光散る 野の草陰に 咲く花の かをるこころは 風のみや知る
うすべにの のばらにあれば 野に潜む われにふれるな 血に割れる指
風の香に 阻むものあり 見ゆるとも 薔薇の岸辺に ゆめちかよるな
世にありて 見ゆといえども ありてある われのこころは 月にしぞ揺る
戸を開き 鳥の小籠に しづもりて 文なすものの 影は夢なれ
去りゆきて なほとどまれる なよたけの とほきまなこは 月影に閉づ
ゆくものは たれなりやとぞ とふものは たれなりやとぞ われはとひぬる
くすのきの こかげに揺るる あをき目を 玉と見出す 者もなき世よ
いにしへの ゆめのゆふべに 見し鳥を 忘れずといひ 忘れ去る人
人の世に ありて来し身の おもひでを 海辺のかひに 語りてもみむ