あら、このお顔、いかにもサイコ野郎だわと思いたくなるのは、
サスペンス映画やホラー映画の観過ぎでしょうか。
スーツを着込んだハル・ベリーが映画冒頭で、
颯爽と上院議員を尋ねる場面です。
議員活動の取材ということで議員のオフィスにアポを取ってきたものの、実はこの議員の秘密を記事にするための宣戦布告。
ゲイの人権を認めない強硬派の議員が、実はゲイだった。それも恋人を持つ傍ら美青年を狩るというおまけつき。
その事実を付き尽きられてもご覧の通りの表情・・・・
政治家というのは、そうでなくちゃ務まらないでしょうが、
この役者、
新聞社の敏腕記者として、人気の記事を連載している彼女のペンネームは、なぜか男名。(ここで、?となった方は嗅覚が鋭いですね・・・・)上院議員の美青年狩りを2年という月日をかけて追いかけてきたこのスクープが、いきなりボツにされ休職を言い渡されたときですが、
主人公のロウィーナ役を演じるハル・ベリーの、「必ず暴いてみせる」と語る迫力はアメリカニューヨークの花形記者というだけあってたいしたものなれど、
権力者の性犯罪を暴こうとするこのむき出しの闘志!は、どこから生まれているのでしょう。
会社を辞めたロウィーナことハル・ベリーのところに、女友だちのグレースがやってくる。この女性がどうしてロウィーナの友人なのか、違和感があるショットです。
ハル・ベリーの元彼と付き合っているという彼女は、最近彼とはケンかばかりしていてうまくいっていない様子。
(どうしてこんな軽い女グレースが友達なのか不思議な気がしますが、このよくわからない女グレースが変死体となって川から身元不明の遺体となって上がったことから、サスペンスは始動する。グレースを演じているのはニッキー・エイコックスという女優です。)
その彼女、スクープの「新たなネタ」があると言い出します。某大手広告企業の社長の秘密の遊びを調べてみるようにと。
ネットの某サイトでアダルトサイト顔負けのアダルトチャットをする男がいる!そのアカウントの持ち主は女性を誘い出し、どうも妙な遊びをしているらしい。行為を終えた後は、その女性たちをゴミのように捨てるといううわさは本当だったわ。あいつは「サイテーの男」だと憎憎しげに語り、これから寄るところがあるからと去るのだが、
このグレースが酷い変死体となって発見される。
はすっぱな感じが拭えないグレースと主人公との関わり。
それは、この母の登場で分かる。
幼馴染だったのだ。
娘と連絡がつかず警察に届けたところ、身元不明の変死体が発見されたという連絡が来たという。この老いた母親の代わりに、発見された遺体の身元確認に行ったハル・ベリー。
確認しようのない無残な遺体を前に、げーげー吐いてしまう。
バリバリのキャリアウーマンとして登場したハル・ベリーだったが、女友達のグレースの無残な遺体に衝撃を受ける。
あんな酷い殺し方をした犯人を捕まえるためにも
グレースが語っていた「サイテーの男」のことを調べることにする二人。ロウィーナと彼女の同僚のマイルズ。この奇特な同僚を演じているのはジョバンニ・リビシ。
ドキドキさせられましたね、彼には。
お目当ての男は、この男。
ハリソン・ヒル、何やら誰かをもじったような名前ですが、
ここから、映画はサイコサスペンス始動です。
なぜ、サイコかと?
それは、あんな酷い殺し方をした犯人像は、
普通に推論すれば、正常じゃないと思われるからです。
なぜグレースは殺されたのか?
グレースが言っていた関係した相手の男というのは、
本当にハリソン・ヒルなのか。
ハリソン・ヒルほどの男なら遊ぶ相手に不自由していないだろうに、なぜ、通りすがりのような女と?
