世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

とむらい④

2017-09-10 04:13:03 | 風紋


タリセメトカリカリ 
アテメトタタニニ 
アテウチリトワセ
ナスム

賢き者
遠き道をゆけ
難き道をゆけ
正しきものついには勝たむ

カシウメト
オラクメト
テラエリ
アルカラミ

世にありし
よきものよ
健やかに
アルカラにゆけ


皆が歌を和し、遺体に花を投げた。その頃にはもう、だいぶあきらめもついていた。死んだものは仕方ない。寂しいが、もうハルトはアルカラに帰ったのだ。そう思ったら、もうハルトのことは忘れて、サリクは弔いが終わったら、アシメックについていこうと考えた。族長の家まで追いかけて行って、何かを手伝って来よう。アシメックは若いものを大事にしてくれるから、何かを言いつけてくれるだろう。

弔いの歌が終わると、ハルトの遺体は穴の底に下ろされた。それから、みんなで遺体に土をかけた。遺体がすっかり土に覆われるまで、そう長くはかからなかった。墓碑として、瓜の実くらいの小さな石が置かれた。しばらくはそれをよすがに、ハルトを忍ぶことになるだろう。

弔いの一切が終わるのを見計らって、アシメックがみなに挨拶をし、来た道を帰っていった。サリクはすぐに追いかけた。アシメックはしばらくして、ついてくるサリクに気付いて、少し困った顔をしたが、何も言わずにすぐに前を向いて歩いて行った。

アシメックは道を速足で歩き、村の中央にある自分の家に帰っていった。家というが、それは簡単な木組みに鹿の皮を張って作った粗末な天幕だった。だが族長の家ゆえにそれなりに立派なしつらえがしてあった。イゴの木の枝を飾った入り口の帳をくぐると、中で妹が火を焚き、土器で何かを煮ていた。夕食の準備をしているのだ。アシメックは妹に帰って来たことを伝えると、そのまま家のすみにおいてある小さな杭のところに行き、腰のナイフを抜いてそれに傷をつけた。今日はもう終わったという意味だったが、それはこの当時にあった簡単な暦だった。一本の木の杭に三十個の傷がつくと、新しい杭に傷をつけ始める。その杭が十二本たまると、新しい年が始まる。先祖から伝わる時の数え方だった。



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