いているトオルに由香は、ニヤリと笑って、
ストンと席に戻った。
「もう怖くないもん。」
「・・・・・・」
「こんにちは。私のエノケンさん!」
由香のココロに満ちてきた暖かいものが新しい感覚として自分を
一回り大きくしてくれるように由香は思った。
それは、確かなしあわせの感覚だった。
そしてトオルもココロの中に今由香が感じているものを
同じく感じていた。
二人とも共通して愛するココロを実感しているのだ。
 この暖かいココロがどこから来くるのかわからないが、いままで
のように何かあるとすぐにカサカサしていたココロネとは、全く
違うものでこれから先これがたぶん大事な、大切なものになること
だけは二人には、はっきりとわかった。
ピョロロロンー。
トオルのケイタイに再びメールがきた。
《お猿のおまわりってワッケわかんねえよ。相変わらずバカか?
てめい。ミツル》

                     
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ジンジャーマンと庄之助~シーちゃんのおやつ手帖36

2008年02月22日 | 味わい探訪
春が近づき、冬物一掃セールのシーズン。
題して「季節外れのおやつ特集」。
書きながら食べたんだけど、発表のタイミングのなかったもの
ですが、たぶん今年のクリスマスには、この同じお菓子が出る
かどうかわかりません。
だから過ぎ去ったジンジャーマンと庄之助さんは、ここで見る
のが最後かもしれません。

江東区白河という土地柄、大相撲の行司・木村庄之助にちなんだ
店名だそうです。
Xmasの生菓子ですが、中はあんこという和の世界です。
コメント (2)
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