殺されたグレースが口にしていたネットのサイトで女性をハンターしているというアカウントの持ち主は、果たしてヒルなのか。
FBIの捜査官映画ではないので、
潜伏捜査するといっても、個人的な探偵みたいなもの。
彼女は敏腕記者ですから、こうなったら、突撃リサーチ!とばかりにヒルの会社に派遣社員としてもぐりこむ。
夜はネットでのチャットで仕掛け、日中はそれとなく社長の動きを監視。日がな一日、ヒル社長を目で追うハル・ベリー。
彼女は会社のデスクのPCでも、
疑惑のアカウントの持ち主とチャットして、様子を見ます。
と、窓越しにヒルもPCに向かっている様子が見える。
はたして、彼もチャットしているのか。
自分のチャットの相手は、彼なのか・・・・
そんなとき、社内で、
企業情報が他企業に漏れている事件が起こります。
看破した社長の目は、仕事がデキル男であるという一面を見せますが、こんな穏やかな表情をしながら、口にしていることはお互いに宣戦布告。
もしや、これは企業機密が絡むサスペンスかしらと、
ここではやくも推理し始めてしまいますが、
それは、やはり映画冒頭の上院議員のスキャンダルとの絡めるからでしょうか。何だか登場人物がそれぞれに皆怪しいと思って見ると、皆何らかの容疑が疑われてくるから、面白いといえば面白いのですが、真相に至るヒントを見誤ってしまいますね。
大手企業で経営者として手腕を発揮しているようにも見えるハリソン・ヒル役のブルース・ウィリスがミステリアス。バリバリ仕事をしているわけでもなく、むしろ、昼行灯みたいな感じで、社員のハル・ベリーをデートに誘いにくる始末。つい、ブルース・ウィリスが演じているのだから、ただの女好きの変態男であるはずがないと。
いわば、ブルース・ウィリス像について先入観ができているわけです。これ、当らずといえども遠からずのはず・・・と。
仕事しらしい仕事をしている場面は出てきませんが、聞けば、会社の業務を仕切っているのはやり手の秘書だという。
自信にあふれた微笑の美女がその秘書。
けれど、行動は謎めいていて、もしかしたら・・・・と、
社長との関係を疑うハルベリーたちですが、
この彼女、実は男性に性的な興味はゼロ。
レズビアンなのです。
この秘書が絡んでくるとなると、
やはり、産業スパイもののサスペンス映画かとまたまた推理の羽を羽ばたかせてしまいそうになりました。
ここでも、冒頭の上院議員と関係がアプリオリ?
何だか怖い想像をめぐらしてしまいますが、
この時点では、まだドキドキ感はさほどでもありません。
産業スパイサスペンスの一翼を担っているかもしれないレズビアンの秘書とこの社長の妻は、どうも繋がっているらしく、秘書が会社のことを一部始終報告に行くのはどうもこの妻の方らしい。
う~ん・・・
すると、夫婦仲はサイテーかも。
パーティでは常に社長といっしょながら、夫の女遊びの後始末をしてきたというウワサ。いまは夫の首に鈴をつけていると言われる妻なれど、ほとんど台詞がないだけにいろいろと想像してしまいます。
夫がネットでのチャットに嵌っている間、
この妻はどこで何をしているのかしら・・・・
夫が深夜他の女性とデートしている間、
この妻はどこで何をしているのかと。
ところで、主人公と共に暗躍するこの元同僚ですが、パソコンの操作にめっきり強く、新聞社勤務という立場上、警察からのリーク情報にも通じていてこの映画の中で唯一ヒロインの頼みの綱的存在ですが、ハル・ベリーの恋人でも相棒でもありません。
もっともジョバンニ・リビシ扮するマイルズの方は、
秘かにハル・ベリーに焦がれている様子。
ネットオタクの一人でもあり、時折暴走するので、ハラハラさせられますが、知的推理のできる知能犯タイプ。
そして隠された面も・・・
もしかしたら、この映画はストーカーの猟奇殺人事件ということになるのかも・・・・そう思って観て行くと・・・ドキドキしてしまう場面がいくつも出てきます。
大人しそうな様子の彼ですが、もしストーカーなら・・・・
ストーカーもキレると何をするか分からない。
が、そうしたこちらの疑惑にかまわず、
二人は調査をPCに焦点をあてて展開し始めます。
なかなか事件との繋がりが見えてこない。
焦るハル・ベリー・・・・
お色気作戦ではありません。
そう言えるほど、明るい映画ではありませんし、
一日中、ヒルを目で追い、ヒルかもしれない相手とチャットをしているうちに、彼の魅力を感じ始めたのか?デートに応じるハル・ベリーなのでした。
けれど、この映画、ラヴ・コメでもラヴ・ロマンスでも、エロティック・サスペンスでもありません。
ファンサービス旺盛な場面もありますけれど、
当人は事件の真相を探るべくかなり危ない橋を渡るうち、
何だか、ブルース・ウィリス演じるミステリアスなハドソン・ヒルに惹かれていくような感じが濃厚・・・・
でも、繰り返します。
この映画、そうしたラブ・ロマンスではありません。
彼が犯人なのか。
彼がアダルトチャットの相手なのか。
怪しいけれど、証拠はない。
そんなとき、新情報!変死体の更なる検死結果です。
目から検出された毒物は、ベラドンナの粉末だ!と。
生きているときに目に入れられた!と。
ヒル社長の妻は製薬会社に多額の出資をしている。
会社もヒルではなく彼の妻の所有だ!
ああ、外堀は埋まった!?
