以前観たことをすっかり忘れて観始めた映画。
なれど、途中から、「ああ、これは・・・・」とラストを推理しているうちに、「これ、前に観たわ」と。確か以前も感じたことながら、リドリー・スコット監督がコメディを作ろうとするとこうなるのね・・・と。
あるいはニコラス・ケイジというキャラクターが作品を中途半端なコメディにしてしまったのか・・・・
どちらにしても、中途半端な映画だという印象を抱いたものでした。
なぜって、サスペンス風クライムコメディというラインを狙っているのかもしれませんが、それにしては重いのです。ホームドラマ風の重さといえばいいでしょうか。が、ホームドラマ的なノリで見ていると、つまらなくなるからです。
映画の冒頭ではスリリリングな予感を抱かされます。光を抑えたブルーフィルターがかったフィルムのせいか、はたまたで生活臭のない整然と片付けられたモデルルームみたいな家の中のせいか。あるいは音楽のせいか。
誰かなーと思ったら、この映画の音楽を担当しているのは『グラディエーター』や『ハンニバル』や『愛の悪魔 フランシス・ベーコンの歪んだ肖像』の音楽も担当しているジョン・マシーソンという人で、それを聞いただけで、ご存知の方は何となく彼のテイストというか得意とする音楽が合う映画のイメージは湧きそうですよね。
神経症でチック症状を薬で抑制している主人公ロイをニコラス・ケイジが演じているのですが、詐欺師がこれほど似合わない俳優というのも珍しい・・・・
冒頭からして詐欺の連続なのですが、この映画をコメディタッチのヒューマンドラマか、はたまたクライムサスペンスかと気を揉んでしまう方は、ニコラス・ケイジの相棒役のこちら、サム・ロックウェルのキャラクターで、前者だと気づかれることでしょう。
(相棒のフランク役のサム・ロックウェルがいい味を出しています)
シリアスラインじゃないのは、このサム・ロックウェルが実に軽妙ないい味を出しているからです。
ニコラス・ケイジは、この映画で『アダプテーション』同様に、
「オレにもコメディがやれる」というところを見せたかったのかもしれませんが、やっぱり彼がコミカルな演技をすると、どうしても「クサイ」くなるのは、この顔のせいでしょうか。
自分には似合わないけれど、好きなモノってあるでしょう?
彼の場合、監督や仲間とコミカルな作品で遊びたい、そういう作品が意外と好き!という思いがあるのかもしれませんね。残念ながらそういった役は似合わないのに、彼自身がエンジョイして演じたい作品は喜劇だったりするニコラス・ケイジもそういう感じがしてなりません。
詐欺商売は順調でも、神経症がますますひどくなっていくロイ。やがて、紹介された精神科医とのやり取りで、自分に子どもがいたことを知る羽目になり、意を決して会いに行くあたりから、どうもホームドラマになってしまいます。
我が子と初めて会うドキドキ感のあまり、車の窓を閉め切って煙草スパスパだったニコラス・ケイジですが、いつしか潔癖症も外出恐怖症も光嫌悪症を伴う神経症が改善されていく過程で、
(生まれて初めて会いたかった父親に会い、その父親と友情と親子の情をかわす娘の役を、見事に演じてみせたアリス・ローマン)
思春期のティーンエイジャーにすっかり手玉に取られていく様子は、まさに娘が可愛くて仕方がない娘に甘い父親たちとそっくり。
その年頃の娘を持つ父親たちの多くは、半ば照れ半ば苦い思いで共感されることでしょう。
彼が娘にせがまれて詐欺師の心得を教えるところは、まさにハートフルコメディです。
最初の詐欺修行で見事に成功しますが、この場面笑えます。
詐欺というのは、殺しや暴力なしを身上とする頭脳的詐欺師からすると、その技は芸術らしいけれど、詐欺に遭う側はどういう存在、位置づけになるのか。それを考えさせてくれるシーンです。
詐欺の心得の3番目だったかに、「詐欺はこちらが相手をカモにするのであって、絶対相手にカモられてはいけない」というのがありましたが・・・・
ラストの再会は、やはりアリス・ローマンのまさに魅せ場。
『秘密のかけら』(2005年)や『べオウルフ』で魅力的だったアリソン・ローマン若い女性を演じたアリス・ローマンですが、
★『べオウルフ』→http://wwws.warnerbros.co.jp/beowulf/
★アリソン・ローマン→http://csx.jp/~piki/lohman.html
この映画のときには、14歳。下の画像の女の子が、1年後(映画の中でですが)上の画像の少女に変貌することになりますが、
ここから、映画はサスペンス。
(アットホームな包容力を感じさせながらも怪しげな精神科医を演じているのが、ブルース・アルトマンです。どっちに転ぶか分からないスリリングな彼の持ち味は、たまらないですね。)
何度も出てくるので、いい加減勘のいい人は映画の中ほどで「何かコイツ、ヘンだぞ・・・」と気づいてしまうところですが、何と天才的詐欺師のロイである二コラス・ケイジだけが全く気づかない。(苦笑)
そして、この仕事を最後に足を洗おうと思う二コラス・ケイジとサム・ロックウェルですが・・・・ロイはすでに瀟洒な持ち家があり、家の隠し金庫に数千万円以上の現金、そして銀行の貸し金庫に億という蓄えてきたお金がありますが、相棒のフランクは稼いだお金は皆使ってしまってバラック小屋暮らしで無一文。おまけに車のローンだったか借金の返済を迫られている。
こんな正反対の二人が最後にカモにする相手が、こちら。
(どんな役でもやれる俳優ブルース・マッギル。この映画ではカモとして狙われる大金持ちの役でしたが、怖かったですね~笑)
監督リドリー・スコット&製作がロバート・ゼメキスですもんね。ここからがお二人の本領発揮となった映画だったなァという印象でした。まさにホームドラマ粉砕のサスペンスフルなアクションありで、わお~っという展開ながら、ラストは静かな結末。
総じての印象は、二コラス・ケイジが似合わない役柄を一生懸命演じて一人で愉しんでいたのではないかという疑惑。(苦笑)
ちなみに、
二コラス・ケイジが神経症を患う原因となった元妻との離婚。その元妻がやっと出てきたのは映画ラスト数分前でしたが・・・娘から聞かされていた暮らしとはまるで違っていました。そんな元妻の前で絶句する二コラス・ケイジ。もう一人は、ラスト、何もかも失った彼の人生に、光明を与えてくれることになる女性です。
さて、下の画像の二人の女性、出番はホンのちょっとでしたが、どちらがどちらの役を演じているでしょう。(笑)
こういったことでも愉しまないと、「クサイ」演技が鼻についてたまらない映画でした。脚本は最高に面白いのに、残念!
楽しめばいいのに