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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-47-

2008年02月08日 | 投稿連載
前回までのあらすじ。103才でエノケンが亡くなり、加藤教授がエノケン
一号としてロボットで甦らせた。そのロボットの記憶に従ってトオルと由香
のふたりは、旅する。そしてエノケンが唯一出た無声映画をその持ち主の伏見
京子とともに小倉の名画座で観ることになった。

        愛するココロ 作者 大隈 充
           47
エノケン一号が首を長くリフティングして真上の映写室のある二階
席の天井を見上げた。
その動きは、凪つづきの大海原でやっと吹いてきた恵みの風を掴み
とって、高々とマストに帆を張って陸めざす帆船のようだった。
 エノケンは、十年のアメリカ放浪から船で太平洋航路を横浜へ
帰ってきた。港から広がる景色は、ガラリと変わっていた。
日本は、すっかりオリンピック景気に沸いていた時期だった。
東京という巨大なヒルが地方から吸い寄せられる人の群れを
パクパク飲み込んでたっぷりと欲望という血のエキスを溜め込ん
で漲るエネルギーを発散しつづけていて目がくらむようだった。
しかしエノケンには、そこに居場所はなかった。
いや、そんな中心にいたくないと思った。
そのままフェリーの二等船室で門司港へ向かった。
下町で焼け出されて孤児になったマリーの両親が生まれたと
聞いた若松へ行ってみよう。そしてどこにあるかわからないが、
マリーの先祖の墓参りをしてみたい。
それが無理でも同じ町で暮らしたい。
そうすることで自分の残る命を愛するココロに捧げられるので
はないかと思った。
このふつふつと湧き出てきた意思に彼は、荒波の中で決して
沈まない生きる芯のようなものを感じた。
この芯は、沈まない。
日本語も通じない長い長い放浪生活の中でトゲのようにココロに
刺さっていたこの小さな芯がいつしかココロの真ん中に移り、
みるみる強く、はっきりとしてきた。
マリーは、もういない。
でもマリーは、自分のココロの芯になっていた。
エノケン一号は、風船が風に舞うようにゆっくりと伸ばして
いたクロムメッキの首をスチール製の胴体に戻して正面を見据えた。
 
 スクリーンでは、品川宿に三度笠で歩いてくる五郎が映し出
されて、その行く手には、御用提灯をもった大勢の町方が松林
の影に隠れていた。
知らないでゆく五郎。
大十手をかざす役人。
心臓を乱打されるような緊迫感。

 劇場の薄明かりの中でシートのビロード張りの背もたれを通して、
無声映画を観ていた久美の身体に小刻みな振動が伝わってきた。
近くに高速道路もモノレールも通ってないしおかしいなと思って
いると、今度は肘掛にのせていた腕にその揺れがもっと大きく
なって伝わってきた。
地震でも車の走行音でもなかった。
京子さんだった。
久美の隣に座っていた伏見京子は、震えながら泣いていた。
嗚咽を堪えて、口をしっかりと結んで長い呼吸を繰りかえして
いたが、我慢できず身体をふたつに折って顔を両手で被い膝に
うずめた。湧き上がる懐かしくて切なくて苦しい追想にココロ
を解放して早く楽になりたいみたいだった。そして一度解放し
てしまうと涙の波紋は、連鎖してやってきた。
それほど感動する映画だろうか。
お年よりには、こういう股旅物の時代劇がしっくりくるのだろうか。
 久美は、とにかく京子おばあさんの肘掛のグリップを握り締めた
細い手を握って、大丈夫?と顔を覗き込んだ。
しかし京子は、膝に顔を埋めて声をあげて泣き出した。びっくり
して久美は、両手で京子の肩を抱きかかえた。
スクリーンは、ハッと御用提灯に気づく五郎の顔のアップで
プツンと終わった。
そしてつづくとひらがなで字幕が出て暗転した。
映写機の音がカタカタカタと響き続けてしばらくするとリール
からフィルムがパチンと外れる音がして止まった。
誰も沈黙している中で京子の老いたすすり泣きだけが聞こえていた。
若い支配人の合図で常夜灯が点された。 
しかしそれは、全点灯ではなく場内の通路にスポットライトする
セカンダリー設定になっていたので、突っ伏した膝から顔を上げて
泣き止んでゆく京子の濡れた瞳までははっきりと薄暗くて
見て取れなかった。
由香は、腰をかがめると回り込んで京子の右隣に座って、久美と二人
で挟む形で頬に赤みがして、生気の色に麗しくよみがえった
老婆を支えた。
「大丈夫よぉ。」
京子は、笑って見せた。
カトキチが立ち上がって、支配人にお礼を言おうとしたそのとき、
静かな機械音がこだまして来た。
劇場スロープの最後部からエノケン一号がゆっくりとカトキチ
たちのところへ降りて来た。
そのロボットの胸が揺れている。そのロボットの目がブルーに
ゆったりと点滅している。
そのロボットのキャタピラが目標を一つに絞って進んでいる。
そしてそのロボットは、指定席の通路で90度に方向転換して
真ん中に座った伏見京子の目の前で止まった。
由香も久美もカトキチもトオルも何がなんだかわからずポカン
とロボットと老婦人を見た。
京子の濡れた瞳がエノケン一号の目玉としっかりと合った。
じっと見つめたロボットの眼は、深いエメラルド色に偏光して
遥かな記憶を呼び起こしていたが、ゆっくりとスチール製の
右手を清らかな細い老婦人の身体の前へ差し出した。
そしてエノケン一号は、掠れた声で正確に発音した。
「マリー!」
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ROYCE'~シーちゃんのおやつ手帖34

2008年02月08日 | 味わい探訪
さて、いよいよバレンタイン・デーが近づいてきました。
日本のお菓子屋さんの宣伝の賜物でこんなに大騒ぎになった
という説があります。
でもチョコと愛の告白は、似合いすぎる甘さ。
そこでロイズが今回登場。今じゃ北海道みやげの定番。
確かにしっとりとした甘さは、群を抜いています。
あまり今元気のない北海道で、ロイズは頑張ってます。
おもしろロイズ・サイトは、こちら、
ロイズ博物館
アートな気分についで美しい北海道の風景を見たい人は、こちら、
ロイズ・ライブカメラ
コメント (5)
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