女友だちグレースの遺体の目から検出されたベラドンナの出所が、ここでヒル社長と繋がってしまった。
でも、やっぱりヘン・・・
動機は?
ロウィーナはヒルのPCのデータを盗もうとして危ない橋を渡りますが、スパイ行為を疑われてヒルに真実を話そうとします。
けれど、どう話せばいいのか慌てるハル・ベリー・・・・
派遣社員としての名前も偽名だったのか。
もはや、何を言ってもヒルには信じてもらえない。
ヒルは、そんな彼女に冷たく言い放ちます。
「車から降りろ!」
混乱し目に涙のハル・ベリー・・・
この時点で、この涙と失意の意味は不明。
犯人かもしれない相手への恐怖なのか。
信頼を裏切ってしまったための傷心か。
ウソをついていたことへの嫌悪か、
自分の気持ちを説明できないパニック?
自分を分かってもらえないことへの悔し涙?
何を・・・
一方、スパイ行為がバレて会社を首になったハル・ベリーと違って、何やら調査を進めているかのようなマイルズ・・・
なぜ、犯人は、グレースが生きているときにベラドンナの粉を溶いた薬を点眼したのか。このことが気になっていたマイルズ。
PC機器の点検会社の社員を装ってヒルの会社にやってきたマイルズは、思いがけないサイトのロゴデザインを目にする。
ブルース・ウィリスは
マイルズの目が釘付けとなったこのポスターを、
妻のサイトのロゴデザインだと教える。
赤い瞳のこのロゴマークを見て
なぜマイルズは立ちつくしたのか・・
見覚えがあったからだ。
・・・・
その頃、失意の中マイルズの部屋を尋ねたハル・ベリー。マイルズは不在でまだ帰っていない。お互いのルームキーの場所を知っている間柄だが、いかに親しいとはいえ、お互いに知らない世界があるのは自然だ。むしろ、男と女。秘密はあっていい。
誰もいないはずの奥の部屋から声がして、
ドアを開けたハル・ベリー、
そこはアダルト系そのまんまの秘密の部屋だった。
そこで、彼女が目にしたのは、驚愕すべきビデオ映像だった。
信じられない思いで混乱するハル・ベリー!
果たして、
このPCに入れられていた映像は
何を意味しているのか。
けれど、感情を爆発させたハル・ベリーは、彼の言葉に耳を傾けず、逢うことになっていたヒルのいるホテルを警察に通報する。
この時点で、なぜ、ハル・ベリー扮するロウィーナは、ヒルを売ったのか。彼を犯人だと確証するに足る証拠が、どこにあったのか。あるいはヒルが犯人だとする推理のプロセスがどうもよくわからない・・・・
すると、ハル・ベリーは、傷心の苦悩を漂わせつつ、
ここで、唐突に施設にいる母親を訪ねるのです。
何だか、意味深な場面ですが、母親は認知症なのか心の病なのか、娘を慈愛の目で見つめながらも、一切言葉を発しない。
この前後に、ハル・ベリーの夢、あるいは幻覚で、
彼女の少女時代と思われる場面が、フラッシュバックのように映像としてチラチラッと現れるのですが・・・
やがて、裁判が始まります。
浮気、不倫、猟奇的な性愛愛好者ということで、
いまやヒル事件は大スキャンダル。
法廷にたたされるヒルは沈黙を守るのみ。
なぜ、一言も弁明しないのか!?
この表情で読み取るしかありません。
ここは、まさにブルース・ウィリスの真骨頂。
それまでのバラバラの演技が、ここでやっと実を結んだのかも。
検察側の論告に対しても沈黙。
彼は求刑どおり、
彼は有罪となる・・・・
法廷でヒルを見つめるマイルズの目が光ります。
法廷で一言も弁明しないヒルの姿に
検察側の論告が展開される中、
マイルズの表情に異変が・・・・
何がひっかっかったのか。
見事に騙されましたね。
終わってみれば、納得するのですけれど、
冒頭の上院議員の表情ゆえに、
推理が狂いました。
登場人物達のネットのチャットルームでのチャット、
あの場面をもう一度ゆっくり見たかったですね。
見事に混線し展開も速かったので、ちょっと分かりづらい展開でしたが、まさにそこにキーとなるものがあったのだと。
ラストのどんでん返しは、実にあっと驚く展開でした。
今回ばかりはわたくしも読み違えてしまいました。
異色のサスペンスでしたね。
サイコ風ながら・・・・
サイコサスペンスというのは擬態で、
社会的な問題をえぐったサスペンスと言えるかもしれません。
ジェームズ・フォーリー監督の2007年制作映画。
★ご参考までに。
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